複雑・ファジー小説
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- 百鬼夜行抄
- 日時: 2015/04/03 23:23
- 名前: 韋駄天 ◆yy6Pd8RHXs (ID: nWEjYf1F)
とある町では、百鬼夜行の伝説が云い伝わっている。
始まりは凡そ2000年前の昔。牛鬼と呼ばれる陰陽師の男が、魂の集う冥界への扉を開いたとされている。
何を意図して冥界への扉を開いたか、真偽は未だ闇の中であり、牛鬼の血を継ぐ柳生一族でさえ彼の真意は知らず。
抉じ開けられた扉からは、怨念を糧に彷徨う魂が洪水の如く溢れ出し、のうのうと辺りを彷徨ったという。
それに纏わる百八の話が百鬼夜行の伝説となり、これを柳生一族は、百鬼夜行談として語り継いでいった。
これは、百鬼夜行談誕生の2000年後。即ち現在における、百鬼夜行談の続きを語る物語——百鬼夜行抄。
- Re: 百鬼夜行抄 ( No.1 )
- 日時: 2015/04/04 13:37
- 名前: 韋駄天 ◆yy6Pd8RHXs (ID: nWEjYf1F)
「……なぁ、最近平和すぎじゃね?」
時は7月中旬。灼熱の炎天下、1秒毎に溶けてゆく棒アイスを片手に道を歩く少年"後鳥羽正也"が居た。
麦藁帽子に白のタンクトップと、真夏に見かける虫取り少年のような彼だが、別段虫を取りにいくわけではない。
隣を歩くのは、黒く長い髪が印象的な少女"五十嵐暁美"
白のワンピースだけに身を包んでおり、彼女には日差しを遮るものがない。
汗を掻いている様子もなく、彼女はただ黙ったまま歩いている。
「——聞いてる?」
「聞いてるわ」
「んだよ……」
黙っていた暁美を、日射病にやられたかと心配した正也だったが、どうやら彼女は正気らしい。
「じゃあ何か喋れよな。心配するじゃん」
「返事に困っていただけよ」
人との会話を苦手とする暁美。
たとえ慣れ親しんだ人であってもそれは変わらず、仲の良い知り合いは少ないのが現状である。
気さくに話しかける正也も、それは重々承知している。
だからこそ彼は、彼女の苦手を克服させようと頑張っているわけだが。
「何でだよ、俺とお前の仲なのに」
「どんな仲にもなった覚えはないわ。私と貴方は只の他人——そうでしょう?」
「うぐっ」
冗談か本気か、平然と毒を入れていく暁美の言動に、正也は少なからず傷ついている。
元々辛辣とした言葉を言い放つ性格である上、表情は感情を持っていないかの如く固い。
そんな彼女とは全くの正反対である正也。彼の苦労は並々ならぬものであった。
だが現状は、正也自身にも譲れないものがある。だからこそ彼は、苦労してでも暁美に構っているのである。
『五十嵐暁美——この人と俺が許婚って、本当かよ……』
双方の親の合意を得て、結婚を約束した間柄——許婚。
正也と暁美——この2人の親は口を揃えてそう言っているが、当人達にそのような記憶はなかった。
それどころか3日前に対面したとき、お互いに「初めまして」とさえ発言している。
昔を思い出せばいいと言う双方の両親は現在、2人を巻き込んで同居しているのだが——
『やっぱ、違うような気がする。俺ら2人とも田舎生まれだし、親の都合っていうのもありうる……』
——肝心の正也がそう思いかけている辺り、依然として結果は出ていないのだろう。
「——話を戻しましょう」
「あ、あぁ」
平和すぎ——急にそのあたりまで話を戻され、正也は一瞬理解が追いつかなかった。
「一概に平和とは言えないわ。今こうしている間にも、柳生一族が動いているかも知れない」
「百鬼夜行談だっけ。あの話が語り継がれて彼此2000年、そしてあの事件が起きて1ヶ月——実感ないな」
「仮に私達が、2000年生きていたなら話は別かもしれない。最も数千年生きるなんて、無理な話だけれど」
暁美は首につけているネックレスを取り外した。
紫色の勾玉を拵えたそれは、妖しく美しい輝きを放っている。見れば見るほど惹き込まれるようだ。
正也も同じく、腕輪についている赤い勾玉を見つめている。
燃える炎のような輝きを放つ勾玉だが、この真夏日にその色は些かいただけない正也である。
「陰陽師の出番も、もうないかもしれないわね」
「そりゃ、あれだけ大規模な侵攻だったんだ。しばらく大人しくしててくれなきゃ、こっちの身が持たないよ」
「そうね」
神の力が篭る勾玉を以って、冥界の扉より現る悪しき魂を討つ者たち。
人々は彼らを"陰陽師"と呼び、発端である柳生一族の命に従い、式神と契約を交わすことで誕生する。
暁美と正也。彼女らも陰陽師の1人である。
「でも不思議だよな。俺らがどんな式神と契約を交わしたのか、柳生一族は教えてくれないんだろ?」
「私達に限らず、陰陽師みんながそうよ。それに、相手はあの柳生一族。信頼は置けるわ」
「まあ、そりゃそうなんだろうけど」
陰陽師となる者が式神と契りを結ぶとき、彼らはどのような式神と契約を交わしたのかを知らない。
件の柳生一族は、掟なるものだから仕方ないと言っているが、正也はどうしてもどこか納得できないらしい。
「——?」
買い物に向かう道すがら、暁美は炎天下だというのに悪寒が走るのが分かった。
漂う異様な気配に、思わず足が止まる彼女。正也も気配を感じ取ったのか、彼女と同じく歩みを止めた。
「妖魔……か?」
「多分そうね。それも、害を仇す種類の妖魔よ」
「全く……これが噂をすれば何とかってやつか」
「油断しないで。思ったより数が多いわ」
「あぁ、分かってるとも」
お互い、右腕に力を篭める。
すると正也は赤色の"気"を、暁美は紫色の"気"を呈した。
次いで右手を握り締めれば、呈した気の色と同じオーラが腕に沿って細長く伸びる。
その影より現れたのは、一振りの刃。
「でも日中に、しかもこの蝉も茹だるような真昼間に現れるとは……正直予想外だな」
「私も予想していなかったわ。本来妖魔は、夜に現れるものだから」
夜に活動する妖魔だが、昼でも見ることは出来る。
霊的才能が全くない者は捉えることは難しいが、陰陽師とあらば発見は容易である。
襲い掛かってきたのは、歌舞伎で用いるような般若面の妖魔。
手始めに2人は、その妖魔に踊りかかった。
- Re: 百鬼夜行抄 ( No.2 )
- 日時: 2015/04/04 22:31
- 名前: 韋駄天 ◆yy6Pd8RHXs (ID: nWEjYf1F)
「くっ……限がないわね」
数分後、正也と暁美は窮地に陥っていた。どうやら、暁美の予感が的中してしまったらしい。
手始めにと倒した般若面の妖魔が、倒すたびに次々と草むらより飛び出し、その数を無尽蔵に増やし続けているのだ。
襲い来る妖魔の攻撃方法は至ってシンプルなもので、2つの角を構えて突撃してくるだけの単純なものである。
しかしその数は尋常でなく、既に双方とも100体は倒したと言い張れるほど討伐している。
「全く、何時ぞやの自分を思い出すよ」
「ふざけた事を言ってる場合じゃないわ。今は1体でも倒さないと」
だが依然として、敵の気配は収まる予兆を見せない。
それどころか、気配は増え続けるばかりだ。
「クソッ!」
背後から襲い来る殺意を察知し、握った刀を振るう正也。
そうしている間にも、また別の場所から——先ほどからこれの繰り返しである。
暁美も両手にクナイを握っているが、投げるよりも先に斬りかかる戦闘スタイルへと変化している。
「助け、呼べるか?」
「いくらなんでも無理よ、この状況では」
「やっぱり……」
誰か他の陰陽師が、近くを通りかかってくれれば心強い。
だが悲しいかな、2人が居る場所は人の気配は愚か、建物すら1つも見つからない山道の途中である。
ましてや携帯電話の電波は遠い。陰陽師だけが使える会話手段に"念話"があるが、それを使うにしてもかなりの集中を必要とするので、妖魔と戦闘中である今、その方法を使っては身に危険が生じてしまう。
「んじゃー、とにかく倒しまくるか?」
「そうね。扉の気配がないから、恐らく無限湧きはしていないはず。それに扉があったら、もっと他の敵も出てくるわ」
「よし、じゃあとにかく倒すことに尽力しよう」
腹を括った2人。勾玉の輝きが、より一層強くなった。
陰陽師が持つ本来の力が、最大限まで解放された証である。
「やるよ」
刀を地面に突き刺す正也。
次いで勾玉より溢れ出る"紅い力"を刀に篭め始め、数秒もしないうちに彼は刀を引き抜いた。
引き抜かれた刀には、篭められた紅い力が宿っている。刀身も幾らか長くなっている。
「覚悟なさい」
暁美も正也に負けるまいと、全身を介して"紫の気"を、勾玉より周囲に放った。
放たれた気は周辺一体を支配し、独自の空間を作り上げている。
亜空間とも言うべきそれは、敵の動きを鈍くし、暁美の動きを素早くした。
更に彼女は複数のクナイを取り出し、それを自身の周囲に浮かせた。
かと思えばそのクナイは高速で動き始め、瞬く間に般若面を真っ二つに切り裂いていく。
——見ている限りでは、一時は優勢に思えただろう。
しかし古今東西、事態の急転というは唐突に訪れるもの。
今回もそれは、例外ではなかったようで。
「あう!」
「っ! 五十嵐!」
突然暁美の勾玉が、力の途絶えを見せた。
超常的な動きを可能にする式神の力は、仮にも神の力であって、本来は人間が使って良いものではない。
そこへ関わってくるのが契約であり、これは神の力を人間が行使することに許しを得る儀式のようなものである。
そのため契約した神が、契約者の身体に過剰な負担をかけると判断した場合、力の供給を遮断する場合がある。
今まさに、暁美がその例に当てはまっていた。
力の供給が途絶えれば、暁美の手元に残るのは1本のクナイのみとなる。
敵の数も減ることを知らずに増え続けている今、このまま戦うのはあまりにも危険だ。
「はぁっ、はぁっ……」
「こりゃダメだな、身体が悲鳴をあげてる……」
既に限界一歩手前まで力を行使したのか、暁美に明らかな衰弱が見られた。
これでは止むを得ない。正也は駄目元で逃走を試みた。
「五十嵐、一回逃げよう。立てるか?」
「えぇ……」
「幸いにも麓に町がある。まずはそこまで逃げるんだ」
正也は暁美を背負いつつ、勾玉を腕輪から取り外す。
続いてそれを頭上へ掲げ、まるで縋るように高らかに叫んだ。
「式神! 残りの力を以って、仇なす敵を燃やし尽くせ!」
すると、正也の刀より紅い力が消え去り、代わりに勾玉の輝きが最高潮に達した。
——やがて輝きは、黒い炎へと変貌する。
「行くぞ、五十嵐」
最早返事さえしなくなった暁美を確かに背負い、正也は敵に背を向けて逃げ出す。
しかし残酷なもので、妖魔は基本的に逃げる相手を追う習性がある。これも怨念の成せる業だろうか。
それを防いだのが、勾玉より発された先ほどの黒い炎。
勾玉はすっかり光を失って、今や元通り正也の腕輪に付いているが、黒い炎だけはその場に留まり続けている。
出来上がった炎は無数に分裂して壁のようなものを作りつつ、2人を追わんと追跡しようとする般若面たちを追いかけ、触れると同時に一瞬で燃やし尽くして蒸発させていく。
——正也が使ったのは、窮地を逸するための最終奥義である。
「さて逃げるか」
式神の意思を持つ炎に般若面の集団を任せ、あとは脱兎を以って逃走するのみとなった。
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