複雑・ファジー小説

Re: もちもちつよつよ旅日記 ( No.38 )
日時: 2024/05/20 21:41
名前: sumo (ID: 2cE7k4GX)

episode38

カチャ。
鍵が空いた瞬間、自動ドアが空くのを待たずに、
おじさんが無理矢理こじ開けて入ってきた。

そして僕を睨んでいった。
真紀子まきこはどこにいる。」

低い声で、ぼそりと言った。
鋭い視線から逃げるように、僕は居場所を教えた。

「えっと、そこの部屋にいます。」
それを聞くと、おじさんはずかずかと奥へ入っていった。
それと、心配そうにするおばあさんと、八百屋のおばさんが、
店の前で何か話していた。
「はぁ、あの子、部屋に籠りっきりなんだわ。」
「だからあんな"変なの"もわき出てきちゃったのかしらね」
「たった一人の家族を失ったんだから...落ち込むのも当たり前よ」


数分後。
おじさんの叫び声が奥の部屋から聞こえた。
回りはガヤガヤしてすぐに店の中は人でいっぱいになってしまった。

「どうした!」
「なんだってぇ?」
「騎士団に通報しなくちゃ!」
マキコさんがぶら下がっている部屋の中を覗いた人々は、一斉にあわてふためいた。


「おい、お前。」
さっきの怖いおじさんが一段と低い声で僕を見下ろす。
人間はたまに、鋭い視線で僕を刺すように見るのだ。
僕は、怖くて一歩も動けないし、一言も喋れない。

おじさんがゆっくり口を開くと、周りが静まりかえったように、
僕にはおじさんの言葉しか聞こえなかった。

「真紀子を、」
"マキコヲコロシタノハオマエカ?"
人々の視線が刺のように突き刺さって、
おじさんが放った言葉が、お腹の底で響いた。

パン屋にいる全員が今、僕を、見ている。
「あの子まだ若いのに..」
「パン屋潰れたのかしら?」
「騎士団の子でしょ?」
「あの変なのに取りつかれたのか,」


(死..。殺す?って、何..?死ぬって、どういうこと...?)



黒い渦の中に巻き込まれてしまいそうな中、僕は感じた。
(逃げなきゃ。)

ぶら下がったマキコさんを置いて、
僕は人々の足の隙間をするすると抜けて外へ出た。

「おい、待て!」
「あいつが殺したのか?」
「殺人犯!」
「化け物だ!!」
パン屋から口々に聞こえる、僕の悪口。


もう、逃げるしかない。
これが正解で、僕が正しいことをしているのかはわからない。

けど。
きっとマキコさんはもう喋ってくれない。
前みたいに笑ってくれない。

もう、たぶん会えない。
それは僕の頭の中が分かっているはずなのだ。

自分を守るために、逃げるしか方法はない。

だから、さよなら、マキコさん。