複雑・ファジー小説
- Re: 新世界のアリス ( No.64 )
- 日時: 2021/09/02 23:50
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)
12章 All Correct!!
ディクシア&アリステラのコンビとの試合が終わった後、会場は一旦解散となっていた。
まあ、それもそのはず。互いのペアが好き勝手に暴れたおかげで、会場はボロボロになっている他、アリスとギンのペアは治療を受けなければならない状態だ。その日はとりあえずは解散となり、準決勝2戦目のペア二組とアリスとギンは控室でしばしの休息をとるようにと命じられたわけであった。
「毎回魅せてくれるねえ、アリスにギン。期待以上だなぁ」
控室でウィチアの治療を受けていたアリスとギンの目の前には、マオーシャが椅子に腰かけている。足を組んで二人を眺めながら、キリガンの淹れた紅茶を楽しんでいた。そして、紅茶の香りを楽しみ、アリスとギンが寝ているベッドの脇で、二人の服を修繕しているキリガンに「茶の淹れ方がうまいね」と褒めていた。
「アリス、ギン。この大会が終わった暁には、うちで私の補佐官として働かないか? もちろん、3食お菓子付き、ボーナスも年3回出すよ」
「3食お菓子付き……!」
ギンは涎を口から溢れさせ、目をキラキラと輝かせる。だが、アリスは首を振った。
「魅力的な話ですが、俺には帰るべき場所がありますし……それに、今回は残念ですが、ティラ殿のお使いで来たわけですから」
「ん、そりゃ残念」
マオーシャはがっかりしつつ、肩をすくめる。その後すぐにキリガンの方へ顔を向けると、ニコォと笑みを浮かべた。
「じゃあキリガン。あんたはどうかな? あたしの補佐官としてさっき言った待遇で働かないかい?」
「え、俺!?」
キリガンが驚いて修繕していたジャケットを思わず落とす。
「ああ、一応補佐官にエイヴリーとラプンツェルを任命してるんだけど、あいつら他にも防衛隊長とかも兼任してるからさ……ぶっちゃけ人手不足なんだよね。東部のオトメの方は人材が有り余ってるっていうのに、こっちは人手がねくどくどくどくど……」
マオーシャがキリガンに対して止まらない愚痴を吐き続け始めた。キリガンは何とも言えない表情でその話を聞きながら、助けを求める視線をアリスとギンに送る。……が、アリスとギンはそれを見て見ぬふりをしていた。
「それはそうと、毎度毎度こう怪我をされて……無傷だった一回戦が懐かしくも思えます」
ウィチアは叱りつけるようにアリスの腕に消毒液を塗っている。ギンの方は包帯を巻いて寝かせたようだ。ベッドに座る彼の前に座り込んで、彼の腕を見ながらため息をつく。
「私たちの仕事はない方がいいんですよ?」
「す、すみません……」
アリスは申し訳なさそうに項垂れると、ウィチアは微笑んだ。
「ま、いいです。次は決勝ですから、万全な状態で挑んでくださいね」
彼女はそう言ったあと、アリスの腕に包帯を巻く。
「――で、どうだいキリガン。うちで働く? 働かない? 男ならはっきりしなよ~」
「うえぇ、っとぉ……うぅーん、美味しい話ですけど、どうせ男には人権とかないでしょう?」
「あたしは有能な人材なら差別なんかしない主義だよ! 出身とか性別とか地位に優劣なんか存在しないのが信条でね。キリガン、どうせ冒険者やるなら補佐官やった方が稼げるし、毎食お菓子付きの何が不満なんだい!? もっと待遇が必要なら、社会保険だってつけちゃうよ!」
「うっ……それを聞くとなんだかいいかもしれないって思えてきた……でもブラックなんでしょう?」
「そう思うだろ? そうでもないんだよねぇ……ここは自由国だから……」
「……なるほど」
マオーシャとキリガンが雇用について相談している最中、アリスの治療が住んだのか、アリスはベッドに横になる。
「で、キリガン。補佐官になるのか?」
「なりましょう!」
「マジか……」
キリガンの瞳は爛々と輝いている。どうやら冒険者に変わる新たな就職先を見つけたらしく、マオーシャも満足げに頷いた。
「ところで、準決勝2回戦はいつ始まるんですか?」
アリスはふと気になり、マオーシャに尋ねると、空になったティーカップを指で躍らせながら彼女は答える。
「ん、明日だね。見るか?」
「いや、気になっただけですよ」
「まあ早けりゃ明日決勝になるが、できそうか?」
「俺は大丈夫だが、ギンの方が心配ですね」
ギンの方を見ると、疲れが溜まっていたのか「すーすー」と寝息を立てて眠り込んでいる。
「それは問題ありませんよ。特別にホロウハーツの「ローレンスラボ」から取り寄せた治療薬を打ちましたので、寝て起きたら完治しているはずです」
「「ローレンスラボ」?」
「あれ、ご存じありませんか?」
ウィチアはアリスにチラシを渡す。
チラシには、若い白衣を着た茶髪の人物が写っており、「ローレンスラボ」と書かれており、中身は医薬品などの大量購入の案内や、定期購買の案内など、いかにも法人向けといった感じの内容が書かれていた。
「「ローレンス」博士……ここ数年でかなり活躍してる期待の新星だね」
キリガンはジャケットの修繕の続きをやりつつ、アリスの方を見る。
「どんな人物だ?」
「3年前に「ナイチンゲール賞」を受賞……あ、ナイチンゲール賞っていうのはね、優秀な医者に贈られるんだけど……まあ、博士の賞を取るまでの経緯がすごいんだよね。全くの無名からのし上がってるんだもん」
「具体的にどんな活躍を?」
「人工細胞の研究、主に再生医療の研究をしてるらしいんだ。他にも、そのチラシに書いてある医薬品の開発。博士の登場前は「リライフ製薬」がほとんどの医薬品を製造を任されていたけど、博士が登場したことで、博士の所から買う病院や医者が増えてるんだってさ」
彼の話にアリスは「へえ」と声を漏らす。
「会ってみたいもんだな、その「ローレンス博士」とやらに」
「無理だと思うよ。ローレンスラボ自体、どこにあるかわかんないし」
キリガンは肩をすくめた。
「そうか、そりゃ残念だ」
「でも、まあ……活躍を重ねたらきっと、あっちから会いに来てくれるかもね」
「そいつは重畳の至り」
アリスがそう言うと、二人は声を出して笑いあった。
- Re: 新世界のアリス ( No.65 )
- 日時: 2021/09/04 22:52
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)
翌日。
準決勝2回戦は滞りなく始まり、そしてすんなりと終わったそうだ。
そして、午後。決勝戦が始まる。アリスとギンは会場へと歩み進める。決勝戦だけあって、会場は大盛り上がりだった。……人数が昨日の倍以上はいるんじゃないかと思う程、人という人が観客席を埋め尽くしている。ギンはその様子を見て「ふっ」と鼻で笑った。
「龍志。大会の〆を飾るんじゃ。派手に暴れてやろうぞ」
「……昨日までも派手に暴れていた気がするがな」
「今日はもーっと暴れてやれい!」
「善処はする」
二人がそう会話していると、目の前に試合の相手が入場してきていた。黒い服とマフラーの青い髪の男と、銀髪のヤギの角が生えた女……見覚えがある。
「そういや、名前はちらっと見たような気がしたが……気のせいじゃなかったんだな」
「うへえ、マジか……」
目の前の人物に驚きを隠せないアリスとギン。
それもそのはず、目の前の二人は……ジャンとカーラだったからだ。
「やあ、ダブルエージェント。今日は派手にやろうじゃないか」
「わぁい、決勝で会えるなんて、こんな奇遇あるぅ!?」
ジャンはポーズを決めながら気さくに話しかけ、カーラは白々しい事を言いながらいつもの満面の笑みを浮かべていた。
「白々しいな、知っていたんだろ?」
「もちろんさぁ☆」
アリスの呆れた表情に、片眼をつむってウインクで答えるカーラ。なんだか楽しそうで羨ましい限りだ。
「ジャン太郎、お主はなぜ大会に出とるんじゃ?」
「そうだな、スノウおばあちゃん。東部の防衛隊に捕まって処刑されそうになったところを、オトヒメ・プリンセスが救ってくれたんだ」
「嘘だよ、処刑しない代わりに大会に出て優勝してこいって言われたんだ」
「……とにかく、優勝して海皇の権限を譲れって事だろ」
アリスがなんとなくすべてを察すると、ジャンはアリスに指さして「ザッツライト」と答えた。
「だが、アリス達も同じだろ? 西部のトップに優勝してこいって頼まれて、今ここにいる。そうだろう?」
「ああ、そうだ。暇なら参加しろってな」
アリスが頷くと、カーラは首をかしげる。
「あれ、てことは……お互い同じ目的って事じゃん」
「ありゃ、そうじゃのう……どうする?」
ギンが腕を組みながら皆の顔を見ていると、ジャンは肩をすくめた。
「はあ、おばあちゃん? 当たり前の事を言うんじゃねえよ」
「さっきからおばあちゃん言いすぎじゃぞ。今日はすこぶる調子いいから、お主を一瞬でフリーズドライにできるんじゃが?」
ギンとジャンが互いの目を見て睨み合う。が、アリスとカーラが間に入り、二人を窘めた。
「まあまあジャン。そんなカッカしないの」
「ギン、お前もだ。やる気なのはいいが、試合はまだ始まってないぞ」
二人にそう言われて一旦落ち着きを取り戻すギンとジャン。
「……しかし、いい機会だ。ジャンとカーラ。お前達とは一度手合わせしたいと考えていた」
アリスがそう言うと握っている紐から下がっていた刀剣を手に取る。彼の言葉を聞いたジャンとカーラは笑みを浮かべた。
「そりゃあこっちも同じさ、ミスター・アリス。この場を用意してくれたプリンセスには感謝しかないぜ」
「うんうん。乙姫様様だねぇ」
それに負けじと、アリスとギンも笑顔を見せていた。
「よっしゃ、龍志とこの銀雪の最強ツインダブル2倍なパワーを見せちゃる!」
「ツインダブルなんちゃらは意味わからんが、俺達も負けない。互いに手加減抜きでいこう」
アリスの言葉を皮切りに、ゴングの音が会場に鳴り響く。
それとほぼ同時に、互いに武器を構え、戦いの火蓋が切って落とされた。
- Re: 新世界のアリス ( No.66 )
- 日時: 2021/09/06 23:18
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)
音を聞いた瞬間、カーラがこちらに向かって走ってくる。まるで猛牛の突進さながらの動きで、大剣を構えながら向かってきていた。その突進は、常人なら怯むだろうが、ギンはあえてカーラの前に出て、アリスに目配りをする。アリスは無言で頷くと、カーラに向かって駆け出した。
アリスが向かってくるので、カーラはアリスに向かって大剣を振るが、一歩遅い。彼はカーラの大振りをスライディングで避け、カーラを突き抜けて後方のジャンへと向かう。
「おぉう!?」
カーラは思わず声を出し、振り向いてアリスを攻撃しようとする。だが、それをギンが阻止した。カーラの背後に向かって刀を振り下ろしたのだ。しかし、その動きを読んでか、カーラは大剣を背中に回し、ギンの刀を受け止める。彼女は背後にいるギンに視線を送り、涼しい顔で微笑んだ。
「ギンちゃんが相手か。私、アリス君と戦いたかったんだけど」
「残念じゃが、龍志は予約済み。安心せい、退屈はさせんよ」
「期待しちゃうよ~?」
カーラはそう言い放つと、大剣の柄についているトリガーを人差し指で引く。
「名付けて、「スラッシュリッパー」だよん♪」
その瞬間、彼女の大剣の剣身から三日月のような刃のブーメランが大量に飛び出し、ギンを襲う。彼女の肌を切り裂き、刃は赤い玉を踊らせながら白く閃いた。ギンは苦悶の表情で「うぐぅ」と声を漏らす。そのまま後退し、膝をついた。腕が、体が、足が、刃による切り傷で赤く染まっている。
「ありゃ、この程度で膝ついちゃう? それとも、流石に大会の連戦で疲れちゃったかな? 期待はずれかもね~」
「たわけが……この程度、造作もないわい。」
「そう? じゃ、まだ楽しめそうだね」
カーラはそう楽しそうに笑うと、再びトリガーを引いた。刃が飛び出して舞い、ギンを襲う。だが、ギンはそれを目にもとまらぬ斬撃で全て落とし、カーラを睨む。彼女は次の手に、ギンに詰め寄り、大剣を振り上げて力の限り振り下ろす。振り下ろされた剣は床に穴を開け、瓦礫が飛び散る。ギンはそれを避けるが、カーラはギンの右足をつかんで、今度は彼女を振り上げて叩きつけるように振り下ろした。
「が、は……ァ……」
ギンは叩きつけられた衝撃で、血を口から吐き出す。
「うーん……もうおしまい?」
カーラは無邪気な表情でギンに尋ねる。
「……はっ……くっ……」
ギンは過呼吸気味に肩を動かして、咳込みながら口から血の塊を吐き出している。カーラはその様子を見て、大剣を下ろした。
「降参する?」
「……まだ、じゃ」
ギンはカーラを睨みながらそう答える。瞳は、闘志によって燃え上がっていた。
そして彼女はカーラに向かって懐に手を入れる。カーラはにぃっと笑うと、ギンの腕に向かって大剣の背でそれに打撃を与える。本人は軽くやったつもりのようだが、傷だらけのギンにとってはかなり大きく、腕が痺れてしまい、懐にあったお札型の爆弾を床に散らばせた。
「うーん、これでも手加減はしてたけど。ここまでかな?」
「……ふぅ」
カーラは、ギンが頭を垂れ、肩を落としている様子に、ため息をつく。もう戦意喪失か。そう失望もしていた。
「トドメ、いっちゃおうか」
カーラはそう言ってギンの脳天に向かって大剣を振り下ろした。
だが、ギンは口元を三日月のように歪ませ、笑う。
「まだ、と言っておるじゃろう」
そう言い放つと、ギンは掌を床に叩きつけて膝をつく。
「お主の洞察力は確かに評価できる。じゃが、調子に乗ると周りが見えなくなるようじゃな……カーラよ。わしがただ何もせず主の猛攻を受けただけに見えておったか?」
ギンとカーラの周りの床が青白く光り始める。カーラは周りを見て、「おお!」と声を上げた。驚いている、というよりは、歓喜の声を上げて楽しんでいる様子だ。
二人の立つ周囲の床には、魔法陣が描かれ、青白く発光していた。
「いでよ、氷槍!」
ギンが叫ぶと、魔法陣から槍のように尖った氷柱が水分を凍らせ、空気中を走りながらカーラに襲い掛かる。カーラは氷柱を剣で砕きながらも、切っ先の刺突を全ては避けきれなかったようで、体に傷を受けていた。
「なぁんだ、ギンちゃん……面白い事できるじゃん!」
カーラはそう叫ぶと、襲い掛かる氷柱を砕きながらギンに向かって距離を詰める。
「ああ、だが……まだまだこれからじゃ」
ギンが言い放ち、錫杖で床を叩く。
床は錫杖が触れた瞬間、氷を纏わせてカーラの足を飲み込んだ。カーラは「昨日の奴だ」と声を出す。
「本来、この魔法陣は血液じゃなくてもチョークとかインクで描くもんじゃが……あいにく、そんな事しとる暇は与えてもらえんじゃからな……主がわしの攻撃を読んでわしを斬ってくる事は予想しとった。ありがたいよ、予想通りに動いてくれてのう!」
「ふぅん、先の先の先を読んでたわけだ……」
カーラは笑う。凍り付いていた足を動かして足踏みし、凍り付いた床の氷を砕きながら。その表情は、とてつもなく楽しそうで、まるで新しい玩具をもらった子供のような無邪気な笑顔だった。
「ギンちゃん……あなたの言う通り……本当に、私を楽しませてくれそうだよ♪」
- Re: 新世界のアリス ( No.67 )
- 日時: 2021/09/07 22:39
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)
ギンとカーラが盛り上がってる少し前、ジャンの下へアリスが突進し、彼に向かってアリスは銃を構え、銃弾を4発程放つ。銃弾は太陽光を反射するほど磨かれており、発射されるたびに光輝いた。ジャンはその銃弾を手に持っていた黒く光る、彼の身長の半分以上はありそうな巨大な金属銃器……アニメやゲームで登場しそうな兵器、パイルバンカーを振り回して銃弾をはじき落としたのだ。
彼のパイルバンカーは先端に杭のようなものがあり、かなりの重量がありそうな見た目だが……おそらく術式を刻んでいるのだろう。彼は軽々と扱っていた。
「新兵器か!?」
アリスはそう叫ぶと、ジャンがマフラーに指を添えながらにっと笑う。不敵な笑みだ。
「ああ、プリンセスが特別に、へそ出しキャプテンに作らせ、俺に授けてくれたニュー・ウエポンだぜ。名付けて……「ゲシュペンスト・パイル」らしい」
「らしいとは……」
「俺が提案した名前とはかなり違うってことだよ、ミスター」
ジャンがそう言うと、その「ゲシュペンスト・パイル」を片手に構え、アリスに向かって突撃してくる。銃器は蒸気を噴出しながら勢いを上げ、重量のありそうな見た目の割にかなりのスピードで詰め寄ってくる。
杭を剣で軌道を逸らせようとするが、剣から「ミシィ」という金属にヒビが入る音がして、アリスは慌てて空いた手で銃を握り、銃器に向かって銃弾を放った。軌道は逸れ、ジャンは床に穴を開ける。直撃していたら、体に風穴があいていたかもしれない。
ジャンは立て直し、銃器を持ち直す。まだ扱いに慣れていない様子だ。
(……当然か、この癖の強そうな武器、扱うにも一苦労だ)
アリスはそう考えながら、ジャンの次の手を待ち構える。
「さて、こっからがショウタイムだぜ、ミスター・アリス」
その考えを読んだかのように、ジャンが一言言い放つと、銃器のトリガーを引いた。すると、銃器から刃が射出し、まるで銃と剣が一体化したような見た目になる。
「まだアペタイザーさ、驚くのは早いぜ?」
アリスの表情を見たジャンは、銃剣を手にしてアリスに近づく。銃剣による切り込みだ。銃剣が振り下ろされ、アリスは手に持っている剣でそれを受け止める……だが、剣は先ほどひびが入っていたためか、銃剣の衝撃に耐えきれずに砕け散る。アリスは表情を変えず、腰に下げていた刀剣を引き抜いて、瞳を閉じる。
「金よ、我が剣となれ!」
アリスの叫びに呼応するように、彼の持つ剣が黄金色を放つ。ジャンの斬撃をはじき、ジャンは一歩後退した。
「ストレートスコール!」
だが、彼は足を踏みしめ、銃器を振り回す。片手で一回転、二回転……まるで曲芸のように振り回しながら、銃弾を放つ。銃弾はスコールのようにめちゃくちゃに放たれ、その内数発はアリスに命中した。アリスは思わず膝をつく。
しかし、アリスの表情は全く変わらず、ジャンの懐に向かって切り込んだ。アリスの行動に驚いたようで、ジャンは判断が遅れ、腕に斬撃を受ける。
「やれやれ、一張羅なんだからもう少しソフトに頼むぜ」
ジャンはぼやき、マフラーで口元を隠した。
「それはすまない。キリガンに修繕してもらう事にしよう」
「そりゃ助かる」
ジャンがそう笑うと、銃剣を向ける。
銃剣を再び構え、そのままアリスに向かって振りまわす。銃撃と斬撃を合わせ、彼に反撃の隙を与えないように、一回転、二回転。そして三回転。アリスは銃弾を受けながらも、ジャンの斬撃をやり過ごし、銃を片手に彼に確実にダメージを与える。お互いに剣と銃の打ち合いをしながら、体力を削っていた。
だが、最初に膝をついたのはアリスだ。体中は銃弾でハチの巣になり、傷口は赤く滲んでいる。ジャンも同じく服もお気に入りのマフラーもボロボロだが、彼は平然としていた。
「どうした、もうギブアップか?」
「まだまだ……」
「そうこなくっちゃ」
ジャンはアリスがヨロヨロと立ち上がる様子を見て、満足げに笑う。
アリスはというと、剣を握り、片手で刀身をなぞる。自身の血液を剣に塗り込むように。
「月輪の型……!」
彼はそうつぶやくと、刀身が青白く光り始める。その様子にジャンは、「面白くなってきたな」とつぶやくと、彼に向かって銃剣を横に振る。アリスはそれを剣で受け止め、彼の斬撃を流した。同時に、剣の軌道から青白い三日月のような刃が生まれ、ジャンを斬る。脇腹を突き抜けていくそれは、ジャンのお気に入りのジャケットを切り裂いていった。
「それが陰陽術って奴か……」
「まだバリエーションはある、楽しみにしているといい」
「そいつはいい、遊びをクリエイトって感じだな」
ジャンは笑うと、銃剣のトリガーを引いてパイルバンカーに変形させる。彼はそれを構え、杭をアリスに向かって打ち込んだ。彼の一瞬の隙を狙った一撃。その直進する軌道は、アリスの月輪を砕きながら真っ直ぐ進み続ける。剣で防ぐことはできない。アリスは一筋の汗を額から流した。
- Re: 新世界のアリス ( No.68 )
- 日時: 2021/09/09 00:08
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)
「木よ、我が手に……!」
アリスの言葉に呼応して、彼の手に光が集まる。その手を突き出し、ジャンの杭を受け止める。ジャンは驚いて目を見開き、アリスの腕を見るが、彼の腕は何ともなく、全くの無傷だった。
「驚く暇はないぞ!」
アリスがそう叫ぶと、空いた手で握り拳を作ってジャンの脇腹に一撃を入れ込む。ジャンはその右ストレートに吹き飛ばされ、床を滑った。大きな音を立てながら銃器も落ちる。失血によって体力を奪われている為か、アリスは立ち眩みを起こし、こめかみに手を当てた。
「ジャン、まだやるのか?」
アリスは問う。彼に近づいて見降ろしていた。
その横から何か走ってくる音が近づいてくる。かなり取り乱したいように興奮しながら、服も髪も汚れてボロボロになっているカーラが、こちらに向かって猛スピードで走ってきていたのだ。アリスは驚いて後退すると、カーラはアリスなどに目を向けず、ジャンを介抱する。
「ジャン、大丈夫!? 無事!? じゃないね、元気ですかー!? ダメダメ死んじゃヤダ! 起きて起きて、おきてぇぇぇぇぇーっ!!」
まるでジャンを死人扱いしながらジャンの肩を思いっきり揺らすカーラ。ジャンは「お、お」と声を発しながらされるがままだった。
「お、起きてるぜ、カーラ……」
「あ、起きた。流石私の蘇生術!」
「そもそも死んでないっつーの」
ジャンがカーラに散々揺らされたからか、目を回しながら弱弱しく言う。彼の様子に満足げに頷き、彼に肩を貸して立ち上がる。二人は足を踏みしめ、互いに戦意の確認をし合った。
「うん、じゃあセカンドステージいこっか。まだいけるよね?」
「あ、ああ……まだクラリクラクラするけどな……」
「情けないね、じゃあ私だけ活躍しちゃうからね」
「それはいただけないな」
カーラの憎まれ口に、ジャンはマフラーを整えながら銃器を持ち上げる。
そこに、背後から同じくボロボロのギンが現れ、腰に手を当てた。
「わしも仲間に入れてくれぇい。まだまだ暴れたりんのじゃあ」
「ギン……ボロボロだな」
「お主もな、じゃが……暴れた分だけ強くなれる。そう古事記にもある」
「それは特撮の話だろうが」
「でも元気は100倍」
「ならいい、ついてこい!」
アリスとギンがそう会話していると、カーラは頷く。
「じゃ、本格的に2対2ってわけだ。こっからが本番だね、ジャン!」
「ああ……体力が続く限りはな」
「こっちも負けてはいられんな……」
「そうじゃそうじゃ! クリームソーダ!」
4人が再び武器を構える。
先に動いたのはカーラだった。武器を両手に大きく振りかぶり、まるでバットをスイングするようにしてアリスとギンを一網打尽にしようとした。その追撃に、ジャンも腰に下げていた二丁拳銃を合体させ、一つの長銃へと変形させると、両手で構えて熱線を放つ。
アリスはギンに目をやると、ギンは床へ伏せた。ギンは錫杖を天へ向けてしゃがみ込み、アリスは熱線が飛んでくる前にギンの錫杖をジャンプ台のように踏んで、飛び上がった。
カーラの攻撃は外れるが、ジャンの熱線を剣で上に向かって弾き飛ばし、アリスを狙う。
「カーラ、よそ見しないでほしいのじゃ~」
ギンが呪詛のようなうめき声を発しながらカーラの足を払う。カーラはバランスを崩して倒れると、ギンが床に手を当てる。床が一瞬にして凍り付き、カーラは体を張りつけられた状態になった。
一方、ジャンの放った熱線がジャンプしていたアリスに向かって方向転換するものの、アリスはそれを剣で切り裂く。その反動でくるりと一回転し、ジャンの方へ向かい合った。
「アリス……!」
ジャンはアリスへ銃器を向ける。照準はこちらの心臓部分を狙っている。このままではアリスに直撃だ。
「ラスト・ショウダウンと行こうか、アディオス!」
ジャンは「これで決まった」と言わんばかりの、勝ち誇った笑みを浮かべ、引き金を引いた。熱線が放たれる。アリスに向かって真っ直ぐに熱線が走った。
「まだだ!」
アリスがそう叫ぶと、自身の着ていたジャケットを素早く脱ぎ、熱線に向かって投げつける。ジャンは視界をジャケットに奪われ、アリスから目を逸らしてしまう。思わず声を出したが、ジャンが気づいたころにはアリスが目の前にまで迫っており、刀身の峰で彼の腹を叩く。「うおっ」と声を出した後、ジャンはその場に倒れた。
あまりの一瞬の出来事に、カーラは「すっごーい……」と声を漏らして、ギンの顔を見る。
「カーラ、どうじゃ。降参するなら、これ以上何もせんが……」
「うーん……降参!」
カーラは即答して顔を伏せた。身体は凍り付いて全く動かないし、無理に動かそうものなら、皮膚がちぎれて肉が飛び出してしまいそうだ。その位肌が氷にへばりついている。カーラは悔しそうな顔や、悪態もつかず、満面の笑みでギンを見ていた。
「えへへ、楽しかったぁ」
「やっぱ主は変じゃなぁ。負けたのは悔しくないのかえ?」
「ん、なんで? 楽しい試合だったからいいんだよ~」
「それも、そうかのう」
カーラの笑みにつられ、ギンも自然と笑顔を見せる。
「ねえ、負けを認めたから、もう氷解いてよ」
「おっと、忘れるとこじゃった」
カーラの敗北宣言により、会場は盛り上がりを見せた。優勝は、アリスとギンであるからだ。
氷を解いてもらったカーラは、ジャンに近づき、彼に肩を貸す。ジャンは気絶しており、歩くのもままならない様子だ。……なので、カーラはジャンをおぶって会場を出ていく。
その後、アリスとギンは、そのまま会場で審判に賞金と海皇ネプテューンの証であるクラウンを受け取った。傍らで待機していたマスコミのカメラのフラッシュと共に、会場はアリスとギンの名前が飛び交い、彼らを称える歓声が響き渡っていた。
アリスとギンはこれ以降、様々な勢力から注目されることとなり……。
同時に、影に潜む勢力にも目を付けられることとなったのであった。