複雑・ファジー小説

Re: 戯構築世界ノ終末戦線 ( No.18 )
日時: 2023/03/18 07:32
名前: htk (ID: 7gGQw8LV)

1章〜〜第1幕、挿話その6ーーコノミの話



 その後、わたしは泉と森の往復を続けた。
 時々掲示板を見て、例の事件ーーPKによるマルトワ襲撃事件の情報を追う。
 スレで知り合った人達に動きがあったみたいだけど、この《妖精の森・深奥》ーー。
ーー此処から抜け出せないと現地には辿り着けない。
 幸いにもマルトワ山林国の首都は森を抜けられれば割と近そうだから、問題は今の非効率な繰り返しだ。
 わたしは樹上の節足動物ーー蜘蛛の魔物を相手に、〈天剣技〉の派生コマンド【飛燕斬】を放つ。
 高く跳躍しながらの、勢いを付けた斬り下ろしーー。
ーー宙で身を翻しながらの一撃は、胴部とその下を切断した。
 こう、スパッとねーー?
 次いでに魔物の足場になってた枝もーー。
ーー樹上から落ちていく蜘蛛は光となって消え、それを見下ろしながら着地する。
 最初に遭遇した時は糸で雁字搦めにされて死に戻ったけど、【飛燕斬】で十分に対応出来るからスキルカウント稼ぎに良い相手だった。
 わたしはまだ壊れてない聖剣もどきを鞘に戻し、掲示板をチェックする。
 いつの間にか建てられてた、わたしが立てて無い方のスレーー。
ーー名前表示無しのスレで名無しの人達が遣り取りしてたから、そっちも確認する。
「あれ、この人、、」
 何となく既視感のある話し方をする人に、思い切ってレスしてみた。
 弓使いの春樹ーー。
ーーその人は今、妖精の森を抜けた先のブナブエナの町に居るらしい。
 これまでは自分のスキル上げもあってエイミーには手出しさせなかったけど、このタイミングを逃すのも気が引けた。
 たぶん、何かのスキルでこっちの心を読んでくる妖精は、したり顔で話しかけてくる。
「フフんっ!ようやくワタクシの力を披露する時が来ましたねっ!」
「そうだよ
、、別に来たくないなら良いんだけど」
 ちょっとだけ断ってくれてもーーって思ってたけど、増長した妖精は威光を示すチャンスだと思ってるみたい。
 もう少しで拡がるんじゃないかとも思える小鼻を膨らませ、エイミーは言ってくる。
「下々がやっかむのも無理の無い話なのですっ!
何せワタクシは次期女王たる力を備えているのですから!」
「そうなんだ、、
早く行こ!
あんまり待たせたら悪いし、、」
 生返事もそのまま、わたしは森を進んだ。
 行く先々で野犬に囲まれても、巨豚に猛進されてもーー妖精から放たれる謎の光弾が適切なタイミングで敵を蹴散らした。
 わたしが剣撃を当てても外してもーーもしそれでトドメを刺せなかったら光弾が追撃するし、外してもわたしの隙をカバーする形で【妖精の追弾】が横から撃ち込まれる。
 道中は更なる苦戦を予想してたのに、楽過ぎた。
 その上、わたしが負傷すれば【フェアヒール】なんて敵味方関係無く回復するスキルを使ってくれるからーー有り難いのかどうかよく分からない存在でもある。
 極め付けは、【妖精の悪戯】なんてスキルでわたしが拾ったアイテムをいつの間にか使用し、所持品の欄がほとんど空だった。
 これまで未鑑定の薬草ーー?
ーーみたいなものやら、木の実とか虹色に輝く希少そうな葉とか採取出来たのに、それもいつの間にか無くなってる。
 今もエイミーはその木の実をポリポリとお菓子感覚で食べ、浪費するのに夢中だ。
「ねえ!それ止めてくれないかな!?
、、せっかく集めたのに、何で全部使っちゃうの!?」
「アラんっ!?それはワタクシへの献上品だからなのですよっ!
森の彩り、大地の恵みの全ては次期女王たるワタクシへの祝福を囁いているのです!」
「はあ?
意味分かんないし、何でこんなの連れて来ちゃったかな、、」
 自分の選択が誤りだった事を、今ーー死ぬ程後悔してる。
 わたしは口も聞きたくない妖精の事は出来るだけ視界に入れないよう、その後も森を進み続けた。



《妖精の森・西口》ーー。
ーーその表示が浮かんだのを確認して、前方を見る。
 辺りは草原で少し離れた所に、レンガの色合いを遠目にした。
 町だ。
 嫌な妖精と道中二人きりだったけど、この時ばかりは解放された気分になった。
 けれど、そこに水を差す声がする。
「フフんっ、人里なのです!?ああっ、穢らわしいっ!」
「そうゆうの、人前では止めなよ、、?エイミー
これから会う人も嫌な気分にさせたくないし、、」
 本気で嫌がってそうなのが、わたしも嫌だ。
 エイミーは自分の出生種族こそ最高ーーって思ってるみたいだけど、だからって他種族を馬鹿にしてるのはかなり感じ悪い。
「フフんっ、ヒュームの言葉なぞ知るものですかっ!?
ワタクシの力の恩恵に与っておきながら木の実の一つ二つぐらいで、、
、、些か狭量ではありませんかっ!?」
「、、はあ」
 溜め息を吐きながら、町の門へ向かった。
 ハーフリングの弓使い春樹ーー。
ーーそういうネーム表示の人を探したら、その人はすぐに見つかった。
 門の横で手を上げ、向こうもこっちに気付いたみたい。
「おおーい!こっちっす、こっち!」
「弓使いの人、、
春樹さんだよね?」
「そっす!勇者ちゃんっすね?
、、と、そちらのは?」
 わたしの横で浮いてる妖精を見て、背丈の低い人種ーーハーフリングの春樹さんが言った。
「あ、それは気にしないで、、!
嫌な気分になるから」
「そっすか、、?まあ勇者ちゃんが言うなら、、
んで、初の顔合わせっすね!
俺はもうご存知でしょうけど、ハーフリングの弓使いの春樹っす!
どうぞよろしく!」
「うん、こちらこそよろしく!春樹さん
、、その、わたしのことは呼び捨てでも良いんだけど」
「勇者ちゃんは勇者ちゃんっすね
、、遠目から見ても勇者ちゃんって感じっすから!」
「そ、そうかな、、?」
 何故かそう言われた。
 背丈の低い、丸顔の人種の彼が相槌を打つ。
「はい!でも、、
、、此処に来るまで自分はあんまりスキルカウント稼げなかったんすよね
夜中の魔物が強くて強くて、、
だから早速で悪いんすけど足手纏いになるかもしれないっす、、」
「あ、ううん!そんなの全然いいよ
せっかくだから一緒にスキル上げもしたいし、パーティ組もうよ!」
 メニュー画面から、フレンド申請ーー。
ーーその後、システムアナウンスを交えた遣り取りで春樹さんとパーティを組んだ。
 こういうゲームは初めてだから、ちょっと新鮮だよねーー?
ーー町の入り口付近をチラッと覗くのもそのまま、わたしは春樹さんと一緒に再び《妖精の森》へと進み、スキル上げに邁進した。



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