複雑・ファジー小説
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- 世界を作る、霧の様な何か。 10/20いちほ中
- 日時: 2012/10/20 20:00
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: aaUcB1fE)
- 参照: 私たちの叫びが——いつか報われますように。
ねぇ、私の声が聞える? 私達の叫びが、聞える?
〆柚子です、柑橘系です。
【The world of cards】をご愛読いただき、有り難うございます。今作は、能力などは出てきません。
普通とは何かが欠落した、何かを多く持った、そんな日常を送る人間達の物語となっております。
訂正、能力ではなく特異体質は出て来るようです。
長々とした挨拶文、申し訳ないです。最後に。
紳士淑女の諸君らは、彼らの闇に触れられますか。触れようと思いますか? これが現実だと述べたならば、諸君らは信じますか?
答えは、結末を迎えた後、諸君等の心の中に——
〆お客様
まだいません。
〆注意
:更新は亀以下の速度と思ってください。
:メインは【The〜】の執筆です。
:リアリティを出せるよう努力するための、訓練作品となります。
:グロ、エロ、流血……。様々な表現が施されるので、小中学生の閲覧はお勧めできません。
〆目次
プロローグ⇒世界を始める前に「>>001」
第一話⇒人間カタログ「>>002-004」「>>005」
〆お知らせ
:特になし:
〆更新履歴
2012
10/12 スレッド設立
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- Re: 世界を作る、霧の様な何か。【閲覧年齢注意作】 ( No.1 )
- 日時: 2012/10/13 17:04
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: 5CudQAEE)
プロローグ『世界を始める前に』
——ねぇ、私の声が聞こえる? 私達の叫びが、聞こえる?
ようこそ! 我が世界へ! 狭い路地裏を抜けこの場に君がやってきたのか、テレビコマーシャルで知ったのか、私は分からない。いや、分かる事は無いだろう。
今日、君達には決めてもらいたいものがある。『人間カタログ』というのを、君達は存じているだろうか? 別に笑いはしない。知らない事が、君達の世界での常識なのだろうから。
『人間カタログ』と聞けば、そのカタログが何を記しているか分かったものも居るのではないだろうか。君達の大多数が思っているであろう内容と、ほぼ同じ。“生きた人間を売買するための、商品カタログ”さ。
ただ私は、大事なカタログ商品を売る気は毛頭持っていない。もっているのは、君達がこれからどのように過ごしていくか、どのように世界を作っていくか、それを見るだけだ。
勿論、直ぐに死んでしまっても構わないのだ。私が困ることは、何一つ無い。……おっと、これは嘘だな。困ることも少なからず存在するが、阿呆のように騒ぎまわるほどの内容ではない、というわけだ。
右から順、私が君達の運命を決めていって差し上げよう。
覗いてしまった十五人の者達も、等しく私の望んだ世界を作るため協力して欲しい。私が、君達が、己の身の丈にあった世界を作る事が出来ているのか。ただ、気になる。
——叫び声が聞こえた者は、いるかい?
苦痛に悶える、快楽に浸る、悦に夢む、現を泳ぐ。そんな者たちの心の叫びが。
今行かん、我が世界を作る霧を晴らすために。
君達の世界を作る、霧の様な何かを探し晴らすために。
- Re: 世界を作る、霧の様な何か。 10/13更新 ( No.2 )
- 日時: 2012/10/14 08:48
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: ccgWKEA2)
第一話『人間カタログ』
私は、一体何をしているのだろう。ひとみの中に映る、真っ白な天井。鼻につく消毒液独特のにおい。大丈夫ですか、と遠くから聞える優しい女性の声。一体、私は何をしているのだろう。
ゆっくりと右腕を上げてみると、ぐるぐる巻きにされた包帯が目に入った。二の腕あたりには、点滴用の注射針が刺さっている。右腕を下ろし、小さくため息を吐いた。私は、本当にどうしてしまったのだろう。同じ疑問が、ぐるぐると脳内を駆け巡る。
そうだ、考えるのをやめよう、私に何が起きているのか、分からない。またため息を吐いて、重たくはない瞼を落とした。瞼の裏に生まれた黒い空間。無駄に広くて、上下左右も分からない。
この中に、私が居たとして……一歩進めば、もうどこから来たのかも分からなくなるのだろう。包帯を巻かれた右腕で体を支えれば、きっと骨も折れてしまうのだろうか。
「こんにちわ、お目覚めになりましたか」
不意に耳に入ってきた女の声に、瞼を開く。黒い空間の明度に慣れていた目を、白が照らす世界の明度へと慣らす。ぼやけていた光と、声の主と思える女の顔が、慣れてきた目の中で鮮明に映った。
栗色の髪を後ろでお団子にして止めた、赤ふちメガネの看護師。世間の不思議な思考回路を持つ人間達は、“白衣の天使”とでも形容するのだろう。私にそうは、見えないけれど。
「お体の調子は、大丈夫ですか? だるいとか、痛いとかありませんか」
優しく問いかけてくる彼女の手には、腕に巻かれた包帯を取り替えるための、新しい包帯があった。私は彼女の問いかけには答えず、また黒い空間へ戻ろうと、瞼を閉じる。
「具合聞いてんだから、返事したらどうなのよ。どこが痛いとかこっちが分からないっつーの」
それは、彼女の声だった。私の横になっているベッドの脇に立っている、“白衣の天使”の声。不思議の思い閉じようとした瞼は、瞬きとしてその行為を終了させた。
顔を横に傾け、じっと彼女の顔を見る。暴言を吐いたのにも拘らず、彼女は笑顔で「今から包帯替えますねー」と、私の右腕を持ちながら告げる。瞬間的に切り替わった彼女の態度に、私はついていけなかった。
「私は、どうしたのだろう」
彼女に向けていた視線が天井をとらえたとき、思わず口から言葉が漏れる。意図しないことだったが、私は同様も何もせず小さくため息を吐いた。
ただ、何故私が白衣の天使が居る病院らしき場所にいるのか、腕に包帯を巻かれ点滴をされているのかが、全くもって分からないのだ。
「患者様は、立ち入り制御区域に指定されている山道の入り口付近で倒れていたところを、そこを通りかかった地元の方に助けてもらったんですよ」
どうして、私はそんなところに?
私が有声音に表そうとした瞬間、鈍器に殴られたような鈍い痛みが頭全体に広がった。
- Re: 世界を作る、霧の様な何か。 10/15更新 ( No.3 )
- 日時: 2012/10/15 22:09
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: iAb5StCI)
痛い、痛い、痛い。痛い、その言葉しかこの鈍痛を表せる言葉がなく、私はぎゅっと目を閉じる。眼前に広がる黒い空間を、私は必死で走り始めた。後ろから誰が追い掛けて来るわけでもないのに、何故か私は走り続ける。逃げ続ける。
彼女の心配そうな声も、逃げ惑う私の耳には入ってこない。聞こえるのは、黒い空間の中で反響する私の乱れた呼吸音だけだ。最初は小さかった呼吸音は徐々にボリュームを上げ、私の聴覚を支配する。三半規管が機能しなくなる錯覚が、私を襲った。
黒い空間の重力に抗うことが出来ず、足を折って座り込んでしまう。それでもなお、私の頭は嫌がらせの如く脳をぐわんぐわんと揺らしに掛かる。ぐわんぐわんと、時たまとてつもない痛みが頭を襲った。良くないものが出来ているのかもしれない。
あの白衣の天使に、頭を機械で殴られているのかもしれない。様々な妄想や想像が、黒い空間で目を閉じる私の視覚を支配する。黒い空間で、私は初めて聴覚と視覚を支配された。
自分の思ったとおりに空間を進んでいるじゃないか。
そんな気休めは通用しないようで“考える”という行為さえ、私の脳は嫌がった。耐え切れないほどの痛みに、瞑っていた瞼を開く。世界は明るく白くなった。
「患者様、大丈夫ですか!?」
はぁはぁと乱れた呼吸に、口の中が渇いた感じがする。視線を下にやれば、必死に空気を吸って吐いている口が見えた。それから声の聞こえたほうへ、顔を動かす。たった一人だけのはずだった白衣の天使が、いつの間にか増えていた。白衣の天使ではなく、“白衣の堕天使”と言って良いだろう医者も、その中に居るようだ。
「私は、一体どうしたのだろう」
先程口から出た言葉が、またひょっこりと顔を覗かせた。その言葉が口から出て、どこか遠くへ遊びに行くと同時に、多くの有声音が聴覚を支配した。
「記憶無いのかしら」
「どうしたのだろうって、私たちが知ってるわけないじゃないのよねぇ」
「ったく、厄介な怪我人連れてきおって」
「見た感じ未成年っぽい感じだけど、保護者とかどうしたら良いのかしら」
「他の患者も入ってきてベッド足りないのに、お金払えない患者は出て行ってもらえないのかしら!」
一斉に、全ての言葉が重なったまま私の耳に侵入する。怖い、怖いこわいこわいこわいコワいコワイコワイコワイ! 体の芯が震え上がるような、なんとも形容し難い感覚が体中を駆け巡る。怖い。周りに居る天使の皮を被った悪魔が、どうしようもなく怖くなった。
倒れていた理由が分からないのだから、保護者なんて分かるはずがない。そう言おうとしても、口が閉じたまま開こうとしない。意味の分からない不思議な感覚が、体を廻り廻った末一つの心のファイルをめくった。いや、それは私の心のファイルではなく記憶のファイルだった。
「君、名前は? あと年齢と職業、性別も教えて欲しいんだけどな」
白衣の悪魔達の中の一人が、優しく私に言う。二度目の幻聴、というには鮮明で私の脳を反響して回った声とは、全く違った。何処までも慈愛に包まれ、深い優しさがある暖かな声。私は一度瞬きをし、天井を視線いっぱいに含みながら口を開いた。
「名前は、斉賀 香佑(サイガ コウ)。性別は……女で、年齢は多分十七歳。あとは、何も分からない、です」
誰かに操られているかのように、スラスラと今分かっている私の情報を曝け出す。ボールペンのペン先が動く独特の音が、私の耳に届いた。
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