複雑・ファジー小説

Re: 新世界のアリス【オリキャラ募集中】 ( No.7 )
日時: 2021/08/15 11:22
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

1章 ようこそ、無限に広がる新世界へ!


 無限世界ネバーランド。
 無限に広がり続ける世界と言われるその世界は、誰が何のために作り、いつから存在するのかはまだ解明されていない。無限の可能性、無限が叶う夢幻……ネバーランドでは、どんな可能性も存在し、どんな夢も叶うなんて言われていた。
 そんな自由奔放すぎる世界では一つ問題が起きている。
 それは、世界唯一の大陸「アルタナ大陸」は「ベルゼ・フィスタ聖皇帝国」が実質大陸を支配し、好き放題しているのだ。
 歴史は約幾千年もの前に遡る。大陸すべてを武力で圧政しようとした「魔王ソフィア」を討伐しようと、「聖者ミーティア」が革命を起こす。その血で血を洗うような、いわば聖戦に多くの犠牲者が出たのであった。仲間が何人倒れようとも、魔王と聖者は戦い続け……

 結果は魔王の勝利だった。

 そこからは魔王ソフィアが圧政を敷き続け、文明発展の為に様々な技師達が駆り出されたのだ。そうして、文明は徐々に発展、進化を続け……やがて、子供でも指一本で銃を撃ち込める時代になっていった。
 だが、魔王ソフィアの縁者が代々大陸を支配し、代を重ねるごとに支配力も弱まっていく。皇帝となる人物の考え方が徐々に変わっていき、ある皇帝を境に、無限大の可能性をかなえる為に民達に自由を与えたのだ。すると、自由を手にした民達は自由を作り始めた。
 蒸気機関車を作って大陸中を自由に駆け回ったり、飛空艇を作って空を自由に飛び回り、通信機で自由に繋がり合った。ようやく大陸の人々は自由を手に入れ、平和を謳歌していたのであった。

 だが、その平和に陰りを落とす。

 再び魔王の圧政が始まってしまったのだ。それまで自由だった大陸は、帝国によって支配され、混沌に飲み込まれる。帝国軍が他国に押し入っては、老若男女問わず誰かを連れ去っていく。皇帝の奴隷にされてしまっただとか、皇帝の妃探しだとか、生き血を搾り取られたりだとか……様々な噂が独り歩きし、再び恐怖に人々は怯える事となる。

 それが、今のアルタナ大陸の現状であった。





 ――――





 アルタナ大陸、元ワンダーレラッド不思戯王国王城。
 その目の前に立つ二人の影が。青い髪の黒いカウボーイのような服装で、黒いマフラーを巻き付け、目立たぬようにしている青年と、銀髪の頭からヤギの角を生やす、白いジャケットの下に灰色のインナー。特徴的なのははだけた大きな胸と褐色肌の女性。
 外見こそ違えど、二人の年齢は同じくらいで、20代前半のようだ。背後には真っ黒のボディのサイドカーが付いた大型バイク。よく手入れされているのか、陽光を反射するほどの輝きを放っていた。
 青年の方は、懐から何か薄いタブレットのようなものを取り出し、指で操作する。

「ここかい、ミス・クライアントのミッションがある首切りクイーン・キャッスルってのは?」
「うん……ってか、ミスかミスターかまだわかんないじゃん、匿名依頼なのに」

 女性は呆れて肩をすくめる。青年はというと、はははっと笑う。

「俺の勘だ。「地下の尋問室の赤霧の調査」なんてな、きっとレディに違いないさ!」
「思いっきり男でしょそれ」
「ノープロブレムだ、さあ行くぞ"カーラ"! 報酬で最高のディナーにありつける!」
「……! よっしゃあ、早く行こうよ"ジャン"、いっぱい動いていっぱい食べるんだ!」

 ジャンの一言にカーラは目を爛々と輝かせ、城門を派手に蹴り飛ばした。「バゴォ」という大きな音と衝撃と共に門は城の中にあった物を巻き込みながら吹っ飛んでいく。

「お、おい……ったく、まあいいか」

 ジャンは肩をすくめながら、廃城の中へと入っていったカーラを追う。





 しばらく城の中を探索する二人。地下への入り口を探していた。

「それにしても、赤霧がこの城にねぇ。それともやっぱユーレイ?」

 カーラは地下へ行ける階段がありそうな場所を探し回りながら、そんなことをこぼす。クローゼットを力任せに倒し、絨毯を剥がし、ベッドをひっくり返していく。カーラが通った後は、まるでハリケーンが部屋の中で巻き起こったかのように、物が散乱、破壊していった。

「あんまり貴重遺産を破壊してくれるなバフォメットガール。こんなに壊して行っちゃ、見つかるものも見つからないだろう」
「ぶぅ、壊して行った方が楽でいいよ。物は壊す為にあるんだから!」
「そうだな、全国のクリエイターに謝れな」

 そんなやり取りをしながら、地下への道を探す二人。
 ふとジャンは部屋の白い壁に不自然な盛り上がりを見つける。

「カーラ、これを見てみな」
「んお」

 ジャンに呼ばれたカーラは同じく盛り上がりを見る。

「スイッチかな?」
「かもしれんな、よし……」

 ジャンは手を広げ、手のひらでその盛り上がりを押し込む。ぐぐっと盛り上がりがへこむと、ゴゴゴという石と石がこすれ合う音が部屋に響いた。カーラが周りを見回すと……
 剥がれた絨毯がはだけて見えるようになった床に、四角い穴が開いていた。二人が近づいて見てみると、それは地下室への道だった。

「おぉう、ビンゴ!」

 カーラは指を鳴らし、歓喜の声を上げる。地下への階段は、年数がたってはいるが、綺麗そのものであった。螺旋状に地階へと続いている。

「城の構造、どうなってんだろ?」
「ま、高い場所にあるし、そういう事だろう、気にするな」

 カーラのニコニコした満面の笑みの素朴な疑問に、ジャンはマフラーを整えて答え、地下へと降りる事にした。

 ぐるぐると回り続ける階段。降りる度に気温が下がっているような気がする。

「どこまで降りるのかな?」
「さあな」

 しばらく降り続け……
 やっとの事で階段が終わり、視界が広がる。広間のようだ。天井が高く、天井近くの小さな穴外から漏れる光で周りは明るい。広間は殺風景で、石の壁、石の床、石の天井というそれだけの無機質な空間だった。奥を見やると、赤い大きな扉がある。その脇には、パスワードを入力する端末が、壁の中に埋め込まれていた。二人がそれに近づく。

「パスワードを入力しないと中に入れなさそうだよ」
「適当に打ち込んでみろ」

 ジャンの指示に、カーラは「ぽちぽちっとな」とリズムよく端末にパスワードを入力する。しかし、ビビーッという警告音が赤い画面と共に現れ、鳴り響いた。

「あきまへん」
「解析は?」
「ん~」

 カーラは、端末をいろいろいじくり、いろいろ試してみた。
 数分後……

「……なんかダメだよ、ジャン。暗号とかすごい複雑だし、調べるのもかなり面倒だし」

 カーラはお手上げという感じで両手を上げる。ジャンはそんなカーラに呆れて肩をすくめた。

「いや、もうちょっと頑張れよ」
「う~~~~~~~~~ん……」

 カーラはこめかみに指をあてて唸り始める。そして、しばらくした後、手のひらをポンっと拳でたたく。

「よし壊そう」
「ノーだ」

 即却下されてしまったカーラは面倒くさそうに「え~~~~~~~っ」と声を上げる。

「いいじゃん、どうせ廃城なんだから、壊したって誰も困らないよぅ」
「スーパーレアな文化財になんてことを!」
「どうだっていいよ、ご飯にならないものはどうだっていいもん!」

 カーラはそういうと、扉の前に立つ。

「おい、やめ――」
「究極★カーラちゃんボンバーアタックッ!!」

 カーラがそう叫ぶと、赤い扉を力任せに蹴り飛ばす。「ドゴォ」というう大きな音とともに吹っ飛ばされ、中にある物達をなぎ倒しながら反対側の壁にたたきつけられた。土埃が舞い、二人はせき込んでしまう。そして、カーラは障害が消えたことを確認すると、中に入る。

「やっぱこの手に限るよ、ジャン」

 満面の笑みでジャンを見るカーラ。ジャンはその様子に怒るに怒れず、カーラと同じく中へと入った。

「お前は……はあ、いい。それよりもこの奥の――」

 ジャンがそういうと、目の前を見る。入り口の前には呆然としている、男女二人がいた。
 黒髪の短髪と赤い瞳、赤いジャケットを羽織る、きっちりとした服装から真面目な印象を受ける、体格のいい男と、白銀色の、まるでうさぎの耳のように結わえ、そこから伸びるツインテールが特徴的な、分厚くサイズが若干合っていないようなジャケットを羽織る、青色の瞳の少女。
 なんというか、この世界の人間ではないと、ジャンは直感でわかった。
 そして二人に向かって指さして、こう漏らす。

「な、なんだ、あんたら?」

 目の前の二人も、同じく驚いている様子であった。

Re: 新世界のアリス【オリキャラ募集中】 ( No.8 )
日時: 2021/08/03 15:52
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

 目の前の赤い服の男が、ジャンとカーラを指さし、驚愕めいた表情で声を出す。

「なんだあんたら……ってのはこちらのセリフだ。いきなり――」
「いきなりなんじゃ、ドッカンバッカンとドアをぶっ壊しおってからに! なんなんじゃお主は、名を名乗れ!」

 男の隣にいた少女が我に返ってピーチクパーチク叫んでカーラに指をささりそうな勢いで指し示す。カーラはそれを聞いて腕を組み、「キリッ」という擬音が鳴りそうなくらいのどや顔で答えた。

「貴様らに名乗る名などないッ!」

 ジャンは「いや、名乗れよ」と思わず突っ込みながら、目の前の二人に向き直る。

「いや、それより……他人に名前を聞く時はまず自分から名乗った方がいいんじゃないか? ナイスガイにリトルガール?」

 男は腕を組んでうつむいて何かを考えた後、「そういえばそうだな」と頷くと、自分の名を名乗る。

「俺は「有栖川龍志ありすがわりゅうじ」。そしてこっちのちんまいのが「銀雪インシュエ」。ギンって呼べばいい」
「ちんまいゆーなっ!」

 ギンはそういいながら地団駄を踏む。その様子をふーんと声を出し、カーラは首を傾げた。

「"アリス君"にギンちゃんね」
「おい、なぜ俺はナチュラルに「アリス」呼びなんだ」
「え、かわいいじゃん。ね、ジャン」
「俺に同意を求めんな」

 カーラは「ぶーぶー」と頬を膨らませながらジャンに抗議するが、それを尻目にアリスは腰に手を当てる。

「さて、次はお前さんらの番だ。名前を教えてくれないか」
「ああ、そうだな」

 ジャンは頷き、カーラも「あ、ごめんごめん」と笑う。

「俺はジャン、「ジャン・ドランシル」。さすらいのバウンティーハンターをやってるカウボーイさ」
「で、私はカーラちゃん! 「カーラ・ガライダラドン」だよ~ん。キュートでしょ?」

 ジャンは腕を組んで「フッ」と笑い、カーラは両頬に人差し指を当ててポーズをとる。
 アリスはそんな個性的な二人の名乗り口調に、冷静に「なるほど」と一言だけ言ってから、二人に向かって手を差し伸べた。

「ともかくなんとも言えない出会いだが、よろしく頼む」
「ああ、あんた律儀だな。嘘を言ってるかもしれないぜ?」

 ジャンはそう言いながらも彼の握手に応じる。アリスはジャンの掌のぬくもりを確認すると、腕を組み、頭に手を当てた。

「いや、お前さんはどうやら人に危害を加えないタイプだと見受けられる。隣のカーラさんがその証拠だ」
「およ? ん、褒められてるかな、ジャン」

 カーラは首をかしげながらジャンを見る。そのあと、再びアリスとギンの全身を足先から頭のてっぺんまで見回し、腕を組んで唸り、そのあと一言こぼした。

「そういうアリス君はなんだろうね。憎しみだけで戦ってる感じするよね。ギンちゃんはあれかな。そんなアリス君が心配で仕方ないのかも。もしかして、アリス君の過去に何か関係があるんでしょ?」
「……なぜだ?」

 カーラの言葉に、アリスは武器を構え、警戒心をむき出しにして威嚇するように顔をしかめる。ギンも驚きを隠せず、「なぜわかった」という顔で困惑していた。その間にジャンが入り、カーラのフォローをする。

「すまない、このカーラは見ての通りハッピークレイジーだが、初対面のボーイ&ガールの見た目だけでずけずけと推理しちまう。しかも、嘘を付けないストレートな性格だからな。俺がもし嘘をつこうものなら、すぐに指摘してくる奴だぜ」
「うへへ、それほどでもぉ~」

 ジャンの言葉にカーラは照れながらゆらゆらと揺れ、にこりと笑みを浮かべていた。よっぽど嬉しいらしい。

「確かに、こいつは嘘を付けなさそうじゃな」

 ギンもそれに頷き、アリスもとりあえずは警戒を解く。指摘されたことは間違ってはいないが、今はまだ肯定せずに放置しておくことにした。

「で、お主らは何しにこんなところに来たんじゃ? ここは恐ろしい拷問器具ばっかでなんもなかったぞ」
「ああ、「赤霧」の調査にな。お前たちは何か知ってるか?」

 ジャンは二人に尋ねると、アリスの顔色が変わった。

「……「赤霧」? 知っているのか!?」
「質問で質問を……まあいいか。知ってるぜ、異界の門に繋がっていて、赤霧に包まれるとフォールアウト。どこかの世界に行っちまうって話だ」

 ジャンの話を聞いて、アリスは無言で考え込んだ後、もう一つ質問をする。

「魔物……を知ってるか?」
「そりゃもちろん。動物が願い星を飲み込んで突然変異を起こした奴らさ。「星霊術」も使えるぞ」
「せーれーじゅつ?」

 ギンが聞きなれない言葉に首をかしげると、カーラが突然解説を始める。

「願い星をアクセサリーとか本とか杖とか武器に埋め込んで術式を書き込むと星霊術が使えるんだよ。あ、星霊術っていうのはね、願い星に宿るエネルギーを引き出して扱う術式の事だよ。術式っていうのは、昔「バーバラ・ゴーテル=ヤーガ」って人が開発した、「魔法が使えないから願い星やステラクリスタルに命令を刻んでエネルギーを引き出す魔法みたいなモノ」っていう技術なんだけど、時代遅れなんだよねぇ。今は機械の動力源になってて、より純度の高い願い星を使うと半永久的に使えるとか――」
「ちょ、ちょ、ちょっと」

 カーラの早口による解説に呆気にとられていたが、すぐに我に返ったアリスがそれを止めた。このまま黙っていたら何時間も解説が続いてしまいそうだったからだ。
 「もう、いいところだったのに」と頬をふくらませて、カーラがぷんすかと怒る。

「いや、なんというか、星霊術が時代遅れで機械が発達した場所だっていうのはわかった……」
「というかジョーシキだよジョーシキ!」
「あ、ああ、すまないな」

 カーラが起こっていると、ジャンは一つの疑問を解消するために、二人に向かって指をさす。

「なあ、一目見た時から気になってたんだが……あんたら、もしかして"異世界人"か?」
「な、なぜそれを!?」
「……ギン」

 ギンが思わず声を漏らし、アリスは腕を組みながらふうっとため息をつく。ジャンとカーラはというと、やはりといった感じで安堵の表情を見せた。

「やはりか。名前も聞かない感じだし、その銃や剣、杖もこの世界の技術の物じゃないしな」
「うんうん、ずっと気になってたんだよね、それ。ねえねえ、触ってもいい?」

 カーラは目を輝かせてアリスの持っている刀剣に触ろうとするが、ジャンがその手を叩いて止める。

「人様のウエポンを勝手にタッチするんじゃないぜ、お調子レディ」
「ぶぅ~!」

 カーラは頬を膨らませて怒っているが、ジャンは首を振って「ダメだ」と止めていた。

「先ほど、気になることを言っていたな。「願い星」とは?」
「ふむ、やっぱり知らないか」

 アリスの質問に、ジャンは腕を組んで頷く。

「願い星は所謂オーパーツ。世界に散らばっている天然資源さ。無限の力を秘めていて、使い方によっちゃブレイクワールド。ボンジャックさ」
「お前さんたちの武器にも、それが使われているのか?」

 アリスが指さすと、ジャンは自身の腰に下げていたハンドガンを取り出す。

「これか? もちろん。だが、願い星をそのまま使っても即デリートさ。だからこれを精錬し、「ステラクリスタル」へと加工する。そうすると消耗が遅れる他、より強力にアップデートするわけさ」
「オーパーツで成り立っているわけなんだな、この世界は」
「ああ。これがなきゃ、生活ができなくなっちまうぜ」

 ジャンがそういうと、ハンドガンを腰に下げ、アリスとギンに顔を向けて尋ねた。

「で、ミスター・アリスにミス・ギン。これからどうするんだ?」
「どうする……か」
「ふむぅ、戻る方法はないんじゃろか。なんかないのか? 空間を行き来できるビッグでナイスな便利グッズ~みたいなんは」

 ギンがそう尋ねると、カーラは首を振る。

「空間転移術みたいなのはあるよ、高コストだし、私たちの稼ぎが4年分くらいかな。そのくらいの値段の小規模転移装置。まあ一回使ったら壊れるし、今の技術じゃせいぜい大陸の端から端まで転移するしかできないんだけどね~」
「そうか……むぅ、ここで一生を過ごすことになるんか……!?」
「そう悪い場所でもないよ、ギン。腹を括って老後まで楽しんで自由に生きてみるのも、この世界の常識てもんだよ」
「そうじゃなぁ……」

 ギンが腕を組んで俯き、しばらくして顔を上げてアリスを見る。顔を赤らめながら。

「龍志、わし……子供が3人くらいほしいのじゃあ」
「コラ、もうここで暮らす気になるな。まだ方法はあるだろ」

 アリスは半ば怒りつつも、子供の話は否定せずに腕を組んで考える。

「なんにせよ元の世界に戻らないといけない。俺達のいるべき場所はここではないからな。しかし、そうなると赤霧を探さないといけないが――」
「じゃあさ」

 カーラは人差し指を立てて、嬉しそうに笑みを浮かべた。

「カーラちゃん達と一緒にお仕事するってのはどう? お金も稼げるし、ジャンはこう見えて顔も広いし、二人の役に立てるんじゃないかな? 分け前は減っちゃうけど、何とか帰る方法が見つかるかもだよ!」

 カーラの言葉にジャンは頷いた。

「ああ、そうだな。困ったときはお互い様という奴さ。二人さえよければ、俺たちと一緒に来ないか?」

 アリスはギンの顔を見る。ギンはというと「ええじゃないか」とにこりと笑った。

「ああ、そうだな。しばらくお前さんらと行動を共にしようと思う。……よろしく頼む」
「こちらこそ、アリス、そしてギン。歓迎するぜ」

 ジャンはアリスの胸に腕を伸ばしてトンッと叩いた。
 そして、ジャンは周りを見る。カーラが吹き飛ばした扉がなぎ倒して壊してしまった拷問器具の数々の他に、何かないかと。しかし、その他は特に怪しいものもなく、目的だった「赤霧」はきれいさっぱり無いようだ。

「カーラ、引き上げるとしよう。ここにはもう目的のものはないみたいだ」
「アリス君達がこっちに来たから、赤霧が消えちゃったのかなぁ?」
「そもそも赤霧……とは、なんじゃいな」

 ギンはカーラに尋ねると、カーラは腕を組んで頷いた。

「赤霧は、世界の狭間に存在する「世界の壁」を形成する物質だって、最新技術による研究によって結果が出てるよ。世界の狭間っていうのは、元々「星の海」の事だと思われていたけど、そうじゃなくて、空間と空間の間に赤霧で形成された壁の事だったんだね。何らかの原因で壁に隙間ができちゃって、そこから異世界を行き来できるんだと思うけど、行って帰ってくる方法はいまだに見つかってない――」
「あ、ああ、わかったぜよ。とにかく、異世界ホールが赤霧でできた壁で、赤霧が出てるところに行くと異世界に行けるっちゅー話じゃな」

 ギンが頷くと、一つの結論を思いつき、アリスを見る。

「赤霧が発生するところに魔物が現れたのは、おそらく魔物が壁を通ってわしらの世界に来たのが原因みたいじゃな、龍志」
「どうやら、そうみたいだ」

 アリスも頷く。ジャンは「お二人さん」と肩をすくめながら呆れていた。

「スタディ・タイムはジ・エンドかな? だったらさっさとここから出るとしよう。ここにはあまりいたくないぜ」
「それもそうじゃな、よし、案内してくれ!」
「りょーかい、さあ、階段を登ろう!」

 カーラが右腕を振り上げ、軽やかなステップで螺旋階段へ戻っていく。ギンもそれについていった。
 ジャンが「ああ、そうだ」と何かを思い出したかのようにアリスに向き直り、にっと笑う。

「ミスター・アリス。ようこそ、無限に広がる新世界へ。ここでは可能性は無限大だ、心してかかれよ」

 ジャンはそういうと、カーラ達を追いかけた。
 アリスはというと、目を見開いて驚くが、すぐに「ああ、そうだな」と頷いた。

Re: 新世界のアリス【オリキャラ募集中】 ( No.9 )
日時: 2021/07/31 00:20
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

 アリスは外へ出る途中で、城の中を見渡す。もう十年以上は放置されているのか、家具やカーテンや立派だったはずの天井のシャンデリアは、経年劣化によってボロボロに朽ち果てていた。そして、所々で黒く変色している何かの跡が、床や壁、はたまたボロボロの絨毯や家具たちにこびりついていた。窓ガラスは割れており、外からの風がビュウっとアリスの頬を撫でる。

「ジャン、この建物は一体なんだ?」
「ん」

 アリスは、前を歩いていたジャンにそんな質問を投げ、ジャンはというと「そうだな」と一言言うと、肩をすくめた。

「ここは「ワンダーレラッド不思戯王国」……跡地だな。で、このキングダム・キャッスルは元王城で、20年前にマスターをロストしてからはずっとこのままだ。まあ、「首切りクイーン」のやりたい放題な圧政のせいで、ここに近づく人間は盗賊ぐらいか。所謂いわくつきって奴さ」
「首切りクイーン?」
「ワンダーレラッド不思戯王国女王……「ハーレス・ワンダーレラッド」。俺は詳しくないが、やりたい放題わがまま放題の「レッドクイーン」だったそうだ。わがままを言っては他者を困らせるまでは良かったんだが、気に入らない者が現れれば即斬首。そして贅沢するために税金を重くし、誰も彼女に逆らうことができなかった」

 ジャンは朽ちている家具を指さす。確かに、黄金がちりばめられ、宝石で彩られた、まさしく高級品というべき家具達。……まあ、その家具も黒くべっとりと何かがこびりついていて、価値が下がっていそうなのだが。

「で、その首切り女王さんは、どうして姿を消してしまった?」
「ああ、ローズライト神導王国の当時16歳だったヤング・ジェネラル「ティラ・ハウンゼン」が先導してクイーンを討ったのさ。そこからクイーン・キングダムは一気に崩れ落ち、クイーン・ファミリーも処刑されたとか。……あ、そういや」

 ジャンは何かを思い出したかのように顎に手をやって天井の方を見上げる。

「確か、何人かスレイヴを抱えていたらしい。どんな目に遭ったか、どんな事をやらされていたかはシークレットらしいが、数人の子供がいたらしいな。保護されてハッピーに暮らしていりゃ、俺の年上くらいにはなってそうだ。新聞にあったな」
「お前、何歳だ?」
「24歳だぜ、ミスター・アリス」

 ジャンはアリスに向かって4本指を突き出す。

「4歳で新聞を読んだのか?」
「流石の俺もそんな器用な真似はできないな。俺の育ての親がいろいろ持ってる人でね。それを興味本位でカーラと読んでて知ったのさ」
「なるほど……最初に出会ったのがお前さんたちでよかった。この世界の事にかなり詳しそうだからな」
「人並みに期待してくれてもいいぜ。無知はギルティ、知ることはジャスティス。これが育ての親の座右の銘だぜ」

 アリスは自慢げに話すジャンに、一つ違和感を覚えた。「育ての親」と名を出す度に少し遠い目をしていることに。

「ジャン、お前さんの親御さんは――」
「ああ、死んだよ」
「……そうか」
「そんなしんみりするなよ。人はいずれ死ぬ。早いか遅いかの違いさ。……そうだな、キュート・エンジェルに導かれてハイリュエル浮遊皇国に逝っちまったさ」
「ハイリュエル浮遊皇国?」

 アリスは首をかしげる。名前からして空の上にありそうな国の名前だ。

「吟遊詩人の歌や文献にはこの世の「桃源郷シャングリラ」なんてあるぜ。死者が行き着く場所とか、天使が住む場所、翼人族の住処……どれが真実かはわからんが、そこに行けば……」

 ジャンはふとアリスに向かって笑みを浮かべる。寂しげに曇らせながらも、だ。

「やめようぜ、死者に足を取られたくない。そもそもこういうサッドな話は嫌いだ」

 ジャンはそう言って前を向いて歩き始める。アリスはそれ以上は何も聞かないことにした。
 しばらく歩いていると、王城の前門が姿を現し、昼の強い日差しが彼らを出迎える。視界に広がるのは、蹴破られたかのように凹んで倒れている鉄扉と、美しく鮮血のように深紅の薔薇が咲き乱れる庭園。城主は薔薇が好きだったのか、庭園に溢れんばかりの薔薇でできた迷路。

「城主は20年前に亡くなったんだったな、なぜ薔薇がこんなにも手入れされたように綺麗なんだ?」

 アリスは、近くで深呼吸した後に背伸びしているカーラに尋ねる。

「にゃ? ああ、この薔薇園ね。元々この王国はね、薔薇が美しく咲き乱れる土地なんだよ。だからまあ、若干手入れされてないから、いばらが迷路を塞いでたりはするけど、それでも綺麗に咲いてるでしょ。まあ、噂じゃ女王様が切り落とした首を肥料にして白薔薇を植えて、首から血を吸い上げて、白薔薇が美しい深紅の色で咲いている的な逸話もあるんだよねぇ~」
「こわっ、なんじゃその悪趣味な話は!?」

 カーラの隣で聞いていたギンが驚いて、「うげぇ」という声を漏らしうなだれる。そんな彼女をジャンは笑い飛ばした。

「ハハッ、なんともオカルトな話だがありえないな。この世のすべては科学で大体証明できる時代さ。単にこの土地がビューティフル・ローズにとって最適なフィールドなんだろうさ」
「確かにね。さ、ジャン……依頼の報告にでも行こうよ」

 カーラはジャンの背中を押すと、アリスとギンにも早くするよう促した。

「そうだな……あ、しかし俺の「ゲシュペンスト」は残念ながら二人乗りだったな」
「ゲシュペンスト?」

 アリスが首をかしげる。

「俺の愛用バイクの名前さ。ああっと、興味があっても指紋を付けないでくれよ? あれは俺と「元ハニー」の傑作だからな」
「そうなのか? まあそれはそれとして……じゃあ――」
「ちょっと待ってろ、迎えを呼ぶ」

 ジャンはアリスが何かを言いかけるより早くそう言って、懐からタブレットを取り出して操作している。すると、なにやら青い立体映像がタブレットの上に浮かび上がり、ジャンは右手の人差し指と中指でそれをぐっと押さえながら右耳まで持ってくる。

「カーラ、これは?」
「ん、電話だよ。この「リンクレット」っていう板みたいなので、ホログラムを映して耳元まで持ってくると通話ができる仕組みなんだ」
「りんくれっと?」

 ギンは「なんじゃそりゃ」という顔で首を傾げた。

「「ホロウハーツ蒸機王国」の「ブランネージ社」ってところが開発した、通信から通話、電子化された書類の保管とか……もうほぼなんでもできちゃう電子端末なんだよ!」

 カーラは目を輝かせ、嬉しそうに語っていた。アリスは腕を組んで頷いた。

「なるほど、スマートフォンみたいなものか」
「んにゃ、なにそれ」
「これじゃ」

 ギンはカーラに向かって自身のジャージのポケットからスマホを取り出して見せる。水色のカバーのスマホの画面には、アリスとギンのツーショットが映っていた。

「ほお~……へぇ。すごい! リンクレットよりちっちゃいのに、ほぼ同じような使い方ができるんだね!」

 カーラは目を輝かせ、ギンからスマホを受け取って指で操作している。どうやら、リンクレットとスマホはほぼ一緒の性能らしい。ギンは「そうじゃろ」とにっこり笑い、頷く。

「しかし、龍志。この世界の技術の一端しか見ておらんが、なかなか文明が発達した世界じゃな。スマホモドキまで出てくるとは……」
「それだけ、願い星の恩恵は凄まじいということだろう。東京に持って帰って学会に提示したらどういう反応がもらえるか、気になるな」

 アリスがそう言った後、ジャンの通話が終わったようで、3人に近づく。

「迎えがくる。この城の前まで出てこいだとさ」
「そうか、なら行くとしよう」

 一行は王城を後にし、正門の前まで歩いていく。その間、先ほどの話をジャンにしてやると、ジャンもスマートフォンの存在に驚き、少々興奮気味にスマートフォンを触っていたのはまた別のお話。













 ――――――













 ところ変わってローズライト神導王国議事堂。

「閣下、報告です。無事に彼らの赤霧調査が終了したとのこと」

 議事堂内の会議室にて、女性二人が顔を合わせている。二人の話は続いた。

「そうか。……何か変わったことは?」
「は……。妙な格好の「赤い服の男」と「銀髪の少女」が、突如あの部屋から現れたようでして。二人に同行することになった模様」
「突如部屋から? ……転移術か?」
「いえ、そのような星霊術の痕跡は、とくに何も」
「……わかった。その連中を一時も目を離さぬよう、監視しておく必要があるな」
「御意。では、その役目は?」
「「ヘンゼルとグレーテル」に向かわせるのだ。時が来るまで監視しておけと指示を仰いでくれ」
「……御意。では、失礼いたします」
「いつもすまない、感謝している」
「いえ、当然の事です、閣下。あまり我々に気を使わないでください。部下達に示しがつきませんよ」
「……そうだな、すまない。本当に」
「失礼します」

 会話が終わると、二人の女性のうち一人がその場をそそくさと立ち去る。もう一方の女性は頭を抱え、ため息をついた。

「……私では荷が重すぎるな、この国王代理というのも」

 そう漏らすと、目の前の大きな窓の外に広がる青空を見上げる。

「だが、必ずや……ベルゼ・フィスタ聖皇帝国を討ち滅ぼす。そのための20年だ」

 彼女の瞳には憎悪に似た黒い感情が混ざり、赤く燃え上がっていた。