複雑・ファジー小説
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- 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア
- 日時: 2017/01/30 20:12
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: VHEhwa99)
西暦2XXX年、文明レベルとテクノロジーが飛躍的に発達した時代。
世界を支配していたものは人で無く、未知の生命体だった。
—————『竜種』。
既存兵器の類は無効、窮地に陥った人類は忌むべき過去の遺産『核』さえも使用した。
だが、それでも跋扈する怪物。
竜種から逃れるため、安全な汚染の少ない大地をめぐる人類同士の紛争が勃発、これにより人口は激減の一途を辿る。
辛うじて生き残った人々は、身を寄せ合い己の終幕が告げる刻を待った。
しかし、生化学企業『エキドナ』がある細胞組織を発見する。
画期的かつ、効率的な万能細胞組織。
『竜種細胞』である。
その細胞を組み込み、精製された新たなる兵器。
—————『ドラグーン』。
人類は脅威に対抗する術を手に入れた。
幾多の苦難を乗り越え戦う者たち、時に世界を揺るがす強敵との邂逅。
それでも人は明日を信じ夢を託し、歩み続ける。
————希望という未来に向かって。
黎明と黄昏、永劫と終焉が渦巻く蒼き星、地球。
ひとりの少女が目覚めた。
それは遥かなる運命。
創世より刻まれた、古き邪念との長きに渡る宿命の戦いの始まり。
これは、悠久から続く運命の鎖を絶ち斬るひとりの少女の物語。
皆様、如何お過ごしでしょうか、Frill(フリル)です。この度連載小説『竜装機甲ドラグーン』の続編・スピンオフ的なお話を執筆していきたいと思います。ネタ、厨二満載な、お目汚しの駄作ですが、御付き合い下されば幸いです。本元も随時更新していきます。※中傷、批判、宣伝等のコメントは荒らしとさせて戴きます、御注意下さい。
登場人物紹介&ドラグーン紹介
>>20 >>21 >>22 >>23 >>39 >>40
本編
Act.0 目覚めるは、少女
>>1
Act.1 追う者、追われる者
>>2 >>3 >>4
Act.2 漂流、そして遭遇
>>5 >>6 >>7
Act.3 戸惑い、虚ろなる器
>>8 >>9 >>10
Act.4 激戦、戦いの狼煙
>>11 >>12 >>13
Act.5 天地光輝、暗黒の太陽
>>14 >>15 >>16
Act.6 開く地獄の門、呼ぶは煉獄
>>17 >>18 >>19
Act.7 力の証明、己の居場所
>>24 >>25 >>26
Act.8 修羅の炎、内なる焔
>>27 >>28 >>29
Act.9 死を運ぶ風、北方よりの使者
>>30 >>31 >>32
Act.10 風雪の大地、視通す少女
>>33 >>34 >>35
Act.11 埋もれた記憶、蘇える追憶
>>36 >>37 >>38
Act.12 蝕み、淀み
>>41
Act.13 残影、残光
>>42
- Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.28 )
- 日時: 2014/05/15 02:04
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: m37ThBn8)
蒼黒の機体を照らす残り火。
シエルはコックピットのシートに身体を預けながら、異様に高鳴る動悸を抑えるのに必死だった。
身を包むのは炎の熱だけではない。
己の内から湧き上がる高揚感。
竜種を焼き尽くすたび、一匹一匹滅ぼすたびに、感じるのだ。
暗い悦びを。
その体表を、鱗を焦がし、肉を裂き、骨をも穿ち、すべてを燃やし塵芥へと到らせる、断末魔さえも。
心地良く染み渡る。
このまま、身を委ねてしまいたい。
そう想わせてしまうほどに、快感が自分を苛ませるのだ。
「・・・違う。わたしは、決して望んでなどいない・・・違う・・・『あれ』とは、違う・・・」
眼を閉じ、押し寄せる暗闇を払おうと、かぶりを振る。
その時、コンソールのホログラムレーダーに高出力の敵影反応を感知した。
「ハッ!? 竜種反応! 新手か!!」
我に返るシエルがアンフィスバエナの機体を翻し、周辺を見回す。
そして、高速でその場から離脱、ジナたちから遠く離れていってしまう。
それに気付いて慌てるジナたち。
「あっ!? ジナちゃん!? どこ行くの!」
「勝手に戦線から離脱したら、駄目よっ!!」
「微弱ですが、竜種の反応がありました! 恐らくそれを追って行ったと思われます!」
三人は直ぐに後を追い、シエルが消えた方角へドラグーンを傾けた。
高速で荒野の上空を飛翔するアンフィスバエナ。
「確かにこの辺りで反応があったはずだが・・・」
周辺を探すがそれらしい影は見つからない。
機体の索敵レーダーからも反応は消えてしまった。
「・・・いや、いる・・・まだ、ここにいる。・・・何処だ・・・?」
だが、シエルは何か巨大な気配を、生物の息遣いをその肌に感じていた。
身を潜め、獲物の隙を窺うように、こちらを入念に探っているのを直感的に確信していた。
それもごく間近に、すぐ傍に・・・。
コックピットからも周辺を全方位カメラで調べるが、姿を確認できない。
油断無く、何時でも対応できるように紅の銃剣を構えた、途端、
機体の背後、真後ろに巨大な影が覆うように突如、空間から出現したのだ。
「なっ!?」
瞬間的に銃剣を斬り抜き、金属音がなる。
しかし頑強な外殻に阻まれ、手応えを感じない。それどころか、超速で機体に絡みつく異様に長い物体が動きを阻害し、凄まじい圧力で締め上げる。
「こいつはっ!!?」
捉えた獲物を吟味するように己の目線まで持ち上げる異形。
まだら模様の不気味な外色の鱗、長大な蛇腹と大きく広げられた横隔の被膜、シュルシュルとその巨大な口角から生える鋭牙の隙間から長い二股の毒々しい色合いの舌を垣間見せる。
それは超巨大な『蛇』だった。
コブラのような被膜をかかげ、己の長い尻尾で巻き付かせたドラグーンを冷たい温もりを窺えない爬虫類の瞳でギョロッと見据えていた。
ミシミシと締め付ける尾の力が増していく。
「チィッ! 擬態能力を持った新種、いや、異竜種か! だが、この程度の拘束、わたしのアンフィスバエナの炎が・・・!!」
シエルは機体出力を高め、拘束から脱出を試み始めたのを察知したのか、大蛇の異竜種が威嚇の鳴き声を上げた瞬間、
その巨躯から凄まじい電撃が発せられ、機体もろともシエルの肉体を衝撃が貫いた。
「がぁあああぁぁああぁああぁっっっ!!!???」
躰を走る電流に意識を持っていかれそうになるが、とつぜんピタリと止む。
大蛇は中のシエルを覗く様に近づき、瞳をギョロつかせる。
「こ、こいつ・・・わたしを・・・!」
そして、再び強烈な雷を浴びせた。
「ッッッ!!!!!」
声も上げられない、先程よりも強めの電流が流れ、そして再び止んだ。
まるで、弄び、いたぶるように。
- Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.29 )
- 日時: 2014/05/15 13:24
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: hRfhS.m/)
コブラ型の大蛇の異竜種は、シエルの悶える反応を楽しむかのごとく、微弱な放電を繰り返す。
「ぐぅうううっ・・・!! がぁああああっっ・・・!!!」
機体は黒煙を上げ、シエルは息も絶え絶えに電流に耐える。
怒りと憎しみが渦巻き、モニター越しの目の前に映る怪物を殺意の籠った眼光で睨むと、せせら笑うように口角を上げる大蛇。
再び放電を与えてやろうと、胴体がしなり出す。
そこへ————。
「竜爪虎襲撃!!!」
清龍が脚甲から展開した鉤爪の蹴りを放ち、異竜種の巨躯を攻撃した。
だが、蛇の強靱な蛇腹の鎧に亀裂を入れたが、柔軟な身体が衝撃を吸収し、さしてダメージは受けた様子が無い。
「シエルちゃん! すぐ助けるから!!」
ジナが追撃を敢行しようとすると、異竜種は眼前に捉えたアンフィスバエナを盾にし、電撃を発生させる。
「あぁあああっ————ッッッ!!!」
スパークが弾ける機体、シエルの叫びが木霊する。
「シエルちゃん!?」
前に出ようとするジナを後方から追い付いたケイとユニスが止めに入る。
「待って、ジナ! 今、そいつを刺激したらシエルさんが!!」
「駄目です! ジナさん! 落ち着いてください!!」
ふたりの言葉に動きが鈍り、断念する清龍。
「くっ・・・! でも、シエルちゃんが・・・!!」
異竜種は、狡猾にもシエルを人質のように見せ付け、三機のドラグーンを挑発するようにとぐろを巻き、嘶いた。
何かしら動こうとすると、蒼黒の竜機に電流を浴びせた。
双方膠着状態に陥ったが、明らかにジナたちの分が悪い。仲間を見捨てて、攻撃など選択肢は決してない。
何としてでも打破しなければ。
アンフィスバエナのコックピット内。
すでに身体の感覚が無いシエルは放電が駆け抜けるたび、朦朧とする意識の中に、ある光景がフラッシュバックする。
遥かな、いにしえの時代。
何万の竜種の軍勢に立ち向かう者たち。
円卓を囲む十三の騎士。
それぞれに剣をかかげる人影たち。
竜種にして竜種にあらず、対抗する生きた十三の巨大な人型の鎧。
その中心に強い意志と決意を瞳に現し、見つめる儚げな眼差しの蒼黒の少女。
王剣をかかげ、眼前に頭を垂れ控える民衆に戦の刻を指し示す。
我が同胞よ、汝の名は・・・。
拘束された蒼黒の機体に幾何学の紋様が輝き、浮かび上がる。
四肢が異様な駆動音の唸りを上げて、大蛇の巨尾を押し広げていき、それに気付いた異竜種は強烈な電撃を放電するも、機体を覆うフィールドが無効化する。
そして尻尾は軋み、弾けるように爆散、細かな肉片を散乱させる。
絶叫を響かせる大蛇。
その姿が瞬時に空間に溶け込み消えるが、その行方を察知し視えているかのように銃剣を構えるアンフィスバエナ。
連続して穿たれる火炎弾。
そのすべてが異竜種の巨躯へと余すところなく、直撃し絶叫を木霊させ姿を強制的に表出させた。
直後、蛇腹の中腹に突き刺さる真紅のガンブレード。
蒼黒の竜機が下から上に一直線に斬り上げ飛翔した。
ずるりと真っ二つに割れた巨体を見下ろし、狙い定めた銃剣から紋様、幾何学の円陣のフィールドが形成される。
空が赤く明滅し、紅の閃光が幾重にも放たれ異竜種を貫くと魔法陣のような光球が包み込み、
うねり巻き起こり、天を翔け昇る爆炎の柱。
「うわっ!? なに、これ!!」
「くっ! 機体が溶解しそう!!」
「ふたりとも! ビットの後ろに隠れて!!」
ユニスが複数のビットからビームシールドを展開し、防御陣を形成する。
同時に紅蓮の熱波がすべてを覆った。
- Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.30 )
- 日時: 2014/05/18 16:17
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: f/UYm5/w)
Act.9 死を運ぶ風、北方よりの使者
シエルは眼を覚ました。
極東支部のメディカル・ルームの病室、白い天井、薬品の匂い、最早、定位置となった窓際のベッド。
もう見慣れた光景だ。
まただ、また自分はやってしまった。
思い出す、ジナたちに付き添われながら、なんとか支部まで辿り着いたが、早々に意識を手放してしまったのを。
シエルがウロボロス極東支部に配属されてから数週間が過ぎた。
だが、いざ戦闘になると力の抑えが効かないことが多々あり、他のドラグーンパイロットから巻き込まれるのを恐れられていた。
先日の大蛇の異竜種相手程でないが、時折戦闘の際中に過去の記憶の欠片らしき残像が脳裏に過ぎる。
ほとんど断片的で意味不明なものだが、稀に気になるものがあると、気分が落ち着かなくなり、竜種と戦う高揚感が合わさると感情のコントロールが難しくなる。
そんな状態の自分と共闘など堪ったものでは無いだろう。
実際、一緒に部隊を組むジナたちは、よく付き合ってくれてると思った。とても上手く対応してくれている。
しかし、思う。
このまま此処にいて良いのか、いずれ制御しきれない力で皆を傷付けてしまうかもしれない。
それに失われている己の記憶。
あの時、蘇えった不思議な光景。
複数の騎士たち、迫り来る夥しい竜種。
それに対峙する巨大な人型の物体。
あれは、とてもよく似ていた、ドラグーンと。
そして最後に出てきた少女。
蒼黒の髪・・・それはまるで・・・。
いや、まだ確信が持てない。ハッキリしていない部分が多すぎる。
もう少し手掛かりが欲しいが、現状ではこれといって当てはない。
今は、自分の力を少しでもコントロールすることに専念した方がいいだろう。
それと、ジナたちには改めて詫び、礼を言おう。
それから幾日が過ぎ、シエルは折り入って、話があるとしてカガミのオフィスに一人呼び出された。
- Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.31 )
- 日時: 2014/05/16 17:16
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: /gz88uq5)
流氷が犇めく東海、オホーツクの北端。
シエルがアンフィスバエナを駆り、一面氷の海上を飛行する。
何故、こんな所に来ているのか。
それは今から、ウロボロスロシア支部の面々と合流するためだ。
何故、こうなったのか。
少し時間を遡るのだが・・・。
カガミは頭痛がしそうなこめかみを押さえ、デスクのモニターに映る銀髪の女性を見やる。
「・・・ファリ、どこからその情報を仕入れた? まさか、またロシア支部の工作員紛いの局員を忍び込ませたのか?」
モニター越しの女性は微笑を浮かべる。
「そんな面倒な真似、もうしないわよ。うちの子が感じ取ったの、『極東にとても強い力を持つ者がいる』って。隠しても駄目よ、詳しく教えなさい」
カガミは溜息を吐いて、少女シエルについて話した。
「・・・くれぐれも内密にしてくれ、何かしらエキドナが関わっている可能性があるからな・・・」
銀髪の女性ファリことファリオンヌ・ロッテンクラート、ロシア支部局長はしばし熟考する。
「ふーん・・・記憶喪失ね・・・。その子、何とかなるかもしれないわよ、多分だけど」
「なに!? 本当か!」
「うちの支部にはそういう『力』に詳しい子がいるから、力になれるかもしれないってこと。確証は無いけど、試す価値はあると思うわ・・・ただ、ね・・・ 」
そう言うと、ファリオンヌは少し困ったよう顔を曇らせる。
「何か、問題があるのか?」
カガミも神妙な顔付きで聞く。
「うーん、最近謎の組織勢力がゴビ砂漠付近で何か発掘作業をしてるって報告があったのよ。私は『九頭竜』の一派だと思うんだけど・・・」
「九頭竜、か・・・厄介な奴らだな・・・。それで、戦闘があったのか?」
「そういうのは今のところは無いわ。本当に発掘してるって感じだったわ。でも、もの凄く警備が厳重よ。気にならない? 一体何を探してるのかって・・・油田とかの資源の類じゃない、奴らが血眼になって探すとしたら、そうとうに『ヤバイ』ものでしょうね」
カガミは眉を吊り上げる。
「・・・もしや、タチバナが言っていた『アレ』のことか? エキドナが掘り出した旧世界の遺物・・・過去にシャオ・メイメイやヴェロニカ・マクヴァインのドラグーンと融合したという・・・しかし、二年前の戦いで『本体』と共に消失したと聞いたぞ・・・」
カガミの半信半疑な言葉に訝しげな視線を送るファリオンヌ。
「本当に消失したわけじゃないと思う。貴女も見たでしょうに、無数の流星が蒼空から落ちてきたのを。結局被害は無かったけど、不自然でしょう、あまりにも。それからよ、世界中で異竜種が確認されだしたのは」
ふたり共言葉に詰まり黙り込む。
二年前、世界を襲った未曾有の危機。
それは、一部の者たちにしか知られていないが、当時のバハムート、ヨルムガント、シェンロンの艦長たち、そして、それぞれの艦体に所属するドラグーンパイロットの少女たちによって未然に防がれた。
それを引き起こした首謀者とされるリヴァイアサン艦長はその艦体ごと行方不明。
それに関わった、利用された者たちは艦別に身柄を引き取られた。
すべての全容が謎に包まれた事件。
終わったはずだと、思っていたのが・・・。
しかし、現に竜種は世界中に溢れている。
数も、狂暴性も増している。
これは予兆なのか・・・?
そして、時を同じくして現れた謎の少女。
何を意味するのか・・・。
この後、シエルの件について段取りを大方決めて、本人を呼び寄せた。
そして、局長室のドアをノックする音が響いた。
「シエルだが、何か用だろうか」
- Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.32 )
- 日時: 2014/05/17 16:47
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: emO5t6i/)
氷塊の海原を翔ける蒼黒のドラグーン、アンフィスバエナ。
「・・・合流地点はこの辺りか・・・」
シエルは見渡す限りの張り詰める氷の上で、呟く。
先日、カガミに呼ばれて局長室を訪れると思いもよらない話を彼女から聞き受けた。
ウロボロスロシア支部からの計らいで、自分の損なわれた記憶を蘇えらせられるかもしれないと言うのだ。
シエルはその案を了承し、ロシアへと向かうため支部から派遣される使者と合流する手筈になっていた。
「仮に記憶が取り戻せなくても、何かしら手が掛かりを入手できるかもしれない・・・」
そう思いながら冷たい霧の飛塵を機体に疾らせる。
その時、レーダーが竜種の影が間近に接近していることを警告音と共に告げた。
「・・・竜種反応! 何処から来る・・・!」
途端、真下の氷塊が音を立て亀裂し始め、大きく割り開かれた。
「!? 下か!!」
瞬時に機体を翻した刹那、アンフィスバエナが滞空していた場所を巨大な咢が氷ごと閉じ合せられた。
構えたガンブレードを狙い定めるシエル。
盛大な波しぶきを奔らせ、豪快に氷海を突き割り砕いて巨大な、そして異様な物体が姿を垣間見せた。
それは、淡い陽光の日照を浴びてキラキラと反射していた。
半透明な水晶の如き神秘的な輝きを放ちながらも、悍ましい蠢くイソギンチャクの口を忙しなく開閉させ、獲物を逃したことに憤るように甲高い奇声を発した。
それは、映像でだが見た事がある生き物だったが、今のそれとはかけ離れた通名だった。
流氷の天使、クリオネ。
そのまま巨大化させた、内部の臓器らしものが透き通る外皮から震え脈動する不気味な様がマジマジと見て取れた。
「・・・気味の悪い竜種め、直ぐに片づける!! フレアディヴァンショット!!!」
銃剣から火球を放つアンフィスバエナ。
グロテスクな見た目とは裏腹に素早く海中へと潜る竜種の頭上で炎が爆ぜ、氷を溶かし穴を空ける。
氷を浮かせな割りながら超スピードで潜行する影を追いながら炎弾を散発させるシエルだが、直前で躱され海中へと深く逃れてしまい埒が明かない。
「次はどこだ・・・?」
融解し波立つ流氷を尻目に狙いを付けていると、足元の氷が再び浮き上がる。
「そう来ると読んでいた!!」
氷塊を割り、蒼黒の竜機の真下から覗かせるを大きく開かれた大口に真紅のガンブレードを叩き込みトリガーを連続で引き絞る。
爆散。
紅蓮の豪炎を飲み込み爆ぜ飛ぶクリオネ型の竜種。
貫いた海面から炎と海水の柱が噴き上がる。
「・・・これで、ロシア支部の使者と合流しやすく・・・」
波の飛沫を浴びながら踵を返そうとしたシエルだが、レーダーに再び竜種反応が感知された。
それも、何十、いや、どんどんと増えていく。
それこそ百匹近くと・・・。
「・・・ここは奴らの『巣』だったのか」
辟易しつつも、銃剣を構え振り返るシエル。
海上から無数の影が湧き上がり、一斉に海面から飛びかかる夥しい数のクリオネ型の竜種。
シエルはアヴァドームの紅の刀身にエネルギーを集約させ始めた時、
「Осторожно(危ない)。その場を動かないで下さい。リディニーク・スミェーエルヌ・ターニッツ!!!!」
涼やかな声の後に激しい疾風が翔け抜け、通り過ぎた。
瞬間、竜種の大群は木端微塵に細断され海の藻屑と還った。
シエルは声が発せられた後方に機体を向けると、そこには雪のように白々とした一機のドラグーンが銃砲と同一化した腕甲を可変し収納する。
「アナタが極東の方ですね。ワタシがロシア支部の使者レシエナ・アレクサンドロス・エーラです。Очень приятно(初めまして、よろしく)」
風のような凛とした少女の声だった。