複雑・ファジー小説
- Re: 美貌にストーカーはつきもの ( No.2 )
- 日時: 2022/06/08 22:31
- 名前: かまめしきり (ID: p/lGLuZQ)
二話 利益に別れはつきもの
私は人間が嫌いだ。自分も人間なのだから一種の矛盾を言っていることはわかっている。
それでも人間が嫌いだ。いつも人の顔色を伺う。人の顔色を伺って伺って伺い続けそして裏切る。あの看護師もそうなのだろう。表向きでは清楚な振りをしているがクソビッチなんだ。
あの医者もそうなのだろう。表向きでは「治るよ」とか「心配しないで」などといっているがもう治らないと半分諦めているらしい。
彼氏もそうだ、いや元彼氏といった方が正しいかもしれない。最初はお見舞いに来てくれたが治らないと知ったら、君が弱っていく姿なんて見たくないとか言って来なくなった。
そんな善人の皮を被った悪人などを好きになって裏切られるなら、私は悪人の役に立ちたいと思う。今更そんな事を言ってもどうしようもないのだろう。だから私はこんなクソみたいな人生に終止符を打つために病院を抜け出しビルに向かう事にした。だがそのビルの屋上で奇妙な者に会った。
それは変質者と言う意味ではない。私が会ったのは自分だったからだ。
◆
近所のスーパーからパクってきたのり弁を食べる場所を探していた。
「お、せっかくだから公園で食べてみるか。」
公園のベンチでのり弁を食べると開放感があってとても美味しかった。ガキを見ながら食う飯は美味い。これ常識。
そんな事を考えながらのり弁を頬張っていると周りの人が自分を見ていることに気がついた。写真を撮っている者も多くいた。
やべー油断してたぞ。盗んだ事がこんなにも早く伝わるなんて。
善は急げ、とっとと逃げよう。せっかく罪を隠せたのにまた捕まるなんてごめんだ。
最近の警察は優秀すぎて困るね。いやー参った参った。
そんな事を考えていると後ろから声をかけられた。
「ねーおねえさん」
またカツアゲかな?このシチュエーションに嫌な思い出があるのだが...まー所詮夢だし。深く考えなくても良いだろう。まーその所詮夢とやらに俺は女にされてしまってるわけだが。とりあえずまずは振り向いてみないとわからない。夢での失敗を生かして穏便に...
「何のようですか。私のお金はこののり弁に消えまし...ッ」
穏便にいけたゼ!...いけたぜ?
昨日の夢が鮮明に蘇ってくる。昔の自分と、まったく異なった今の自分が初めて重なる。
目の前に警官がいた。
え、警察?は、早く逃げなきゃ...ヤバいって!
あたふたしている内に腕を掴まれてしまった。うわーん掴まれちゃったよー。ふざけている場合ではないが...泣けば許してくれるかな。
正直ワニワニパニックだ。略してワニパ。
っていうかこの体になってから楽観視がすごいな。なんかより陰キャとしてのグレードが上がった気がする。
パニック状態の俺を横目に警官が口を開いた。
「お姉さん、お茶いかない。いいお店知ってんだよね。」
ん?どゆこと?いまいち話の内容がつかめない。
状況を整理すればするほど迷宮入りだ。
「あ、あのー警察の方であってますよね?」
「ん、そうだけど。そんなことよりタピらね?金ないんだったら奢るからさー。」
えーっと。もしかしてだけど...ナンパされてます?
まー確か、この透き通った白い肌、金髪でスタイルはかなり良い。なによりこの豊満な胸!
もしかしてだけど...可愛いのか俺。
オイオイうかれてる場合じゃないぞ。警察なんかにナンパされたって嬉しくねーよ。
逃げるのか?だが今の俺は神様から体をもらっているんだ。昨日の俺を超えられる気がするぞ!!とかカッコいい事を言ってみたが...性別が変わっとるんよ。女は非力。これ常識。無駄だと思うがやってみるか。
「背負投げ〜〜っと」
そう言って(IKKO風)警官を投げようとしてみる。無理かなやっぱ。そんな事を思っている私の手から警官がすごいスピードで吹っ飛んでゆく。そして電柱にドーン!
「ぐふぅッ」
男が白目を向いたまま電柱にもたれかっている姿が私の目に入った。
「は?」
ちょいちょいちょい、聞いてた話と違うぞ!って何も聞いてはいないのだが...
うわーヤベーよ。神様ってスゲーなーおい。ってそんな事考えてる場合じゃねーよ。
これ結構ヤバい罪に問われるんじゃない。ますますこんなしょうもない事を考えている場合ではなくなった。そうと決まれば、
「ずらかれー」
正直、神様パワーに蹂躙された警官は可哀想にも見えなくはないが。自業自得だ。犯罪者に手を出すなんぞ、警察の風上にもおけんわ!
「ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ」
リズミカルに風を切る音が鮮明に耳に流れ込んでくる。少し心地良い感じがする。
って言うか...なんか自分、足速くなかったか?公道の車を普通に抜かせたぞ。こんな俺にこんな力渡しちゃっていいのか?
しばし休憩。疲れてるわけでは無いのだがもうすぐ食べなければアイスが溶けてしまう。
うむー。まー深く考えても仕方ねーから、とりあえずデザートのアイスをあのビルの屋上で食べよ。ざまーみろのり弁。主食を食べている時よりデザートの方がきれいな景色を見ながら食べてやる。きっと悔しかろー...っ てそこ、そんなに憐れんだ目でこっちを見るんじゃない。
メタ発言を挟みつつ、私は説明を展開していきながら階段を二段飛ばしに上っていった。
なぜ階段かと言うと、エレベーターは壊れているので使えないからだ。
少し前、ここから飛び降りた女性がいたらしい。下は1年くらい前まではショッピングモールだったんだが自殺した女の幽霊が出るとやらで潰れてしまったらしい。
だから使えない。
いやーでも階段で良かったかもしれない。メッチャ速い。多分エレベーターより。
「よーし、屋上とうちゃーく!...へ?」
あっという間についた。あっという間についてしまった。と言う方が正しいかもしれない。
人が死んだ場所だけあって、人は全然いない。はずだった。
そこには黒髪の女がいた。
彼女の髪が風で揺れ動いていた。
え…幽霊ですか…もしかして。
ヤバイよ!どうすれば良いの、もしかして俺死ぬのか。死にたくない。死にたくなーい。
早く逃げなきゃと後ろを向こうとした瞬間、女が屋上のフェンスを乗り越えた。
彼女の黒髪が風に揺れ、逆立っていた。
◆
7月 21日 2:23
今日、俺は日を越さなかった。何がって...仕事だよ。ブラック企業で働いて早2年。
休日出勤は当たり前、労働基準法?なにそれ美味しいの状態。
だが今日の俺は一味違う。なんと定時前に帰宅できるのだ。もう神。
早く帰るついでに自分の趣味を行うことにした。
それは…自殺スポットめぐりだ。こういう事は本当にしてはいけないと思う。だが自分を犠牲にしなければいけなかった人の苦しみがわかると明日も自分は頑張れる気がするのだ。
「っと今日は…ここの元ショッピングモールにしよう。」
ここは2年位前に女の人が自殺してしまったらしい。中に入るのは色々とヤバそうなので周りを見ていることにした。案外きれいに残っているもんなんだな。塗装があまり剥がれていないのは改装工事があった直前に事件があったというのを物語っている。周辺住民の立ち退きが上手くいかなかったらしく、結構周りは入り組んでいて一周するだけでも一苦労だった。そしてここが…
「死んでしまったところ…」
「死んでしまった」...この言葉は間違いだ。彼女は自らそれを望んだ。
環境の性ではなく自ら。
「環境の性でもあると思うけどな」
彼は自分の矛盾を笑った。死地で...人が死んだ場所で。
死んでいってしまった人には悪いがこれでも俺の励みになっている。これで明日も生きていける…そう思った。
綺麗事に身を置きつつ、少し写真を撮った。案の定何も映らない。映った事があるのは二回ほどだ。ここからは嫌な気配はそこまで感じない。本当に人が死んだ場所か怪しいくらいだ。
帰ろうとし、左足を出し体の重心を前に預けた。つもりだった。気がつくと自分の足は止まっていた。そして視線が上へ上へと延びていった。まるでこれから起ころうとしている現実を知っていたかのように。
視線が真上にたどり着いた瞬間、二人の人影が落ちてきていた。そして瞬きする間に消えていた。
彼が経験した中で、ここまで露骨に怪奇現象が起きたのは初めてだった。
「ふぅーーー」
男は大きく息を吸い込み自分に言い聞かせるように言葉をなじった。
「うん。もうこんな事するのはやめよう」
死の条件を俺は満たしてはいない。生きるものは死者へ最大限配慮するものだ。
そう言って男は早足で帰るのであった。
あとがき
結構暗い感じになっちゃいましたね。
自殺なんてするもんじゃないよ。残された人の方が辛いんだから。
こんな真面目な事を言ったのは久しぶりかもしれないですね。
ジェンダー平等?体力テストって知ってる?
誤字報告などする所も作りました。
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