複雑・ファジー小説

Re: 僕は僕になりたいし私は私になりたい。そして飛びたい。 ( No.2 )
日時: 2022/09/07 18:33
名前: SR(スーパーレア) (ID: p/lGLuZQ)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13266

0.4話


授業が終わり、昼休みに入る。

今日もあいつに言われた通り、カツ丼にしますか。

あいつ...そう呼ぶことにした。だって自分だから。少しの矛盾もいつも通りなのだ。

あいつも男と言う存在をよく分かっていないはずだ。自分だってわからない。

ちょっと待てよ。ということは、今日くらい好きなもの食べても――――――――

そんな甘えた考えが頭をよぎる。

「大丈夫...だよね。」

「何が大丈夫だって?」

後ろから声がかかる。透き通った水のような声。多分、「水樹 とおる」だ。

「いやいや。なんでもない。」

「ほんと?しんは、ちょっと抜けてるから、普通に心配なんだけど。」

「ほんとだよぉ。」

あいつが友達候補に選んだ人だ。

確かに顔も良く、いかにもモテ男。って感じだ。普通に惚れそう。体が男じゃなければ付き合いたいレベル。

ってなに考えてんだ。私。

「ん?あれ今日は丼系じゃないんだ。」

「ちょっとね。味変だよ。あ・じ・へ・ん。」

「いや、この前、『丼系は一生食ってても飽きないぜ!』って言ってたじゃん。」

あいつに言わされたんですよ。男っぽさがでる食べ物が丼系しか思いつかなかっただけだがな。男っぽくしとけって、いまいち男っぽいが分からん。

...女のこともわかんないんだけどね。

「それは冗談だよ。冗談。本気にするなよ。」

「ふーんあっそ。で、パンケーキと。」

そう、私はやってしまった。男子において最大の過ち。パンケーキ。でもこれは覚悟の証だ。きっと明日にはあいつにバレるけど...

きっとあいつは怒るだろうな...でも、このチャンスをのがす手はない。自分の意志が初めて決まったのだから。

「パンケーキねぇ」と呟きながら神妙な面持ちで私のパンケーキを彼は覗きこんでいる。お前にはあげんからな。

でも...なんだろう?柑橘系の匂いがする。甘ったるいクリームの匂いに混じって、独特な蜜柑のようなそんな匂いが...香水?

「?どうした。俺の顔になんか付いてる?」

「いや、ついてないよ。ってまぁ良いだろ別に。好きな物食べるんだから。」

「女でも食べないと思うぞ。昼食にパンケーキは。」

誰のせいで甘い物が食べられないと思ってるんだ。まぁ自分のせいなんだけど...

これが「自分のせいだ」っていうのがかなり慣れない。体1つに人格と性別2つずつは容量オーバー。

その代償かわからないが、自分たちの体は普通の人とは違うところがあったりする。

でも...こんな生活をいつまで続ければ良いのか。もしかしたら一生かもしれない。

駄目だ。駄目だ。余計な事を考えるな。この一ヶ月半。私は頑張れたじゃないか。

そんな事を考えるだけで、身の毛がよだつ。全身の筋肉という筋肉が縮こまり、鳥肌ができそうになる。

今は楽しいことを考えよう。

「ん!美味い!」

こんなに甘いのか。パンケーキは。美味いよぉ。

生まれて初めて食べるクリームに脳みそがクラクラする。

「そんなに美味いのか?...あれ?ほっぺにクリームついてるぞ。パクッ。確かに美味くはあるな。」

え、いや。ちょ。ま、は?

私の頬のクリームを指ですくい取り、食べた。

「へ――――――――」

「あ、ごめん。付いてたから。でも男は流石にキモかったよな。」

私の頬が赤く染まっていくのを感じる。心臓の鼓動が早くなり、胸を締め付ける。

「あの。」

私は精一杯に冷静を保とうとする。

「なに?」

「私のクリーム!返せ!!」

「は〜!?そんなこと?」

「そんなことじゃないわ!殴らせろ!」

「やだね。それじゃ。逃げます!じゃ。」

「おい待て!」

彼は私のパンケーキを指差し、食ってからにしろ。と合図した。


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「私...ね。」

校舎裏に逃げた人は、そう呟いた。