複雑・ファジー小説
- Re: もちもちつよつよ旅日記 ( No.31 )
- 日時: 2023/12/09 21:31
- 名前: sumo (ID: 8kWkLzD1)
episode 31
強く、強く、強く....。
朝起きても、僕は強くなることばかり考えていた。
強いひとにならなくちゃ。
(...強いって、なんだ?どうしたら強くなれるの?)
もう答えを見失っていた。
「食べないのか」
マキコさんが顔を覗いた。
僕の目の前には、もちもちのパンが、たくさん並べられていた。
「あ、ごめんなさい..いただきます」
僕たちは、これが食べたくて、この町に来たんだっけ。
懐かしい少女の顔が頭に浮かぶ。
(会いたいな...)
離れてから、毎日のように少女のことを考えてしまう。
だが考えても意味は無い。
悲しくなるだけなのでブンブンと首を振る。
(考えちゃダメだ。)
いくら思ったって今はどうしようもないんだから。
もちもちのパンでも、冷めたら固くなってしまうことを知っていたので、
温もりが残っているうちにパンを頬張った。
そこでやっと、目の前で紅茶を飲むマキコさんが
普段とは違う真っ黒のヒラヒラの服を着ていることに気がついた。
「今日はまっくろですね、まきこさん。」
何か話をしようと思って尋ねたけど、
マキコさんは「ああ、そうだな」と返して、目線を反らしてしまった。
黒も似合ってるね、と後から付け足したが、マキコさんは涙目だった。
(何で泣いているんだろう)
スライムは解らなかった。
自分が彼女を傷つけるような事を言ってしまったのかもしれない、と思い返してみたが心当たりはなかった。
沈黙の時間を少しでも埋めるように、スライムはなるべく美味しそうに、もぐもぐとパンを頬張った。
こうして、沈黙の時間の終わりを迎えた。
「ごちそうさまでした。」
顔色をうかがうようにスライムはマキコさんを見ると、
マキコさんは、ぼぉっとした顔から我にかえって、「おう」とだけ返事をした。
その後、マキコさんはしばらくぼんやり外を眺めていたが、思い出したようにやっと口を開いた。
「今日、出掛けるから、昼飯は一人で食べてくれ」
「わかりました」
僕は読んでいた本から顔を離して、短く返事をした。
返事をしたものの、留守番することになったと理解して、不安になった。
僕が不安げにしているのを読み取ったのか
「そこのキッチンにパンが置いてあるから、いくらでも..食べていいから」と言ってくれた。
僕を気遣ってくれたようだが、そこに笑顔はなく、暗い顔が見えた。
焦点が僕に合っていないことが、はっきりと分かった。
おまけに、マキコさんの髪は少し伸びていた。
前髪が目にかかって、より一層顔が暗く見える。
「ありがとうございます。」
一言返事をした。
いつもと違うマキコさんに、僕は触れないようにした。
お昼前の11時頃、真紀子さんは黒い服に黒いバックを持って、マキコさんは裏口の扉を開けた。
「いってくるよ、」
マキコさんは去った。
遅くなったら夕飯も食べてていいぞ、とだけ言い残して。