複雑・ファジー小説
- Re: 戯構築世界ノ終末戦線 ( No.5 )
- 日時: 2023/03/11 15:15
- 名前: htk (ID: ikU9JQfk)
1章〜〜第1幕、3話ーー副題(未定)
【追従身・分け身】ーー。
ーーそれがこのスキルの応用技の一つだった。
鏡写しのように背中合わせに位置取る二人の俺が、瞬く間に賊共へと斬り掛かる。
咄嗟に得物で防ごうと身構える者も居たが、遅い。
両手剣の肉厚な剣身に耐え切れず、迎撃体勢もままらない彼らを払い飛ばす。
「ぅぐア?!
なんちゅう力だ、、」
「おふゲェ?!
き、斬られ、、」
横一文字の斬線を胸に浴びた一人が、血流を零して跪いた。
下衆の末路だ。
両手に伝わった感触に手応えを感じた俺は、使用人の彼女と少女を庇う位置に身を置く。
この一瞬の反撃で彼らは怖じ気付いたのか、すぐには斬り掛かって来ない。
喋れないが、それでも余裕の笑みを浮かべてやればーーこちらの実力がはっきりと伝わるだろう。
俺の表情を見て、動じた一人が口を開く。
「や、ヤバイですぜ?
あいつ、そこらへんの魔物よかずっと強え、、」
「そんな事いちいち言うんじゃねえ!?シバくぞ!てめえ!?
へっ、、不味イだろうがよお」
先程蹴り上げられた顔を腫らしたリーダーが、頽れた仲間に視線を落とした。
手加減はしなかったから、何名かは間も無く事切れるだろう。
そう思っていた矢先ーー。
ーー頽れた賊共が文字通り、命を散らす。
まるで無数の光が蜘蛛の子を散らすが如く、跡形も無く霧散したーー。
ーーそれを見た使用人の彼女が怪訝そうに口を開く。
「あれは、命の最後の輝き、、プラーナでしょうか?
でもどうして、、?
死に際にプラーナを散らすのは、魔物だけの筈、、」
俺が浮かべた疑問を代弁してくれた。
そう、プラーナと呼ばれる生き物が内包する命の源泉は当然、ありとあらゆる人類ーー〝ヒト〟にも備わっている。
だが、通常ーー〝ヒト〟の範疇にあるとされる人種は全て、先に見えたようなプラーナを散らす事は無い。
死に際しては物言わぬ屍となるのが本来の〝ヒト〟の死である筈だ。
だが、彼らーー今死んでいった賊共は魔物と同じように、大気に搔き消えるようにして散っていった。
不可思議な現象に俺が戸惑っていると、小間使いの少女が口を開く。
「死に戻りですね
副団長さん、、私達プレイヤーはあのように一度死んでもまた時を置いて復活します」
何でも無い事のように言ってきた。
死に戻りーー?
ーー一聞すると眉唾にしか聞こえないが、魔物と同じように死んでいったのを見れば、頭ごなしに否定は出来ない。
喋れない俺の代わりに、使用人の彼女が応じる。
「それでは、あの不届き者共はまた此処に戻ってくるというのですか、、?
そんな、、」
「いいえ違います、先輩
私達プレイヤーが死に戻りする場所は最後に触れたメモリアル・クリスタル、、だと分からないですよね?うう〜ん、、
、、とにかく、すぐこの場には戻ってきませんからさっさと逃げましょう!早く」
何らかの確信でもあるらしく、逃亡を勧めてきた。
使用人の彼女も場を読んでか、後輩の言葉を引き継ぐ。
「この騒ぎです、副団長様
陛下達も既にお気付きでしょうから、時間はもう十分に稼げたと思います」
その言に頷き、俺は同意を示した。
そういえば先に夜番の相方を向かわせてあったから、きっと上手くやってくれたに違いない。
そう信じて俺は、【追従身・分け身】の俺に小間使いの少女を抱えさせる。
「うわっ!?ちょ、ちょっと、、
いきなり過ぎます!」
「あ、副団長様、、
お、畏れながら私も失礼を、、」
少し慌てた様子の彼女を本来の俺が肩に抱え、未だに動きを見せない賊共を見遣った。
下卑た笑みを収めたリーダーはまだ戦意を衰えさせてはいなそうだが、手下の奴らは及び腰だ。
この機を逃す手は無い。
拡がった攻囲の隙間に突きかかるようにして、空いた他方の腕を振るう。
「ひ、ひィ、、?!」
「ちイッ、逃がすんじゃねえ!
せっかくのボス初討伐を台無しにする気かあ!?」
リーダーが檄を飛ばすが、怖じ気付いた手下達の得物は精彩を欠いた。
適当に受け流しては突き飛ばし、後ろに回り込んだ賊を足裏で掬い上げ、瞬く間に道が開かれる。
弱いーー。
ーー始めの夜襲こそ上手くいったらしいが、彼らの実力は新兵と大差無いか、それよりも若干劣るだろう。
使用人の彼女と小間使いの少女で片手が塞がっていて尚、賊共の実力は二人の俺に遠く及ばない。
両手剣を片手で振るいながら、互いにもう一人の俺で隙を補い合いながらの逃亡劇は、思っていたよりも簡単だった。
中庭を抜け、階段を駆け上がればーーそこは城壁の上だ。
この城は二層立てだから、都合三階分の高さがある。
「うわわっ?高いですよ!?
まさか、飛び降りるんですか!?
落下ダメージで死んじゃいます、、!」
少女がわけの分からない事を言って騒ぐが、別に死にはしない。
着地の際に少しだけーー足が痺れるだけだ。
だがここで、尚もしつこく追ってくるリーダーと取り巻きが追撃を仕掛けてくる。
「ちイ、逃がすな!
何でも良いから撃ちまくれ!」
「へいっ、これでも喰らえ!
、、ファイアボール!」
賊の一人が手を掲げ、燃え盛る火球が向かってきた。
一つじゃないーー。
ーー中には水弾や氷針の術式も混じり、複数人から放たれた攻撃術が俺の半身に直撃する。
「副団長様っ、、?!」
彼女を庇ったのが、当の庇われた本人にも分かったのだろう。
だがここで女子供を危険に晒しては、元副団長としての無けなしの誇りが廃るというものだった。
咄嗟に剣で払ったが、熱せられた頬が炙られたようにひりつくーー。
ーー続けざまに攻撃術を発動されては敵わない。
二人の俺は彼女達を抱え、都合三階分の高さから飛び降りる。
一瞬の浮遊感ーー。
ーー頭上を複数の術弾や矢が通り過ぎ、宙の居た堪れないような気持ち悪さはすぐに終わった。
代わりに両足を伝ってきたのは、着地の衝撃による痺れだ。
城壁の上から、リーダーの檄が飛ぶ。
「今だ、やれイッ、、!」
「へいっ、こいつでトドメだ!
、、貫けっ、フレイムランス!」
術士らしい手下の声が叫んだ。
不味いーー。
ーー身を起こそうとするが、着地で屈み込んだ足が言う事を聞いてくれない。
火槍による一撃は避けられそうに無いから、身を固める他無いだろう。
その瞬間ーー。
ーーそれまで抱えていた彼女の重みが、ふわりと消えた。
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