複雑・ファジー小説
- Re: 白い「キミ」とグレーな「ボク」 ( No.2 )
- 日時: 2023/03/05 23:49
- 名前: でんた (ID: dYnSNeny)
第一話「いつもの電車」
――――今日は蝉が鳴いている。梅雨も明け、夏がそろそろ始まりそうだ。
ここはとある海辺の田舎、夏が始まろうとする6月末。今日も閑散としている電車、康太はいつものように自習に励む。
暑い日差しに対し涼しい車内は快適で、高校につくまでの一時間は彼にとって最高の自習時間なのだ。
毎朝、電車に乗ってくる人間は殆ど同じ面子。途中の駅で降りるサラリーマンが一人、近くの違う高校に通う学生が三人だ。
だからなのか今日、康太の高校の制服である白いセーラーを着た少女は、彼の目に留まる。普段はいない人間、彼は日常とは少し違う電車内の風景に興味を示した。
自習で開いている教科書の向こうに座る、白い透き通った美しい肌と茶髪のポニーテール。いかにも大人しそうな彼女は転校生だろう、康太にはそう予想がついた。
「…こんなに可愛らしい子がうちの高校にいなかったような?」
小さく独り言を言い、自習を続けた。
…あれから一時間が経った。通学の電車は高校の最寄り駅に停車し、康太とその少女は一緒に降りた。…やはり康太の視線は、その少女の背中に向けられ離れない。
8時5分、彼の教室についた。教室に入ると、彼の友人である蓮花が声をかけてきた。
「よっ、康太!おはよー!」
「おはよう、栗本さん」
蓮花は内気な康太と対照的に、いつも明るく元気な学生だ。同じ教室の女子の中では中心人物に据えられ、友人が多い。いわゆる「一軍」だ。
挨拶を交わし、康太は自分の机にリュックを置き、中にある教材を机の中に入れたりと授業の準備を始める。
8時30分、朝のチャイムが鳴って、遅刻ギリギリなクラスメイトがぞろぞろと入ってくる。
はぁはぁと息を切らしながら席に座る生徒に対して、入室してきた担任は言った。
「おい田塚ぁ、もっと早くに来なさい。そんなに急いでも毎朝遅刻じゃあ意味ないだろう。」
「すんませーん、明日から気を付けまーす。」
不満げに注意する担任に少しフザけながら返し、周囲の生徒は笑い声を発している。
毎朝遅刻し、毎朝注意を受けている彼は田塚信也、少々不真面目だが人気者な男子生徒。康太とは中学時代から同じで、意外と長い関係にある。
笑い声が落ち着くと、担任は話を始めた。
「…よし、今日は大事な連絡があります。今日はな、このクラスに転校生がやってきたんだ。…もう来ているから、挨拶してもらおうか。」
「えー、マジ??」、「どんな子なんだろー!」とざわつき始めたが、教室の引き戸がガラガラと開かれると一瞬にして静まった。
教室の生徒は皆、教卓の横にやってくる白い肌の少女に関心を寄せた。
「今日からここ多原田高校に転校し、皆さんと同じ2年a組のクラスメイトになる『白瀬花梨』さんだ。さぁ、自己紹介して。」
少女は緊張した面持ちをしながら、慎重に口を開いた。
「…っ東京の赤桜高等学校から来ました、白瀬花梨です。宜しくお願いします。」
小さく震えた声で自己紹介し、小さくお辞儀をした。
教室の生徒は温かく迎えるように拍手を送った。
「宜しくなあああ!!」
信也は大きく声を張り上げ、教室を盛り上げた。
康太は「やっぱりあの時見かけた子は転校生だったのか」と一人で納得した。
担任は生徒を静めると、花梨に対し座席の位置を指さした。
「白瀬さん、あなたの座席は彼、中谷の横だ。隣同士、仲良くやるんだぞ!」
康太は自分の左の空いている机にたった今気づき、内心驚いた。
「僕の…隣に?」