複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- Tales Rewind Destiny
- 日時: 2015/06/28 11:42
- 名前: 銀の亡骸 (ID: 7HladORa)
歯車は軋み、巻き戻す運命が廻る。
それでも僕らは突き進む。ただひらすら真っ直ぐに。
死線を乗り越えた先に、明るい未来があると信じて。
そして、掴んだのは————
〜目次〜
プロローグ〜存在しなかった時間〜
>>1 >>2
第一章〜日常〜
>>5 >>6
- Re: Tales Rewind Distiny ( No.1 )
- 日時: 2015/04/18 14:31
- 名前: 銀の亡骸 (ID: nWEjYf1F)
——今の俺は、どうなっているのだろう。
問えば、足の骨が腹から突き出ていると言われた。
全く、情けない死に方だ。
今まで幾度と無く生命の死を目の当たりにしてきたが、やはり生きとし生ける者は皆、綺麗な死に様なんて遂げられない。
大切な仲間も、良き好敵手も、憎き敵も、全部。
身体という構造を持っている限り、醜い死に様しか曝せないのだ。
それはきっと、大昔の戦国時代に生きた武士達も同じだっただろう。
周囲は火の海だ。
ここ——即ち学校の屋上だけは無事だが、少なくともここから見える町並みは、真っ赤に染まって已まない。
赤く染まる愛しの故郷。赤という成分には、少なからず血液も含まれている。
何故か——答えは至極明快。この目で見てきたからだ。
「……ねぇ、悠里君。私のお願い、聞いてくれるかしら?」
辛うじて手足が付いている。そんな俺の身体を支え、そう訴えかけてくるのは愛海——いや、柚子先輩だ。
彼女は俺のことをじっと見ているのだろう。
だが悲しいかな、俺の視力は既に焦点が合わず、ぼんやりとしか彼女を捉えることができない。
声を聞くのもやっとだ。やってくる最期は、もうすぐそこまで来ている。
「貴方は晴香に殺された……そんな事実、悔しいの。だから、せめて私に殺させて——」
——そう。俺は晴香と呼ばれる女により、このような身体を曝すことになってしまったのだ。
肢体は右手だけが残っていて、身体には3ヶ所の風穴が穿たれ、右足の骨は腹から突き出る——こんな姿を。
「我侭だなんて、百も承知よ。でも、お願い……」
柚子先輩の両手が、そっと俺の首筋を這う。
白くて華奢で、とても美しい手だったはずだが——今や血に濡れていて、傷も負っている。
そんな手の握る力は、徐々に強くなっていった。
——俺の首を絞めているのである。
「ごめんなさい……」
柚子先輩の赤い瞳に、何が映っているのかはもう分からない。
確かなのは、その瞳から涙が一筋零れるたびに、俺の首を絞める力が徐々に強くなっていることだけだ。
——と、意識が途切れそうになったその時。
唐突に首を絞められる感覚が無くなって、意識が遠いことに変わりはないが、俺は一気に開放感に満ち溢れた。
何事かと思い、可能な限り周囲を見回す。
すると、隣で気を失っているらしい柚子先輩の姿が視界に映った。
胸には赤色の染みが広がっている——血だ。
「まだ……まだ終わらないよ……」
いつの間にか奴が——晴香が、右手にナイフを握り締めて、そこに立っていた。
俺をこんな状態にまで追いやった、悪者極まりない張本人のお出ましである。
無性に腹が立って、"あいつの為にも"殴りたくなったが、生憎俺の身体は動かない。
だが、このような醜い姿を曝しているのは、俺だけではなくて晴香もそうだ。
塩酸にやられ、溶け掛けている全身の皮膚が痛々しい。
「アンタを、この手で殺すまでは——」
すると、奴の殺意が俺に向いた。このままでは殺される。
よりにもよって晴香に。柚子先輩の願いも叶わぬまま。
——しかし、何とかなったようだ。
「……」
殺されると覚悟した瞬間には、もう柚子先輩が立ち上がっていた。
怨念の成せる業だろうか。胸から血を流しながらも、彼女は怯むことなく晴香を睨んでいる。
いつの間にか彼女の右手にも、ジャックナイフのようなものが握られている。
「貴方だけは、絶対に許さない……」
柚子先輩は晴香に躍り掛かった。
奴の前蹴りを彼女は一瞬で交わし、そのまま懐へとナイフを持っていく。
——だが。
「あぁあう!!」
ナイフを構えた瞬間、彼女の脇腹辺りに晴香のナイフが食い込んだ。
そうして彼女が怯んだ隙に、蹴り飛ばして距離を取る晴香。
柚子先輩の身体はそのまま飛んで、屋上のフェンスに全身強打。それっきり、動かなくなった。
——まさか、死んだか。
「あたしは……死ぬわけにはいかないんだ。悠里に、想いを伝えたいから……」
柚子先輩を失って俺が戸惑っている間にも、晴香がこちらへと歩み寄ってくる。
彼女は何かボソボソと呟いているようだが、今の俺ではもう聞き取れない。
どうやら、最期は無事に訪れたようだ。
俺は晴香の顔をおぼろげに捉えながら、そのまま意識を闇へと追いやった。
——しかし、後悔した。
まさか最後に晴香の顔を見ることになろうとは。
- Re: Tales Rewind Distiny ( No.2 )
- 日時: 2015/04/18 23:33
- 名前: 銀の亡骸 (ID: nWEjYf1F)
ポタポタと、雫が滴る音がする。
台風が直撃しているため、外は雷雨の真っ只中である。この夜中に時折光り、鳴り響く雷が耳に障る。
でも、その雫の音だけはしっかりと聞こえる。
音の発生源は2つ。そのうち1つは天井からの雨漏りだが、もう1つは——考えたくない。
この真っ暗闇で、軽自動車1台が入るか入らないかくらい狭い小屋の中で。
雷鳴が耳を劈く前に、一瞬だけ何回か光る稲妻。それに照らされて、俺は見た。
——まるで飾るように。磔刑にされたかのように、壁に貼り付く1つの死体を。
「……おぇ、気持ち悪っ」
予てより、死体があるだろうとは察していた。
この小屋に入ったときから、何かが腐るような異臭が俺の嗅覚を刺激したのだから。
だが、いざ目の当たりにすると気分は当然悪くなる。
こういった死体と付き合って、仕事をして生きていく人たちは本当に凄いと思った。
また稲妻が走った。
同時に、懐中電灯の明かりを恐る恐るその死体に向け、身体を上から順に慎重に観察していく。
本当は嫌だが仕方ない。自分の身を守るためだ。
まるでどこかしら、その死体はこちらを見据えているようにも見える。訴えるような、睨むような——そんな憎しみに満ちた眼差しだ。最も眼球など、抉り取られていて存在しないのだが。
死に際に絶叫でもしたのだろうか。口は宛ら、アゴが外れたように大きく開かれている。
全体で観察したところ、死体の性別はどうやら女性らしい。
右足がなくなっている。左足も辛うじて付いているくらいで、少し揺らせば直ぐに落ちそうである。そんな右の太腿辺りからは、ポタポタと血液が滴っていた。2つ目の音の発生源はこれだろう。
ということは、だ。この身体は、命を落としてからまだ間もないということになる。
「……ん?」
そんな死体を見つめていたとき、突然右手側で何かカタンと音が響いた。
警戒心を露にして、俺は懐中電灯をそちらへ向ける。
——死体は、2つあった。
もう一つの死体は男性のそれで、未だ血の気があることから、こちらも死んで間もない。
しゃがんで死因を調べてみたら、どうやら銃殺らしい。銃創と見られる傷が、身体の彼方此方に付いているからだ。
しかし、先ほどのカタンという音は何だろうか。
虫などであれば、そうであることをただ願うばかりだが——
「ぐおあああぁっ!」
「うわあ!?」
——分かっている。死後硬直だ。
だが、暗闇がそうするのか知らないが、いくら覚悟していてもどうしても驚いてしまう。そりゃそうだ。
死んでいれば動かない。これが所謂"普通"であって、死後硬直による声帯の震えや、筋肉の痙攣は"普通"じゃないのだから。
「……?」
数十秒の時が経った後。
死後硬直を目の当たりにしてからというもの、俺は何故か左側からの恐ろしい気配を感じている。
今まで潜ってきた修羅場のお陰で見なくても分かる。これは目線だ。篭められている感情は恐らく、憎しみや訴えの類——
と、そこまで考えるなり、俺の思考と身体は完全に凍りついた。
「……」
真夏の蒸し暑さなど、とっくの昔に忘れているが——今は既に、悪寒さえ走るに至っている。
きっと今左を振り向けば、現時点で俺が想像している最悪の状態が目に映る。
純粋に怖い。だが、最悪の事態が的中した場合を鑑みると振り向かざるを得ない。
やがて俺は覚悟を決めて、勢い良く左側——女性の死体があるほうを振り向いた。
————紅い点が、光っていた。死体の、元々眼球のあった場所が。
紅い点が目だとすれば、明らかにこちらを見ていることになる。
俺は立ち上がって元の位置まで戻ってみたが、紅い点は相も変わらず俺のことを追っている。
そのあとも右へ左へと移動を繰り返したが——やはり紅い点は、俺の行動を追跡してやまない。
————つまり、死体が俺のことを見つめているのだ。
俺はどうしようもなく怖くなって、その場を後にした。
Page:1 2