複雑・ファジー小説
- Re: メダカ刑務所 ( No.5 )
- 日時: 2023/05/17 20:01
- 名前: fiore (ID: Ms/Mj5Tz)
〜episode5〜 過去
「あっ、何も言ってないんですね」
つむぎは納得したように言った
すると、もう本部に着いていた
本部は外から見ると何もないように作られている
外部の人間にバレないように
本部のドアの前に立つと紫音が言った
「ここが本部か………」
つむぎも興味を示して舐めるように観察している
「じゃあ入るよ」
私は二人に声をかけた
コンコン
「失礼します、朝吹です」
私は声を低くして言った
本部の中は広い廊下みたいだ
左右にいくつか部屋がある
「要件は?」
奥の椅子に座っている人が言った
「例の生徒を連れてきました」
つむぎ達は緊張しているようで固まっている
「じゃあ、取り調べ室に案内しろ」
「分かりました」
後ろで固まっているつむぎに声をかけた
「私についてきて」
そう言って私は右にある部屋に入った
つむぎ達も私の後に部屋に入った
中にはつくえと2つの椅子だけ
「つむぎさん、奥の方の椅子に座って下さい」
私は言った
「はい…」
つむぎはまた少し不安になったようだ
「紫音ちゃんは私達が話していることをメモしといて」
「分かりました!」
そして紫音はポケットからメモ帳とペンを出した
「それじゃあ、つむぎさん聞きますね?」
「はい」
「あなたはなぜアルバイトをしていたんですか?」
私はなるべく優しい声で言ったが、少し怖かったかな?
「えっと……」
つむぎが声を詰まらせた
「ゆっくりでいいからね」
私は声をかけた
「はい……、少し長くなるかもしれませんが……」
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私はどこにでもある普通の家に生まれました
私は一人っ子で親にとても可愛がられました
決してお金持ちではありませんでしたが幸せな日々をおくっていました
あの日がくるまでは
雨が永遠に降り続いていたある日、仕事に出かけた父がいつになっても帰ってきませんでした
最初は電車が遅れているのかなとあまり心配していませんでした
しかし父は朝になっても帰ってくることはありませんでした
流石に心配になって母は警察に連絡しました
数日後、山の中で父の遺体が見つかりました
無差別殺人だったそうです
私はまだ7歳くらいだったので訳が分かりませんでした
けど母が一日中泣いていたので大変なことが起きたのかなと思いました
それから、私の生活は変わってしまいました
母は何もしなくなってしまったのです
その日から母が笑うことはなくなりました
ご飯を作ることもも洗い物をすることも何もやらなくなってしまいました
そこから私から笑顔が消えていきました
ただ自分のために動く
ご飯を一緒に食べてくれる人もいない
悲しい生活でした
中学生になってだいぶしっかりしてきたころ私はあるポスターを見ました
『アルバイト募集!』
それを見て私はすぐにそこに連絡しました
私が働けば生活が楽になる!
そんな気持ちでいっぱいでした
面接でも中学生ということがバレずに採用されました
私は背が高いので高校生と間違えたんだと思います
そして今に至ります
今まで本当に辛かったです
だけど2人と話しているととても楽しい気持ちになりました
私からはもう言うことは以上です
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「そんなに辛いことがあったのね……」
私はつむぎの話を聞き終わると自然と涙を流していた
「あっ、ごめんなさい、私感情移入がしやすくてすぐ泣いちゃうの……」
しばらく誰も話さなかった
つむぎも紫音もつられて泣いていた
3人の泣き声だけが響いていた