複雑・ファジー小説

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小さな本棚
日時: 2016/08/24 13:42
名前: 狒本大牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 6mW1p4Tl)

 本棚がある、とっても不思議な。
 目を離すと、知らない間に新しい本が立っている、魔法の本棚。
 今日も待っている、しかし現れない。
 明日も待ってみる、やっぱり現れない。
 仕方がないかと目を逸らす、何日経ったかは覚えてない。
 思い出した頃に本棚を見る。
 ほうら、やっぱり新しい本があったよ。






初めまして、あるいはお久しぶりでして、受験が終わりました
という訳できっちり戴冠式とこの短編集の更新をしていきたいと思います。
ちなみにこの間までは狒牙という名を使っておりました。なんというマイナーチェンジ。
不定期に更新されていく様子を記したのが上記の文章、あちきの描写力はあの程度でしかありません、悪しからず。
月に一度覗いてみると、きっと知らない本が増えていると思います。

>>1
>>2
>>5
>>6

Re: 小さな本棚 ( No.2 )
日時: 2015/04/05 20:12
名前: 狒本大牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: W5lCT/7j)

title:街灯の独り言



 君たちはよく落とし物をする。うっかりものも、しっかりものも関係ない。落とすときは落とすものだし、気を付けているかは関係ない。眠気をこらえて暗闇を睨んでいても、気づけば朝日に照らされるように。
 大切なものを落としたとき、君たちは大抵必死に探し回る。逆にそれほど必要でないものだったら、きっとそれほど慎重には探さないだろうね。そして君たちが落とすのは、大概は不要な物なのさ。だってそれほど大切にしていないものほど、気を配ろうとはしなくなるからね。
 僕は道端に立っているたかだか一人の街灯だけれど、君たちが落とし物をするのはよく見る。急いで走っている人が鞄の隙間から財布をこぼしたり、ぶかぶかのズボンをはいている人がポケットの定期入れを落としたり。ぶつかった弾みで手に持っていたもののことを忘れたり。
 その様子を目にしても、僕は君たちを呼び止められない。だって僕には口が無いからね。この僕に言葉が与えられたなら、すぐに君たちに声をかけて、何かを無くしたりしない世の中にできるのにね。

 でもね、君たちが落とすのは形あるものだけだなんてことは決して言いきれない。言葉がある君たちだからこそ、喧嘩や争いは生まれるから。意見がぶつかって、どうしようもなく相手を傷つけあって、そして気付いたら君たちは大事なものを見失ってる。
 それは絆だとか、心だとか君たちがきらびやかな言葉で彩っている、そんな何かだ。相手に刺を突き刺して、自分に突き刺されて、君たちの掌にあるそれが、端の方から砂になって、さらさらさらって崩れてく。
 何が悲しいかって、大体そんなことの原因はとてもつまらないことなんだっていうこと。
 たとえば、あそこにいる男女を見て。彼らは僕の足下で待ち合わせをしていたんだけどさ、男の方が遅刻しちゃったんだ。すぐに謝ったら女の人もすぐに許したんだろうね。けど、男の人はてんで悪びれずただへらへらと、今日の予定を喋りだしたんだ。
 そりゃあ、待たされた上に反省も無かったら怒っちゃうよね。そこで女の人もちょっと嫌味を言っちゃったんだ。そこからがもう大変だよ。自分は悪くないと思ってる男性はたかだか十分じゃないかって言うし、女の人も毎度待たされる私の身になってと反論する。どう考えても、これは男の方が分が悪いね。
 そしてそのまま大喧嘩、早く謝ったら良かったのに。どうしてこんなにこじれちゃったんだろうね。たった一言ごめんと謝るのにどうしてそんなに意固地になっちゃうんだろうね。

 ついに女の人の堪忍袋の緒が切れて、相手に背を向ける。くるりと踵を返した彼女は、もう男の言葉なんて聞かずに歩き出した。
 ほうらやっぱり落とし物。君たちは本当に懲りないなぁ。
 けれどね、君たちに覚えておいて欲しいことがあるんだ。

 男の人は慌てて彼女に駆け寄ったんだ。待ってくれ、俺が悪かったんだ、ってね。
 もう分かったよね、僕の言いたいこと。

 落とし物はね、探し出したら拾うことができるんだ。




<fin>

   

Re: 小さな本棚 ( No.3 )
日時: 2015/04/06 09:40
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: g8eYpaXV)

お久しぶりです。えっと、合作の件とか覚えていらっしゃるかな?
と、戯言はこれまでにして。
何か文章前より柔らかくなった気がするんだけど、何かありました?
それとHNが……我が同士じゃなくなってしまった(黙れ

Re: 小さな本棚 ( No.4 )
日時: 2015/04/06 16:07
名前: 狒本大牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Rzqqc.Qm)


>>風死さん

話は長くなるのですが

受験終わる
独り暮らしに
パソコンないからスマホでカキコへ
しかし総合掲示板にはフィルタリングが発動する
無線LANがないと入れない
無線LAN届く←今このあたり

という訳でして近日中にそちらへ向かいます

文章は三人称なら今でも無駄に固いです
一人称だとその人の人物像によって変わります
そんな感じです


いやいや、まだまだ裏切ってはいません、一文字目と四文字目を見てください
という訳でしてまたよろしくお願いします

Re: 小さな本棚 ( No.5 )
日時: 2015/04/06 22:15
名前: 狒本大牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Rzqqc.Qm)


title:深海にて



 暗い、何も見えない、心細い。怖い、恐い、畏い……。
 塩の鎖で縛られた人魚は絶えず歌い続ける。己の感情を声にのせ、音をつむぎ、歌を編んで。悲痛な叫びが走り、駆けて、すみ渡る。
 目には封をされていない。しかし何も見えない、ここは深海、人知すら及ばぬ死に最も近い世界。そして裏腹に、生に最も近い世界。太古の命は海底の熱水から生まれた。彼女が椅子として座らせられているのは、そんな煮えたぎる水の吹き出す石の上。
 身も焦がれる業火にさらされるのと何も変わらない。皮膚を焼かれるが、熱さも痛みも悠久の昔から感じられなくなった。暗黒に包まれた深海に、彼女の気を紛らせるものは何もない。感じることができるのは、ひたすらに我が身が燃えゆく喪失感。
 決して溶けない塩の鎖が、がんじがらめに彼女を縛りつける。逃げられない、だからこそずっと、休みなく彼女は焼かれ続けている。何故、何のために、何の罰を受けて。
 長すぎる拷問の日々に、彼女はいつしか自分の罰に値する罪を、なぜ歌っているのかを、自分とは誰なのかを全て……全て忘れてしまった。
 それなのにまぶたの裏に、網膜に、脳裏に刻み込まれた一人の顔が忘れられない。あの人は誰だろうか。白い馬に跨がって、剣を携えた某国の王子。
 思い出せない。そうして彼女が考え事をしていると、決まって痛みが襲いかかる。焼けているのはもはや体ではなく、心だった。この感覚はなんだというのだろうか。
 痛みを忘れるため、彼女は歌う。自分という何かが壊れてしまわないように、その身に溢れる痛みを、苦しみを、恐怖を、孤独を糸にして一枚の布に編み上げる。そうして生まれた彼女の歌は、暗闇の中を駆け巡る。誰もいない空間に響き渡る。しかし聴衆は海底にびっしりとこびりついた貝だけ。静寂の彩る、死の世界にオーディエンスは必要ない。
 胸のあたりが疼き、かきむしりたくなる衝動が体を支配する。しかし、指一本たりとも動かせない。体を絞める真っ白な鎖は、日を追う毎に強くしめつける。日を追う毎にまた、熱水もその勢いを強める。日に日に、彼女の歌もまた強さを増す。
 しかしそこはやはり深海、彼女の声は誰にも届かない、あの時のように。あの時? それは一体いつの頃だったろうか。その時彼女は何をしていたのだろうか。
 堂々巡り、いたちごっこ。彼女は気づいていない、日を追う毎に罰が重くなる理由は、その時を想うことにあるのだと。人魚であるにも関わらず、人に恋したあの時と。
 だからだろうか、苦行に苛まれる彼女の歌が、なぜか驚くほどに優しいのは。誰もが患う心の病、それはどんな苦しみをも幸福に変える奇妙な病。

 彼女を焦がしているのは、噴き出す熱湯などではない。体の中から溢れ出る、熱い衝動に他ならない。
 身を焦がすのは恋の炎、彼女はいまだそれに気づかない。そしてきっと永遠に。
 そのまま歌い続けるのだろう、永遠に、たった一人で。

 深海にて。



<fin>

昔やってたお伽噺をモチーフにした短編、今度は人魚姫です。
本来は泡になって消えるのでしょうがもっとひどい罰だとこうなるんでしょうね。
ただ、途中からなんだか自分にも手のつけられない展開になりました。ついていけなかった場合全責任は筆者にあります、すみません。
ちなみに締めは作者がよく使うタイトルと被らせるというもの。
安直だし、毎度のことなので使い回し感がありますが許してください。

Re: 小さな本棚 ( No.6 )
日時: 2016/08/24 13:41
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 6mW1p4Tl)


 title:紅い頭巾


 ノックの音が小屋の中にこだました。どうぞ、お入りなさい。精一杯作った声で、扉の向こうの少女に俺は告げた。古びた、かび臭い木の都が耳障りな声で呻きながら開いた。その隙間から顔を出したのは、深紅の頭巾をかぶった、あか抜けない少女だ。
 彼女に名前はあったのだろうか、今はもう分からない。特徴的なその、真っ赤な頭巾こそが彼女の名前のようになっている。村の人々も、彼女の家族も、みんな彼女を赤ずきんと読んでいた。
 恐ろしい体験をしたのだろう、その眼光は少し濁っている。無理もない、森の中でこの俺の姿を見てしまったのだから。

「こんにちは。大丈夫? 今日は声が変みたいだけれど。風邪?」
「そうなんだよ、この前の雨に濡れてひどい風邪になってしまってねぇ」

 あの婆さんの特徴的な話し方を思いだし、真似をする。大袈裟に二回の咳をしてみせて、布団で完全に顔を隠した。赤ずきんも、無理をさせる訳にはいかないとばかりに無理にこちらに近寄ってこようとはせず、バスケットを傍にある机の上に置いた。

「何かあったのかい? 少し元気が無いみたいだけれど」

 白々しい話だが、俺は赤ずきんに尋ねてみた。その質問に幾ばくかの時間少女は押し黙ってしまった。疑われてしまったかと、少し俺自身も警戒する。流石に、声だけで分かったというのも疑わしいような気がしないでもない。
 俺の腹の中で、婆さんが暴れたような気がした。孫には手を出すなと言いたげである。しかし赤ずきんは、別段怪訝そうな様子も見せず、何でもないと言わんばかりにとうとうと語り出した。

「お婆さんやお母さんを心配させたくないから黙ってようと思ったんだけど……。今日ね、森で狼を見たんだ」
「おお、怖い怖い。今度猟師さんに教えないとねぇ」

 勿論、それは他の誰でもなく俺のことだ。森の中でこの娘を見つけた俺は、この娘を喰おうと決めたのだ。しかし、崖が俺たちを隔てていたためにそのときすぐに遅いかかることはできなかった。しかし俺は知っていた、森の奥の小屋に住む婆さんに、時おり孫が訪れてくることを。この少女のことに違いないと見きりをつけた俺は風よりも速くこの小屋へと駆けたのだ。中にいた婆さんなんぞ一息でぺろり、それで終わりだ。
 そして婆さんの小屋で、婆さんのベッドで、俺は赤ずきんの訪問を今か今かと待ち構えた。そして風が木を三度ほど揺らしたその時である、ノックの音が響いたのは。案の定、無垢な少女に狼の姿は刺激が強かったらしい。
 赤ずきんはバスケットからワインの瓶を取り出した。血のように赤いお酒が瓶の中に満たされている。戸棚からグラスを取り出して、ワインをなみなみとついだ。

「おばあさん、『酒は百薬の長』っていうんだって。隣のおじさんがそう言ってた」

 快復のために飲めばいい、そういうことなのだろう。しかし、まだ顔を出す訳にはいかない。赤ずきんが向こうを向いたら飲み干してやろうと、気を伺う。俺も酒は大好物だからだ。
 赤ずきんが台所にナイフを取りに行った。その隙に俺はベッドから飛び起き、ワインを一口で飲み干した。そしてまたグラスを机に置くと、風のようにベッドに戻る。

「こらこら、ナイフなんて持って。危ないよ」
「平気よ。皮を向いて切り分けるのに必要なのよ」

 バスケットから取り出したりんごを掲げて、赤ずきんは俺の注意に明るく応えた。家でよく手伝いをしているから平気だと、笑っている。
 かけ布団の隙間から見ると、彼女はナイフだけでなく鉈まで持ってきていた。これには少し俺もぞっとしてしまった。

「鉈なんて何に使うんだい」
「そりゃあ、割るのに使うに決まってるじゃない」

 少女は窓の外に目をやった。目を逸らしたのではなく、おそらくその視線は窓の外の薪に向いていた。

「それにしてもおばあさん、今日のおばあさん、手が大きくないかしら」
「それはね、お前を抱き締めて話さないためだよ」
「それに、ちらりと見えたけど爪も何だかいつもよりずっと固くて、鋭いみたい」
「最近爪を切れなくてねぇ、伸びちまったのさ」
「あと、ずっと布団を被ってるのも変よね。いつもなら、どんな時でも私の顔を見ようと飛び起きるのに」
「それは……」

 正体を隠すために、こもってしまったことが仇になったようだ。動揺し、口をつぐんでしまう。

「あなたって……」

 赤ずきんの手が布団にかかる。めくられないようにと布団を中から掴んだが、無駄だった。俺の鋭い爪だと、かけ布団を引き裂いてしまうからだ。びりびりと布が破れ、俺の体はとうとう晒されてしまった。

「おばあさんじゃないよね」

 俺を見るその目は、冷たく濁っていた。
 もう、力ずくで構わない。所詮は非力な少女だ。俺は飛び上がり、その爪と牙が赤ずきんを引き裂く。その、はずだった。
 体が動かない。どうしてだ。ふと、頭がぐるぐるし始めた。途端に気付く、これはワインが原因なのだと。きっと、何か薬が入っていたに違いない。

「森で見てから、準備してたんだ」

 赤ずきんはりんごとナイフを置き、代わりに鉈を手に取った。
 その時、俺の脳裏にはもう少女を襲うような考えなどなく、いつしか逃げることを考えていた。この爪を、牙を、赤ずきんに突き立てて引き裂くことなどすっかり忘れ、ただ四肢を動かして走り去りたいと、心から感じた。
 あの濁った瞳に見つめられ、俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。幼い女児に恐怖を覚えることを、恥とも思わなかった。
 赤ずきんの濁った瞳は、恐怖から来たものではなかった。この瞳は、何度も見慣れているものだ。
 獲物を見据えた猟師の、水面に映るこの俺の、狩る者の目だ。殺しを罪とも思わず血を水のように感じる、道を踏み外した目だ。

「このナイフ、ほんとは狼さんの皮を剥ぐためのものなんだ」

 赤ずきんが鉈を振り上げる。ベッドの上に縫い付けられてしまった俺の姿はさながら蜘蛛の巣に捕らえられた憐れな虫けらのようだった。
 いい気になって、策士気取りになった俺は、無力な女児を捕らえたような気になっていた。けれど違ったんだ、その眼光に捉えられていたのは俺の方だった。

「この鉈もね、あなたの頭蓋を割るものなんだよ」

 俺の意識が無くなる直前のことだった。初めて、赤ずきんの透き通った瞳を見たのは。


 <fin>


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