複雑・ファジー小説
- Re: もちもちつよつよ旅日記 ( No.5 )
- 日時: 2023/02/23 16:12
- 名前: sumo (ID: 2cE7k4GX)
episode 5
「ふぅ。」
仕事が大体全部完了したのは、6時過ぎてからだった。
外は暗くなって、日が沈み始めた。
雇い主は夕飯をちょうど買いに行って、留守だ。
今度は留守番を頼まれた。
「アンタのおかげで、今日は晩飯が食べられそうだ。」
俺がお礼を言うと、「..どういたしまして?」
少女は少し照れ臭そうに、そして理解できてなさそうな顔でこちらを見る。
なんだかちょっぴり嬉しくなって、「給料の変わりに、これ、やるよ」
そう言いながら、俺は少女とスライムにお菓子の箱を手渡した。
「いいの!?」
少女は嬉しそうに受けとると早速スライムと一緒に中身をぽりぽりと食べ始めた。
「うまうま」
スライムもお菓子食べれるんだなぁなんて考えながら黙って見ていると、「あなたも食べる?」と少女が分けてくれた。
やっぱり、天使だなぁ。
沈黙する空気が流れたが、俺が耐えられずに「..アンタ、何歳?」と質問すると、少女は首をかしげた。
「わからない」
「..あっそ..じゃ名前は?」
天使の名前くらいは聞いておこうと思ったのだが、
すると少女はおかしなことにわからない、と、また首をかしげた。
「え。..ふぅん。」名前がわからないって普通、おかしいだろう。
なんて突っ込みを入れてはいけないような気が何となくしたので、受け流してしまった。
「あなたは、何て名前?」
天使が聞くので、素直に答えた。「ユージ。」
「そーなんだ。素敵。似合ってるよ」
「それは、どうも。」
不意に照れ臭くなった。
今はもういない、母親から授かった大事な名前だけど、素敵だなんて誰にも言われたことはなかった。
「わたしも、いつか思い出したいなぁ、名前。」
少女は忘れてしまったのか。
少女の名前を。
「早く、思い出せると、いいね。」
気づけば気遣いの言葉が出ていた。
これは、嘘じゃない。本当の言葉だ。
ただただ仕事に追われて、お金目当てで嘘をつくような俺が、
なんだかよくわからないけれど、今はただ、本当に早くこの少女の名前が見つかりますように、
と願う気持ちが強くあった。
「うん。」少女はお菓子を口にくわえて、素直に返事をした。