複雑・ファジー小説

Re: もちもちつよつよ旅日記 ( No.25 )
日時: 2023/07/04 21:54
名前: sumo (ID: 2cE7k4GX)

episode 25
めずらしく、少女とスライムは並んで歩いた。
今は、なんだか少女の頭の上に飛び乗れない。

何故か、胸が苦しい。

まだ朝早く、暗いので、町の人たちは、みんな家から出ていないようだ。

「ねえ、おばあさんたちにちゃんとお別れしないの?」
右隣で歩く少女があまりにも寂しそうだったので、声をかけた。

寂しいんだから、ちゃんとお別れすればよかったのに。
スライムはそう思った。

「..うん。」少女はこちらを見ずに返事をした。

「優しくしてもらってたのに。今ここから出る必要ってあったの?」
またパン屋が人手不足になっちゃうかも..。

「このまま居ても、マキコさんやおばあさんに迷惑なるから。」

「そっか..。」
迷惑..。
ボクたちすごく、迷惑だったのかな..。
でも、パン屋の店員増えるのは嬉しいって、おばあさん言ってたし、
騎士団の時の事だって、悪気はないんだってちゃんと話せば、
マキコさんたちは信じてくれると思うけどなぁ。

まずまず、ボクには分からないことがある。

騎士団の宿舎の事。
人が変わったように変化してしまった少女キミの心の中で、なにがあったのか。

「あのさ、なんで宿舎ではさ、」
なんで、なんで..。

「何?」少女は少し強く言い放った。
ボクがモゾモゾしているせいで、機嫌が悪くなってるのかな。

言葉が喉に詰まって言えない。
少女を傷つけたくないけど、でもやっぱり聞かなくちゃ。
「なんで、殴ったの?」

「え?何でって、やだなーそんなの決まってるじゃん。親友を守るためだよ?」
ボクを守ろうとしてくれたのは分かる。それは嬉しいけど、でも。

「でも、な、殴るのはちょっと..」ボクは控えめに言い返した。

「ちょっと、何。」少女は言葉につまるボクを問い詰める。

「痛いし、駄目かなって..思って」おどおどしながら言葉を発するボクを少女は睨み、そのままうつ向いた。

「...んないだけど..」

「え?」

「意味分かんないんだけど!!」
少女は目を見開いて、ボクを怒鳴り付けた。

「殴るのは駄目っていうけどさ、私は君を守ろうとしたんだよ?君は、あのまま潰されてよかったの?そりゃ、弾力あるから大丈夫なのかもしれないけど、痛いでしょ?」

「あ..そうだけど..。でも、それは..殴るのも同じだと思う..。」

「へぇ、そんなこと言うんだね、キミも。キミは違うと思ったのに。結局みんな、私を責めるの?私が悪いんだって言うんだ」「そんなつもりはない、けど..」

「言い訳しないで。ヘラヘラしてるような私が悪いってことでしょ?黙って我慢してろってことでしょ。私が弱いからいじめられるんだよね。もういいよ。」

「...。」すぐさま片付けられてしまい、ボクは肯定することも否定することもできずにいた。

「じゃ、お金あんまり無いから、バスにでも乗ろっか。」
少女は急に話を変えた。

「..あぁ。うん。それでいいよ」返事をしたものの、ボクのもちもちの体の奥の方で、
黒いモヤモヤが引っ掛かっている。
もういいよ、と言われてしまって、心がずきずき痛む。

「...。」
沈黙の時間が流れて、耐えられずボクはわざとはっちゃけた。
「次行くところは美味しいものいっぱいあるかなぁ~....。」

返事がない。あれ、無視?やっぱり、まだ怒ってるよね。それとも、もしかして、聞こえて、ない?
焦って横目でチラリと隣を見ると、少女は、ぼおっとしていた。

君は一体、何を考えているの?
少女は空を見上げるようにして、顔を上に向けていた。