複雑・ファジー小説
- Re: 戯構築世界ノ終末戦線 ( No.9 )
- 日時: 2023/03/10 16:05
- 名前: htk (ID: PZX6sAnA)
1章〜〜第1幕、6話ーー副題(未定)
〈大剣術〉や〈不動の心得〉系のスキルは生憎と、剣が折れているせいで使えない。
先の賊との戦闘で使った【不動壁】以外にも守りや、対集団戦闘に長けた技が多くあるのが特徴だがーー野犬程度なら鞘だけでも十分だろう。
握った鞘を逆手に、囲い込もうとしてきた数頭を牽制する。
背後に向け、一振りーー。
ーーすると見せ掛け、翻りざまにこちらの隙を窺っていた鼻面を一蹴した。
吹き飛んだ野犬へと猛追し、更に蹴飛ばす。
後ろに回り込んだ数頭に対応すると見せ掛けた、引っ掛けだ。
予想外の俺の動きに動じたのか、警戒したように攻めて来ない。
寝転がった一頭は当たりどころが悪かったらしく、プラーナを散らして掻き消えた。
油断しなければ、どうという事も無い相手だろう。
俺は無造作に間合いを詰め、齧り付こうと牙を剥いたその顎に鞘をめり込ませる。
そうした背後を狙って、また一頭ーー。
鞘に喰らい付いてきた一頭を後ろの一頭にぶつけ、二頭が縺れ合うがーー。
ーー空いたこちらの脇腹目掛け、今度は別の顎が喰らい付いてきた。
だが、目論見が甘いーー。
ーー開かれた上顎と下顎の間に挟まれたのは、折れた鍔元だ。
俺はその隙だらけの野犬の頭を抱き込み、グキリーーと寒々しい音を鳴らした。
首を捻られた一頭はプラーナの光となって消え、それを傍目にまた仕掛ける。
鼻面の頭蓋を打ち据え、もう一頭ーー。
ーー続けて俺の側面を狙ってきたもう一頭を剣の柄尻で殴り付けると、残すところは二頭だ。
俺が追撃する素振りを見せると、その生き残った野犬は情けない嘶きを発して尻尾を巻いた。
勝てないと分かって、逃げるつもりだろう。
別に追う必要は無い。
こちらが強者と分かれば、敢えて跡を付け回してきたりもしないだろう。
木々の向こうへと逃げた二頭を見送り、俺は山中を進んだ。
未明を過ぎたのか、朝焼けが差してくる。
梢の間から覗いてくる光で、暗がりの森に慣れた目が眩みそうになった。
野犬を撃退した後は魔物の出現も無く、明るくなってきた森中を進んできたがーー進行方向に若干の修正を加える必要があるらしい。
俺は今まで、西へと進んでいるつもりだった。
つまり、東から昇ってきた朝焼けが前方に見えるのはーーそういう事だろう。
野犬との戦いでいつの間にか、方向感覚を狂わされていたらしい。
別に方向音痴というつもりは無かったが、誰だって真夜中の山中へ入れば似たようなものだろうーー?
ーー若干言い訳じみた思いを心の内で反芻した俺は、方向転換した。
来た道を戻る羽目になったが、朝日が昇ればもう迷う事も無い。
この山中には年に何度か軍の演習で定期的に来てるし、いずれ見知った道に出られるだろう。
そう思って朝焼けを背後に進んだが、どうにもおかしいーー。
ーー普段なら既に魔物との戦闘の一つや二つぐらいはあっても良さそうだったが、一向に襲われる気配が無かった。
たまにはこういう日もあるーー。
ーーそう自分に言い聞かせ、果たしてこの道で合ってるのかと疑問を浮かべながらも、先へと進む。
迷っているーーと、もし言われたらその通りだが、方角的には合っている筈だ。
そう思って進み続け、俺はあのーー開けた木々の広間へと出た。
そしてーー毒キノコを食した俺は苦悶の末、奇妙な声を耳にする。
〈ーー/
システムメッセージを受け取りました。
これより、当該NPCのアップデートを開始します。
NPC制限の一部解除ーー。
ーー暫くの間、お待ち下さい。
/ーー〉
非人的な声だ。
それは誰かが喋っているというよりも、声に似た音が鳴っているといった方が近い。
朦朧とした頭に、また音声が響く。
〈ーー/
特殊コマンドスキル、〈世界の申し子〉が解禁されました。
当該NPC No.E-09085403 個体名エドゲルのNPC制限はlevel10からlevel9へと解放されます。
それに伴い、level9相当の各種ウィンドウ及び、各種プレートの閲覧が可能となりました。
また、メモリアル・クリスタルの視認が可能となりました。
これにて、当該NPCのアップデートを終了致します。
それでは、良き終末ライフをーー。
/ーー〉
言った声の主は訳の分からない事を捲し立てたかと思うとーーその後、沈黙した。
えぬぴーしーーー?
ーーそういえば、あの城の中庭で誰かが言っていたような気がする。
俺は気怠さをどうにか堪え、霞む目蓋を開けた。
そこには何か、半透明の薄膜のようなものが浮かんでいる。
〈ーー/
名前=エドゲル
種族=ヒューマン
年齢=27歳
資格=《熟練探索者》《護国騎士》
称号=〈不幸な星の元〉〈勝手知ったるは迷い子の元〉〈静黙の元副団長〉〈不動要塞〉
〈世界の申し子〉 new!
職業=【山林国近衛騎士】
生命値(LP)=622/1880
通力値(TP)=141/543
在命値(PP)=????/????
膂力値=714
頑強値=808
知性値=423
精神値=351
敏捷値=618
技量値=693
運命値=504
主幹コマンドスキル=
《熟練探索者道》┳〈探索術〉
ーーーーーーーー┣〈荷袋整理・中級〉
ーーーーーーーー┣〈偶然の導き〉
ーーーーーーーー┣希少〈絶望的方向感覚〉
ーーーーーーーー┗希少〈災禍の依り代〉
《護国騎士道》┳〈護衛術〉
ーーーーーーー┣〈大剣術〉
ーーーーーーー┣〈武術〉
ーーーーーーー┣〈馬術〉
ーーーーーーー┣〈野営術〉
ーーーーーーー┣〈忠魂義胆〉
ーーーーーーー┣希少〈静黙の心得〉
ーーーーーーー┗固有〈不動の心得〉
派生コマンドスキル=
〈探索術〉━表示 off
〈護衛術〉━表示 off
〈大剣術〉━表示 off
〈武術〉━表示 off
〈馬術〉━表示 off
〈野営術〉━表示 off
〈静黙の心得〉━表示 off
〈不動の心得〉━表示 off
〈世界の申し子〉━表示 off new!
/ーー〉
毒キノコの作用だろうかーー?
ーー不可思議な声に続いて、次は幻覚まで見え始めたらしい。
明らかにおかしな症状を前にして、身を起こそうとした俺はふらりと転倒する。
立ち眩みと頭痛が、また襲ってきた。
この症状だ。
最期にわけの分からないものが見えたり聞こえたりするんだから、俺もーー死期が近いらしい。
この世に特に未練らしいものは無いが、強いていえばーー。
ーー使用人の、彼女の事だろう。
そうだ。
あの世でもし会えたら、今度こそ名前を訊ねてみよう。
彼女の名前を呼んで、そしてーー。
ーー朦朧とした意識によって、そこから先の俺の思考はゆっくりと閉ざされた。
次話=>>10