複雑・ファジー小説

Re: BaN -A to Z- ( No.25 )
日時: 2022/06/26 19:32
名前: Cude (ID: 7cN5Re8N)

Episode11

「Torturer。何故君がここに?」

 玲華さんの鋭い視線が目の前の女性を突き刺す。しかし、彼女……、Tortuterもそれに負けない程の睨みをきかせていた。うわぁ、すげぇ雰囲気悪いんだけど……。てかTorturerって聞いた事あるな……。
 思い出した。このゲームにおける【T】のプレイヤーの愛称だ。聞いた話から、俺が勝手に抱いてたイメージとは大分雰囲気が違って驚くな。彼女は、玲華さんと鶴来さんの強い説得を持ってしても、行動を共にしようとはせず、自身が【T】である事しか洩らさなかった。だからもっと単独で行動できそうな、いかつい人を想像していた……。が、今目の前にいる女性は、俺よりも随分幼く見える。大分赤みがかった茶髪のサイドテールに白いブラウス、こげ茶のショートパンツ。一見高校生、もしくはかなり大人びた中学生にも見えるが、特に女性は年齢で判断できない。失礼な推測はやめておこう。不機嫌そうにこちらをきっと睨む表情を見ると、強い意志を持っている事には間違いなさそうだ。

「別に。私だってこんな場所にいたくはないけどね」

 彼女は玲華さんから視線を少しだけそらし、そっけなく零した。質問に対して適切な回答が出来ないタイプなのか、それとも答える気はないって事なのか。まぁ、恐らく後者だろうか。

「あんたがここに入れる訳無いんだから、恐らくは……」

 俺らの顔を順番に一瞥する。にしても怖い顔してんなぁ。笑ったら可愛いだろうに……知らないけど。
 不機嫌そうな顔を更にしかめ、「あんたでしょう?」と圷さんを指さした。圷さんが激しく動揺してるのが後ろから見てても分かる。

「あんたさ。若い癖にどうしてここに入れるんだか知らないけど。ゲームの参加者と一緒に行動してるなんて、仲間内せいふにバレたら相当マズいんじゃないかしら?」

 俺は思わず苦笑してしまう。若い癖に……って、あなたも随分若い……てか幼いですけど。それにしても、なんでここの入り口を圷さんが知っているって分かったんだ?

「なんで彼だって分かる? って顔してるわね。別に、なんとなくよ。あんたと、そこの彼女より政府顔だったってだけ」

 そう言って、指を指しているのは千鶴さんだ。玲華さんがゲームの参加者って事は分かっているからだろう。政府顔、という事は恐らくここへの入り方を知っているのは政府関係者という事だろう。そう考えると、Torturerも政府関係者という事になるが、彼女はゲームの参加者の筈。もしかして、圷さんの様な立場の人間がもう一人いたって事か……?
 いやいや、というか、なんで俺が考えてる事が分かるんだ……? 顔色を変えたつもりは無かったんだが……。

「その口ぶりだと、君自身が政府関係者であると自己紹介しているように思えるがね」

 玲華さんが問う。Torturerの目が更に鋭くなる。

「あんなのと一緒にするのはやめてもらえるかしら。凄く不愉快」
「それはすまない。しかし、政府に関係していないとここには入れないんだろう?」
「……落ち着いて煙草を吸えるのがこんな場所しかないだけよ」

 そう吐き捨てると、こちらには目もくれずすたすたと歩き去ろうとした。にしても、やはりさっきから彼女は質問に対しての回答がズレている。まぁ、何かを隠している事には間違いないだろう。随分と謎が多い。
 てか、喫煙者かよ。まさか俺より年上だったとは。人はみかけで判断するもんじゃないな。あと煙草吸うだけならよそで吸えよ……。

「あ、あの!」

 圷さんがTorturerを呼び止める。彼女はこちらを振り返る事なく言った。

「大丈夫よ。私の親しい人間に政府関係者なんて"誰一人として"いないから」

 その言葉に圷さんがホッと胸を撫で下ろす。随分情けねぇ……。いやいや、危険な立場になる事を承知して俺達に力を貸してくれるという聖人にそんな言葉言っちゃいけねぇな。



「それにしても、Torturerさん、凄く怖い人でしたね……。私緊張して一言も喋れませんでした」
「そうかな。なんだか凄く寂しそうに見えるのは私だけだろうか」
「恐ろしいですよ! 僕、クビになる訳にはいかないんですから!!」
「まぁまぁ。僕も初めて彼女を見ましたけど、嘘はつかなそうに見受けられましたけどね。後、多分実際にNEOを所有しているってかなり貴重だと思いますし。すぐにクビを切られる事は恐らくないと思いますよ」

 俺がそう言うと、圷さんは一瞬パっと顔を明るくさせた。と思うと今度はガクっと項垂れる。忙しい人だな。

「別に貴重なんかじゃないですよ……。僕の他に後2人もいる訳だし、それに僕のNEOは使い勝手悪いんだから」

「「「え?」」」

 思わず、圷さん以外の三人の声が重なった。

「ちょっと待ってください!? それって、圷さんの他に後2人も政府内にゲームの参加者がいるって事ですか?」
「しかもその言い様は、君より随分と優秀なNEOの使い手達みたいだな……」
「圷さんのNEOのしょぼさにもよりますけど、場合によっちゃ俺達かなり不利じゃないですか?」

 俺達の視線が、一斉に圷さんに集中する。

「だ、だから! 僕のNEOについても、後の2人についても、今から全部話しますから! 一旦落ち着いてください!!」

 圷さんはコホン、と一度咳払いをした後、カバンからUSBを2本取り出した。

「こちらのUSBに入っているのが、我々の今後の行動計画。そしてこちらに入っているのが……」

「現在確認が出来ているNEO所有者の詳細なデータです」