複雑・ファジー小説

Re: 白い「キミ」とグレーな「ボク」 ( No.3 )
日時: 2023/03/06 20:24
名前: でんた (ID: dYnSNeny)

第二話「挨拶」

花梨は「はい」と、お淑やかに返事しては自分の席へ歩いてくる。
皆から向けられる視線に緊張しているのか、彼女の視線は床を向いている。
花梨の座席の位置は、クラスの端にあり、康太だけが隣の生徒となる。

「よろしくね、白瀬さん?」

康太は隣の席につく花梨に挨拶をし、相手の顔を伺った。
花梨はその挨拶に気づき、一度は康太に目を合わせながらも、ただ口を僅かに開いては何も言わないままだった。
無視されたのか、と思った康太は残念に思いながらも、一限目の数学の授業の準備を進めた。

「じゃあ、今日の連絡は以上。今日も一日授業に励もうな。」

委員長が号令し、朝のホームルームが終わると、沢山の生徒が教室の左端に詰めかけた。
教室に現れた新しい顔に興味津々、それぞれが色んな問いを投げかける。

「ねぇねぇ、東京から来たって言ってたよね?東京の生活ってどんな感じなの?」

と、蓮花は質問した。
一気に囲まれて花梨はちょっとしたパニックに陥って、蓮花の質問を答えられずにいる。

「あっ、あの…。」

口元を微妙に動かし、ついには黙り込んでしまった。
肩を縮こませ、机の真ん中を見つめながら、何も話せずにいる。

「おいおいお前ら!花梨ちゃん困ってるじゃねーかー!」

その群れの中にいる信也は声を張り上げ、群がる生徒たちを制した。
やがて授業開始のチャイムが鳴り、教科担任の女性の先生がやってきた。

「はいはい、席に着きなさーい。チャイム鳴っていますよー」

男子生徒の数人は、その好奇心を満たせないことに不満を覚えたのか溜め息を漏らしている。
ガタガタと自席に戻ると、間もなく授業が始まった。
内容は数学Ⅱの微積分の単元。先生は手に持っている教科書を眺めながら、黒板に数式を淡々と書いていく。
そうして書き終えると、転校生の顔に気づいた先生は尋ねた。

「あら、あなたが白瀬さん?」

「はっはい」

突然声をかけられた花梨は焦りながら返事した。
「じゃあ挨拶代わりに」と黒板に書き記された問題を指した。

「白瀬さん、この問題は解けるかしら。向こうでも同じ範囲をやっていると思うけど。」

その式は二次関数を微分係数から導き出す、いわゆる応用の問題で、まだ取り組んだことのない内容だ。1
康太は、転校早々難しい式に向き合う彼女に「ちょっと気の毒だな」と思い、見守った。

「分かりました。」

花梨は立ち上がり黒板に向かうと、チョークを手に取り淡々と解き始めた。
途中式を書き終え、関数式を導き出した。
先生は簡単に解いてきた彼女に驚き、正解だと伝えると、クラスメイトは「おぉ~」と感心の声を漏らした。

「白瀬さん、凄いね。あの問題、皆初めて見た問題だよ。」

席に戻った花梨にそう言うと、また先程のように視線を逸らしながら「ありがとう」と返す。
褒めてもらった彼女の口元は、微笑んでいるように見えた。