複雑・ファジー小説

Re: BaN -A to Z- ( No.6 )
日時: 2021/12/16 12:02
名前: Cude (ID: DD7/vRsR)

Episode 1

「おかしいな……、なんでだよォ」

 大袈裟に零した独り言が部屋に反射する。30分程前、思い立って5年前の事件の被害者を探ろうと検索をかけ続けたのだが、事件に関する記事が一切見つからない。あれだけ大々的に取り上げられた筈の事件なのに、事件の概要をまとめた資料も、憶測で匿名掲示板にいくつも立てられただろうスレッドも、一つも存在しない。まるで事件なんて無かったかのように。
 これも【N】か、恐らく【N】と共に行動している奴のNEOによるものなのかもしれない。これじゃマジで埒が明かねェな……。
 PCの前で茫然としていると、携帯の着信音が鳴った。天音からの電話だった。

「お、もしもし? どうした」
『はる君最近元気ないみたいだったから、お家で死んでないかなと思って』
「天音は心まで天使だなぁ結婚しよう」
『はいはい、元気そうで良かった』

 思い上がりだったら恥ずかしい事この上ないが、実は、俺が天音を溺愛している以上に彼女は俺を愛している。だから彼女は俺の些細な変化にもいつもすぐ気付く。最近俺の様子がおかしい事は、天音にはとっくにバレていたみたいだった。誰かと会っている時はいつも通りに振舞っているつもりだったけど、やはり彼女の目は誤魔化せない。俺が嘘をついているか本当の事を言っているかどうかも完璧に見極めてくるので困る。
 適当に誤魔化していても嘘がバレるので、NEOの事やゲームの事を彼女に伝えなければならない日も遠くなさそうだ。突飛な話過ぎて今回ばかりは信じてくれないかもしれないけれど。……そうだ。事件について何か知ってる事が無いか聞いてみよう。

「そうだ天音。めっちゃ急に変な質問するんだけどさ」
『どうしたの?』
「5年前……、だから俺らが中3くらいの時の今の時期さ、渋谷で起きた失踪事件。覚えてる?」
『え、何それ……?』
「いや、当時めっちゃニュースとかやってたでしょ。俺は見てないから分からないけど」
『はる君も見てないんでしょ? 私も見てないよ。それに、ネットで検索かけてみたけど、そんな事件見当たらないよ』
「……やっぱ事件自体がみんなの記憶から消えてるのか」
『ん? 今何て言ったの?』
「お、何でもない! ちょっと忙しいからまた後で連絡するな」
『無理しないでね。いつでも平気」
「ああ俺の愛しのマイハニー……愛してるよ」

 電話が切れた。最近は俺の冗談に冷たいな。初めて「結婚しよう」とノリで言った時は、死ぬほど顔が真っ赤になる程恥ずかしがってたのに。それに翌日、左半分にしっかりと書き込まれた婚姻届を持ってきたんだよなぁ。どこか常識外れというか、箱入り娘というか。そこも可愛いんだけど。
 天音と本当に結婚する為にも、こんなところでぼーっとしている暇は無い。被験者の施設での愛称から何か分かる事はないだろうか。



 NEOの所有者は全部で26名おり、一人ひとりにそれぞれアルファベットが割り振られている。俺の場合は【B】が該当し、腰の右側に【B】と書かれた刻印が刻まれている。ダサいタトゥーみたいなもんだ。ちなみに施設での愛称は「Baddas Boy」。意味は「超イカしたガキ」だな。俺にピッタリの愛称だった。
 NEOの名前の頭文字も各々のアルファベットに対応しているんだが、まぁ、今別に俺がNEOを使う必要は別段ないだろう。体力使うし。
 よし。ようやく彼らの愛称を携帯のメモアプリに書き込み終わった。一々頭の中で思い出すより、こうして目に見える方が随分楽だ。まず初めに、どうしても【N】がパッと目に入る。流石に黒幕エヌに【N】以外の刻印が刻まれているのは考えにくいだろうな。彼女の施設での愛称名は「Neo」だった。俺らが持つ異能の名自体が愛称なんて、ラスボス感丸出しだな……。思わず苦笑する。
 その他に怪しそうなのは「Emperor」「Secret」あたりだろうか。「Honor」「Queen」「Xerxes」なんてのもなんか怖いな。てか、全部怖いし怪しいし強そう。もう嫌。

「ん……? これって……」

 26個並べられた愛称の中に一つ、見覚えのあるものがあった。
 最近テレビやネットで頻りに見かける名前だった。

「Unitron……」