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13章　だれかさんのおもいで


　西暦20XX年、東京。
　私は、政府の特務機関である「夜刀神やとがみ」に所属するエージェントである。
　政府の特務機関……という名前だけあって、表には決して出ない組織で、名前もかの有名な「夜刀神やとのかみ」と「夜を守る刀」を掛け合わせたって先輩から聞いたんだけれど……。どれが本当かわからないらしい。
　そんな夜刀神に所属する私達は、闇に生きる異形……「魔物」と戦っている。赤霧と共に現れ、人の生気を好んで吸収する。恐ろしい魔物たち。その戦いは、はるか昔に遡る、って総務が言ってたけど……その総務も夜刀神の歴史にはあんまり詳しくないんだって。なんじゃそりゃ。
　で、夜刀神に所属するエージェントは、日々魔物と戦うための訓練を受けている。私も数年前に、中国の部署から転任してきたけれど、日本の部署の人たちはとにかくマイペース。時間も仕事もずぼらで、私のイメージしていた「キッチリと仕事をこなす人」達とは全くかけ離れちゃってるわけ。
　「総務」は大の甘党で、ホットケーキを毎日食べているらしく……トッピングはクリームたっぷりの上に缶詰のフルーツを山盛り。しかも、スーパーで買ってきたような100円くらいのビスケットの箱の中身もぶちまけ、挙句は板チョコを削って振りかけてる。それを毎日よ！？　当然、毎年の健診で糖尿って診断されてるらしく、まだ生きてるのが不思議なくらい。それでも仕事はちゃんとする人なのよ。……一応。私物を経費で落とすのは頂けないけど。あと、大のパチスロと車好きの、大人のダメな部分を全部凝縮したような人ね。……うーん、なんでこの人が総務になれてるんだろう？
　先輩の「宇佐田弥生うさだやよい」さんは、ゴーグル頭につける、技術担当課長。対魔物用の武器の開発や、戦闘服のデザインは全て弥生先輩が担当してて、私の武器も戦闘服も彼女がデザインしたものだ。まあ、技術は申し分ないし、武器だってかなり高性能。いつもお世話になっているんだけど……。変わり者で、マイペースな人なのよね。職場で寝泊まりしてるらしいし、結構ずぼらなのか書類をぶちまけたまま放置したり、開けたら開けっ放し、出したら出しっぱなし。……この前は事務所のバスルームの戸を開けっ放しでシャワー浴びてて驚いたわ。こんなんでも一応、技術担当課としては実力はあるから、尊敬はしてるんだけどね。
　それから、同期の医療課長……「西園寺寧音さいおんじねね」。丸眼鏡と童顔が特徴で、女の子っぽい見た目で男の子って聞いた時はびっくりしたわ。真面目でいい子なんだけど……科学にはかなりうるさくて、話を聞いてると一言しゃべる毎に必ず「科学的に」っていうのよね～。だけど、彼の再生医療に対する情熱は本物で、難病患者を救うために研究を続けてるって言ってたわ。でも、なんで夜刀神にいるのかしら……？
　あと、「ギン」ちゃん。私と同じ中国出身で、なんと雪女なんですって！　名前は「銀雪インシュエ」らしいんだけど。見た目は幼いけど、これでも765歳なんだって。すごく長生きだなぁ。なんでも、「有栖川家」にお世話になったから恩を返す為に協力してるって聞いたわ。
　そんなギンちゃんが協力してるっていうのが、私の憧れでもある「有栖川龍樹ありすがわたつき」先輩！　カッコイイし、真面目で優しくて気取らないし、それに私の師匠でもある。なんというか、仕事熱心で、デキる男って感じで……そこにシビれる憧れるゥって感じ！　なんでも「有栖川家」っていう、歴史の長い家系の人間で、代々「陰陽術」っていうのを受け継いでるんだとか。その陰陽術っていうのは、森羅万象から力を借りる術の事だって。すごいよね。
　あとは、その龍樹先輩の奥さんの「有栖川志乃ありすがわしの」。綺麗で人当たりもよくて、マイペースな夜刀神の人たちの中で一番清楚なんだよね。女性としても憧れちゃうなぁ。そんな彼女、華奢な見た目で炎の剣を豪快に振り回して戦うのが一番驚いた！　そこもカッコイイっていうか。たまに非番とか休みの日にお茶を誘われてカフェに行くけど、座ってるだけで品格があるというか、なんというか……とにかく、様になってるのよね。言っちゃ悪いけど、弥生先輩に比べれば月と鼈だわ。
　ま、そんな人達が集まる夜刀神に務めて早5年くらいかな。そろそろ周りになじんできて、私も仲間に入れてもらえてるって実感が出てきた、そんな時……



　憧れの龍樹先輩が、赤い女に殺された。