複雑・ファジー小説
- Re: もちもちつよつよ旅日記 ( No.3 )
- 日時: 2023/07/09 08:29
- 名前: sumo (ID: 8kWkLzD1)
episode 3
少年はそれから黙々と作業を続けていた。
少女とスライムはまだ、そこにいてじいっとそれをみていた。
そして、餌をやっている最中、少女が突然「わたしも、やってみたい!」とお願いしてくるので、
少年はポカンとしてしまった。
こんな仕事、誰も好んでやらないし、
今までやらせてほしいなんてお願いされたこと一度もなかったからだ。
しかし、少年はすぐにニヤリと笑うと、「一回500円な。」と言って羊用の草を一欠片渡した。
そもそも餌やりサービスなんて項目、
牧場じゃないんだからあるわけもなく、お金が要ることでもないと言うのに、そんなことを理解することもなく、
少女は「分かった!」と素直に財布から小銭を出して、少年の手のひらにポンと置いた。
「..おう」
少年はあっけなく嘘に騙された少女に逆に驚いてしまったが、裕福ではなく、お金がほしかったので、
お金をそのまま受け取った。
横目で見ると、少女は楽しそうに柵の隙間から羊に餌をやっている。
あまりに嬉しそうで、やんちゃに笑うので、少年は思わず照れてしまった。
こんなに素敵に笑って、楽しそうに話す人を、少年は初めて見たのだ。
「ね、やらないの?楽しいよ」
そう言いながら、少女は自分の頭の上で、のんびりと羊を眺めている親友を誘ったが、
「自分も食べられちゃいそうだから..」とスライムは必死に断った。
少年は、2人(正確には一人と一匹)が横でわいわい遊んでいるのをみて、なんだかほっこりしていた。
「なあ、この金、返すよ。」
気づけば少女に嘘をついて巻き上げた小銭を返していた。
「え!?わたし餌やりしたから、ちゃんと、お金は払わないと。だから、タダにしてもらうのはちょっと..。」
と少女は困ってしまった。
「いや、別に..お金、要らないから..。」
「羊触るの楽しかったし、仕事邪魔しちゃったなら、小銭くらい受け取って、」と少女は念を押した。
「いいから、」とグイグイ押したり引いたりしていると、小屋の向こう側から、
「遊んどらんと、仕事せんか!!終わらんぞ!お前きょうも夕飯抜かれたいんかぁ!?」と雇い主の怒鳴り声がした。
慌てて「はぁい」と声を張り上げて返事をし、少女の手にお金を握らせて、力強く言った。
「これは!もう、いいから。タダにする。だからもう、帰ってくれ。」
強く言いすぎたか、と後で後悔したが、少女はそんなことで動じなかった。
どうやら、まだ帰る気はないようだ。
「..仕事、終わらないなら、手伝うよ。」
さっきの雇い主の話を聞いていたんだろう。
俺を気遣ってなのか、自分も仕事をすると言い出した。
「..。いいってば。」
俺の仕事なんだから、赤の他人を勝手に巻き込むわけにはいかない。