複雑・ファジー小説

Re: BaN -A to Z- ( No.17 )
日時: 2021/09/06 11:17
名前: Cude (ID: 78sNkMqs)

Episode8

「……そして私が、たちばな 玲華れいかだ。好きに呼んでくれて構わない」

 橘玲華、と名乗った女性は、こちらに軽く一礼をして、その後ティーカップに注がれた紅茶を口に運ぶ。青みがかった髪を束ねた彼女の横顔は思わず息を飲むほど綺麗で、暫くの間目を奪われてしまっていた。「浮気性……」とボソっと呟いた声が聞こえ、はっと我にかえると、隣で頬を膨らませる千鶴さんがいた。プク顔ちづるんも可愛いんだけど、俺、彼女がいる事千鶴さんに言った事あったっけ。もしかして、「私がいるのに……」的なニュアンスなんでしょうか。だとしたら、千鶴さん俺の事落としに来てるじゃん……。やめてくれ、俺は押しに弱いんだ。
 俺たち、というか、千鶴さんを追っていた4人は、千鶴さんの事は勿論、同行していた俺の個人情報までいくつか知っていた。流石にNEOまではバレていなかったけど、それもさっき知らぬ間にのぞき見されていたせいで詳細を把握されてしまった。今後、ゲームを攻略する上で、お互いに協力をするのが正当な判断であり、俺と千鶴さんが彼らの事を知らないというのは対等な関係になる事は出来ないとの考えから、今は手始めに彼ら4人の軽い自己紹介を聞いていたところだった。

「何の情報も無いところから、4人はどうやって一緒に行動する事に?」

「俺は、X-Y-Zにばったり出会っちまったところをこいつらに助けられたんだよ」

 そう答えたのは、明るい茶髪の少女……、うん、口調が少々荒々しいが、紛れもなく見てくれは小柄で可愛らしい少女、海猫うみねこ空悟くうごだ。名前といい、鋭い釣り目といい、猫耳フードのパーカーといい、第一印象は完全に猫。
 オレンジ色のミニスカートや、ニーソックス、口に咥えているみかん味の飴など、溌剌な元気っ娘の印象を受けるが、恐らく彼女は見かけで判断しない方が良いタイプだろう。これはあくまで俺の勘だが、彼女は、自分自身を「女子」と扱われる事を余り良く思っていない気がする。首からぶら下げてるヘッドフォンのケーブルの先には、スマホが繋がれてはいるが何も流れていない。だったら外せよ!!
 その上、よく見るとニーソックスから【A】の刻印が少し見えていた。「Affluent」は海猫だったのか。はぁ……。こいつ、危機感ってものが無ぇのか……。
 

「えっくす……わいじー?」
「X-Y-Z。俺たちが勝手にそう呼んでるだけだよ。そのまんま、【X】と【Y】と【Z】のプレイヤーを指してる」

 困惑する千鶴さんを見て、少しバカにしたように上神かずわみなとが言った。バカにした、と言っても、表情自体は出会った時から一切変わらない。そういや、こいつさっき俺のNEOの事も大した事ないみたいに言ってたな……。肩甲骨くらいまで伸びた髪と、手の平を覆う程の萌え袖、たれ目が相まって全体的に可愛く見えやがるから余計に腹が立つ。服装はシンプルで動きやすそうなパーカーとパンツ、少なくとも海猫よりはこのゲームに対して計画的に臨んでいる様に見える。右手首の腕時計はあくまでファッションの一部だろう。今時時計で時間確認する人間なんていんのかよ。やべぇ、ド偏見出た。

「あの人達は少しタチが悪くてね……」

 鶴来つるぎそらが苦笑する。彼はかなりの高身長で、恐らく180cmは超えているだろう。髪は綺麗に七三に分けられており、暗い赤色のようなメッシュが入っている。銀色に近いグレーのスーツに身を包み、高級感の漂う黒い革靴、真っ白な手袋を付けたその姿は、一見するとマジシャンのような、あるいはカジノのディーラーの様な印象を受ける。いや、カジノのディーラーはこんなスーツ着ないか……。カジノには行った事が無いから分からん。どちらにせよ、彼曰く元探偵さんらしいので間違いだ。
 ……そうでもなかった。彼はどこからともなくトランプを取り出し、静かにシャッフルし始める。にしても、この人目を閉じながら良くこんな綺麗にカードを混ぜられるな……。出会った瞬間から今に至るまで、彼は目を閉じている為、一度も瞳を見れていないが、目玉に刻印でも刻まれているのだろうか。
 
 それにしても、紅茶の似合うお嬢さん、猫女、マジシャン、アイドル……。参加者は奇人変人が揃いすぎやしないか。俺と同じでごくごく普通の大学生にしか見えない上神とは仲良くなれそうだ。こいつの人を見下す感じにさえ慣れれば。
 ダメだ。そんな事を考えている場合ではない。話はゲームについてであり、タチが悪いという「X-Y-Z」についてだ。

「私達も完全な詳細は掴めていないが、少なくとも奴らは3人共、たった1人で人を殺める事の出来るNEOを持っている」
「その上、彼らのターゲットはNではなく、私たちプレイヤーだ」
「……、やっぱり、そういう奴らがいたんですね。Nの正体を突き詰める前から他者を蹴落とす思考、まーじ分かんねェ」
「それがよォ、そういう訳じゃねェからムカつくんだよ」
「あぁ。彼らの考えは正直理解が出来ないな」

海猫と上神に続いて、鶴来さんが口を開く。


「あの人達、いや、【Y】……、NEO喰いのYoungsterは完全なる愉快犯なんだ」