複雑・ファジー小説
- Re: BaN -A to Z- ( No.9 )
- 日時: 2021/12/16 12:03
- 名前: Cude (ID: DD7/vRsR)
Episode 2
Unitron。今や日本で知らない人の方が少ないだろう音楽ユニット「サイバーラビット」のメンバーの名だ。
次世代サウンドと呼ばれる、「ハイパーポップ」という音楽ジャンルの日本での先駆けは彼女たちだろう。俺もサイラビに憧れていくつ曲を作っただろうか。そのUnitronが、ゲームの参加者……?
俺も含めた他の被験者は、愛称だけでは個人を特定できない。もし【U】が本当にUnitron本人なのならば、このゲームは初めから彼女は不利を背負っている事になる。参加者が、個人で動こうと考えようが団体で動こうと考えようが、その他の参加者に素性を知られている時点で、【U】の元にNEOの所有者が集まりかねないからだ。参加者の魂胆なんて知る由もないが、ゲームを有利に運ぶ為に邪魔な他の参加者を蹴落とそうとする可能性は充分にあるだろう。容易にUnitronに会おうとしたら俺まで危ないか……? いや、そもそも、あんな有名人にどうやって会えば良いか分からないし、【U】があのUnitronだと決まった訳でもない。
やっぱり一人で行動するのが得策なのか……? 途方に暮れた俺は、何の気なしに「I's」を開く。タイムラインは、一つの大きな話題で持ち切りとなっていた。
「人気アイドルグループ、WHiTe MiLkyのメンバー、高橋千鶴が活動休止を発表、活動再開時期は未定……」
そりゃ大騒ぎになる訳だ。高橋千鶴と言えば、女性が選ぶなりたい顔ランキング、男性が選ぶ恋人にしたい芸能人ランキングなどあらゆるランキングで今年1位を搔っ攫いまくった人気アイドルだ。「1兆年に1人の美少女」だとかなんとか。こういう肩書きの芸能人って何人いるんだろうな。煎じられすぎて味がしない。彼女は、特にこの1ヶ月程、更に可愛くなったと話題だった筈。
……、すいません。余り知らない素振りでかっこつけましたが普通にめっちゃ好きです。「I’s」も「InstantClub」も勿論フォローしてるし、写真集も持ってる。いつだって可愛い子は大正義だ。
そんな人気急上昇中の彼女が、このタイミングで活動休止。そりゃみんな驚くだろうな……。俺もちょっとショックだし。しかし、タイムラインを良く見ると、活動休止についての純粋な感想とほぼ同じくらいの数、彼女のファンによる彼女への疑惑の投稿がされていた。
『最近変なタトゥー入れだしたらしいし、どこか変だと思った』
『少し前からまるで別の人みたいで違和感があった』
『薬でもやってたのかな? 握手会でもいつもの笑顔が無かったし』
その他にも似たような投稿が多数があったが、一番多かったのは、彼女が最近右手首に変なタトゥーを入れたらしいという書き込みだった。彼女はなるべく隠そうとしていたらしいが、気付いたファンも少なくなかったらしい。時期で言えばちょうど1ヶ月前くらいだとか。正直、俺はそれらの投稿から既に一つの結論に達していた。まだ半信半疑程度だが、あの千鶴ちゃんが自らタトゥーなんか彫るか?
「I's」を閉じ、大学の友人に電話をかける。
『もしもし、どうした珍しいな』
「ほわみるの握手会で一番近いのっていつだ?」
『急になんだよ。明後日だな、5月4日。もしかして、お前千鶴ちゃんが活動休止する前に会っときたいんだろ』
「そうだよ。で、それって当日参加でも大丈夫なのか」
『個別握手会じゃないからな。当日誰でも参加出来るよ。でも、ただでさえ人気の千鶴ちゃんの活動休止前最後の全国握手会だから、死ぬほど混むぞ。有名テーマパークの数倍』
「個別とか全国とか分からねぇけど、千鶴ちゃんに会えることは間違いないんだな。だったら行くから、握手会のシステム教えてくれよ」
『任せとけよ。あー佐藤も遂に握手会デビューか……、楽しみだなぁ』
「そんな場合じゃねぇっつうんだよ……、まぁいいや、また明後日な、頼んだぞ」
雑に電話を切り、さっき完成したメモをもう一度開く。そこには彼女にピッタリの愛称があった。
「待ってろよん、『Idol』」