複雑・ファジー小説

Re: 戯構築世界ノ終末戦線 ( No.17 )
日時: 2023/03/18 07:27
名前: htk (ID: 7gGQw8LV)

1章〜〜第1幕、挿話その5ーーコノミの話



「さあっ、《勇気への誘い》でワタクシをパーティに誘うのですっ!」
「うん、別に良いけど、、」
 言われた通り、コマンドプレートを表示した。

〈ーー/
《勇者道》┳〈聖装決壊氣〉
ーーーーー┣〈人助け〉
ーーーーー┣〈勇者の徴収〉
ーーーーー┣〈勇気への誘い〉
ーーーーー┣〈?〉
ーーーーー┣希少〈妖精師事〉
ーーーーー┗固有〈天剣技〉
/ーー〉

 その中から、〈勇気への誘い〉を選ぶ。
 スキルの説明欄はこうだった。

〈ーー/
〈勇気への誘い〉:サポートスキル|TP消費-起動:0|PP消費-起動:0|属性:火-光|
対応する状況に際し、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)をいつでもパーティに誘える。
/ーー〉

 プレート表示からそれを選択し、アイプッシュでエイミーを選ぶ。

〈ーー/
エイミーとパーティを組みました。
/ーー〉

 システムアナウンスが流れて、エイミーはこくこくと頷いた。
 かと思ったら次の瞬間には身を翻し、水面に飛び込む。
 何でか、何となく既視感を感じるーー。
 よくありがちな聖剣を授かるとか、そういう定番の流れなのかなーー?
ーープクプクと気泡が上ってくるのを見てると、暫くしてエイミーが飛び出てきた。
 ビショビショだ。
 その後ろから、気泡に包まれた一振りの剣が浮かんでーーこっちに漂ってくる。
「さあっ!【聖装授与】を選択しなさいっ!
これでアナタもいっぱしの勇者となって、世の人々を救うのですっ!」
 言われた通り、さっきと同じように〈妖精指示〉のプレートから【聖装授与】を選んで、手を差し出した。
 すると気泡はパチンと弾け、わたしの手には何かこうーー色々出し渋ったような微妙な剣が収まる。
 初心者だからって、ケチられたわけじゃないよねーー?
ーー疑わしい視線を送ると、妖精が首を振る。
「アナタの技量に見合う聖剣がこれぐらいしか無かったのですっ!」
「そうなんだ
、、初心者だからしょうがないのかな?」
「ええ!同じものならまた水底から生えてきますから、ひとまずはその《聖剣・レプリカン》で魔物と戦うのですっ!」
 エイミーは既に飛んでいきそうな勢いだけど、剣が生えてくるーー?
ーーって聞いたわたしは、思わず水底を見詰めてみたけど何も見えない。
 それに《聖剣・レプリカン》ってーー。
ーーいい加減なネーミングセンスに変な顔になりつつも、再び森へと向かった。



 今度はお供付きだ。
 けれどもエイミーに手出しさせる気はさらさら無い。
 再び、都合3度目の野犬の魔物ーーフォレストドッグと遭遇したわたしは、敵と睨み合う。
 2頭だ。
 これが3頭以上なら一旦退くかどうしようか迷うけど、この野犬はこれまで単独で見掛けた事は無かった。
 だから、ちょうど良い相手だと思う。
 わたしは左右に散ったフォレストドッグを流し見て、視線の外れた一頭が向かって来るのを感じる。
 こういう動きは、多少は慣れてる。
 リアルでのプレイヤースキルが通用すると愛好会の会長は言ってたけど、それは本当みたいだった。
 視線を外したと見せ掛けて、そこですかさず後ろ回し蹴りーー。
ーー惜しくもその一撃は避けられるけど、返す足の甲で地面を蹴り上げる。
 目眩しだ。
 その動きの背後を取ったつもりのもう一匹に向け、聖剣もどきを払う。
 勿論、こんな程度の剣撃じゃ掠りもしない。
 鼻面の上を横切った剣を引き、わたしは後ろに跳び退った。
 1頭は視界に入った泥を前脚で拭うのに夢中だから、懐に入られた今がチャンスだ。
 コマンド表示からの〈聖装決壊氣〉ーー。
ーーアイプッシュで使用の意思を伝えると、手にした聖剣もどきが輝き出した。
 このスキルは、聖ーー若しくは光属性の装備を犠牲に強力な効果を発揮する。
 今はまだ一つしかコマンドが無いけど、使用カウントが増えると新たなスキルが覚えられるらしいから、どんどん使った方が今後の為みたい。
 わたしは躊躇無く、派生コマンドスキルの【天帝剣・振り下ろし】を使う。
 激しく輝く聖剣もどきを、そのまま大きく振りかぶった。
 これだと単に避けられてお終いかとも思ったけど、野犬の魔物は目を眩ましたらしい。
 輝く聖剣もどきを前に平伏するような姿勢のフォレストドッグへ、容赦の無い脳天割りーー。
ーー正直、もう少し手応えがあると思ってた。
 けれども、あっさりとフォレストドッグの身体を抜けた光の刃はーー野犬の後ろにある樹木ごと魔物を真っ二つにする。
 これ、確実にオーバーキルだよねーー?
ーーすんなりと抜けた長く伸びた光の一筋は、収まると共に掌から掻き消えた。
 聖剣もどきはボロボロと崩れ去り、それはーー左右二つに分かれた1頭も同じだ。
 光の粒となって消えたフォレストドッグーー。
ーー相棒が居なくなった事に、残る1頭もようやく気付いたみたい。
 これまでは引き裂かれたり、脇を食い千切られたりーー散々甚振ってくれた相手だけど、1対1だ。
 わたしは躊躇無く爪先を蹴り上げたけど、野犬の鼻面を横切った。
 そして、空いた大股にーー顎が喰らい付いてくる。
 けれども、懐までは跳び込ませない。
 宙で留めた足裏を思い切り振り下ろす、強烈な踵落としだ。
 頭上からの一撃を、微かな空気の流れで感じたんだと思うーー。
ーーフォレストドッグは身体を逸らそうと脇に跳びかけたけど、わたしは踵落としの膝を折り曲げる。
 ちょうどそこへ、踵に引っ掛けた野犬の喉頸を絞め、軸足で跳躍した。
 踵落としから変則させた足技は全身の体重を乗せた形で、大きく宙返りーー着地する。
 野犬の喉頸は、捉えたままだ。
 腿とふくらはぎの間でゴキリーーと音を鳴らしたわたしは、立ち上がりの際に蹴り跳ばした。
 フォレストドッグは無様に転がり、それから間も無くーー光となって消える。
「ふう、、
、、勝てたよ!」
 跳び上がって喜びはしないけど、初勝利はやっぱり嬉しい。
 それまで黙って観戦してたエイミーが、お誉めの言葉を述べる。
「よくやったのですっ!それでこそワタクシの弟子を名乗れるというもの!
褒めて仕すのですよっ!」
「弟子って、、
まあ別に良いかな」
 若干、この妖精との認識のズレには違和感を感じるけど、とやかくは言わない。
 いくらステータス欄に〈妖精の弟子〉って付いてたって、気分の上ではまた別問題だ。
 わたしは喜びもそこそこに進もうとすると、エイミーが引き留める。
「待ちなさいっ!何処へ向かうのです?」
「え?森の外だけど?」
「それならば、もう一度【聖装授与】してから行くのですっ!
あの最弱の《聖剣・レプリカン》なら数分と経たずに生えてきますから!」
「え?戻るの?
、、これからだってゆうのに!?」
 思わず声を張り上げちゃったけど、妖精はわたしの袖を掴んで放さない。
 確かに言われてみればーーあの〈聖装決壊氣〉からの【天帝剣・振り下ろし】で《聖剣・レプリカン》は壊れちゃったから、また泉に戻る必要はあると思う。
「え、、?何このクソゲー、、
、、敵倒すのに毎回武器破壊技って、ちょっとあり得ないんだけど!?」
 思わず本音が漏れた。



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