複雑・ファジー小説

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ホワイトリアの騒音旋律
日時: 2015/07/10 20:42
名前: リキュール (ID: 7D2iT0.1)

それは騒音(ノイズ)。
されど旋律(メロディー)。
誰もが勝手に奏でている。
だがしかし、それは確かに協奏曲(コンチェアトー)。


Re: ホワイトリアの騒音旋律 ( No.1 )
日時: 2015/07/20 16:17
名前: リキュール (ID: 7D2iT0.1)

登場人物(常時更新)  ☆=主要人物

 ☆ホワイトリア
  赤毛赤目、十二歳の少年。

 ☆ジルコニア・ゴールディン
  銀髪金目、妙齢の美女。

 ☆ピグロ
  子犬程の大きさの小さな雄豚。喋る。

 ☆ナイル
  黒髪緑目、日に焼けた肌の大柄な男。

 ・バーバラ(村人)
  茶髪金目、十五歳の少女。
  ホワイトリアの幼なじみ。



目次

 prelude =前奏曲=
  1 >>2
  2 >>3
  3 >>4

 lullaby =子守歌=
  1 >>6
  2 >>8
  3 >>9

Re: ホワイトリアの騒音旋律 ( No.2 )
日時: 2015/07/20 15:07
名前: リキュール (ID: 7D2iT0.1)

prelude =前奏曲=



 1


———秋晴れの空は美しいが、俺の心はちっとも晴れてない。

水がたっぷり入った木のバケツを両手で持ちながら、ホワイトリアは深く深く息を吐く。

『無理だろこれ。初めからハードすぎるぞ』
『はい、弱音吐かなーい。バケツひとつなんだからがんばんなさい!』
『ねーちゃんが化け物なんだよ! これ三つとかマジ!?』

誰が化け物じゃ! と前方から罵声が聞こえる。

———いや、本当に化け物だあの人。

バケツ三つを難なく運びながら叫ぶ体力を持つ子供仲間に、ホワイトリアは冷や汗をながした。


ホワイトリアは村人である。
今日でちょうど生まれてから十二年になり、村の子供の仕事〝水くみ〟に参加することになったのだ。
村と川は少しばかり離れている。歩幅の小さい子供ならなおさらだ。

ホワイトリアはその距離を愚痴るが、また応援の言葉が飛んできて、涙ながらに口をつぐんだ。

———くそ、地獄耳め。
———ていうか、俺からバーバラねーちゃんまで、結構距離あるよな?
———ほんと、何者なの。ねーちゃんて。
———・・・・・・ただの山の村人なんだろうな。

山に住む人間をなめてはいけない、と母から教わった。
曰く、遠くの獣の声をはっきり聞き分けるだとか。
曰く、ほとんど見分けのつかない毒草と薬草をえりわけるだとか。
曰く、木の上も走れるだとか。
ホワイトリアも子供だが山の者だ。視力や体力、聴力には、街にいる人間より自信がある。
が、それさえも同じ村の者を前にことごとく崩れ去ってしまう。

バーバラは自分より三年早く生まれている。
そのぶん山人の五感が発達しているのは理解しているが・・・・。

———なんだかなぁ。
———いつまでも応援されるってのは、なぁ・・・。

ホワイトリアは胸のもやもやに首をかしげながら、ごまかすように大きく一歩を踏み出した。













数秒後、小石が容赦なく足に突き刺さり、悶絶し、またもバーバラが駆け寄ってくるのだが・・・・・・・ホワイトリアはまだそれを知らない。

Re: ホワイトリアの騒音旋律 ( No.3 )
日時: 2015/07/18 18:04
名前: リキュール (ID: 7D2iT0.1)

prelude =前奏曲=



2


『はぁっとおぉ!!』

貯水樽の前にバケツを置くと、離した手に我慢していた痛みが広がる。
手は赤く、石を踏んだ足はまだ痛い。
ろくに村の外に出ていなかったからか、でこぼこした山道はかなりこたえる。
革靴を買ってもらわないと、と真剣に考えていると、ふと頭に柔らかい重みを感じた。

『はー、もー、私の弟分はなさけないわねー。弟子の名前解いちゃうぞ!』

バーバラが自分の髪をなでている、と理解すると、ホワイトリアはたちまち顔を真っ赤に染め、細くもひきしまった娘の腕を振り払った。
慌てて立ち上がったホワイトリアを、バーバラはおかしそうに笑って見た。

『あらまあ、あんた私になでられるの嫌いだっけ?』
『嫌い! ・・・・・・じゃ、ないけど、えっと・・・・いや、嫌い!! 弟子じゃないし!』

バーバラはにやにやと笑う。
ホワイトリアは今度は怒りに頬を紅潮させて、顔をしかめそっぽを向いた。

『あ、言い忘れてたけど、今日の仕事〝水くみ〟だけじゃないからね』
『ええ!?』

思わず顔をもどして————しまった、と思った。
あっという間もなく細い腕で頭をしっかりホールドされ、身動きが出来なくなる。

『ちょっ、バーバラねーちゃ・・・・・・ッ!?』

同時に頭をけしてひかえめではない胸におしつけられていることにも気がつき、先ほどとは別の意味で顔を紅葉に染める。
バーバラはそんなホワイトリアを抱き、相変わらずほほえみながら言う。

『ホワイトリアは私の弟だよ。私、思ったもの。ホワイトリアが生まれた時。あ、この子、私の弟だ、って』

バーバラの声が聞こえる。
胸に押し付けられた右耳から。
赤みが引いていく左耳から。
両側から、それぞれ、くぐもった声と鮮明な声が聞こえ、奇妙な空間へ転がり込んだ感覚に陥る。

しかし、それもつかの間だった。
急にひきはがされ、ホワイトリアとバーバラが向かい合わせとなる形になる。

『ホワイトリア。十二歳、おめでとう』

十二歳になる———それはこの村で『一人』として数えられるようになる事。
それまでは親と合わせて『一人』だったのが、一人で『一人』になる。

儀式もなにも無いが、村の一員として、働いたり・・・


・・・ときに、戦争に赴くことになる。


ホワイトリアは目を向けてくるバーバラを見た。
バーバラはそれを見つめ返し、言った。


『んじゃ、次の仕事〝草取り〟よろしく』
『今の流れからそれやるの!?』

Re: ホワイトリアの騒音旋律 ( No.4 )
日時: 2015/07/12 11:03
名前: リキュール (ID: 7D2iT0.1)

prelude =前奏曲=



3


空は蒼く、そして高い。
はけでさっとはいたような雲が広がり、まさに秋晴れと言うにふさわしい空だった。
村を囲む木々はそんな天をつきささんとばかりに真っ直ぐそびえ、しかし見る者に圧迫感を与えない素直さを感じさせる。

いつも。いつもの村の光景。

だが————確かに、そこに『異常』はあった。


炎。

紅く紅く紅く、熱気を放つ・・・。

ホワイトリアは村の外れで尻込みしながら、混乱で真っ白になった頭を必死に動かそうとしていた。

———これは・・・これはなんだ?
———草取りに行ったら、村長の家のほうから・・・・。
———村の人達はどこ?
———母さん、父さん。
———ねーちゃん。
———そうだ、ねーちゃんは————。

はっと顔をあげるが、煙をすいこみ、またすぐに顔をふせる。
熱気と黒煙が肺を焼き、激しくむせた。

今ホワイトリアがいるのは、水くみの時に通ってきた門の前だ。
丸太と丸太を組み合わせただけの簡単な門で、もちろん防火対策などしているはずもなく、ところどころに飛び火して、今は炎の糧と化している。

ホワイトリアは地面をなめる炎を眺めた。


———紅い。
———・・・熱い。
———・・・・・・。
———・・・————。



ちりちり、と頬が焼ける痛みで、ホワイトリアは我にかえった。
門が焼け落ち、自分が炎に囲まれている。
痛みで、意識がもうろうとしだしているのに気がつき、いよいよ本格的に焦りはじめる。
意思と反し、がくんと首が折れる。
体がだるい。

ふと、地面が傾いていると感じた。
が、自分が倒れているのだ、と思い直す。

顔が地面に突っ込み、その痛みさえ感じなくなっていることに失望しながら、ホワイトリアは最後の意識を手放した———。


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