複雑・ファジー小説
- Re: BaN -A to Z- ( No.27 )
- 日時: 2021/12/16 11:56
- 名前: Cude (ID: DD7/vRsR)
Episode12
「今から順番にお見せします」
このゲームは言ってしまえば3チーム対抗の変則鬼ごっこみたいなもので、参加者、政府、そして【N】という陣営に分かれている。ここでの参加者、というのは、政府陣営にも、【N】陣営にも所属していない、NEOの所有者の事を指す。各々の目的を簡単に言えば、参加者、政府の両陣営から逃げるのが【N】、逆に参加者、【N】陣営を両方捕まえるのが政府、そして、政府陣営からは逃げ隠れ、【N】陣営、というか【N】を捕まえぶん殴るというのが俺達参加者陣営だ。
だがしかし、この三陣営には大きな勢力の差があり、当然、このゲームの主催者であり黒幕である【N】が最も有利な状態でゲームが始まると言える。
それは何故か。【N】はゲーム開始時から俺達参加者全てのデータを把握しているからだ。名前から容姿、能力の詳細に至るまでの情報を全て有している。だが、逆に俺達は【N】についての情報を何も有していない状態でゲームが始まり、進行していく。参加者と政府にとって、ゲームクリアの対象となるNのヒントが1つも無い、すなわち、ゲームをクリアする手立てがない。だが、このゲームにはリミットがある。誰もゲームをクリア出来ないまま2年が経過してしまえば、即ゲームオーバー。日本終了。
Nが最も有利なのはまぁ当然として、問題は参加者が不利過ぎる事だ。このゲームは先ほど、【N】、政府、参加者の三陣営に分かれていると話したが、その分け方はあくまでこのゲームのプレイスタイルで分けているだけで、参加者は自分以外の全員が敵なのである。参加者だけ基本はソロプレイ。俺の場合、結果として運良く千鶴さんや玲華さん達の様な参加者と手を組む事は出来ているが、後の参加者がどのようなスタンスでゲームに参加しているか分からないし、恐らく敵対してくる奴らも少なくないだろう。X-Y-Zなんてその一番良い例だ。
参加者のマイナススタートをNEOで補ってやろうと思っても、政府にもNEOの所有者は3人もいるらしいし、【N】も当然NEOを持っている。その上、【N】には協力者が恐らくいるだろう。NEOの所有者が【N】も含め26人いるのに対し、事件の被害者となっているのは24人だ。勿論1人は【N】だろうが、もう1人分、数の辻褄が合わない。そのもう1人が【N】の協力者ではないか、という推測だ。うろ覚えだが、【N】がI'sにした投稿、確か、"私たち"と言っていた気がするから、それも協力者がいると予想する理由の一つだ。
話が長くなってしまったが、結果として、何が言いたいか。この2本のUSBに入っているデータを参加者という立場の俺達が入手出来る事は、現状のマイナス状態を政府と同等に持っていく事が出来る。これは、ゲームの攻略度において他の参加者を圧倒的に出し抜ける事を意味する。勿論内容次第ではあるが、ゲームを有利に進められる事はまず間違いない。
政府の行動計画を知る事が出来れば、政府に捉えられる確率は大幅に下がるし、参加者の詳細を知る事が出来れば、その参加者に接触を試みる事も、逆に避ける事も現状より容易くなる。
「まず行動計画よりも先に、現在私たち"NEO対策本部"が有しているNEO所有者の詳細データをお見せします」
壁掛けの大きなモニターにPCの画面が表示される。一人称が"僕"から"私"に切り替わっているのが仕事モードである事の表れだろう。
圷さんが赤いUSBをPCに挿す。パスワード入力画面が出ると、それをさっと打ち込んだ。
「これって……」
「あぁ、海猫だな……。この間、X-Y-Zと対峙した時か?」
「はい、そうですね」
画面が切り替わり、最初に目に入ったのは、Affluentの文字と、見覚えのある数枚の少女の写真だ。見覚えがあるどころか、ついこの間がっつり絡んでるけど。「海猫と呼ばれている」という文章や、年齢不明の記載を見ると、政府は海猫の名前や年齢等のパーソナルなデータは掴めていないのだろう。
しかし、驚いたのはNEOの欄である。「獣の統率者」という名前と、NEOの効果が細かく記載されている。恐らく、X-Y-Zに遭遇した際に、海猫がNEOを発動したのだろうが、よくもその1回を見ただけでここまで詳細が掴めるものだ。てか、俺らでさえ知らなかったんだけどな……。
「しかし、妙だな……」
玲華さんが口を開く。
「あの時、海猫は一度もNEOを行使していないはずだが」