複雑・ファジー小説
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- ステノグラフ ロケーション【完結】
- 日時： 2014/01/04 15:17
- 名前： ヲーミル （元：はぜかみ （ID: npB6/xR8）
- 参照： http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=15971
ステグラシリーズ第二作『ノンアダルト ナイトメア』執筆中！参照から行けます！
どうも！初めましての人は初めまして、ヲーミルです。
題名が全く映えないことを未だに気にしている。
Special Thanks to……
○月葵 様
○りん 様
○よしの 様
○結城紗枝 様
○黒田奏 様
○Cathy 様
and All of readers.
〜〜登場人物〜〜
方波見 駿 （スグル）
私立光陰高校一年B組。平均的な学力と顔つき。特筆するほどの特技はない。ヘタレ。
黒松 利生 （トシ）
同。スグルよりやや長身で、結構頭がよい。雑学王。しかし熱血。
宇津木 哲 （テツ）
同。チビだがすばしっこく、運び屋をやっている。好きなスポーツはペタンク。ヘタレ。
荒木[アララギ] 柚葉 （ユズハ）
同。氏名のムリヤリな読ませ方がチャームポイント。男子によく飛び蹴りを食らわせる。ポニーテール。
三葉[ミツバ] 早紀 （サキ）
同。謙虚で自分の事は後回しなタイプ。ウェーブがかった髪を肩まで伸ばしている。字が綺麗。
〜〜目次〜〜
プロローグ………………… >>1
PART 1『波長』…………… >>2
PART 2『異変』…………… >>12
PART 3『急襲』…………… >>18
PART 4『追跡』…………… >>29
PART 5『少年』…………… >>46
PART 6『次元』…………… >>58
PART 7『迷路』…………… >>66
〜〜沿革〜〜
2012/08/03 執筆開始。戦争記は置いてけぼりに。
2012/08/10 PART2突入。
2012/08/15 終戦記念日。チルレコ発売おめでとうございます（沿革じゃねぇ）
2012/08/17 PART3突入。
2012/08/17 参照100突破。ありがとうございます！
2012/09/15 参照300突破！！
2012/10/05 PART5突入。
2012/10/06 参照400突破！！！
2012/10/28 作者改名。
2012/11/03 参照500突破！ありがとうございます！！
2012/11/03 PART6突入。
2013/12/27 完結。
- Re: 【Season 1】 ステグラ 【夏】 ( No.41 )
- 日時： 2012/09/21 00:49
- 名前： ヲーミル （ID: gqugX.kn）
８
「……ここが俺のマジック・ハウスだ」
そういわれて、ザグレフは閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
そこは大きな格納庫のようだった。
一般的な体育館と同じ広さ、高さだが、内壁はコンクリート製で、天井にはパイプなどが張り巡らされている。
照明が列を成して天井に連なり、その白い光が床を煌々と照らしていた。
ザグレフは天井を見上げながら一歩足を踏み出した。と——
「……！」
驚いた。床がクッションのように柔らかいのである。
足裏は深さ10cmほどまで沈み込んだ。頑張ればもっと行けそうである。
「何も、ないんですね……」
側近が辺りをぐるりと見回していった。
そう、バカでかい広さを持つ割には、ここには何もない。壁に一つだけ扉があるが……
「そうだ」
ジャックの声が反響した。
「ここは集合場所[ミートポイント]だからな。広い方が都合がいい」
「どういうことだ？」
ザグレフは尋ねた。
「世界中からこの空間にワープしようとすれば、それだけ着地点の誤差は大きくなる。
だから、それだけ着地点の空間は出来るだけ大きい方がいい。これが、その集合場所って訳だ」
「つまり、世界中のあらゆるところからこの空間にワープできる、ということだな？」
「そういうことだ」
ジャックは大きくうなずいた。
つまり、こんなにも床がふかふかなのは、高い位置から落ちても安全なようにということだろう。
続けてザグレフは聞く。
「実験はここで行っているのか？」
「あぁ、こっちだ。といっても、まだ人間に試した事は一度もないが……」
ジャックはめり込む床をなんともなく歩いていく。相当慣れているに違いない。
大雪の中をかき分けていくように、ザグレフとその側近はジャックについて行った。
- Re: 【Season 1】 ステグラ 【夏】 ( No.42 )
- 日時： 2012/09/30 15:02
- 名前： ヲーミル （ID: 8.YVd.u/）
- 参照： 「どうも、お久しぶり。主人公です」
９
「もう疲れた……一回休もうぜ。な？」
強い風圧で髪をばっさばっささせながら、ハンドルを握っていたテツは言った。
トシはその頭の後ろをごつんと小突く。
「馬鹿言ってんじゃねぇ。命掛かってんだぞ」
二人はテツの自転車に乗っていた。
テツが自転車をこぎ、トシは後ろの荷台に器用に乗っている。
前方には、相手に気づかれない程度の距離を離して、トラックが走っている。
数十分前、GPSを頼りにトラックを追いかけ回し、先ほどようやく見つけたところだ。
今のところ、敵はトシの携帯を投げ込まれたことに気づいていないらしい。
「中にサキがいるのか……？」
と、トシはつぶやいた。数十人の外人マッチョ戦闘隊員に囲まれているサキを想像すると、可愛そうでならない。
既に野を越え街を越え、延々と畑が続く道を走っていた。
車の通りもまぁまぁ多く、これなら気付かれることもなさそうだ。
「次右折だ」
「りょーかい…」
トシが携帯を見ながら言った。テツは息も絶え絶えの様子である。
頑張ってくれよ、と心の中でトシはテツを励ました。
何にせよ、敵が止まりさえすればいくらでもチャンスはある。
テツが丁寧に右折して、二人を乗せた自転車は沈みかけの夕日に照らされたアスファルトを滑った。
-*-
……さて、ここはどこか。
数回瞬きをして、スグルは考えた。
何もかも覚えていない。ただ、何か大切なものを失った気がする。
スグルはしばらく沈黙した。しかし——
「……サキ！？」
スグルはガバッと上半身を持ち上げた。
途端に重たい頭が体にのしかかり、思わず顔をしかめる。
だが、それどころではない。サキは、一体——
「いつまで待たせんのよ全く」
響いた声に、思わずスグルは左を振り返った。
体育座りをしたユズハが、壁にもたれて頬を膨らませていた。
色々な感触をつかんできた。
「ここは、「保健室よ」
……言おうとしたことを先に言わないでもらいたい。
「ていうか、サキはどうなった！？」
どうやら自分はベッドの上らしい。
床の、どこか一点を見つめているユズハを見下ろしながら、スグルは言った。
「安心しなー」ユズハは言った。「トシとテツが追っかけてる」
え、じゃぁ。
ユズハは顔を上げてにっこり笑った。
「連れてかれた」
「うっそ……」
スグルは右手のひらを額に当てて、髪の間に指を入れた。
自分は何もできなかったという後悔と無力感に襲われる。
「だから安心しなって。すぐ戻るだろうしさ」
続けてユズハが言った。
よく見ると、ユズハは床に置かれたノートパソコンを見ているようだった。
スグルもよじよじとベッドから降りて、ユズハと同じように壁にもたれる。
画面には何かの地図が表示されていたが、丁寧にユズハが教えてくれた。
「この赤いのが敵。サキを乗せたトラック。んで、この青いのがトシとテツ。
トラックにはトシの携帯が乗っかってるから、それをGT5で追っかけてるんだって。
トシはスグルの携帯持ってったみたいだけど」
……それを言うならGPSだと思うのだが。っていうか、
「俺の携帯！？あ……」
ズボンのポケットに手を当てて、その薄っぺらさに今更気づく。どおりで何か軽いと思った。
ユズハはその様子を見てニヤニヤと笑っている。
「とにかくここから動くなって。全く、何考えてんだか」
それを聞いて、スグルは急に強い焦燥感にかられた。
——なぜだ。なぜ俺はこんなところでぐずぐずしている？
仮にも主人公だぞ主人公。なんでヒーロー的な要素を全部脇役に持ってかれてるんだ俺。
「無駄よ。トラックのスピードに追い付けるのは力使えるテツぐらいだし、どうせ今からじゃ追いつかない」
「ぬぬぬぬぬ……」
まるで心を見透かされているかのようなユズハの指摘に、スグルは歯を噛み締めた。
赤と青の二つの点は、ゆっくりと、しかし確実にその歩みを進めている。
- Re: 【Season 1】 ステグラ 【夏】 ( No.43 )
- 日時： 2012/10/03 21:27
- 名前： ヲーミル （ID: mTmEWkdx）
- 参照： 「どうも、お久しぶり。主人公です」
１０
「テツ、スピード落とせ。この車と一緒に左折だ」
「え？だって……」
「いいから。見られないようにな」
困惑するテツを無視して、トシは言った。
だが、無理はない。なぜなら、追うべきトラックは既に交差点の先まで直進していたからだ。
自転車は目の前を走る赤い乗用車の内側をすれすれで通って、左折した。
左折すると、そこは橋。大きな川が目の前をゆっくりと横切っている。
「よし、止めろ」「あいさー」
テツは落としていた速度にさらにブレーキを掛け、自転車を欄干のそばに停車させた。
「向こう側に渡るぞ」
「えっちょっ」
テツより先にトシは自転車を飛び降り、道路を挟んだ反対側の歩道へとかがみながら渡った。
自転車を降り切っていなかったテツは、自転車をまたいだまま足で地面を蹴ってわたる。
「なんで止めたの？」
「おそらく、敵の拠点はあそこだ」
腰をおろし、欄干の隙間からトシはある一点を指差した。
先程の道を直進して、さらにその先の交差点を右に曲がったところ。
「そこのガレージだ。見えるか？」
日はもう沈んでいて、暗がりになっているが、確かにそこには白いガレージがあった。そして——
「あっ、あのトラック！」
「静かにしろ。全員出てくるまで待ってから行くぞ」
そういっている間に、トラックからは続々と戦闘員達が飛び降りてくる。
そしてその中には、サキの姿もあった。
「サキ！とりあえず無事みたいだぁな」
「らしい。おし、行くぞ」
タイミングを見計らったのか、トシは欄干から飛び出し、先ほどの道へと繰り出た。
「ちょ待てい！」
テツはそれを追っかける。
「ストップ」
「わったたた！！！」
小走りで来たところに急にストップをかけられ、減速し損ねたテツはトシの背中にぶつかった。
「急に止まるｎ——「しっ！」
抗議しかけた口に手を当てられ、テツはむぐぐ、と声を漏らした。
——ふっと身体が軽くなって、地面が離れていく。
「出た、幽体離脱。」
テツはため息混じりに言った。トシに手首を掴まれながら、反対側の手をひらひらさせる。
「これで移動できっかな」
それを無視してトシは言った。何をするつもりなのか。
「中に入る」
「おーけ。このまま行って大丈夫なん？」
「多分な。姿は見えない、声は聞こえない、壁も通り抜けられる。後は、戻った時にワープしなけりゃいいんだが」
そう。この幽体離脱は、一時的に移動が可能なものの、元に戻ると体の位置が最初のところにワープするのだ。
それがなければ、完璧な移動手段となるに違いない。
「行くぞ」「あいー」
テツはこの感覚に今だ慣れていない。
身体をトシに預けて、ゆっくり、ガレージの方に向かって降下していく。
停車中のトラックの前に、警備員らしき人物が二人いたが、その間を縫うように進んだ。どうやら大丈夫らしい。
「ここから入ったよな？」
「多分ね。どっちにしろここしか入るとこないでしょ」
「まぁ、どこからでも入れるんだが。目ェ瞑っとけ」
言われてテツは目を閉じた。数秒、移動した感覚を覚えると、「あけていいぞ」と声がかかる。
——目を開くと、そこは教室くらいの広さの、コンクリート張りの空間だった。
- Re: 【Season 1】 ステグラ 【夏】 ( No.44 )
- 日時： 2012/10/04 01:56
- 名前： ヲーミル （ID: udGLrEOr）
- 参照： もうクライマックスまで一気に書くよ！
１１
「止まったらしいわ」
ふと、ユズハが言った。
募る不安を紛らわせるために、室内を歩きまわっていたスグルは振り向いた。
「え？」
そして、画面の覗き込む。
「ほら、赤い点が。ぴくりとも動かない」
ユズハは画面の中央付近に映っていた赤い点を指差す。確かに、動いていない。
「信号じゃない？」
「こんなところで５分も信号待つ？」
確かに、それもそうだ。
「で、トシ達がその周りをさっきからうろちょろ」
赤い点のすぐわきに、少しずつ動いている青い点がある。
しかしその動きは直線的でなく、まるで迷子の子供のようだ。
「…敵のアジトなのか？」
「そうかもね、分かんない」
その時だった。ぶぅん、と低い振動音と共にパソコンにつながれているテツの携帯が震えた。
二人で見合い、なんとなくスグルがとる。
ディスプレイを付けると、新規メッセージを伝える通知があった。
タップでメッセージ画面に進む。
メッセージはスグルの携帯からのものだった。
件名：無題
本文：アジトらしき倉庫に到着。一瞬だけサキを確認。現在捜索中。俺の携帯は回収する。
「だってよ」
スグルは声に出して読み上げ、「どうする？」とユズハに視線を投げた。
「どうする、って言われても……」
動くなって言われてるからなぁ、とユズハは唸った。
「返信してみよう」
スグルは返信の欄をタップしてメッセージを打ち込んだ。こう見えてもタイプは速いほうだ。
件名：Re.無題
本文：了解です。俺らはどうすればいい？サキが見つかったら連絡求む。
一度ユズハに見せてから送信する。……返事はすぐに来た。
件名：Re.無題
本文：分かったからそこで寝てろ。以後返信無し。
「なんかうざー」
ユズハはそれを見て頬を膨らませた。返信なしときているから、別に返さなくてもいいか。
「でもさ」
とスグルは切り出した。「透明になれるんだからもう後は簡単じゃない？」
「だといいんだけど」
と、珍しくユズハは不安げな表情を見せた。
- Re: ステノグラフ ロケーション ( No.45 )
- 日時： 2012/10/05 02:58
- 名前： ヲーミル （ID: SLbP8tlp）
- 参照： 文章雑すぎワロス
１２
ドアを抜けると長い廊下が続いていた。
両脇の壁には鉛色のドアがずらりと並んでおり、いくら歩いてもその光景は変わらない。
ザグレフがループ空間に入り込んだ錯覚を覚えたとき、ジャックはとあるドアの前で止まった。
「……ここだ」
ジャックはドアの上部に書かれた大きな文字を顎で示す。
『 la cruz 』
「十字架、ですか」
ザグレフの後ろにいた側近が控えめに言った。ジャックは頷く。
「その通りだ。まぁ、入れば分かるが」
そういって、ジャックはドアを押し開けた。どうやら鍵はかかっていないらしい。
廊下から見る限り、室内は暗闇に包まれ、中の様子がまったくうかがえない。
と、ジャックが内側の壁に手をかけると、薄い光が灯り始め、そして——
「……ほう、」
ザグレフは思わず言った。
そこにあったのは、大きな十字架だった。
木製のようで、高さは3ｍほど。根元には土台と思われる正方形のコンクリートブロックがある。
二本の柱が交わったところからは鎖のようなものが垂れ、支える方の柱に絡みついている。
そしてその先は床をずっと伝い、左右に分かれて、十字架の両脇にある、太さ50cmほどの白い円柱に繋がれていた。
全体としては、中央奥に十字架、その両脇手前に円柱が立っていて、それを二本の鎖が繋いでいるようだった。
「これが、神による、意志の決定の儀式だ」
「神……か。」
ジャックの言葉に、ザグレフは笑みを浮かべた。
「素晴らしい。今すぐに試してもらいたい人間がいるんだが、いいかな？」
「あぁ、いいだろう。どこにいる？」
ジャックが言うと、ザグレフは腕時計に目をやった。
「日本だ。戻るにはもう少し時間がかかるが……」
「いや、必要ない」
ジャックは首を振った。そしてポケットに手を入れる。
「日本のどこだ？北か？南か？」
「どちらかといえば北だが」
それを聞いて、ジャックはポケットからあの小さな白い箱を取り出した。
「どちらかといえば、か。日本の地理に詳しい人間は？」
「部下にいる。今は『東未来町』とやらにいるとのことだが」
「……知らんな。まぁいい。ならば、あの駅に来てくれるように伝えてくれ」
ジャックはそういうと、ある駅の名前を口にした。ザグレフは胸ポケットから手帳を取り出し、それを書き込む。
「わかった。そうしよう」
「それと、面倒だから試したい人間っていう奴は眠らせておいたほうがいい」
「それも、伝えておこう」
ザグレフが頷くと、ジャックは箱を持った手の親指でパカッとふたを開けた。
「あんたは来るのか？」
「え、あ、では……」
突然声をかけられ、動揺した側近はザグレフの顔を伺った。
「来い。ここに居ても暇なだけだろう」
「……決まりだな。行くぞ」
ジャックは箱の中の赤いボタンをそっと押した。
視界が渦巻き、闇に消える。
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