複雑・ファジー小説
- Re: 戯構築世界ノ終末戦線 ( No.20 )
- 日時: 2023/03/18 07:46
- 名前: htk (ID: 7gGQw8LV)
1章〜〜第1幕、9話ーー副題(未定)
「何で人のホームポイントで寝てるかな?
ねえ、起きて」
誰かに揺さぶられた。
麗らかな昼下がりの眠りが、他者の介入によって覚醒へと向かう。
「ねえ、きみNPC、、じゃなくって
このあたりの人だよね?
蹴飛ばしたら起きるかな?」
「いやいや、勇者ちゃん
変なキノコ食べたっぽいし死んでるんじゃないすか?」
「でもまだ、LPバーの表示残ってるよ?この人、、
ってゆうかバーもの凄く長いし?」
「あれ、ホントっすね?
、、というかこの人、もしかして、、」
誰かの遣り取りが頭上で交わされ、疲れを残しながらも目を開ける。
覗き込む顔が二つーー。
俺と同じヒューマンの少女と、丸みを帯びた体型の矮人種ーー。
ーーハーフリングの男がこちらを窺ってくる。
「おや?目を覚ましたっすね!良かった良かった!
、、何で勇者ちゃんの初期地点に居るのか知らんすけど、これも勇者特権なんすかね?」
「ううん?どうかな?
そんなコマンド無さそうだし、違うと思うけど?
あ、、ほら!水だよ?飲める?」
手渡された水を有り難く頂戴し、上体を起こした。
そういえば、火の手の上がった城下を駆けてきてからーー喉がカラカラだ。
グビリと水分を伝わせる度、全身に水気が拡がっていくのを感じた。
俺は、ありがとうーーと言いたかったが、そういえば喋れない事を思い出す。
夢視の際での遣り取りは、いったい何だったのだろうーー?
ーー使用人の彼女、アンネリと名乗ったのを聞きはしたが、こうして目を覚ましてみるとどうにも現実感が無かった。
物思いに耽る俺に、目力の強い少女が話し掛けてくる。
「だいじょぶ?また横になる?
きみ、この辺りの人?」
「いやいや?勇者ちゃん、あの動画見てないんすね、そういえば、、
この人、たぶんっすけど、、」
言いかけたホビットの男は目端に何かを見付けたらしく、首を巡らせた。
そちらでキラキラと輝いて見えたのはーープラーナの光だ。
それが気付けば収束し、人の形へと輪郭を象っていくーー。
ーー現れたのは、人の掌に座れそうな程の小さな女の子だった。
「プンプンっ!?叡智のキノコを勝手に盗み食いしておきながら、ヒュームの癖にどうしてまだ生きてるんですか!?
すぐ吐き戻しなさいっ!?今すぐ!」
「うるさいよ?エイミー
かれ、病み上がりなんだから、、」
「そんなことワタクシの知ったことですかっ!?
良いですか!?コノミ!
ワタクシ達妖精は成人になる為、叡智のキノコを食して次期女王となる必要があるのですっ!
それをワが庭に迷い込んだヒューム風情如きが、、
、、よくもやってくれましたね!?到底赦せた話ではありませんっ!プンプンっ!?」
そう言ってこちらに捲し立ててきたのは、初めて見るがーー背に光粉を散らす羽根を生やしているし、妖精らしい。
まさか本当に居るとは思わなかったが、どうしようーー?
ーー話を聞く限り、こちらに過失があったのは明らかだ。
事情はまだよく分からないが、何らかの償いをする必要はあるだろう。
俺はそれを伝えたいが、しかしーー生憎と唖の身である事に変わりはない。
どうにかこちらの意図を伝えようと、虚しくも呻りを漏らす。
「……ウ゛ア゛ナ゛ヒ゛……」
あの夢の中では話せたが、やはり言葉が出て来なかった。
だがーー。
「あらっ!?随分と殊勝な態度ですね!?
見た所ボロボロですし、よく見れば相当な怪我を負っている様子、、
、、ワタクシの為に償いを果たそうとする気持ちはけっこうですが、だからといって、、」
「、、というか、エイミーちゃん分かるんすか?
その人、たぶん喋れないっすよ?
喉になんか疵あるし、、」
窮した俺をハーフリングの男が庇い、どうにか取り成してくれるつもりのようだった。
にしても、話せないこちらの意思を理解したかのような妖精にはーー少々驚きだ。
そうした気分でこの小さな羽根の付いた彼女を見ていると、俺の視線に気付いたように言ってくる。
「まあっ?野蛮で物分かりの悪いヒューム如きには理解出来無いのも無理はありませんが、、
、、このワタクシの〈精神感応〉があれば容易いことなのですっ!
フフんっ、恐れ入りましたかっ!?
、、ワが妖精族の偉大さをよくよく噛み締めるのなら、無知なるアナタに温情を与えて差し上げてもよろしいのですよ?」
何故か気を良くした妖精は、寛大にもそう言ってくれた。
正直、脱帽しているところだ。
唖の身になって以降ーーこれまでまともに理解された事は無いし、妖精というのは本当に凄い種族なのかもしれない。
俺が心底感心していると、何故かーーヒューマンの少女が、冷や汗を浮かべながら呟く。
「はは、、なんか良かったね?丸く収まりそうで、、」
そう言った彼女の肩を叩き、ホビットの男が向こうでゴニョゴニョと告げる。
何を話しているのかは気になるが、きっと俺の処遇についてだろう。
それを読んだのかは分からないが、妖精はそちらへ顔を向けつつも無言だしーー今は黙って成り行きを見守るとしよう。
俺がそんな風に考えているとーー。
〈ーー/
えー、あー、コホンーー。
これより、ワールドアナウンスを始めます。
/ーー〉
〈ーー/
ユーザーの皆様、楽しい終末ライフをお過ごしでしょうかーー?
これよりゲーム内の進捗状況を鑑み、エリア限定イベントを告知しようと思います。
《山林国マルトワを解放せよ!》
・当イベント期間中、防衛側のプレイヤーの皆様は獲得経験値2倍となりますが、イベント報酬は受け取れません。なので予め、それをご承知の上で参戦勢力を決めて下さい。
・進行側のプレイヤーの皆様は所属不明の者達から王都ヒノマルタを奪い返し、見事同国の治安を回復して下さい。尚、貢献度の高いプレイヤーの方には特別な報酬が用意されております。
・イベント期間中、幾つかのストーリークエストが発生する場合があります。それらのクエストは貢献度を獲得する絶好のチャンスです。
・当イベントは2日間乃至、最大1週間を想定しております。もしこの間にマルトワ奪還に成功しなければーーその結果をプレイヤーの皆様ご自身の目で確かめる事になるかもしれません。
・詳細は公式ホームページ、または町の掲載板等でご覧下さい。
今イベントを以ってユーザーの皆々様方が多いに楽しまれる事を《終末戦線オンライン》の運営一同は期待しております。
それでは、良き終末ライフをーー。
/ーー〉
またーーあの声だ。
生死の境を彷徨った挙げ句、自分の頭がおかしくなってしまったのかとも思えた。
だがーー。
「今のって、、」
「イベ告知っすね
サービス開始2日目にして、いきなりっすか、、」
あまり遣り取りの内容は分からないが、まるで今の不可思議な声が聴こえたかのような反応をーー二人は示した。
そちらへ怪訝な視線を送ると、妖精が言葉を漏らす。
「ええ!聴こえましたともっ!?
このワタクシも不本意ながら未だ、キノコを食しはぐったせいで制限〝れべるしっくす〟の身ではありますが、、
、、〈精神感応〉でわざわざそこのアナタを介さずとも、世界の声が聴こえてきましたともっ!?
やはりというべきか、、〈世界の申し子〉となれたからといってワタクシの方が立ち場は上なのですよっ!?
祐世の番物となり、次期女王としての使命を果たす筈だったのですからっ、、!?プンプンっ!
ああっ、本当に口惜しいっ!」
よく分からないが、また怒らせてしまったようだ。
俺は心の中で謝罪を告げると、妖精は不満げながらも怒りを収めた。
その遣り取りを見て、ヒューマンの少女が近付いてくる。
「一緒に来てくれないかな?わたし達と
ストーリークエ、、じゃなかった」
何かゴニョゴニョと言い、少女が言い直す。
「わたしは困ってるマルトワの人達を助けたい
、、その為にも、きみの力が必要なんだ」
目力の強さに圧され、俺は黙考した。
そもそも俺がマルトワ国軍に入隊したのは、困った人々を救い出す為だ。
時に敵国との戦に駆り出され、やり場の無い気持ちを抱える事もあったがーー。
ーーその志は今も変わっていない。
然程考える時を要さず、俺は少女が差し出してきた手を握った。
次話=>>21