複雑・ファジー小説
- Re: 白い「キミ」とグレーな「ボク」 ( No.4 )
- 日時: 2023/11/25 21:41
- 名前: でんた (ID: eVCTiC43)
第三話「歩み寄り」
一限目の数学が終わり、それから四限目の授業まで終わった。
次は昼食の休憩。康太は、机に散らかる教科書を仕舞い、自宅から持参した弁当を開いて食事を始めた。
普段は一人で早々と終える昼食だが、その日が様子が違った。
「中谷君、だよね。」
か細い声で横から呼びかけてきたのは花梨だった。
康太はそのまま彼女の方に向き、顔を見つめた。
「うん、どうしたんだい?」
「お昼ご飯、一緒に食べてもいいかな。」
と、先ほどの微笑んだような表情を浮かべながら問いかける。
特段断る理由もない。「いいよ、食べよう!」、康太は快く承諾した。
二人の机を合わせ、隣り合う形で昼食を始めた。とは言えど、話題が特にないからしばらくは無言。
最初に口を開いたのは康太だった。
「数学の授業凄かったよ!白瀬さん、勉強得意なの?」
「…たまたまだよ。得意なの、数学だけだよ。」
康太は謙遜しているだけだろうな、と思いつつ、「途中式もわかりやすくて、毎日教えてほしいくらいだよ」と笑いながら褒めた。
面と向かって褒められた花梨は、頬を赤めて、再び食事を始める。
「中谷君の得意な教科はなに。」
「…ぼ、僕はそれと言って何か得意な教科はないかなぁ。はははぁ」
康太は、勉学にはそれほど困ってはいなかったが、飛びぬけて得意な教科はない学生だった。平々凡々としたものである。
半笑いしながら右手で頭をかく康太を見て、花梨は「そっか。」ポツリと言ってまた食事に戻った。
二人が弁当のほとんどを食べ終える頃、花梨がまた康太に話しかける。
「いつもあの時間の電車に乗っているの?」
花梨は今朝の電車で康太の姿を見たことを覚えていた。
「あの時間の電車」と言われ、まさか彼女も自分のことを認識していたとは、と内心驚きながらもちょっとごまかすように答えた。
「あの時間の電車…、今朝、もしかして一緒だったのかな?」
康太のちょっと冷たいような返しに、花梨は残念そうに「違うのなら、大丈夫だよ。」と僅かに視線を逸らしながら言い放った。
花梨はそのまま静かに弁当を仕舞うと、次の授業に備えて教科書を机から取り出し、自習を始めた。
「ああ、しまった。」康太は自身の態度に対し内心そう嘆き、彼女の顔色を伺いつつも話しかけることができず、昼休みを終えた。