複雑・ファジー小説
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- 俎上の国独立に移る【1-6更新】
- 日時: 2011/09/04 17:10
- 名前: 深桜 ◆/9LVrFkcOw (ID: xJuDA4mk)
どうもっ、初めましての方は初めまして、お知り合いの方はお元気ですか、お久しぶりの方はお久しぶりです、深桜です!
題名は慣用句の「俎上の魚江海に移る」という言葉を適当に変えたものですー
この上なく簡潔なタイトルですね…!!
複雑・ファジーですが、どちらかというとシリアスっぽいです。
でもシリアスかといえば、「うーん」って感じなのでこちらにばさせていただきます。
板チだったらすいません…!
また、拙い文章、表現、描写力ではありますが、精一杯世界を広げられるように頑張りますので、応援してくれたりするとめちゃんこ嬉しいです。
よろしくおねがいしますー
□物語の大まかな説明
舞台は小さな王国、「バントシェナー」。
バントシェナー王国は国を囲む東西南北の勢力から独立するために戦してます。
主人公のオーカーは庶民なのですが、幼少の頃にであったブルシア王子に腕相撲で勝ったから、という理由で戦に参加する数少ない庶民の一人です。
そのオーカーとブルシアを中心に物語は独立戦という軸で回転していきます。多分。
■目次みたいなもの
序ってる文章 >>1
1-1 心の底から自分は庶民だなと思った。 >>2 1-2 これが現実 >>3
1-3 牛の出産が見れなかったから怒ってる。嘘です。 >>4 1-4 お前が大切だから >>6
1-5 ヴァイオレット家当主 >>7 1-6 それがしが息女をば傷つけるがは、かまえて許さぬ >>8
□登場人物
>>5に書いてあります。
キャラがふえるたびに随時更新していきますので、たまに見てもらえるとありがたいです。
- Re: 俎上の国独立に移る ( No.1 )
- 日時: 2011/08/22 13:21
- 名前: 深桜 ◆/9LVrFkcOw (ID: Lo6Tr77W)
序ってる文章
黒い雨が降る戦場に、一人の男が立っていた。
彼はベトベトとまとわりつく髪をかき上げながら、辺りを見渡した。生きている者は彼以外誰一人としていない。一人この戦場に取り残されたような気がして、男はなんとも言えない虚無感に襲われた。手に持っている自動銃の赤いランプは虚しく弾薬切れを告げるのみである。
男は無表情に敵味方の死体の間を歩きだした。
黒い雨はやむ気配もなく、むしろ一層激しく降りだしている。
オーカーは粗末な机に肘を突き、ところどころノイズの走るラジオに耳を傾けていた。
「——えー、ということで、東の戦は我がバントシェナー王国の勝利です。残るは西の戦と南の戦で、この両方の戦に勝利を収めれば、晴れて我が国は独立を果たすのです」
そうアナウンサーが告げたところで本格的に電波が入らなくなり、あとはノイズの大合唱で埋め尽くされた。オーカーはラジオを切り、立ち上がった。
「あれ、オーカー、もう行くのかい?」食堂の女将は厨房からオーカーに話しかけた。「ああ、もうそろそろ行かなきゃブルシアに怒られちまうよ」とオーカーは苦笑まじりに答え、ジャラ銭を机に置いた。
外に出るとまだ雨は降っていた。オーカーは恨めしそうに空を見上げつつ、傘をさした。
真っ黒な雲にところどころ白い隙間が現れ、そこだけ黒い水に一滴の溶かした白い絵の具をたらした様な、幻想的な情緒を見え隠れさせていた。
オーカーは金色に光る腕時計に目をやる。「やべぇな、こりゃ本気で怒られるぞ」呟いた先の時計はすでに七つと十八をさしており、約束の時間まであと長針十二傾しかない。
オーカーは傘を持ち直し、小走りで城へと向かった。
城では宴をやるらしい。
最前線で戦ったということもあるのだが、それ以前にオーカーはブルシアという昔馴染みで、なぜそれで呼ばれるのかというとブルシアはこの王国の次期国王だからである。
庶民で宴に参加できるのは極少数で、オーカーもその庶民の中の一人だった。
そもそも昔から戦というのは城の兵士と貴族の仕事であり、庶民は畑や牛を守るのが仕事だから、それもこの国では当たり前なのだ。
オーカーは平凡な農家に生まれた。毎日牛と戯れたり畑で手伝いをしたりと、それなりに楽しい生活を送っている。
ある日川まで牛を連れて行くと、一人の少年が川辺にうずくまっていた。それが、ブルシアだった。
ブルシアは王族の着る服をどろどろに汚して泣いていたのだった。川に王家の証を落としてしまったという。それを川に潜って探して以来、二人は仲良くなったのだ。
あの時は城まで送っていったら兵士に槍を突きつけられてヒヤヒヤしたが——と、オーカーは回想に浸る。ブルシアがすぐに誤解を解いてくれたおかげでオーカーは地下牢に閉じ込められ下水道のカビ取りの仕事をやらされずに済んだ。
ブルシアが「城までの道がわかんないんです……」などと言わなければそんな危機も訪れずに済んだのだが、と考えられる脳はオーカーにはない。
ブルシアにいたく気に入られ、城の中に入れられ、王に会わせられ——ブルシアに腕相撲で勝ったのがきっかけで、戦にいつか参加させられるのが決定した。昔からこの小さな王国は独立戦争を企てていたのだ。
オーカーは深くため息をついた。城下町は雨の中でも活気付いていて、そこらじゅうで果物の叩き売りや編み物の直売が行われている。
すこし肌寒い季節なのに、よく元気にやっていられるよな、とオーカーは半ば呆れつつ、足を速めた。
ふとオーカーが目を横にやると、路地裏に小さく人が見えた。一人だけでなく、三人ほどいる。いずれもみすぼらしい格好をして、生気の抜けたようにだらんと手足を伸ばしている様は、操り手のいないマリオネットのそれでもあった。
心をちくりと痛めながらも、オーカーは彼らからむりやり視線を引き剥がした。彼らはいつか悪徳商業者に連れて行かれ、奴隷か、それとも——慰みに使われることになるのだろうか。
それはこのちっぽけな国の、治安維持という視点に立った上での、問題点であった。
城に着くと、人で埋め尽くされていた。
オーカーがどうやってブルシアを見つけるかを考えていると、
「オーカーさんでいらっしゃいますね?」警備と案内の者が丁寧に言った。「違いましたか?」
「ああ、はい、そうです」慌ててオーカーは答えた。
警備兼案内役は優雅にうなずいて、優雅に微笑んだ。
「ブルシア王子がお会いになりたいとのことですが、王子は諸用事のため遅れて参加します。王子が到着し次第、お知らせ申し上げます」
オーカーはコクコクとうなずく。警備兼案内役は小さな紙切れをオーカーに渡した。「誰もいないところで読むように、とのことでございます」無言で受け取るのをにこやかに見た後、
「お飲み物、お料理、その他お楽しみはあちらの大ホールにて用意しております。何か不都合があればいつでもおっしゃってください」
「ありがとうございます」
拙く答えるのがやっとだった。「……相変わらず、丁寧なのは慣れないな」と、警備兼案内役に聞こえないところで小さく呟いたのだが、ふとそっちを見てみると、警備兼案内役は意味ありげな目で微笑みながらこっちを見つめていた。
オーカーは目をそらし、誰もいないところを探すために歩き出した。
- Re: 俎上の国独立に移る ( No.2 )
- 日時: 2011/08/22 13:18
- 名前: 深桜 ◆/9LVrFkcOw (ID: Lo6Tr77W)
1-1 心の底から自分は庶民だなと思った。
城の中は広く、国土面積の三分の一占めてんじゃないのか、と庶民なら誰もが思うほどである。
しかし貴族や兵たちは我が物顔で闊歩しており、階級の違いをオーカーにまざまざと見せ付けていた。
ただでさえ地味なスーツを着ているのに、とオーカーは心の中でぶちぶちと呟く。周りの人間は皆おしゃれなスーツや、官能的なラインを見せ付けるかのように密着した、露出度の高いドレスをきれいに着こなしている。
ふと見ると貴族の女性が二人でこっちを見ていた。こそこそと話し、うふふと上品に笑っている。
「……ふん、庶民で悪かったな。庶民で」
オーカーは負け惜しみを小さく呟いた。二人の視線から逃げるように早足になり、思わず中庭へと出た。
雨は上がっていた。気付かぬ間にとっぷりと暮れ果てた夜空は、星を灯してきらきらと光る。もうこの国では少なくなってしまった、美しい景色の一つだ。
オーカーがまだ小さい頃は国のそこらじゅうに美しく咲き乱れる花畑があり、川では常に魚が生き生きとして、朝には鳥が歌を歌う、そんな美しい日常があったのだ。だが、開発工事で花畑はつぶされ、川にはいつしか魚が見られぬようになり、鳥は食用や飼育用に捕獲され、数が激減した。
だからか、この国は魚の値段がとてつもなく高い。卸売り業者が足元を見て、高値で魚屋に売りつけるからだ。
この国が開発を急ぎすぎたのは周知の事実だ。現国王は革新主義である。それに振り回されるのは金のない庶民や浮浪者なのだが。
オーカーは花壇の近くに横たわる丸太のベンチに腰掛けた。渡された紙切れには走り書きでこんなことが書いてあった。
『多分お前中庭にいるだろうからそこで待っていてくれるとありがたい。短針八傾あたりにくるから待っていてくれ』
「自分勝手な野郎だ」オーカーは呟いた。「自分で七つと三十って言っただろうが」そう言いつつも、悪い気はしない。
——中庭にいるだろうから、それだけでブルシアがどれほどよく自分のことをわかっているのか示してある。長い時間を共に過ごした証だった。
「バッカみてぇ」と、負け惜しみっぽく言った。自分はブルシアの居場所なんてこれっぽっちも予想できないのに、すぐに居場所を当てられる。ブルシアは予想なんてできるようなところには滅多にいないし、自分は畑とか、牧場とか、わかりやすさを極めたようなところにいつもいるのだ。
なんだか住んでいる世界の違いを見せ付けられているようで腹が立つ。博識、容姿端麗、礼儀正しく、力も強い。子どものころ腕相撲に勝ったのは事実だが、今やってみたら確実に負けるだろう。訓練を毎日しているって言っていたから。
嫉妬する自分をあざ笑うかのように、星は弧を描いて流れていった。
「オーカー様でいらっしゃいますか?」
甘い女の声が庭に響いた。振り向くと、さっき自分を見ながらヒソヒソと話していた貴族の片割れだった。
「始めまして。私、オペラと申しますの」
上品に自己紹介する女はまだ十代後半の顔をしていたが、体つきは大人の女性のそれである。美しい曲線をふんわりと包むピンクのドレスは、悔しいが彼女にものすごく似合っていた。
オーカーは軽く会釈したのみだった。差し出された手を握ることもなく、そっぽを向く。芝居がかった女は嫌いだ。
オペラはうふ、と微笑み、オーカーの隣に腰掛けた。「星がきれいですわね」と言いながら、体を寄せてくる。
「……やめて頂けませんか」
「照れることもないですわ。こういうのは紳士淑女の嗜み……そうでしょう? 殿方」
なぜこの女がこんなにも迫ってくるような言動をしているのかわからない。オーカーは絡んでくる腕を振り解いた。「自分にはそんな趣味はありません」
自分の言葉は丁寧語だが、庶民の拙さが丸出しだった。オペラの円を描くようになめらかな言葉は、オーカーの神経を逆撫でする。
「私、オーカー様の話が聞きたいですわ。最前線での戦いはいかがなものでして?」
——お前みたいなお嬢様なんかが理解できるようなもんじゃない!!
そう、オーカーは心の中で叫んだのだが、声にするわけにもいかず、何気なく腕時計を見た。七つと五十三。ブルシアがくるまでにはあと長針七傾も待っていなければならないのだ。
げんなりした。耳元では甘いささやきが繰り返され、手元では華奢な指が絡んでくる。貴族はいつもこんなことをしているのだろうか。上品の薄皮をかぶった変態どもめ。自分は世界がひっくり返ろうと貴族にはなれない、と思った。
- Re: 俎上の国独立に移る ( No.3 )
- 日時: 2011/08/23 13:18
- 名前: 深桜 ◆/9LVrFkcOw (ID: Lo6Tr77W)
1-2 これが現実
適当に変態をあしらいながら、オーカーは心の中でブルシアのことを必死に呼んだ。しかし一向に現れる気配がなく、ぞわぞわと腕から首へ全力疾走する寒気は増す一方だった。
——くそっ、あの野郎、遅れてきたことを土下座して謝らせてやる……!!
オーカーは一度歯軋りした後、体をオペラに向けた。にっこりと笑って、手を握り返す。
「お嬢さん、自分はここで人を待っております。その人に見つかると後で面倒なので、ここは一端引いて頂けませんか?」
スマイルに気を良くしたのか、焦らすようにきれいな唇に指先を当て、わざとらしく「うーん」と言った。その演じているの丸出しの仕草が可愛くない。
「わかりましたわ。また後でお会いになってくださる?」
「ええ、いつでもお呼びください」オーカーは顔中にさわやかなパウダーを吹きかけたような笑顔で答えた。
オペラはうふふ、と笑いながら手をひらりと振り、城の中へと戻っていった。
オーカーは途端営業スマイルから非合法しかめっ面へと早変わりし、一息ついた。ああいう勘違い女は嫌いなのだ。
ふと腕時計に目をやると、針は八と五の字を指していた。
ブルシアが来たのはそれから長針が五回傾いたころだった。「すまない、挨拶周りをしていたらつかまってしまったもので」と、土産代わりに言い訳を言った。
「まったく、あのピンクドレスの女の子はなんで俺の城に来ているのだろう。俺は招待したつもりはないんだが……どうした、オーカー? 今日はやけに不細工だな」
ブルシアは体をオーカーの方へ傾け、顔を覗き込んだ。オーカーはふつふつと煮えたぎる熱湯のように、じわじわと怒り出した。
「遅れてきたくせに侘びの言葉がすまないだけってどういうことだてめぇ! お前が七つと三十にこいっていったんだろうがっ! 何堂々と遅刻宣言してんだよこのバカチン!」
一気にオーカーは言い、フーフーと荒く息をしながら俯いた。夜の闇の中でもよくわかるほど、真っ赤に顔を染めていた。
耳まで赤くなっているオーカーを見てブルシアはくすくすと笑い、隣に腰掛けた。そこはさっきまでオペラが座っていたところだ。
「悪かったよ。会議が長引いたんだ」そう言いながらも、やはり笑ったままのブルシアに怒る気はもう起きず、オーカーはため息をついた。
このままでは話が進まないので、オーカーは早めに切り出した。
「自分に何の用だ。せっかく牛の出産予定日だったのに、父さんに任せることになっちまったじゃねーか」
「お前なんで一人称が自分なの。俺とか僕とか使えば?」ブルシアはあからさまに話を逸らした。
オーカーは顔をしかめた。「そんなの……どうでもいいだろ」と、いつもと明らかに違う反応を見て、ブルシアは少し戸惑ったように、
「どうしたんだ、なんか俺まずいことでも言ったか?」
べつに、とオーカーはそっぽを向いてしまった。二人はそのまま押し黙る。
夜空は深みを増し、星は宝石をちりばめたようにキラキラと、不規則に輝く。それはいつか失われてしまうのかもしれない。国のどこにでもあった美しい花畑のように、透明を極めていた川の魚達のように、朝を誰よりもはやく知らせていた鳥達のように、人の手によって、壊されてしまうのかもしれない。
オーカーは途端に切なくなって、星空から目を離した。そんなオーカーなんか知るか、とでも言うように、星たちは闇の中で踊っていた、
「……なぁ」小さい声でオーカーは話しかけた。
「なんだ?」
「あのさ……お前、次の国王じゃん? そしたらさ、昔のきれいな景色、少しずつでも取り戻していってくんねぇかな?」
ブルシアはオーカーを見つめ、しばらく閉口していたが、
「それは、この国の開発をやめろってことか」ため息と一緒に呟いた。
オーカーは小さくうなずいた。
「無理だ」その言葉は、オーカーに言っているようにも、自身に言い聞かせているようにも見えた。
「この国が独立戦で勝てばどんどん人が流れてきて、一気に発展するだろう。そうなれば当然住居も施設も増える。開発をやめるどころか、進む一方だろうな」
オーカーが口を開きかけたのを遮るように、
「それにだ、もし独立戦に負ければこの国は確実に他の国に吸収され、どっちにしろ開発はされる。諦めろ」
ブルシアはそう言って、むっつり口をつぐんだ。オーカーは反論すらできず、うつむいた。ブルシアが開発をしたいわけではないということは、口調からわかる。
美しい景色が失われるのは、ブルシアにとっても嫌なことであるが、もうどうしようもないことなのだった。
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