複雑・ファジー小説
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- 茜の丘【第七話更新】
- 日時: 2015/03/31 01:41
- 名前: 西太郎 (ID: 8topAA5d)
初めまして、久しぶりの方はお久しぶりです。以前藍蝶という名前で主に二次小説に居ついておりました、西太郎と申します。
小説カキコはかなり久しぶりなので、温かな目で見守ってくださると嬉しいです。
あらすじ
幼い頃旅の茜人に助けられて以来、茜人になりたいと願い続けてきた人間の少年・沈丁。しかし彼は妖力すら持たない根無しだった。村の大人たちに「茜人どころか、人間にすらなれない」と言われた沈丁は耐え切れずに村を飛び出してしまう。
村の結界を超えた彼を待ち受けていたのは人に飢えたアヤカシの群れ。そんなとき現れたのは、美しき茜人・槐だった。
現世に害をなす"アヤカシ"を浄化するため、茜人を目指す旅に出る少年の和風ファンタジー小説。
注意
・戦闘描写、グロが少々出てきます
・更新は不定期になりました。のんびり行こうと思います
・所詮和"風"ですので歴史上の人物が関わってきたり、片仮名が出ないということはないです
用語紹介
>>1
登場人物
>>2
〜本編〜
【二人の旅立ち】編
第一話 >>3
第二話 >>4
第三話 >>5
第四話 >>6
第五話 >>7
第六話 >>8
第七話 >>9
執筆開始 2015.03.15.
- Re: 茜の丘 ( No.1 )
- 日時: 2015/03/31 01:56
- 名前: 西太郎 (ID: 8topAA5d)
【用語紹介(50音順)】
・茜人…アヤカシを浄化する人のこと。
・アヤカシ…現世に害をなすもの。
・術…妖力を持つものがその力を駆使して行う技。生活が便利になる術や、戦闘向きの術がある。その多くの使い方は書物に書き残されているため、簡単な術であれば幼い子供で使うことができる。ただし、使う術によっては向き不向きがある。
・根無し(ねなし)…妖力を持たない人への蔑称。
・妖力…万物に備わっているとされる魔の力。ただしその大小には個人差がある。
【術紹介(50音順)】
・治癒術…身体に出来た傷を治す術。無理矢理皮膚を引き伸ばすためしばらくは違和感があるが、完璧に使いこなせることができれば時間が戻ったかのように綺麗に治る。妖力を大量に消費し、尚且つ集中が途切れると余計な怪我をうむリスクがある上級術のため使用者はほとんどいない。
・火粉術…火粉を出現させる術。点ける対象がないと使用は難しい。用途はかまどに火をつけるなど。火系統の術の中では最も簡単で、全ての術の中でも簡単な部類。
・不干渉術…物体を手を使わずに物体に干渉する術。用途は自分の腰を痛めることのない草抜きなど。対象に集中する必要があるので、使用者は少ない。
随時更新
- Re: 茜の丘 ( No.2 )
- 日時: 2015/03/31 01:34
- 名前: 西太郎 (ID: 8topAA5d)
【登場人物】
【沈丁】
人間の少年。茜人見習い。
正義感が強く、我慢強い性格。反面お世辞にも言葉遣いは上手ではなく、人に対して劣等感を抱きやすい。ガラスのハート。
妖力を持たない根無しで、村ではずっと蔑みの対象だった。一人称は「俺」。
ぼさぼさの短い黒髪に、黒い目を持つ。身長165cm。
【槐】
人間の男性(年齢不詳)。茜人。
穏やかで天然な性格。強い妖力を持ち、色々な茜人に慕われる。一人称は「私」。
茜色のさらさらの長髪をポニーテールにしてまとめ、もみあげも毛先に近い場所で縛っている。髪と同じ茜色の目を持つ。非常に顔が整っており、女と見間違うような美人。身長179cm。
【???】
アヤカシの少女。
とある町で悪戯を繰り返しているようだが……
- Re: 茜の丘 ( No.3 )
- 日時: 2015/03/15 18:05
- 名前: 西太郎 (ID: 8topAA5d)
【第一話】
「あっ……」
気づいた時には既に遅かった。狼のような見た目のアヤカシ、その大群を目の前にして俺は一歩も動けなかった。アヤカシは飢えた目で俺をじっと見つめている。それはそうだ、村に結界が貼られてからこのアヤカシたちは口に出来たのは哀れな旅人のみ。しかもこの辺境の村に訪れるような旅人など、そうそういないのだった。激情に任せ、結界を飛び出してしまったのは完全に己の失態だと心の奥で気づいていながら、まだあの村人たちのせいのしようとしている自分がいる。
『妖力もねーのに、茜人なんて馬鹿げてる! お前は人間ですらないだろ、この根無し!』
根無し、幼い頃からそう呼ばれて育ってきた。俺には沈丁という名があるにも関わらず、皆が皆そう呼ぶのだから最早もう一つの名と言っても過言ではないなと聞き流していたが、先程それは明確に蔑称という意味を表して自分を示した。俺は人間だ、と一つ叫べば嘘つき、と十返ってくる。味方がいないとはなんと虚しいことだろう。
いや、そういえば昔一人だけいたのだ。アヤカシの瞳を見つめるうちに頭の中に走馬灯が蘇る。
あれは村人に見せしめとして結界の外に追い出されたときだ。
アヤカシが自分に明らかな敵意を持っていることに気づいて、俺は今と同じようにただただ怯えていた。
幼いながら死を覚悟したそのとき、目の前に白い閃光が走った。しばらく目の焦点が合わず何度も目を擦り、やっと眼前の光景を見ることができた。
先程までは狼の形を成していたアヤカシの全てが黒い霧となって霧散していく。その前に一振りの刀を携えて立っているのは、髪の長い、女とも男ともとれるような分厚い羽織を着た人間だった。
訳も分からずに呆然としているといつの間にか気を失っていたのか、気づけば自宅の貧相な納屋の干し草の上で横になっていた。後から村人がこそこそと話していたことを継ぎあわせると、俺を助けたのは茜人という、アヤカシ浄化を生業とする正義側の人間であることがわかった。
それからなのだ、俺が茜人に憧れはじめたのは。
それまで訳も分からず、意味もなく生きてきた俺に目標ができたのはなんと幸せなことであっただろうか。茜人の話を盗み聞きしてはその行いを真似た。人に優しく接し、悪者を退治する。結局悪者は自分に擦り付けられるのが関の山であったが、物心もついていない幼子が笑うのを見るとそれだけで自分の心は踊るようだった。
ささやかな俺の人生はここで幕を閉じる。未練はないようで、ある。最近言葉を覚え始めたあの幼子にさよならと言いたいし、根無しにご飯を作ってここまで育ててくれた親に、あのとき自分に目標をくれた茜人に、ありがとうと言いたい。
ぼうぼうに生えた雑草にアヤカシの涎が落ちてぺしゃりという音を立てたと同時に、彼らが襲いかかってきた。
そっと瞼を閉じて訪れるであろう肉を引き裂く痛みに耐えようとした。一匹がごり、と音を立ててその牙を肩に食い込ませる。あまりの痛みに体中に汗がどっと湧いて、声すら出なかった。思わず目を開いたとき、目の前に見えたのは二足の草鞋だった。
「……っえ」
その瞬間膝の上にアヤカシの首が落ちてきて、一瞬思考が暗くなる。溶けるようにして黒い霧となったそれを、草鞋の人がめいっぱいに吸い込んだ。
「うーん、凄く淀んでいるなあ……ねえ君、大丈夫? 肩すごいよ」
「え、あ、はい……」
ぱちぱちと目を瞬かせた。既視感のある光景に追いつけずにいると、眼前にそっと角ばった手が差し出される。
「私は槐。茜人を生業としている者だ。よかったらその傷、私が手当してあげよう」
恐る恐る顔を上げる。
茜色の髪を持つ美しい顔の人間が優しい笑みで俺を見ていた。
- Re: 茜の丘 ( No.4 )
- 日時: 2015/03/31 01:30
- 名前: 西太郎 (ID: 8topAA5d)
【第二話】(人称あやふやだったんですが、ここから三人称になります、申し訳ありません!)
「へえ、君、ここの村の人なの! 丁度道に迷ってお腹ぺこぺこだったんだ。良かったら、村に案内してもらえないかな?」
淡い黄色の光がこの槐という茜人の着物の袖口から溢れてくる。その光は迷わず沈丁の傷口へ染み込んでいき、彼はぎょっとした。絶えず流れていた血があっと言う間に止まり、あろうことか傷口さえ塞がっていく。
(治癒術なんて、村の誰にもできないのに……!)
治癒術というのはかなり高等な妖術だったはずだ。町からたまに来るお医者さんだって、すぐに傷を治すような術は扱っていなかった。
しかし見た目は完璧に元通りになったが、傷口だった部分の皮膚が引きつっているようで正直まだ痛い。
拭いきれない違和感に唇を噛むと、ぺらぺらと話し続ける茜人はそれに気づいてやはり袖口から包帯を取り出した。
「まあ私の治癒術も完璧ではないからね。しばらくはこれで固定しているのがいいだろう」
慣れた手つきでくるくると真新しい包帯を巻かれて、手当は完了した。
「この村だって結界は貼ってあるだろうに、なんで外に出たんだい? 親御さんも心配してるよ、早く帰ろう。後よかったら私にご飯を」
「心配なんか、してない」
「うん?」
「俺の親は、親じゃないんだ。心配なんかしねーよ。それより茜人さんだろ? 村長に言えばご馳走が出てくると思うぜ。村長の家はここからまっすぐ行ったら大きなお屋敷があるからそれ。じゃあ、またなっ」
「えっ、ちょっと、君!」
唇を噛み締めて俯いたまま、村の方向へ走り出した。しばらく踏みならされていないちくちくした雑草の上にいたからだろうか、裸の足がなんだかこそばゆい感じがする。大人に優しく接してもらうのは沈丁にとっては初めての体験で、どうしても心が処理しきれずにいた。
村に案内したところで、案内した坊主がこのような根無しではあの心優しい茜人にとっても屈辱だろうと沈丁は思った。自らで恩を返せないのは心残りだが、村長の家は示したし、お腹を膨らませて帰れるだろう。
そう思って走り出したというのに、槐という茜人は大人しそうな外見からはとても考えられないような速さで追ってきた。
「追ってくんなよお!」
「まっ、待って待って! ねえ!」
包帯で腕ごと肩を固定されているせいで腕が触れず、思うほど速く走れない。なんとかならないかともたつきながら走っているうちに、道に転がった小石に気づかず顔面から派手に転ぶ羽目になってしまった。
「うわあぁっ!」
ズザザッ、グシャッ!
普通に転んだだけではここまで変な音はしないだろうに、それでも沈丁は呻きながらも痛いとは言わない。
小石にぶつけた小指が痛い、砂利に擦れた眉間が熱い、しかも槐がゆっくりと近づいてくる気配がして、先程アヤカシに襲われた時よりも悔しいような思いがしていた。
「ほらあ、余計に怪我を増やして……君の家を教えてくれないかい? もう一度手当をしてあげるよ」
「いや、もうほんとに勘弁してくれよ……」
正直追いかけるほどの理由がわからない。無駄に走ったり、悔しい思いをさせられたり、村人に日常的に受けるものとはまた違った何かが、沈丁にこの言葉を口走らせた。
「俺は、根無しなんだよ!」
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