複雑・ファジー小説

Re: 新世界のアリス ( No.38 )
日時: 2021/08/05 13:16
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

7章 戦艦「ラプンツェルの砲撃塔」


 マリンフォール西部へ向かうアリスとギン、そしてキリガン。キリガンは、エイヴリーの初撃にて吹っ飛ばされた拍子に腕の骨を折ってしまったようだ。ここは、戦艦「プリンセス・メロウ」内。鋼鉄の壁と床、まさに「さらば~」と歌い出しにあるようなSFアニメや映画、ゲームなどで見るようなハイテクな機械と、いくつもの部屋、そして長い廊下と、まさに好きな人であれば垂涎ものであった。
 早速マーレミンド海賊団の医師が艦内の医務室にて、キリガンを治療するが……

「う、腕の骨が折れた……」
「人間には215本も骨があんのよ、1本ぐらいなによ!」
「な、何をする気だ……!?」

 医師とそんな会話をしながら、キリガンは注射を受ける。長めの注射針がキリガンの上腕に深く刺さっていった。

「あ゛あ゛あ゛ああああああああアアアアッッッんっっっ!!」

 キリガンは涙を流しながら顎が外れる程口を開けて、喉が張り裂けんばかりに叫び声をあげる。アリスとギンはその様子を、引きつった表情で見守っていた。

「手加減なしじゃなぁ、えーっと、「ナディア」じゃったか」
「ふしぎの海じゃないわ。私は「ナギア」。それより男はこれくらい耐えられるわ。男だもの」
「それには少々異論があるが、まあ何も言わないでおく」

 金髪白衣の医師、ナギアはアリスの方へ向くと、キリガンに打った注射器の針を抜いて袋に廃棄し、同じ種類の針を取り出して注射器に装着する。

「次はあなたよ。腕出して……ん?」

 ナギアはアリスの上腕に同じように注射しようとすると、怪我一つないきれいな肌が顔を出したため、驚いて目を見開く。

「あれ、あなた……怪我なんてないじゃない」
「……じゃあ、俺はここにいる必要はないな」

 アリスがそうつぶやくと、すくっと立ち上がって、医務室を出ようとする。

「待ちなさい。一応精密検査はしろって船長に言われてるの。待機よ待機」

 ナギアがそう呼び止めるので、アリスはため息をついて再びベッドに座る。彼女はそれを見届けた後、ギンの腕をつかむ。

「黒焦げさんにもお注射しましょうね~」
「……ひぃん」

 ギンは小さく涙を流しながら声を出すと、キリガンと同じく叫び声をあげて気を失ってしまった。









 ナギアはアリスを診終わり、アリスに問診している。なぜか体の傷が一つもない他、体は健康そのものの為、ナギアは困惑していた。

「アリスさん、だっけ。あなたの体を解剖してもよか?」
「ダメに決まっているだろう」

 ナギアはがっかりした様子で項垂れる。

「うーん、あなた、この現象は初めて?」
「……答えなきゃいかんか?」
「答えないと困る」

 ナギアが真っ直ぐこちらを見てくるので、アリスはため息をついて「わかった」と答えた。

「俺は生まれつき、かすり傷や軽傷程度ならすぐに治ってた。これがどういう事かは分からんが、大抵の怪我なら1時間ほどで完治するんだ」
「ふーん。なんだか、昔読んだ生体兵器みたいな特徴ね」

 ナギアがそういうと、徐に立ち上がり、医務室の脇にある自室へ歩いていく。しばらくして戻ってくると、手に古ぼけた書物を持っていた。紙は黄ばんでおり、年月の経過を感じる。

「この本に載ってる、生体兵器。「魔王ソフィア」が計画していたと言われる、「融界計画ゆうかいけいかく」の過程で生み出された、14体の人工生命体ホムンクルスよ」

 ナギアがそう言いながら、アリスの目の前まで来て本を開いて、該当のページを指さす。

 その書物によると……
 無限世界ネバーランドと別世界を融合させ、「新世界」を創るという計画があった。魔王ソフィアが発案したらしいが、詳細は不明。しかし14体の人工生命体ホムンクルスは作られる。「NWシリーズ」と呼ばれたそれらは、新世界を創るという使命を全うすべく異世界への道をこじ開けようとしたのだが……道が完全に開く前に大半が破壊され、生き残った数体は各地の遺跡で眠りについた。
 というものだった。

「……NWシリーズ……聞き覚えが……」

 アリスはなんとなくその名前をどこかで見たような気がする。……しかし、思い出そうにも、霧がかかったようにそれ以上の事は思い出せず、なんとなく歯がゆかった。

「まあ、でも、そのホムンクルスとやらも今は眠りについてて、「融界計画」なんてものはもうなくなってるはずよ。気にするほどでもないんじゃない?」
「……それもそうか」

 アリスが頷く。


 その刹那、突然艦内が激しく揺れた。揺れに起こされて、ギンとキリガンが飛び跳ねる。

「な、なんじゃあ!?」
「あーあ、もうついたかな。デカイ事が始まるわよ」

 ギンの疑問に答えるようにナギアが半目でつぶやくと、キリガンが「あーあ、あれか」と何かを察したように頭を抱えた。
 それと同時に、艦内にあるスピーカーから、けたたましい少女の声が、耳を劈くノイズと共に流れた。

『あーあー、マイクテスマイクテス。あー。本日は晴天なりぃ、ああーっ!!』

 ピーガーというノイズが落ち着くと、少女の声はまだ続いた。

『そこのチンケなオンボロ船に告げる~。たった今、今すぐ、速やかに早急に光よりも早くこの海域から出て行きなさ~い。これ以上の侵入は、この戦艦「ラプンツェルの砲撃塔」が許しませんの事よ~。これは命令、再三は言わないのでそこんとこヨロシク~』

 少女の声が早口で言いたい事だけ言い終わると、ブツッという音が響き渡り、その後、サミュエルの声がスピーカーから流れる。

『あーあー艦内放送艦内放送~。アリスさんにギンさん、ついでにキリガンさん。今すぐコックピットまで来るように。以上でーす』

 サミュエルの艦内放送が終わると、ギンがワクワクしながら「何やら楽しくなってきたようじゃのう?」と声を弾ませていた。

Re: 新世界のアリス ( No.39 )
日時: 2021/08/08 18:58
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

 ナギアに案内されて、アリスとギン、キリガンの3人はコックピットまでやってきていた。コックピットはSFアニメで見るような広く、中央の巨大なスクリーンに、昼間の大海原に浮かぶ戦艦が映し出されており、複雑な画面や機械など、一般人が気安く触ると赤く点滅して警告音が鳴りそうな、複雑な構造……だと思う。画面の前で船員と思しきオペレーターが、中心に立っているエイヴリーに状況を報告していた。
 スクリーンを見てみると、目の前の戦艦がこちらに砲台の口を向けて熱線を発射してくる。その発射された熱線は戦艦自体には当たらないものの、近くの海に射出され、海から水柱が上がるたびに、戦艦「プリンセス・メロウ」は激しく揺れる。

「面倒だねえ」

 口癖なのか、彼女が腕を組んで苦い顔で静かにつぶやく。

「船長、副長、お呼びでしょうか?」

 ナギアがエイヴリーに向かって敬礼し、エイヴリーを真っ直ぐ見つめる。すると、エイヴリーが立つ場所から一段下がった操縦席で画面をいじっていたサミュエルがこちらに顔を向けて「ああ、やっときましたね」と言いながら、こちらに手招きをした。近づいてみると、サミュエルは笑いながら口を開く。

「ギンさん、あれが戦艦「ラプンツェルの砲撃塔」なんです。ところで……あの戦艦を見てくれ。こいつを見てどう思う?」
「すごく……大きいです……」

 サミュエルとギンの掛け合いに、アリスがため息をつきながら会話に入る。

「何をやってるんだお前たちは。で、サミュエル、何か用なのか?」
「アリスさんにギンさん、ついでにキリガンさん。暇ですよね。暇なら、ちょっと目の前のラプンツェルの砲撃塔を沈めてきてくれませんか」

 彼女の申し出に、キリガンは「俺はついでか」と半目でサミュエルを睨む。

「ちょっとって、そんなちょっとコンビニに行ってこいみたいに言ってくれるのう」
「大丈夫ですよ、あの砲撃塔の主「ヴェルシェーナ=ラプンツェル・カタラッタ=ヤーガ」は一人じゃ何もできないアレですから」
「名前長いな」

 サミュエルが笑い飛ばしながら言っていると、ギンは肩をすくめ、アリスは頭を抱えて項垂れる。魚人種は皆軽い感じでモノを言うので、呆れても呆れ足りないのだ。

「「ヴェルシェーナ=ラプンツェル・カタラッタ=ヤーガ」って……あの、「魔女ゴーテル」の末裔である妖精種のあの人!?」
「知っているのか、キリガン!?」
「ああ、齢10歳で海皇ネプテューンに認められ、戦艦「ラプンツェルの砲撃塔」を作り上げ、さらに数百体の自律人形オートマタ機械人形ゴーレムを制作し、マリンフォール西部を一人で守り続けている人物だ!」

 キリガンの説明に、ギンは「オートマタにゴーレム!?」と目を輝かせていた。やっとファンタジーらしくなってきたかららしい。

「聞くからにヤヴァそうな感じじゃが、実際どうなん?」
「マジヤヴァですよ。半端な実力だと、下半身持ってかれちゃいます」

 ギンの質問に、サミュエルは軽く答える。

「で、俺達を呼んだのは、下半身を持ってかれないくらいの実力があるからか?」
「そうだよ、あんたらならあのジャリガキを何とかできるだろ」

 サミュエルの代わりにエイヴリーが答える。

「てことで行ってきて軽く捻ってきてください」
「……はあ、まあ、海皇ネプテューンのところまで案内してもらう約束だし、その位の協力はしないとな。ギン、キリガン、行くぞ」

 アリスがギンとキリガンを見ると、ギンは「え、やだ」と即答し、キリガンも「俺はそんな実力ない」と首を振る。アリスは苛立ち、二人の頭に拳骨を振り下ろした。ゴンッという音と共に、アリスは二人を睨み、見下ろす。

「ついてこい」
「はい、すみません」
「ごめんなさい、一生ついていきます」

 二人の回答にアリスはただ静かに頷いた。

「で、どうやって戦艦に近づけばいい?」
「ナディア、例の奴」
「ナギアです、船長。まあいいわ」

 ナギアがそういうと、アリス達を手招きし、コックピットを後にした。アリス達もナギアについていく。










 アリス達は甲板へと出ていた。相変わらずラプンツェルの砲撃塔からの砲撃が激しく、船の周りに水柱が高く上がっている。ナギアは冷静に、ある場所のドアを開けてアリス達に入るように促した。

「早く入って」
「……一応聞いておくが、大丈夫なのか?」
「早く入って」

 ナギアが二度言うと、アリスはやれやれと肩をすくめ、ギンは不安に感じながらもアリスについていく。キリガンは顔が青ざめていた。
 3人が入ると、ナギアはドアを閉める。かすかに香る、鉄が焦げているような匂い。そして、視界は闇の中。アリスは無言で何かを推測していた。

「いや、そんなベタな……いや、しかし……」
「龍志、気が合うのう、わしも同じこと考えておるよ」
「気が合うな、俺もだ」

 3人は意見を合致させる。
 外ではナギアがモニターを操作し、ピコピコという音がする。そして、モニターに思いっきり手を叩きつけ、「ピコン」という軽快な音と連動してアリス達が入っていった巨大な鉄の筒が動き出す。

「武運を祈ってるわ。頑張ってねえん」

 ナギアがそう巨大な筒……砲台に向かって手を振ると、ドォンッという爆発音とともにアリスとギン、キリガンの3人を射出した。
 叫び声と共に、3人があちらの戦艦まで吹き飛ばされていく。ナギアはそれを見送っていた。

Re: 新世界のアリス ( No.40 )
日時: 2021/08/07 12:00
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

 戦艦「ラプンツェルの砲撃塔」の甲板まで吹っ飛ばされたアリス達。甲板は見上げる程の鋼鉄の機体が数体、アリス達を待ち構えており、こちらに向かって、両肩に装備しているミサイルランチャーを向けている。そして、けたましい警報音とともに、どこからか少女の声と複数の人物の声が響き渡った。

『え、エイヴリーのとこの船員と思しき3名が甲板に着地した模様!』
『たいへん! たいへん! どうしよぉ!』
『こんなところで、ジャマされたくないのだぁ!』
『ジャマーするぜ、ジャマだけに』
『……は?』
『"ラプンツェル"様、いかがいたしましょう?』
『甲板の「ゴーレム・ガーディアン」を一斉起動! ここで叩きのめしておしまい!』
『ガデッサー!』

 どこからか気の抜けるような会話が終わると、アリス達に向かってミサイルランチャーを向ける機体から、ゴゴゴという鉄をこする音が鳴り、機体の頭部の黒いバイザーと思しき場所が青く光った。

「この形……まさか、パーソナルトルーパー!?」
「ヒーロー〇記もよろしくっと」
「ふざけたことを言うな二人とも、構えろ!」

 ギンとキリガンがやや危険な発言をしつつ、武器を構える。目の前のゴーレムはアリス達を敵と認識するや否や、両肩のランチャーを発射した。ドドドッという発射音と床に向かって放たれる弾、そして火薬の匂い。アリス達はたまらず近くの砲台に身を隠した。

「龍志、ここはわしが片付けよう。最近活躍らしい活躍ができんかったしのう!」
「大丈夫なのか……?」
「へーきへーき! わしゃ妖怪さん雪女さんのフレンズじゃぞ?」
「が、頑張れ、ギン!」
「お姉さんにまかせい!」

 ギンはアリスとキリガンの掌をパチンと叩くと、機体の前に出た。
 ギンは腰に下げていた錫杖を右手に取り、白い長銃をスカートの下から落として蹴り飛ばし、左手で構える。

「わしの演武、しかと見るといい」

 ギンがそう言うと、機体に向かって走る。小さい体が機体のすぐ近くまで来ると、ギンは勢いに任せて床をスライディング。滑って機体のすぐ後ろまで回り込んだ。

「世界丸見えっとな!」

 ギンは機体の背後まで来ると、機体の足部分の骨格を狙い、錫杖に仕込んでいる刀剣をキラリと閃かせ、瞬時に居合切りで筋を斬った。キンと金属音がしたかと思うと、機体が重い体を支えきれなくなり、バランスを崩してその場に崩れ落ちる。

「ほい、視界も……斬ッ! とな」

 ギンが機体の頭部を切り落とすと、「まずは一体」と周りを見る。周りでは二体同時にギンに向かってくる機体の姿が。ギンは慌てず銃を構え、くるりと銃身を回した後、着実に二体の頭部のバイザーを狙い撃った。カシャンとカメラが割れ、機体は動かなくなる。

「ほい、3体KOっとな」

 ギンはにやりと笑うと、残りの機体も彼女に襲い掛かる。

「モテるのう、わし♪」

 そう笑いながら、機体を繋ぐ筋を確実に狙い、居合切りで斬り落としていくギン。筋を斬り落とされた機体達は、バランスを崩して動かなくなる。ギンはその様子を見て、念の為と両肩のランチャーも切り落としていく。ついでにバイザーも撃ち落としていき、わずかな時間で甲板のゴーレム達を行動不能にしてしまった。

「いやー、終わった終わった。ほんじゃお疲れ~」

 ギンが帰ろうと踵を返すと、彼女の首根っこをつかむアリス。

「まだだ。このまま帰ったらエイヴリー達に何されるかわからんぞ」
「ぐっ……くそ、もう休みたい、寝たい、しんどすぎ~!」
「もう少し頑張ったらご褒美を考えてるがな」
「……! もう少し頑張っちゃう」

 ギンがご褒美と聞いて顔色を変える。すごく期待している目であった。



『あぁっ! 甲板のゴーレム達が全滅です!』
『機体の足を繋ぐコードとかがバラバラなのだ! あれじゃ使い物にならないのだ!』
『なんだとぉ!? そ、そんなバカなっ!!』

 どこからか悔しがるような声が響き渡り、アリスは二人に「とりあえず、コックピットを目指すぞ」と叫ぶと、艦内へと急いだ。ギンとキリガンもそれを追い、走り出す。



 艦内は人型の自律人形オートマタが待ち構えており、様々な武器を駆使してアリス達の行く手を阻んだ。通路が狭く、思うように動けないが、ここでもギンが活躍していた。天井に飛び上がり、天井を踏み台にして一気に刀剣を振り下ろして人形たちを斬り倒していく。キリガンも負けじと、装備していた弓で援護していた。矢が人形たちの腕や足を貫き、動きを封じていく。

「キリガン、やるな」
「こんなことしかできないけどね!」

 キリガンはさらに矢を放って人形たちの動きを止める。そこをアリスは首を切り落として再起不能にした。

「一気に進むぞ、コックピットまでどれくらいだ?」
「多分、この先の二連主砲を通過するしかない」
「二連主砲……回避できないか?」
「二連主砲を避けて通れないよ、その後ろにコックピットの入り口があるし」

 キリガンの言葉にアリスは「わかった」と頷く。

「ギン、まだやれるか?」
「年寄扱いするでない、まーだこれからだっちゅーの!」
「……古いな」
「どんだけー!」

 ギンは人差し指を立てて手を振る。
 しかし、二人はそれをスルーして、奥へと走りつつ進んだ。

Re: 新世界のアリス ( No.41 )
日時: 2021/08/08 00:08
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

 アリス達は屋外へと出る。目の前には人一人が入れそうな大きな口を開いた2本の連なる砲台が聳え立っていた。その巨大な主砲を仰いでいると、キリガンが一つの考えを皆に伝える。

「そういや、わざわざコックピットに行かなくても、動力を叩けば戦艦が沈むんじゃない?」
「それもそうじゃ。今から行くかえ?」

 二人の提案にアリスは首を振った。

「ダメだ。俺達は何も戦艦を沈める為に動いてるわけじゃない。確かに動力エンジンを叩けば沈むだろうが、それで国の防衛が手薄になり、他国への抑止力が消えたら大問題だろう」
「あ、それもそうか。曲がりなりにもアリスとギンは親善大使だもんね」
「んん、じゃが、いいのか? 親善大使が防衛戦艦に侵入して」
「正当防衛だ」
「便利な言葉だね」

 アリス達が二連主砲の脇を通ろうとすると、近くにあったスピーカーからけたたましい少女の声が響き渡る。

『あーあー。そこの弐連主砲の脇を通る愚かな侵入者に告げる! これ以上進むなら覚悟はできてるんでしょーねぇ!? 私の"究極必殺ビックリドッキリゴーレム"を起動して目に物見せたるわよ! いい!? 本気だから! 超☆本気だから!!』

 一方的にブツンと切り、ゴゴゴという重い音と共に地面が揺れる。アリス達はそれぞれ足を踏ん張り、周囲を見回しながらその揺れで体が倒れないようにしている。やがて、揺れが収まると、目の前に見上げる程の巨大な影が天高く伸びていることに気が付いた。
 白いボディ、巨人のような巨体。両肩には先ほどまで見ていた弐連主砲を片方ずつ乗せており、ところどころにピンク色のラインが光っている。頭部部分にはバイザーがあり、青色に光る。
 3人はそれを首が痛くなるほど見上げて、目を見開いて驚愕の表情で口を開けて驚いていた。

「お、おい、あれ……なんじゃあのMSみたいなんは!?」
「うう、起動してしまったか……「超弐連主砲ハイパーブラスター」!」
「そのまんまだな……知っているのか、キリガン」
「名付け親のボキャブラリー貧困なのがいけない。そりゃ、マリンフォールで一番有名な戦艦がこの「ラプンツェルの砲撃塔」だからね。冒険者連合協会の間で「要注意」「不用意に近づくな」って太鼓判を押されてるからね。と、とにかく……あれが起動したってことは、俺達は無事に帰られるかどうかも怪しくなってきたってことだ!」
「使い方間違っておるが……なんじゃとぉ!?」

 キリガンの説明に、ギンは勢いよく顔を近づける。

「具体的には!?」
「戦えばわかる!」
「だよなぁ!」

 3人は武器を構え、超弐連主砲を睨む。

『やっておしまい、超弐連主砲! 海皇ネプテューンの敵は私の敵なのよ! 粉々にしておやりッ!』

 少女の声に呼応するように、超弐連主砲は腕を振り上げた。

「ま、まずい! あんなもん振り下ろされたら船が真っ二つじゃぞ!?」
『へーきよ、10年くらいこの戦艦の管理をしてるのよ? この程度じゃ床に傷一つ付けられない、聖徳太子もビックリ設計なのよ!』
「つーか、こっちの声が聞こえとるんのかい」

 少女の声の言う通り、超弐連主砲が腕を振り下ろし、爆音と地響きと共に床を殴りつけるが、傷はついておらず、少しへこんだような気がする程度であった。

「ギン、何かアイデアはないか?」
「流石に巨大ロボットを相手に良い提案は思いつかんよ」
「無視してコックピットを目指すというのは?」

 アリスがキリガンを見ると、彼よりも少女の声がそれに答えた。

『あ、万が一にも超弐連主砲を無視して私の部屋に不法侵入するのは無駄ァ! 超弐連主砲が起動した時点で部屋のロックが自動作動するわけね。しかも高圧電流も流れてるから、生身の人間なら黒焦げイモリになるわ。がははははがははははっ! がはははがははっ! ……ふぅ』

 超弐連主砲がこちらを踏みつけてやろうと足を振り上げる。振り下ろされ、再び戦艦が激しく揺れ、波が激しく立っていた。
 超弐連主砲はギンに狙いを定めると、肩に乗っている主砲で熱線を発射する。アリスは咄嗟にギンを抱えて走り、すんでの所でアリスとギンは熱線を避けた。熱線を浴びた床は黒く焦げ、鉄が焦げた臭いが漂う。

「こいつぁグレートなスーパーロボットじゃぜ……」
「ああ、そうだな。あの二つの大砲と踏みつけ攻撃。人間じゃない分、動きが止まらないから厄介だ。それに防御力……鋼鉄が相手だと、こっちの武器がすぐにダメになるな」
「あわわ、ピンチピンチ、大ピンチだよ!」

 キリガンが弓を構えて矢を放つが、矢は鋼鉄のボディには通用せず、カンカンという軽い音を立てながら矢が落ちて行く。そんな様子を見せられて、キリガンはため息をつきつつ涙を目元にためながらアリスを見ていた。

「海に落としたらええんちゃうん?」

 ギンがそう言うと、その疑問にも少女の声が答えた。

『防水機能もカンペキなのよ! 向かうところ敵なしなのだわ! ムハハ、ムハハハ、ムハハハハハハハッ!』
「クソッ、あとでぶん殴ってやる」

 キリガンも珍しく怒っており、拳を握り締めている。

「よし、わかった。 ちょっと待ってろ皆」
「龍志、何をするつもりじゃ?」
「所詮は機械だ」

 アリスが静かに言うと、勢いよくその場から足を踏みしめ、地面をけり上げて走る。その走行速度はかなり素早く、超弐連主砲の膝元部分まで壁に張り付いて走り、膝元まで来ると隙間を手でつかんでぶら下がった。

「ぎ、ギン……俺は夢でも見てるのか!? 人間が壁を走ってよじ登るとかドラマとか漫画の世界だけかと思ってたよ……」
「わしの弟子じゃからな」
「しゅごぉい……」

 キリガンは口を開けて驚愕しながらアリスを凝視していると、ギンは腕を組んで自分の事を自慢するように鼻を鳴らす。
 一方、アリスはというと、パーツとパーツの隙間を狙い、腰から下げていた刀剣を鞘から抜いて隙間に向かって刀剣を力の限り突き刺した。

『な、なにしてるのぉ、やめなさい! そんなところいじくりまわしたら――』

 少女が慌ててアリスを制止するが時すでに遅し。超弐連主砲がバランスを崩し、海に向かって倒れる。アリスはキリガンとギンに向かって「船内に避難しろ!」と叫ぶと、アリス自身はその場から飛び降り、キリガンはギンの腹に手を回して、片手で抱えて急いで逃走した。アリスも遅れて船内まで走る。
 その間にも超弐連主砲が海へ倒れこみ、海へ着水する。その後、船が機体の足にバランスを奪われ、傾き始めた。機体が完全に海の中へ入ると、大きな波に揺られ、戦艦が一回転する。大きな波と揺れと共に戦艦が再び海の上に着水し、何事もなかったように海の上に浮かんでいた。

「アリス、無事かい!?」
「ああ、キリガン。ギンは?」
「くぅ、キリガン……乙女を運ぶ時はお姫様抱っこと相場が決まっておるじゃろうがぁ!」
「……無事で何よりだ」

 ギンが口うるさく抗議をするが、アリスは頷きながらギンを見る。

『ぐ、ぐぎぎ……ぐぎぎぎっ!』

 スピーカーから少女の声が流れる。






『おのれおのれおのれおのれおのれぃ! くやしぃ~! ……HEEEEYYYYあァァァんまりだァァアァAHYYY AHYYY AHY WHOOOOOOOHHHHHHHH!! オオオオオオおおおおおおれェェェェェのォォォォォさいこうけっさくゥゥゥゥゥがァァァァァ~~~~!!』

 突如彼女の大泣きしながら叫び喚く声がスピーカーから流れ、彼女は恐らく嘆き続けていた。

「……エシディシかの?」
「そんなことより、コックピットに行くぞ」
「りょ、了解」

 3人はコックピットまで向かい、再び走り出した。

Re: 新世界のアリス ( No.42 )
日時: 2021/08/08 22:54
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)


 コックピットと思しき鉄の扉を開ける。中は文字通り「ぐちゃぐちゃ」であった。ピンクの壁、水色の水玉模様の床。ぬいぐるみやらドレッサーがそこら中に倒れており、家具もお嬢様が好むようなピンクや白でコーディネイトされた、アンティークなもので、かなり値が張りそうだが、それらももちろん倒れている。中心で大きなぬいぐるみの上に寄りかかる、水色の魔女の三角帽子を被った、髪の長い少女がこちらの存在に気が付いて起き上がる。長すぎる水色の髪、ピンクのグラデーションがかかってかわいらしいが、そのかわいらしい見た目に反して、水色の瞳は死んだ魚のような眼をしているし、服装もピンクのキャミソールの上に、ど真ん中に「しんよこ!」という文字が書かれた白いTシャツ、下はピンクのパンツと、かなりだらしない格好だった。
 彼女が腕を組み、アリス達を見る。

「あんた達、よくもやってくれたわね、さんざん泣きわめいてスッキリしたわ。ここまできたのなら、もう観念してあげるわ」

 スピーカーからけたたましい声を出していたのは彼女のようだ。しかし、数人ぐらいいると思ったが、見たところ一人だ。

「あの、数人くらいの声がしたと思うんだが……」
「ん? ああ、人工知能をつけたぬいぐるみと自律人形オートマタ。それからリンクレットの「ルリルリ」よ、それ」
「ルリルリ?」

 彼女が指をさしながら説明してくれるが、アリスは聞きなれない単語に首をかしげる。

「知らないの? リンクレットに標準装備されている人工知能。「RURI-RURI-SYSTEM」、通称「ルリルリ」よ」
『知らない人なのだ、よろしくお願いするのだ~♪』

 彼女がリンクレットの画面を見せながら説明をする。その中にはオレンジ色の髪の少女がこちらに向かって手を振り、ニコニコ笑っていた。かなり高性能な人工知能だな、とアリスは感心する。

「で、あなたがラプンツェルの砲撃塔の――」
「「ヴェルシェーナ=ラプンツェル・カタラッタ=ヤーガ」。ラプンツェルの砲撃塔制作者であり、ここ10年不落の戦艦の異名を恣にする、「魔女ゴーテル」の末裔であり、天才科学者兼自由国西部防衛隊隊長よ! 図が高ーい、図が高い! 控えおろう! そして「ラプンツェル」様とお呼び!」

 ラプンツェルは腰に手を当てて「カカカッ」と笑う。

「なんじゃこのホエホエ娘は」
「誰がホエホエ娘よ!」

 ギンとラプンツェルが睨み合っているが、アリスがその会話に割って入った。

「で、ラプンツェルさん。俺達は海皇ネプテューンの敵ではありません。むしろ、和睦を進めようとティラ閣下に親書を預かってきた大使です。あなたを邪魔したかったんじゃない」
「……ふぅん、そうだったの。まあ、イワシ狩りかと思いきやマッコウクジラに、逆に狩られるなんて。はぁ、男だからって油断したわ」
「正当防衛だよね?」

 キリガンが不安げに言うと、「チッ」とラプンツェルに舌打ちをされる。

「……早く帰りたいなぁ」

 キリガンはがっくり肩を落として落ち込んでいた。

「兎にも角にも、とりあえず海皇ネプテューンに謁見すればいいじゃない。送りましょうか?」
「いや、俺達はエイヴリーに送ってもらう約束を――」
「チッ」

 ラプンツェルが明らかに不機嫌になり、舌打ちを聞こえるようにする。ギンは彼女を見て「女ってこええのう」なんて言いながらアリスの後ろに隠れる。

「とりあえず、通行を許可するわ。通ればいいじゃない」
「ああ、ありがとう、ラプンツェルさん」
「ラプンツェルでいいわよ、マイプリンス♪」
「……えっ?」

 ラプンツェルが突然アリスに抱き着き、頬を押し当てる。

「だって、ラプンツェルの砲撃塔を陥落させたのは、あなたが初めてよ。しかもこんなに色男……どうどう、私のお婿さんにならない?」

 ラプンツェルはアリスを見上げて上目遣いでこちらを見ている。アリスは困ったように頭を掻きながら「すまない、それは勘弁してほしい」と断った。

「でも、通行を許可してくれてありがとう、ラプンツェルさん」
「チッ」

 キリガンに話しかけられると、ラプンツェルは舌打ちをしてキリガンをきつく睨む。キリガンは悲しくなり、俯いてしまった。

「この女は好かんのう。ホラ、龍志! さっさと戻るぞ!」
「あ、ああ……」

 ギンは心なしかむすっと頬を膨らませ、アリスの空いている腕を引っ張ってコックピットから出ようとする。アリスはギンがなぜか不機嫌なため、よくわからず手を引かれるまま、ギンについていく。

「あの、マイプリンス、お名前を教えて頂戴!」
「あ、ああ。有栖川龍志だ」
「アリス様……素敵なお名前ね」
「……ああ、そうだな」

 またまたアリス呼ばわりにため息をつきながら、アリス達はラプンツェルの砲撃塔を後にした。










―――――











「おかえりなさい、アリスさんにギンさん、ついでにキリガンさん」
「やっぱ俺はついでなのね」

 キリガンはなんだか落ち込みながらそう言うと、サミュエルは首をかしげながら「何かあったんですか?」とアリスに尋ねるが、アリスは「聞かないでやってくれ」と首を振る。

「いやーご苦労さん。おかげであのジャリガキに目にもの見せてやれたし、あたしゃ最高にハイって奴だねぇ! ハハハハハッ!」

 エイヴリーが上機嫌で叫んでいると、周囲のオペレーターもエイヴリーに調子を合わせて「そうですね船長!」「やりましたね」と上機嫌であった。

「てことで、これから"アトラ・ティエス"に向かいます」
「アトラ・ティエス?」

 サミュエルの言葉にギンが首をかしげると、キリガンが説明してくれた。

「マリンフォール西部にある大きな宮殿の名前だよ。西部を治める「マオーシャ=ネプテューン・マリンフォール」がいるんだよ」
「ネプテューン……彼女が今の海皇というわけだな?」
「そう。マリンフォールの人々は皆彼女を支持してるんだ。実際、彼女が治めている間の最低限の規則を守れば、マリンフォールの皆は自由気ままに暮らせてるしね」

 キリガンの説明にサミュエルもエイヴリーも頷く。

「あたしもあのお方がいなけりゃ、交易商とか防衛隊長なんてやってないさね」
「器のおっきい人ですよ。会えばわかります」

 アリスもギンも、その言葉を聞いて興味がわいたようである。

「二人のようなのをも手名付けられるその、マオーシャ殿って人はどんな人なんじゃろうか……!?」
「ギン、失礼だぞ」
「ハハッ、いいよいいよアリス。でも二回目はシュレッダーにかけるからね」
「おぉう……」

 エイヴリーが笑みを浮かべそう言うと、ギンは青ざめた顔で口元を両手で隠した。