複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
日時: 2015/06/28 19:20
名前: SATSUKI (ID: QxM43kDI)

※このスレッドは小説です。
 突発企画のため、予告無く停滞・凍結することが大いにあります。

【お知らせ】
・リレー欲が湧いてきてる今日この頃。

【目次】
前餓鬼 : >>1-5
壱死: >>6-9

Re: 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死 ( No.5 )
日時: 2015/06/28 19:21
名前: SATSUKI (ID: QxM43kDI)

 突然、私の目が眩む。
 思わずあるであろう目を閉じて、しかしなおも突き刺すように色が眉裏を彩ってくる。
 生命体、何も見えなかったところに突然色が溢れると痛くなるものだ。見えるというのは嬉しいことだが、できればこれはあまり経験したくはない。

 痛み——たぶん痛んだと思う——が和らぎ、薄っすらと目を開ける私。
 開けた視界に広がってくるのは、なんと素敵な赤青白。先ほども見えた緑に黄色。頭上から白、目下に黒。
 私史上初の色の大歓迎だ、たぶんあるであろう口元も思わず綻ぶ。
 試しに目の前の緑に足を踏み出してみると緑が潰れ、クシャッと音が鳴る。これは"草"というものに違いない。ようやく世界がまともに世界を始めてきた。
 そして、"ここ"からずっと歩いてきて、ここに来てようやく音を耳に収めることができた私の表情はとても明るいものになっているだろう。残念ながら私の顔を私が見ることはできないが。

 辺りを見回してみる。上は白と青で彩られている。左右後ろは目線以上まで迫る草。
 目の前はもう少し先まで草が続き、その先に黄色を黒で濁したような大きい線が——"道"と思われる線が見える。
 左右の草を掻き分けていくのも面白いところだが、まずはせっかく世界世界し始めた世界、まさに此処へ出よと言わんばかりに眼前に見えている"道"に出ようと思う。

 一歩踏み出す足に、今は確かな輪郭がある。
 相変わらず、その色はあやふやで不定だが。

 さあ、私の旅はいよいよ予告映像を終えて、待ちに待った本編だ。
 

Re: 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死 ( No.6 )
日時: 2015/06/28 19:21
名前: SATSUKI (ID: QxM43kDI)

 さほど歩数を要せず、私はついに"道"へと出る。
 先ほどまでの柔らかな足踏みとはうってかわって、踏み込む足に堅い反発が返ってくる。
 つま先で——たぶんつま先であろう——三度蹴ってみて、しかと踏みしめる。
 腰に手を当てて、

 "道"の真ん中に、今、仁王立ちの私。
 そんな、今の私が思うかっこいいフレーズを私は頭の中で輪唱させる。

 うん、虚しい。
 そっと"道"の脇に滑って、周りを見回す。どうやら誰にも見られてはいないようで、私は安堵の私が思う息を吐く。

 少し先で黄色が終わっており、再び大きな"緑"が立ちはだかっている。
 反対側に視線を映すも、そこも似たような距離で黄色が終わり、緑が覆いかぶさってきている。
 私は、どうやら"道"の曲がりくねりの部分に出たらしい。

 さてどちらに行ったものか。
 前か後ろか。どちらに向かっても"旅"だ、その選択によって次の選択が決まり、それらが複雑に絡み合って無限大に展開は広がっていくだろう。
 しかし、その、正真正銘の第一歩。ともなれば、全く同じような二つを提示されると私といえどどうしても悩んでしまう。

「ぅ」

 ?

 私の耳が音を捉えた、ように思う。気のせい、では、ない。気がする。
 それは後ろから聞こえた。ならば私はこの道を後ろに進むことにしよう。
 いつだって、悩んでいる時に起こるほんの些細な変化というものは、その選択に対するとても大きな一手となるものだ。

「ぅ」

 後ろに向かって少し"道"を進むと、再び、今度ははっきりとした音が聞こえてくる。
 何者かの声。正確には呻き声、か。
 それは、道の傍にある草むらの向こうから聞こえてきたように思える。

 草むらの前に立ち、私は全てを視界に収める。

 草むらの向こうに小木が立っている。それに背中を預け、"何者か"が座っていた。
 足を投げ出し、腹部に手を当て、その表情は青い。誰がどう見ても元気がないと答えるであろう、典型的な疲弊の図だ。
 どうしたのだろう。傷を負っているようには見えない。しかし自分で立ち歩くことはできないようだ。

「ぐうう」

 何者かが再び呻いた。——否、その声今どこから聞こえた。
 明らかに口から洩れたものではなく、そう、その声の発生源は腹部。

 お腹を下したか、あるいは何も食べていないか。
 私の見る限りではあるが、後者のほうだと思う。
 空腹による栄養失調。それも歩けなくなるレベルのものを見るのは初めてだ。

 いや、私が外の世界を歩くことがまず初めてだから初めても当然なんだけど。

「ザッ」

 ?

 私の耳が再び音を捉える。堅いものを蹴る音。
 それはだんだん音と気配を大きくしている。近づいてきている?

 道に視線を映せば、新たな何者かの姿を捉える。
 誰が見ても納得の大男だ。目を見張るような盛り上がった筋肉。顎下に無精髭を残す以外は精悍な男。
 文献で見たことがあるが、あれが好きな"女性"というものが世界にはいるらしい。

 すいませーん。

 何にせよ、このタイミングで現れたのは都合がいい。是非ともあの"何者か"を発見してお持ち帰りしてもらおう。
 そう思い、私は大男に満面の笑みで駆け寄る。腕を思いっきり上に振り、誰が見ても分かるお前を呼んでいるのポーズだ。

 無視された。

 素通りしていく大男。固まった私。
 次の瞬間、私は歩き行く大男の背後から飛びかかり足を打ち上げている。

 透り抜けた。

 私はたたらを踏むことはしない、無様に転がることになる。
 完璧に捉えたハイキック、空かされたとかそういう問題じゃない。

 大男の頭の中を通り抜けた。

 いけない。
 立ち上がるために地に突いた腕の色は俄然として薄く、変な渦を巻いている。

 私の身体は本当に私なのかと考えたことがある。
 スライムのような不定の存在かもしれないと考えたこともある。
 しかし。
 もし。

 私の姿がこの世界の誰にも見えていないとしたら。
 私の力がこの世界の誰にも干渉させられないとしたら。

 こう考えている間にも、大男は今まさに"何者か"がいる茂みの横へとさしかかる。
 声は——どうやら聞こえていない。

 しかし。
 それでも。

 今まさにあの"何者か"の生殺与奪を、私が握っているならば。
 私は、助けたいと"願う"。少なくとも、今は。

 何か、何か手はないか。いや私の手は今見えないけれど、引けるカードはないか。

 思い返した。
 予告映像を終えた私が、本編の最初の一歩を踏み出した時、足下の草は確かに鳴ったはずだ。

 気づいた時にはもう遅い。大男の真横へ位置する、そして"何者か"が隠れているその茂みに身を投げている私に気づいた頃にはその身は既に茂みの中。ガササッ!と音が響き渡る。痛みはないが、心が痛い。畜生。

「何だ」

 しかしその捨て身の行為がどうやら功を奏し、大男の注意を引くことに成功する。
 大男は腕を上げ、警戒しながら茂みへと近づいていく。慎重な足取り、しかしそれは急に早まる。
 倒れている"何者か"を、大男は発見したのだ。

「キミ、大丈夫か!」

 言うなり茂みを飛び越えて、"何者か"の肩を引っ掴む大男。
 この場面だけ見たらただの恐喝にしか思えない。少なくとも、私は大男のような男性を愛することはできないようだ。
 そしていざ抱え上げられて分かったのだが、"何者か"は、案外体格はよくないらしい。大男との差が歴然だ。

「村まで運んでやる! どうか死んでくれるな!」

 "何者か"を右肩に担いで、大男は道へ出ると、やや小走りに歩いていた方へと進んでいく。
 私は少し考えて、その大男の後を小走りについていくことにする。
 いい一手が出た。せっかくだからこの大男と"何者か"の旅に、少しご厄介になろうではないか。

Re: 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死 ( No.7 )
日時: 2015/06/28 19:21
名前: SATSUKI (ID: QxM43kDI)

 大男が進む。その後ろを後ろ手につないで私も進む。
 大男は真っ直ぐ、早足に。私は軽いスキップで。
 順調に"旅"が進展していくこの状況は、なかなか悪いものではない。

 スキップ気味ではあるが、周りを見渡す余裕はある。
 相変わらず緑一色ではあるが、草の高低や木々の密集度合いなど景色に常に変化があるのは楽しいものだ。
 時々木の少ない所に出れば、上を満たす葉の間から降り注ぐ"白"が、この世界に更に彩りを加えてくれる。

 それに対して、目の前を進む大男、そして"何者か"の身に纏う衣服のなんと味気ない薄い緑のみなことか。
 ここでようやく私は"何者か"の腰に何か棒が突き立っているのを認める。あれはなんだろう。どの道緑色をしているのだが。
 この世界を生きる人の、共通の衣服なのだろうかという思いが大部分である一方、ひょっとして私と同じ存在なのだろうかという期待も少しばかり浮かんでいる。
 そういう意味でも、私はこの二人についていっているのだ。

 今は緑でしかないこの世界ではあるが、このまま"旅"を進めれば、きっと他の色にも出会えるはずだ。

 大男が進む。その後ろを後ろ手につないで私も進む。
 大男は真っ直ぐ、早足に。私は軽いスキップで。
 男一人担いでいるというのに、この大男は重いが実に早い足取りで"道"を進んでいく。
 ただ図体が大きいだけじゃなく、どうやら多数の鍛錬を積んできたようだ。溢れるほどの"生"を感じる。

 大男だけじゃない。
 私は"道"の両脇から、多数の"生"の気配を感じ取っている。
 それらの"生"は、しかし揺らぎこそすれど"道"へと飛び出してくるそぶりはない。
 大男の"生"が、それをさせないのだ、ろうか。真偽が気になるが、今明かす必要はない。
 今はただ、大男の進む後ろを、憑き纏うように、私も進むだけ。

 ただ。
 この大男と、私が初めに対峙していた"何か"は、どちらが強いのだろうか。
 とは、思った。



 やがて大男と私は開けた場所に出る。
 "道"にしか見られなかった濁し黄色を、固めたようなものが幾つも転がっている。"家"というものだ。
 ここが"村"か。おそらく大男も住んでいるのだろう。

 大男はまばらにいる"人"が寄ってくるのに頭だけ下げて、しかしその足は止まらない。
 その先にあるのは、一回り大きく作られている"家"だ。大男はその入り口を塞ぐ板——"扉"に手をかけると、荒々しく打ち開ける。

「村長! 病人だ!」
「まーた拾い者をしてきたのか、お主は」

 こういう家にはだいたい、その集団の"長"というのが住んでいると私は学んでいる。今しがた中から聞こえてきたのはきっとその者の声だろう。
 本来は軽々と足を踏み入れるべきではないのだが、幸い今の私はこの世界の"住民には認められていない"。大男が入り口をドカンと打ち開けてくれたのに感謝しつつ、私も足を踏み入れる。

 期待してみたが、室内も似たような色が大部分であった。
 しかし真下、床に敷かれている布のようなもの、ここに今新しく"赤"い色が加わったのに気づき、私は嬉しくなる。
 どうだ、やはり世界は様々な色に溢れているではないか。場所によってその量や比には差があるとしても。

 と。
 前方のキィという音に顔をあげれば、しまった、大男が右前の扉の中へと入っていくではないか。
 慌てて駆け寄り、今閉まろうと動き始めた扉を押して私も更に中へと入り込む。

 白く厚い布があった。それだけの部屋だ。
 その上に"何者か"を降ろした大男と、その隣には先ほどの乾いた声の正体だろうか、皺の余さず入っている顔の男がいる。

「うむ、病気の類ではないな。水と少しばかり食料を用意して、それでいいだろう」
「そうですか、よかった」
「お主はいつも物事を悪く見すぎるのが問題だな」
「鍛錬が足りないですね、精進します」
「ほれ、分かったら水のほうを頼む」
「分かりました、では」

 大男と村長らしき男は踵を返し、部屋から出て行く。
 なんとなく村長らしき男の前に立ちはだかってみたが、村長は何もなく私の中を通過していった。どうにも気味が悪い。

 扉が閉まってしまった。外に繋がっていそうな通風口を見止めたが、そこに垂れ下がっている黄色い"何か"が凄く痛そうな形をしている。
 実際に傷つくわけでないことは先の茂みダイブで明らかになったが、そういう問題ではない。何となく、嫌だ。
 動けなくなってしまったので、私はこの部屋で暫し"何者か"の様子を見守ることにする。

Re: 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死 ( No.8 )
日時: 2015/06/28 19:21
名前: Satsuki (ID: QxM43kDI)

 暇だ。
 "何者か"が横になっている、その横に腰をかけている私は、ただそう思う。
 水と食料を用意するために二人が外に出て行ってからどれだけ時間が経っただろう。
 もっとも、私が"進み"始めてからこの世界に降り立つまでの時間に比べたら凄く僅かなものではあると思う。
 しかし、こう、新しい経験が立て続けに起こると、次の経験を急きたくなってしまう。旅とはこういうものなのだろうか。
 ならばこの退屈もまた、旅の中のひとつなのだろうか。あまり経験はしたくないものだ。

 それが必要なのだろう。今は私も私を休ませよう。

 俄然動きのない"何者か"へと、私は目を向ける。
 いつの間にか、遭遇したときのように口からの呻きはなくなっている。腹からの呻きは相変わらずだが。
 聞こえるのはただ、"何者か"の小さな息遣い唯一つ。とても儚い音だ。
 しかしそれは、私が"救うことができる存在"だと証明している。

 成熟してやる。私はそう思う。
 いつか、私自身の力で救える存在になってやる。

Re: 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死 ( No.9 )
日時: 2015/06/28 19:21
名前: Satsuki (ID: QxM43kDI)

 扉の向こうから音が聞こえてくるのに私は気づく。
 気づいた時にはその音はどんどん大きくなっていて、取っ手が回り、扉が開いてくる。
 その向こうから二人が戻ってきた。村長らしき男と、大男だ。
 大男が私の傍までやってきて、器をその横の台の上に置く。
 大男が離れたところに入れ替わるように私が首を伸ばすと、その中には透明な液体が七分ほど、入っているのが見て取れる。
 おそらく先ほど言っていた"水"だろう。

 容態を確認するためだったのだろう、村長らしき男と大男はすぐに扉へと身を進める。
 考えること、数瞬。私は立ち上がり、扉から出て行く二人の後ろについて、部屋から離れることにする。

 部屋を出る——いや入る——いや出るで正しいのか。
 部屋から部屋への移動についてはその主体がどこにいるかで表現が全く変わるから困ったものだ。
 さて、入り口のある部屋へと戻ってきた私は、中空に浮かんだ緑と赤以外の色にすぐ気がつく。
 来たときには下の赤色にしか目が向いていなかったが、今は無骨な黄色を濁したような色の台が目に入っている。
 その上だ。丸い籠に盛られている、赤、緑、青、紫、黄。その大きさもさることながら、さまざまな色を宿した球体。一気に彩りの数が増え、心なしか私の心も高鳴っている気がする。
 その中のひとつを、村長らしき男が手に取る。そのまま口元へと運び、ザリッ、と異音。
 横から見てみると、口元へと当てられていただろう部分が抉れている。つまり村長らしき男が食べたのだ。

「うむ、これならいいだろう」

 小さく頷く村長らしき男を尻目に、私は再び視線を籠へと移す。
 どうやらこれが先ほど言っていた"食料"というものらしい。ぜひとも食べて——うん、つまみ食いしてみたいものだ。
 さすがに目の前で決行するわけにもいかないから、別の機会を狙うことにする。

「じゃあ俺は見回りをしてきます」
「そうじゃな、頼もう」

 大男はそう言い、入り口の扉を開く。村長らしき男は壁に向かって何かをしている。
 考えること、数秒。大男があわや締め切ろうとした扉を押し開けて、私も外へと飛び出す。

 村長らしき男が何をしようとしていたのか気になる。"何者か"のこの後の容態も気になる。
 しかし、実際に目にするのは初めてである"村"というものを、私はどちらかというと見てみたいと思う。
 少なくとも、あの数秒の中で出した結論では。


Page:1 2



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。