複雑・ファジー小説

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継ぎ接ぎバーコード
日時: 2021/02/19 20:09
名前: ヨモツカミ (ID: 5ySyUGFj)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19542

 幸せなんて言葉は程遠く。存在を許されない僕らはどう生きればいいの。
 生きたいとか、殺したくないとか、愛されたい。そんな願いが、全て叶わないお話。

「どうか安らかに、死んでくれ」

 ──愛することが、罪だとするならば。

 それは、彼が自分自身で与えた罰。存在しない終わりを目指して生きる、彼らの償い。

………………………………

こんにちは、ヨモツカミです。何も完結させたことが無い打ち切り芸人なので、今回もどうなるかわかりませんが、きっと終わりまで書き続けますので、どうぞお付き合いください。
趣味で好きな時に書くので遅いですが毎月6のつく日を更新日にする予定でしたが、面倒になったのでやめました。1ヶ月に1〜3回更新の予定? でーす。
良い意味で読み手を裏切るような、そんなものが書きたいですね。

〈本編を読む前に〉
・死ネタ、流血表現を多く含みます。
・たまに書き直したり加筆します。
・コメント頂けると更新速度が上がります。超欲しいです。
それでも大丈夫な方は、どうぞお付き合いください!

〈軽い説明〉
群青バーコード
青色の、通常のバーコード。モノによっては人の役に立つかもと考えられている。バーコード駆除の為の兵“カイヤナイト”は群青バーコードで構成されている。
翡翠バーコード
緑色の、失敗作を意味するバーコード。暴走しやすかったり、力が使えなかったり、ヒトとして機能しなかったりする。大体はすぐに処分される。
紅蓮バーコード
血のような赤色の、殺人衝動をもつ、特に危険なバーコード。うまく使えば兵器として使えるため、重宝されたりもしたが、基本的に危険視されており積極的に駆除される。
漆黒バーコード
全てを吸い込む様な黒色。殆ど謎に包まれている。本当の化物だと恐れられている。
ハイアリンク
バーコード殲滅特殊部隊。基本的に人間で構成されているが、その中にバーコードで構成された特殊部隊“カイヤナイト”がある。

〈目次〉


一気
>>0-
登場人物紹介
>>52 >>68
忙しい人向け継ぎ接ぎバーコード
>>91 >>92 >>93 >>94 >>95
>>96-97 >>98(一気読み>>91-98

No.00 懺悔と黒の約束
>>1
No.01 曇天下のバケモノへ
>>2 >>3 >>4 >>5
>>6 >>7 >>9 (一気読み>>2-9
No.02 朱に交じる亡霊は
>>10 >>16 >>17 >>19
>>20 >>21 >>22 >>24>>10-24
No.03 哀を求めて蚊帳の外
>>27 >>28 >>29 >>30 >>32
>>33 >>34 >>35 >>36>>27-36
No.04 白昼夢は泡沫の如し
>>37 >>38 >>41 >>42 >>43 >>46
>>47 >>48 >>49 >>50 >>51>>37-51
No.05 静寂に告ぐ藍晶石
>>53 >>54 >>56 >>57 >>58 >>59
>>61 >>62 >>63 >>66 >>67>>53-67
No.06 薄暮は世迷い事を
>>69 >>70 >>71 >>72 >>73 >>76
>>80 >>81 >>82 >>83>>69-83
No.07 翠に眠る走馬灯
>>84 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
>>84-90) >>100 >>101 >>102
>>103 >>104 >>105 >>106 >>107
>>108 >>109>>100-109
No.08 晴れ過ぎた空の涙
>>112 >>113 >>114 >>116 >>117
>>118>>112-118

Twitterアカウント→@tsugiba

〈なんか作者が描いてみた〉
・ジン>>8>>92 ・クラウス>>15>>90
・トゥール>>18
・祝★2017年冬大会>>39
・祝★参照6666記念>>56
・なんか動画作ってみた>>60
・祝★参照7777記念>>63
・祝★2019年夏大会>>85
・祝★2019年冬大会>>99
〈頂き物〉
>>23 >>31 >>40 >>55

〈お客さま〉
銀竹様、凡丙@tablet様、小夜 鳴子様、透様
日向様、サメノ様、友桃様、とある読み専さん

〈その他〉
・AnotherBarcode -アナザーバーコード-(URLより)
継ぎ接ぎバーコードとは別の、もう1つの話。番外編集のようなものです。投稿頂いたオリキャラ(一応まだリク依頼板で募集中)や本編で語られることの無い登場人物の話や、ふざけて書いたifストーリー等。
・まあ座れ話はそれからだ(複雑ファジー)
主人公以外の4つの視点から主人公を見ていくよーみたいな。私はコメディのつもりで書いてる高校生達の青春なんとか。
・ 朗らかに蟹味噌!【短編集】(複雑ファジー)
趣味を詰め込んで書いてる、よく題名の変わる短編集。息抜き程度に書くのが楽しい。

2016年 5月6日 執筆開始
2018年 1月7日 冬大会金賞受賞
2018年 3月3日 No.00修正
2018年 8月31日 キャラ絵新調しましま!
2018年 9月2日 No.01修正
2019年 4月14日 No.02修正
2019年 6月1日 No.03修正
2019年 9月22日 夏大会金賞受賞
2020年 3月8日 冬大会管理人賞受賞
2020年 12月1日 お知らせ>>115

Re: 継ぎ接ぎバーコード8-3 ( No.114 )
日時: 2020/11/17 20:25
名前: ヨモツカミ (ID: /GGdL2Ap)

(読まなくても話の流れはわかるように書いてますが、アナザーバーコードより
小鳥は鳥籠を壊して、
誓イハ焼ケ爛レ(後編)
死にゆく者達へ
この3つの話を読んでからじゃないとちょっと感情移入しきれないところあると思います。)



***


「終わったか」

 立ち尽くしていたオーテップの背中に、冷たい声が投げかけられる。その接近に気付けなかったわけではないが、オーテップは思わず肩を跳ねさせる。それから僅かな間に呼吸を整えて、普段通りに口を開く。

「見ての通りですよ。優秀な部下を持つと仕事が捗っていいですねー、ルート班長」

 暗く長い赤毛を緩く結んだ、オッドアイのそのヒト。オーテップとは違い〈能力〉を持たない人間であり、今回アモルエに派遣されたハイアリンクの班長だった。
 ルートは釣り目がちのその目で、特に興味もなさそうに横たわるニックの体を眺めてから、鼻を鳴らした。

「お前の手際だけは褒めてやる。だが、報告が少し遅れたのはどうしてだ? また、例の下らない“弔い”に時間を費やしていたのか」

 オーテップは、曖昧な微笑みを浮かべるだけだった。それをどう判断したかは知らないが、ルートが僅かに機嫌を損ねたのは確かだった。

「全く。貴様らバケモノは、揃いも揃って。……下らない」

 少し遅れて、ルートの後ろから控えめな足取りで近付いてくるバーコードの姿に、オーテップは眉を下げた。
 紅色の、纏まりなく跳ねたロングヘア。それを揺らしながら、継ぎ接ぎの肌の隙間から、深緑の瞳でニックを見つめる少女。その表情は悲嘆を堪えて歪んでいる。
 ニックと同じく、タンザナイトのアケだ。此方に見つかったとき、アケは大人しく投降してきたため、そのまま連れてきていた。だからと言って、命を見逃すわけではない。カイヤナイトから逃亡した群青バーコードは、例外なく処刑される。勿論彼女もそうされるのだ。せめて、少しだけ楽に。
 ルートは視線をニックからアケに移して、吐き捨てるように言った。

「こいつも、投降したから良いものの。所詮は何を考えているかもわからないバケモノだ。おいオーテップ、さっさと……」
「──ていせいして」

 少女は、伏せた目に僅かな怒りを滲ませて声を張る。一瞬、それに気圧されたルートが瞬きをしながらアケを見つめた。

「わたしは、バケモノじゃない。“タンザナイトのアケ”だ!!」

 咄嗟に言い返すことができなかったようだが、ルートは鋭くアケを睨み返して、貴様、と声を漏らす。
 せめて、最後まで誇り高く。アケは、継ぎ接ぎまみれの幼い体を持ちながら、強い魂を持った存在なのだと、主張したのだ。こんな小さなことで、ルートに惨たらしく殺されることだってあり得たのに。
 強い子だ。オーテップはアケの前に膝を付いて、目線を合わせながら柔らかく声をかける。

「ごめんね、アケ。目の前で仲間を手に掛けてしまって」

 ニックのこと。あの強かった男が、こうも簡単に仕留められてしまった。アケとしても、彼が負けることろなんて想像もつかなかっただろう。離れた場所でニックの行く末を見守っていたアケは、その瞬間が訪れたとき、ただ息を呑むだけだった。

「ううん。いつかこうなるの、わかってたから」

 自分たちは、カイヤナイトの脱走兵。夢を追って逃れ続けていたが、それが永遠のものでないことはどこかで理解していた。いつかこうして命を落とすのだと。タンザナイトは続かない。だからアケは、ここまで冷静に諦めることができた。
 1年と少しの間。タンザナイトとして生きていられたその時間があったから、もう悔いはない。アケは自分に言い聞かせる。辛いことも苦しいこともあったが、同時にかけがえのない時を過ごしてきた。
 あの日。タンザナイトが結成したとき。ニックが、アケを連れ出してくれなければ、こんなに世界の色彩を知ることはなかった。もう彼は息絶えてしまったけれど。自分もそちらに逝くだけだ。
 だからもう、いいのだと。少女は薄く微笑む。

「それに、あなたはわたしを“わたし”として……タンザナイトのアケとして扱ってくれた。誇りを失わずにかえれることほど、うれしいことはないって、たいちょーさんが、言ってた。あのヒトはさいごまで、わたしたちのたいちょーさんだったよ」

 オーテップはその言葉を聞いて、切なげに眉をひそめる。
 カイヤナイトにいた頃のアケは、擦り切れて、ただ治癒の〈能力〉を使うだけの人形みたいだった。自らの命を燃やしながら、傷付いた仲間を癒やす。そんな役目を、黙々と遂行するだけの存在。口数も少ないし、そもそも上手く喋れもしなかった。
 それが、タンザナイトの仲間たちと行動する上で変わっていったのだろう。オーテップが知っているアケの様子とは随分違ったから。殺される運命が決まっていたとしても、タンザナイトだった彼らの命は浮かばれるだろう。

「そろそろお喋りは終わりだ。オーテップ」

 ルートに名前を呼ばれたオーテップは、微かに肩を震わせた。拒む権利は無い。
 息を深く吸い込んで、吐き出す。手先まで震えてしまわぬよう、集中し、自分を殺す。情の篭った剣先では、逆に苦しませてしまうだろうから。

「あ、まって」

 不意にアケがルートの方を見て、ふらりと足を踏み出した。警戒したルートは、咄嗟に懐の拳銃に指をかけて構える。

「ケガ……。治させて、下さい。わたし、ちゆの〈能力〉を使えるので」

 そんな申し出に、彼は呆けた顔をする。確かにアケやニックと遭遇する前に、タンザナイトの仲間と思わしきバーコードと軽く戦闘をした。そのときに負った脚の傷は、今も強い熱をもっている。人間程度の自然治癒力では、簡単に傷は塞がらない。アケはそういったハイアリンクのために〈フェニクス〉を使わされていたバーコードだった。

「やってもらったらいいんじゃないですか」

 オーテップにそう勧められても、ルートは気不味そうに顔を歪めるばかりだ。
 いくら投降した群青バーコードとはいえ、敵は敵である。〈能力〉を使わせるなんて、考えられない。だが、この少女の視線には一切の敵意が感じられなかった。深緑の双眸は、親切心しか持たない無垢な子供そのものだ。
 判断を出しあぐねているルートを見兼ねて、アケが彼の足元にちょこんと屈んで、手をかざす。瞬間、彼女の手元から温かい色の炎が出現した──。
 炯々と燃える炎を見た瞬間。ルートの脳内でけたたましく警鐘が鳴り響く。
 フラッシュバックするのは、幼少期の記憶。炎を扱う紅蓮バーコードの、容赦のない攻撃と哄笑。

 ──たすけて、お姉ちゃん……

 炎。それが、ルートから全てを奪ったもの。家族を家を街を、生きる意味を。弟を奪ったあの禍々しい炎が、まさに今目の前に迫っているように錯覚している。“彼女”だったはずの彼が、復讐のためにハイアリンクとなった理由。炎を扱うバーコードに殺された家族の無念を、自分のトラウマを、払拭するためという動機。

「あ、ああ、あああ! うわあああああああッ」

 唐突に喚き出したルートを見て、アケは勿論、オーテップもギョッとして目を見開いた。

「ル、ルートさん、落ち着いて、」

 オーテップの声は届かない。“炎”は引き金になってしまった。彼のトラウマを呼び起こすトリガーに。
 何が起こっているかわからないアケに向かって、銃口が突き付けられる。
 発砲音。しかし、ブレた銃身は、虚空を撃ち抜いた。

「死ねッ、死ね死ね死ね、炎のバーコード……!」

 恐怖と戸惑いに固まるアケの額に銃口を押し付けると、ルートは迷わず引き金を引いた。
 再び爆ぜた銃声と共に、少女の体が吹き飛んで、煉瓦道に転がった。
 炎のバーコードはまだ動いている。そうだ、バーコードなど皆殺しにしなければならない。殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ! 殺せ殺せ!!
 拳銃を両手で支えて、狙いを研ぎ澄ます。そうして、僅かに蠢いていた少女の脳天に、もう2つ分風穴を増やしてやった。硝煙と血の臭いが辺りに立ち込める。
 肩で息をしながら、ルートはそこに横たわる小さなバーコードを眺めていた。

「……ルート班長」
「黙れッ! 貴様もそこに転がる死骸と同じになりたいか!?」

 オーテップに名前を呼ばれたルートは、反射的にそう返していた。今の彼なら、本気でオーテップを殺したっておかしくないくらいに、いきり立っている。オーテップは頭を掻いてから、ふう、と息を零す。

「冷静に、なってください。場所と時間を考えて下さいよ。近隣住民もいるんですから、極力銃の使用は控えるようにって、あなたが言ったんじゃないですか」
「…………」

 ルートの頭が冷えていく。相変わらず動悸は激しいままだが、先程よりもまともに思考をすることができるようになっていた。
 横たわるアケを見る。元々大きな瞳は更に見開かれていて、それはルートに向かってどうして、とでも言いたげな視線だった。

「そんなことを、言いたかったわけではないだろ」

 銃口から上がる硝煙に息を吹きかけながら、ルートは冷たい声で言った。やはり不満げな表情を浮かべたオーテップが、冷ややかに告げる。

「アンタ、良い死に方しませんよ」
「構うものか。俺は良い生き方もしてこなかったんだからな」
「……そうですか」

 興味なさげにルートから視線を外したオーテップが、アケの亡骸の元に近づいて行って、腰を下ろした。そうして目を伏せると、顔の前で手を合わせる。
 ああまた。オーテップは必ず、失われた命に対して、手を合わせる。それを弔いと呼ぶらしいが、ルートにとってはそれをする意味も理由も理解できない。それに、オーテップのその行為が、なんとなく嫌いだった。
 だから不満げにぼやくのだ。

「弔いが、なんになる」

 それに対する彼女は、ルートの方を見もせずに吐き捨てた。

「あなたには、わかって欲しいとも思わない」

 ルートはハッとした。

「弔いがなんになる?」
「あなたにもいつか、わかると思います」

 そんなような、いつかの会話が脳裏を掠めた。
 僅かに顔だけルートの方に向き直ったオーテップと視線が交差する。灰色の中に微かに溶け込んだ侮蔑が、確かにルートを見ていた。
 オーテップは目を伏せて、アケの体を抱き上げる。

「遺体、運んできますから。ルートさんはニックを」
「あ、ああ……」

 胸の奥がざわつく。どうしてこんな群青バーコードに、思考を乱されなければならないのか。何もかも、気に食わないのに。ルートの中で、何か決定的に取り返しのつかないことをしたのだと、突きつけられたような気がした。

Re: 継ぎ接ぎバーコード【お知らせ】 ( No.115 )
日時: 2020/12/01 20:57
名前: ヨモツカミ (ID: mextbE/J)

【お知らせ】
本編があまりにも辛い展開になってきて、読んでいてしんどいそんな皆様のために、楽しい企画を色々考えましたので、辛いことは忘れて楽しんでほしいです。

・コラボ企画しました
アナザーバーコードの方にて、今までにも「最強次元師!」や「闇の系譜」(現在は宵と白黒とのコラボ企画進行中)をしていましたが、
今回はヨモツカミの別作品「まあ座れ話はそれからだ」と「枯れたカフカを見ろ」の主人公たちによるコラボ企画をやりました。ヨモツカミの別作品に興味あったけど読んでない方、普通に暗い展開ばかりの本編に疲れた方にぜひ読んでほしいです。よろしくお願いします。

・作品の振り返りを兼ねた企画
近々カクヨムにちゃんとした継ぎ接ぎバーコードを載せようと計画を勧めております。そこで、つぎばを読み返した私による「舞台裏つぎば」という、ゆるっとした話を書いていこうかと。
本編収録外のつぎばメンバーたちの様子です。楽屋での会話、NGシーン集、本編収録後の打ち上げでの様子、ジンのギャラが一番少ない問題など、本編では見られない彼らの意外な一面が見られて楽しいかもしれないです!
アナザーバーコードに投稿予定ですのでよろしくお願いします。

・全キャラ絵載せます
具体的に言うと、本編No.05にて、大量に新キャラが出た戦闘シーンがありましたね? あのシーンが特に問題だとおもった(てか、正直な読者さんにアドバイスを頂いた)ので、つぎばに登場するキャラ全員のキャラ絵を載せようと思いました。骨が折れますね……ぶっちゃけTwitterアカウントチェックして下さればキャラ絵全部ありますけど、せっかくなのでちゃんとわかりやすいように描き下ろします。
何人いると思ってんだよ……想像するだけでエグい作業量なので、気長にお待ちください。
こちらもアナザーバーコードに載せるので、あさばをしっかりチェックしてください。

・あざばとの連携
一応、継ぎ接ぎバーコードという作品は、つぎばを読むだけで話の流れは理解できるように書いております。なので、アナザーバーコードに投稿した作品を読まなくても「理解はできる」んです。けれど、アナザーバーコードに載せた作品を読むことでよりつぎばを楽しむことができるので、読者のみなさんがアナザーバーコード読みたいって思えるように、ちゃんと「この話はアナザーバーコードの○○という作品を読んでから読むと楽しめます」みたいな注意書きをしていこうと思います。

※ちなみにアナザーバーコード一ミリも読んだことない人に説明しておくと、本スレ>>0のURLに乗っている作品で、これは「ジンがトゥールやクラウスと行動している間、桜色ガールが何をしていたか」という、桜色ガールが主人公の話兼、ハイアリンクやタンザナイト、ジンの過去の話など、本編でかたらなくてもいいかな、という作品を詰めてあります。または、他の作者様とのコラボ企画や、ヨモツカミによる二次創作など、本編に存在しないものとか、そういうのがアナザーバーコードに載せられてます。

・オリキャラ募集
オリキャラ募集なんてしてたこと知らない人も多いかもしれませんが、やってました。読者参加型の作品にしたいので、これからちょうど本編で死んでもらう予定のキャラがいるので、よければオリキャラの投稿に協力していただきたいです。詳しくはリクエスト・依頼掲示板をご覧ください。

・雑談掲示板
作品のコメントをしたいけど、ここに書くのは恐れ多い、なんて思ってる方結構いるのかな? わかんないけど、ヨモツカミは人間なので、応援の声がないと頑張れないです。私、全然恐れ多い感じの人じゃないんで、雑談掲示板でもいいので話しかけに来てほしいです。きてほしいです!!! うさぎは寂しいと死ぬ!!! これは迷信だけど、ヨモツカミは応援がないと続きが書けないのは本当です!!! きがるに来て!!!! 雑談掲示板のタイトルは「夜待つ神のいたのでは」です。早速検索だ!

・別作品の紹介
あとはなんか、別の作品の紹介でも。

「まあ座れ話はそれからだ」
百合シリアスホラーコメディという、新ジャンル。主人公の視点の話はなく、主人公を別の四人の視点から語っていくという、特殊なお話。
埼玉の川越にある高校が舞台で広げられる謎現象、主人公、唐洲世津那からすせつなは何者なのか、あなたはヨモツカミのノリについてこられるのか?

「枯れたカフカを見ろ」
現代ファンタジー。無性別の子どもたちが寄宿学校風の施設で自分の性別や他人との在り方、存在意義について悩んでいく話。ヨモツカミの性癖が一番詰まってるので、残酷描写、暴力描写が過剰に含まれており、一番最近に書き始めた作品故につぎばやまあ座れよりも完成度が高いのではとヨモツカミの中で話題になってます。

「飛んでヒに入る夏の虫」(完結済み)
青春物っていうのかな。途中まで別名義で書いておりました。平成最後の夏に自殺しに行く高校祭たちの話。30000文字程度と短いので、自殺ネタが嫌いでなければぜひよろしくお願いします。また、この作品は友人に表紙絵をお願いし、本にして出す予定です。

「朗らかに蟹味噌!」
こちらは短編集。500〜7000くらいまで、長さも種類もバラバラなSSを大量に載せてますので、興味がありましたら読んでみてください。

Re: 継ぎ接ぎバーコード8-4 ( No.116 )
日時: 2020/12/20 13:46
名前: ヨモツカミ (ID: QHUQtp81)



***


 物陰から全てを傍観していたジンは、そっと胸を撫で下ろした。
 ニックが殺された。アケも撃たれた。マリアナは自分が殺した。他にもタンザナイトの仲間がいたかもしれないが、主戦力である彼らが死んだ今、とりあえずは脅威は去ったものと考えていいだろう。かつての仲間であった彼らの死を見届けて、ほんの少しだけ胸が痛むのを感じる。でも、感傷に浸るのは、その一瞬だけ。いつかは死別することを覚悟していたのだから、それが偶々今だっただけで、そして殺したのはジンではなかった。それだけのことだ。

「……どうか、安らかに」

 それだけ告げると、ジンはハイアリンク達に出会わないように迂回して、メルフラルの家に帰って行った。
 帰ったら、すぐに行動に出なければならなかった。夜はまだ明けない。だが、日が昇ってからでは手遅れになるかもしれなかったから。

 まだ暗い時間だったが、全員が目を覚していた。恐らくクラウスが、帰るなり直ぐに2人を叩き起こしたのだろう。タンザナイトに襲われたことや、ジンがそれを助けたことを話しておいてくれたらしく、メルフラルもトゥールも状況は理解していた。
 まだ眠いのか、ややぼんやりした顔つきのトゥールと、若干大人しいものの、いつも通りの様子で微笑むメルフラル。それから不安げな顔でジンを見つめるクラウス。彼らを一瞥してから、ジンは溜息混じりに言った。

「多分、このままアモルエにいたらハイアリンクに見つかるよ。だから、今夜のうちにこの街を出なくちゃ」
「出るって言っても。何処に行くんだよ」

 不安を隠しきれない様子で、クラウスが言う。
                                                                  
「そうだね、とりあえず離れられれば何処でもいいんだから、行く宛なんて無いけども……」
「ルーエリエなんて丁度いいんじゃないかしら?」

 メルフラルが提案する。その街の名前を聞いて、ジンはあからさまに顔をしかめた。

「……またあの街に戻るの」

 微妙な反応するジンに、クラウスがあの街? と訊ねる。

「僕らが出会った街だよ」
「ああ、そんな名前だったんだ、あそこ。……えっ、あんなとこに戻んの?」

 ジンと同様、わかりやすく嫌そうな顔をするクラウス。
 確かに〈ウェルテクス〉の紅蓮バーコードに襲われた場所である、ということを踏まえて行こうとなると、明らかにアモルエより危険とも言える。

「あんなとこって言うけどね。トゥールがいたら人気の多い街には行けないんだから、人間が誰もいなくて荒廃しまくったあの街は、隠れるには最高だからね? ……まあ、それが良くて同じような考えのバーコードが沢山潜んでたり、更にそれを狙ってハイアリンクが来たりするんだけどさ。でも、このままアモルエにいてメルフラルと僕らの関係がバレるよりは、そっちで危険に見舞われる方がマシだよ」

 ジンの説明を聞くと、トゥールは納得したように頷いていたが、クラウスはやはり不安げな表情をしていた。
 ……それから、メルフラルが頬に手を当てて、顔を赤らめている。

「うふ、そんなにアタシの存在が大事なわけね? んもうっ、愛されちゃってどうしよう!」
「はいはい」

 メルフラルという研究員は、唯一頼れる有能な人間だ。メルフラルがこうしてジン達バーコードを匿っていたなんて。ハイアリンクや他の研究員、人間側にバレたりなどすれば、彼女にどんな罰が与えられるかわからない。それだけは絶対に避けなければならなかった。
 けして、メルフラル自身が大事なわけではない。有能な研究員との関わりが絶たれるのが面倒なだけ。ただ、それだけなのだと。口にはしないが、それだけなのだ、と。そういう意味でジンは冷たい視線をメルフラルを向けた。
 彼女はそれに気が付くと、心から嬉しそうに頬を綻ばせるのだ。ジンの嫌悪を求める彼女のことを気持ち悪い、と軽蔑すると共に、どうしてこの状況でそんなに嬉しそうな顔ができるのかと。そんな歪んだ思考を持ってしまったメルフラルのことを考えると、胸が少しだけ痛んだ。

「てかさあ……そもそもなんであの街、あんなグッチャグチャなの?」

 クラウスが不安げな表情のまま訊ねてくる。ルーエリエが荒廃しきっていた理由。クラウスとトゥールは、激しい抗争があった、という噂だけ聞いていたが。それにしたって街が1つあのレベルで荒廃するとなると、どれだけの数の、どれだけの力の持ち主が暴れたのか想像もつかない。そうしてあの瓦礫の下に、いくつの命が埋まっているのかも。
 巨大地震があの街だけを襲ったかのような酷い有様を思い出して、クラウスは身震いする。
 数日の間、トゥールと共にあの屋上に滞在して。

 ──そういえば、そこでジンに出会ったのだっけ。

 なんだかやけに長い夢でも見ているような気分だった。ジンに出会ってから、クラウスとトゥールの生活は一変した。知らないことを。きっとこれからも知らなくてすんだ余計なことも。ジンとの出会いで、知ってしまった。
 出会い、というのは常に残酷な結果を残すばかりだ。トゥール以外の誰かとなんて、やっぱり関わるべきではないのだ。クラウスがそう考えたところで、もう何もかも手遅れだった。
 後悔すらできないところに、クラウスは辿り着いていたのだから。
 ……それはきっと、トゥールも。

「僕も別に詳しく知っているわけじゃないよ。ただ、爆発させる系の〈能力〉を持ったバーコードがめちゃくちゃに〈能力〉を使いまくったせいらしいね。まだそのバーコードが見つかってないから、理由も目的もわからないんだけどさ」

 さらっと答えたジンの冷静さに、クラウスもトゥールも息を呑んだ。

「街1つ崩壊させるレベルの、爆発……?」

 動揺して声を震わせるトゥールを一瞥して、ジンは小さく頷く。

「バーコードによってはそれくらい出来るやつもいるでしょ。ただ透明化するだけのクラウスがいて、君みたいにそれなりに強い蜥蜴がいるみたいに。たったひとりで街をぶっ壊す〈能力〉を持ったバーコードもいる。それから……」

 ジンは薄く笑いながら、自分の胸元にとん、と手を当てた。

「僕みたいに、不老不死のバーコードがいる。いくら殺されたって死なないし、もう100年もこんな子供の姿のまま。そんなバーコードが、ね? ほら、そう考えたら、街を壊す〈能力〉なんて、そんなに驚くことでもないんじゃないの」
「……妙に、納得してしまったな」

 トゥールは弱々しく笑った。
 だからこそ、バーコードという存在が人間の脅威とされ、淘汰すべき存在とされるのだ。〈能力〉の強弱も、殺人衝動の有無も関係ない。どれだけ人間に敵意がないと主張しようとも、死にたくないと叫ぼうとも。バーコードという存在である以上は、ただ排除されるだけ。
 カイヤナイト達のように、危険性の薄さを認められた一部のバーコードは、人間に利用されて生かされる場合もあるが、生殺与奪権は常に人間の手中にある。

 トゥールもクラウスと出会う前は、命を管理されながら、人間に利用されて生きていた。その高い戦闘能力を買われて、不要になったバーコードや研究員の始末を。それは“清掃員”なんて呼ばれていたが、掃除とは真逆の、ただ何もかもが汚れていくばかりの仕事をさせられた。
 数え切れない命を奪って、死屍累々の中、最後には長いこと共に清掃員をしていた男を殺して。
 シャド、と名前を呼んでも、もう返事はなくて。ああ、自分が殺したんだ、と見慣れた彼の亡骸を見下ろして、空虚な気分に浸っていたとき。

 桜色の髪をした“死神”に、出会ったのだ。

 あの日。死神はどうしてか、トゥールを見逃した。

「私に、あなたは殺せない」

 だから。どうしても死にたいなら、ジンという少年を見つけてくれ、と告げられて。
 見逃されたって、自分はどうあるべきなのか、わからなかったのに。このまま、シャドと共に死んでしまえれば、きっと楽になれたのに。
 なのに足は動いた。どこを目指したのかはわからない。
 フラフラと進んだ先。忘れもしない6年前。街の路地裏で蹲る“亡霊”と出会って。

「……クラウス」

 そのまま、亡霊だった少年は、こうしてトゥールの隣で生きている。

 名前を呼ばれたクラウスは、ゆっくりとトゥールの方に視線を向けた。未だに不安げな表情を浮かべている。
 ルーエリエ、と言ったか。名前すら知らなかったあの街は、確かに安全とは言い難いだろう。実際に〈ウェルテクス〉という旋風の紅蓮バーコードに襲われて、深手を負った。他にもジンに出会う数日前に、何人かのバーコードと数回交戦した。だが、その全てをトゥールの力だけで対処して、クラウスを守りきった。常にクラウスを無傷で、とまでは行かなかったが、それでも無事に2人で生きてきた。
 きっとクラウスは、自分を守るためにトゥールが傷付くのが不安なのだ。
 何を今更、とトゥールは思う。
 何年、お前を守ってきたと思っている。

「クラウス。俺は強い」
「えっ? うん、知ってるけど……?」

 トゥールが強いことは、クラウスが誰よりもわかっている。どんなに不利そうな状況に追い込まれたって、必ず最後には勝つのだ。敵の人数の問題にだって、〈能力〉の不利にだって、負けなかった。絶対にトゥールは死なない。死にそうになったことなんて何度もあったが、でも、死ぬわけない。それこそ、クラウスにとって、トゥールは殺したって死なない、不死身のヒーローだと思っていた。本物の不老不死であるジンよりも、ずっと強い。

「だから。ジンが行くと言うなら、あの街に戻ろう」
「……、……」

 特に、トゥールの意見を否定する材料が無くなっていた。
 そもそもアモルエに来たのは、クラウスのクリムゾンをどうにかするためだ、と言っていた。メルフラルがクリムゾンを無くしてくれるのだと。
 だが、タンザナイトの襲撃により、アモルエに滞在することが難しくなってしまった。元々、ジンに出会わなければルーエリエに留まっていたのだから、そこに戻るというのは別になんの問題もない。どこにいたって、自分達の命は常に脅かされるものであり、クリムゾンの殺人衝動だって、ずっと向き合わなければならないものだったはずだ。
 だから、今更何を恐れる必要があるのか。
 クラウスは、ルーエリエに戻ると言われたとき、よくわからない胸騒ぎがしていた。どこにいたとしても、安全は保証されないくせに。
 その不安の正体が何なのか。わからなかったし、気にするほどのものでもないのかもしれない。

「……うん。トゥールは強いからへーきだ」

 クラウスは薄く微笑む。
 ついでにジンもいるのだ。クラウスに戦闘能力は殆どないけれど、いざとなれば身を隠す力が、〈チェシャー〉がある。なんとかなるだろう。
 3人の意見が固まったのを見ると、メルフラルは頷いて、それからクラウスに歩み寄って行った。

「じゃあこれ、今のうちに使うわよ」
「……何その箱」

 メルフラルが懐から取り出したのは、両手のひらに収まる程度の、黒い箱だった。

「投与するのは明日にしようかと思ってたんだけど、急いでいるのでしょう? なら、今すぐにでも打っちゃいましょう」

 開かれた箱の中から出てきたのは、何やら液体の入った注射器だった。

「──クリムゾンを抑制する薬よ」

Re: 継ぎ接ぎバーコード8-5 ( No.117 )
日時: 2021/01/14 20:31
名前: ヨモツカミ (ID: L0JcGsyJ)


***


「本当に戻ってきたんだな」

 早朝の透明な空気を吸い込んで、肺の中まで透き通ったような錯覚をして。トゥールは息を吐き出しながら言った。
 瓦礫の積み重なった、灰色の景色。ルーエリエという街の名前は、数時間前に知ったばかりだ。各地を転々としながら、クラウスと共に生きてきたトゥールにとって、別に深い思い入れがあるわけではない。それでも少し特別視してしまうのは、この地で継ぎ接ぎの少年と出会い──全てを終わらせるはずだった自分に、始まりを与えた街だからか。

「クラウス。気分はどう?」

 かなり後ろの方をヘロヘロと力なく歩いていたクラウスに、ジンが声をかける。

「ちょっと気持ち悪いんだけど。あの薬のせい?」
「……それ多分、乗り物酔い。沢山深呼吸すれば楽になるよ」

 元々悪い顔色を、更に青ざめさせたクラウスは、ジンに言われたとおりに深く息を吸い始める。すう、はー、と繰り返しているうちに本当に楽になったのか、急に表情を明るくし、声を上げる。

「うっわ! 改めて汚え街だな! でもなんか懐かしい! あのマンションの部屋、まだ無事かな?」
「どうだろうな。態々あの高さを上がって、あの部屋を奪う奴などいないとは思うが」
「とにかく、早く帰ろうぜ!」

 無邪気に笑って、クラウスは軽い足取りで地面を蹴った。危なっかしく、積み上がった瓦礫に登って進んでみたり、案の定不安定な足場が崩れて、腕を擦りむいてみたり。また馬鹿なことをして、とジンは思うが、まあ、元気そうで何よりである。

 アモルエにある、メルフラルの研究施設を出る前。
 彼女が入手してきたクリムゾンを抑制する薬剤。その液体の入った注射器。それを凝視したまま、クラウスは硬直していた。

「バレないように勝手に持ち出してきたの。薬品一個盗むのも大変なのよ、クラウスくんにはもっと感謝してほしいわ。こんなことして、アタシに得なことは何一つないもの」
「得なことあるでしょ。ほら、僕からも感謝されるよ。というわけで、メルにご褒美」

 ジンは薄く微笑んで、両手を大きく広げた。

「……遠慮しとくわ。アタシ、自分から抱きしめるのが好きなのであって、抱きしめていいなんて許可を貰ったら、萎えちゃうの」
「あっそ。僕がこんなに素直なの、今回限りなのに」

 深夜のテンションというやつだろうか。それとも、自分なりにメルフラルへの感謝を伝えたかったのか。それにしても、何故こんなことしたのか。
 ジンが少し後悔して肩を落としていると、その様子を見て、嬉しそうに口角を緩めたメルフラルがいた。幸い、ジンはそれに気付かなかったが。そのやり取りを見ていたトゥールは、メルフラルの性格の悪さに思わず眉をひそめる。
 けして悪いヒトではないのだが……。いや、悪いヒトでないと、こんなことはしないだろう。トゥールはメルフラルに対して、複雑な気持ちを抱く。メルフラルは、トゥールに対してはそんなに嫌な態度は取らなかったので、やはりジンを特別扱いしているのだろうし、反応が面白いクラウスも、似たような被害を受けていた。
 メルフラルは、クラウスの手元の箱から、ひょいと注射器を取り上げると、慣れた手つきで表面を撫でる。

「本当は体にあってるかどうか、投与する前に検査とかしなくちゃいけないんだけど。強めの薬だから、拒絶反応とか出たら最悪死ぬもの。……と、言っても、もう時間もないし、早速打つから。腕、出してちょうだい」
「い、嫌だッ!」

 クラウスは咄嗟にトゥールの服を掴んだ。急にしがみつかれたトゥールは、若干よろけつつ、クラウスの顔を見る。

「注射が怖いなんて、わかりやすく子供みたいな反応──って、訳じゃなさそうだね」

 ジンは溜め息混じりに言う。
 トゥールはクラウスの様子を見て、狼狽した。ただ注射が怖くて泣く子供よりずっと、緊迫した様子だ。クラウスは、怯えたように注射器から目を離さない。
 
「それ……、それで、みんな、いなくなったんだ」

 ジンはハッとする。研究施設にいる翡翠バーコードの処分に用いられるのは、致死量の毒物だとか聞いたことがあった。無駄に苦しませぬために、注射器でその薬品を投与して、そうやって処分していたのだ。
 だから注射器を見ただけで、クラウスはこんなに怯えたのだろう。
 全く手の掛かる。ジンはもう一度嘆息して、諭すように言う。

「クラウス。中の薬品はクリムゾンを抑制するためのものだから、別に死なないよ」
「ううん、あまりにもクラウスくんの体に合わなかったら最悪死ぬって、さっき言ったじゃないのー、うふふ」
「ちょっとメル黙ってて」

 クラウスが更に怯えて、トゥールの背中に隠れてしまう。

「ちょっとクラウス。メルの言ってることは冗談だし、君たちはなんのためにアモルエに来たんだっけ? 君がもう誰も殺しくないって言ったから、クリムゾンを抑制させちゃえばいいって。そう考えて連れてきたんだよ?」

 まだ不安そうな表情をしているものの、クラウスはジンの方を見た。

「まあ、別に? さっきあんなことを言ったくせに、今更僕のこと信じられないなら、それでもいいよ」

 え、オレ何言ったっけ。一瞬クラウスは思考して、勢いのままに口にしたことを全て思い出して、少し恥ずかしくなる。
 助けたいだの、友達になれたかも、だの。気恥ずかしいことを、つらつらと。ジンはそれを今言ってやろうかと思ったが、トゥールやメルフラルにそんな発言をしたことを知られたら、クラウスは恥ずかしすぎて暴走しかねない。というか、流石に2人しかいない状況だからこそ口にしたことを暴露するなんて。ヒトとしてどうかと思うため、ジンは口を噤むことにした。
 クラウスは決心がつかないのか、しばらくはトゥールにしがみついたままでいた。そのうち、トゥールが何も言わずに彼の肩に手を置いた。肩に触れる、大きな爬虫類の手。クラウスはそこに自分の手を重ねた。カサついた皮膚や、鋭い鉤爪。触れるだけで、どうしてか勇気が出る。
 大丈夫だ、クラウス。言葉もなくトゥールがそう言っている。それならきっと、大丈夫なのだ。
 クラウスは小さく笑う。

「信じてる。ジンのこと」
「そう。素直で良い子じゃん」

 安心させるように笑いかけて、ジンはメルフラルの手から注射器を受け取った。
 それから消毒液で湿らせたガーゼを用意し、クラウスに腕を出すように言う。クラウスはキュッと目を瞑って、顔を逸していた。確かにあらゆる痛みに耐えてきたとはいえ、針が皮膚を突破って薬液が投与される、というのは怖いよなあ、と苦笑する。とはいえ、ジンも昔研究員の仕事をしていたのだ。痛みのないように注射をするくらいお手の物である。
 実際に針を皮膚に当てたとき、クラウスは小さく悲鳴を上げていたが、特に痛みもなく一瞬で終らせる。終わった、とジンが伝えたとき、クラウスは疑いをかけてきたほどだ。注射などそれくらいのことなのに、何故か投与される側は面倒なくらいに身構えるものだ。

「はい、お利口さんにはご褒美にココアを入れてあげたわ。3人とも飲んでから行きなさい」

 いつの間にか用意していたココアの入ったマグカップを3つ、メルフラルが机においた。甘い香りと湯気の登るマグカップ。ここにいる間、何度も口にしたお馴染みのココアである。有難くジンとトゥールはマグカップを手に取った。

「は、お前の作るココア、熱すぎてヤダからいらねーし」
「あら、本当に飲まなくていいのん? 人生ラストココアになると思うわよ」

 拒む素振りを見せたくせに、クラウスは結局ココアを口にした。アチィ、と文句を言いながらも、残さず飲み干していた。
 もうやり残すこともない。それでは行こうか、という流れになったとき、トゥールがメルフラルに向き直って、口を開いた。

「メルフラル。ありがとう。言葉だけでしか伝えられないことが酷く心苦しいが、本当に感謝している」
「あー……もう、やだ。あなた真面目な子だから、言葉も行動も、一々こそばゆいのよ」

 メルフラルにしては、珍しく、本気で困ったように笑む。

「まあでも、そうね。気分がいいから誠意には誠意で返してあげるわ。あなたは物置部屋の資料整理を手伝ってくれた。料理も一緒に作ってくれた。他にもお掃除してくれたり、お馬鹿ちゃんが暴走したとき、扉を壊してまで助けに来てくれたわね。アタシからもありがとう、トゥールくん。ジンのこと、よろしくね」

 薄く微笑みながら頷いて、それからトゥールはクラウスの肩を突く。促されたクラウスは、メルフラルと目を合わせないように、小さな声で言った。

「……ありがとう」
「ええ。ジンのことよろしくね」

 クラウスの態度を特に気にかける様子もなく、メルフラルは彼の頭を優しく撫でた。クラウスもまた、顔を上げることもなく、黙って撫でられていた。

「じゃあメル。色々ありがと。行ってくるから」
「うふ。行ってらっしゃい、ジン」

 手を振る彼女を一瞥して、ジンはドアノブに手をかける。

「──メルフラル!」

 突然、クラウスが声を上げたので、ジンは何事かと彼を凝視する。

「……お前の作るココア、美味しかった! お前の手、暖かかった!」

 ぎょっとするメルフラルに対して、クラウスは泣きそうな顔で──というか、泣いていた。両目からボロボロと、子供みたいに涙を流して、しゃくり上げながら言葉を紡いでいた。

「に、人間なんか嫌いだけど、お前のことは、嫌いじゃない……! あとは、ご飯美味しかったし、部屋は汚かったけど、えっと……おかーさんのこと、」
「ッぷ、あはははは! ふふふっ、あー、おっかしい!」

 唐突に笑いだしたメルフラルをクラウスがキョトンとした顔で見つめる。

「ホントにお馬鹿な子ねえ。ちょっと優しくしてやって、餌付けしたら、それでコロっといっちゃうのね?」

 小馬鹿にするような声で言っていたが、次の瞬間、メルフラルの表情が完全に消失する。

「──懐かないでよ。虫唾が走る」
「……えっ?」

 クラウスは一瞬何を言われたのか、わからないようだった。それに対してメルフラルも、言葉を繰り返すことはない。ただ無表情でクラウスを見るだけだった。
 しばらく固まっていたクラウスは、ようやくそれを理解して、メルフラルを睨み付けた。

「お、お前なんか……大ッ嫌い!」
「ええ。さよなら、精々余生を楽しみなさい」

 メルフラルらしいな、とジンは苦笑して。アモルエの駅を目指して歩き出した。道中グスグスと泣きじゃくるクラウスを、トゥールは無言で撫で続けていた。

Re: 継ぎ接ぎバーコード8-6 ( No.118 )
日時: 2021/02/19 20:09
名前: ヨモツカミ (ID: 5ySyUGFj)



***


 例のマンションの側まで来ると、クラウスは嬉しそうに走り出した。馬鹿は元気そうでいい。ジンがクラウスを眺めて鼻で笑うのとほぼ同時に、何者かの気配を感じた。
 空気も凍るような、鋭い殺気。何処から、とジンが辺りを見回したとき、トゥールが地面を蹴った。
 マンションのベランダだ。何かが飛び降りてきて、緋色の大鎌を振りかぶった。クラウスを狙っている。
 ジンが声を上げるより先に、トゥールがクラウスを突き飛ばして、そのまま鎌で切り裂かれた。
 思わず息を呑む。トゥールが地に膝を付く。大鎌を持った男も、上手く着地できなかったのか、無様に転がった。

「来るな!!」

 トゥールを心配して駆け寄ろうとしたクラウスも、素早く〈シュナイダー〉でナイフを構えたジンも、トゥールの声で動きを止める。
 大鎌の男がふらりと立ち上がるが、それ以上トゥールを攻撃しようとはしない。そもそも、あれだけサックリと鎌で裂かれたはずのトゥールが、一滴も血を流していない。

「……突然襲ってくる当たり、紅蓮バーコードかな。でも、物理攻撃系の〈能力〉じゃないみたいだね?」

 ジンが冷静に分析して、呟く。男は、無表情でジンの方を見据える。金茶色の髪を緩く横で結んでいて、虚ろな目をしている。
 こちらに来るかと身構えたが、ジンの方ではなく、クラウスが狙われた。地面を蹴って切りかかろうとした彼を見て、クラウスはすぐに〈チェシャー〉で透明化する。標的を失った男は大鎌で空を切り裂き、また着地に失敗して地面を転がった。
 脚を怪我しているのだろうか。上から降ってきたのだし、着地するときに捻挫したのかもしれない。
 金茶色の男は、なんとか立ち上がろうとして、上手く動けないでいる。それどころか、大鎌を腕で押し退けて、何かを堪えるみたいに震えている。切りつけられたはずのトゥールは膝をついたまま動かないが、尻尾や肩が僅かに震えているので、まだ死んではいない。
 あの男は殺す気がないのか? 殺したいわけではないのに、衝動を堪えているような感じだ。だとするなら、大鎌の彼はクリムゾンか。
 どっち道、バーコードであれば殺すだけだ。ジンは黒いナイフを数本出現させて、その男に照準を合わせる。

「──リゼ!」

 すぐ側で別の男の声がした。ジンがそちらに意識を向けた瞬間、強い衝撃が腹に叩き込まれる。空気を吐き出し、受け身も取れずに地面を転がった。
 ミントグリーンの長髪が揺れるのが視界に入る。もう1人いたのか。彼はジンを追撃するでもなく、大鎌の男のもとへの駆け寄って行った。

「何勝手なことしてんだよ、雑魚は部屋で大人しくしてろって言ってんだろが!」
「ベル、ぼく……どうしても、殺したく、て」
「るっせぇな、そんなもんどうにか押さえ込めよ。コイツら片付けたらボクを好きにしていいから。ほら、隠れてろよ。鎌、貸してもらうから〈ラモール〉解くなよ」

 リゼと呼ばれた男を庇うようにして、ミントグリーンの髪の彼が大鎌を構えた。

「ベルくんだっけ? 仲間想いなのは素敵なことだけど、逃げるなら今のうちだよ?」
「クソガキが、気安く呼ぶんじゃねえよ。それにボクの名前はベルガモット、」

 突然ベルガモットは呻き声を漏らして地面に蹲った。背中から血が溢れ出す。見えない攻撃、恐らくクラウスだ。ジンとしては彼を戦力として数えてはなかったが、思ったより役に立つじゃないか、と感心する。
 今だ、とジンはナイフを両手に切りかかりに行く。しかし、ベルガモットは素早く立ち上がって、ジンの攻撃を大鎌で弾いた。

「結構深く刺してやったはずなんだけど、なにアイツ」

 姿は見えないが、クラウスのボヤく声がした。

「ジン、あの大鎌で切られたら体が動かせなくなるって。トゥールから聞いたから、気をつけろよ。オレはトゥールを安全なトコに運んどくから、頑張ってな」

 クラウスの声が遠ざかっていった。
 戦力として一番期待していたトゥールは動けない。クラウスはトゥールを守るのに精一杯で、加勢する気はないらしい。ジンは小さく嘆息する。
 動きを封じてくる大鎌はリゼの〈能力〉だ。だとすると、ベルガモットの〈能力〉は別にある。クラウスに刺されたのに瞬時に攻撃に転じてきたことから、それが〈能力〉であると考えられるが。どうしたものか。接近すれば、大鎌で切られる可能性がある。ならば距離を取ってナイフを飛ばすのが有効か。
 考えているうちに、ベルガモットが切りかかってきたため、ジンは慌てて飛び退いた。しかし、再びベルガモットが鎌を振りかぶって接近してくる。避けられない、と思ってナイフで受け止めたが、力負けして地面に転がされた。
 相手からすれば、切りつけさえすればほぼ勝ったも同然なのだから、積極的に攻撃をしてくるだろう。今度こそ本当に避けられないと思ったジンは、素早く自分の喉を掻き切った。

「は?」

 噴き出したジンの血を全身に浴び、ベルガモットは目をキュッと瞑る。そうしながらも振り抜いた鎌が切りつけた者は、既に息をしていなかった。
 血に塗れた少年の体を見下ろして、ベルガモットは動揺した。自害した。鎌の柄で突付いても反応はない。確実に死んでいる。
 ならばもう、死体に用はない。少年の行動の理由はわからなかったが、まだ敵はいるのだから、片付けなければ。
 そう考えて辺りを見回しても、リゼ意外に姿が見えない。逃げたのか。
 ベルガモットは安堵の息を吐いて、リゼに歩み寄って行った。

「全く、リゼはいつもボクに手間をかけさせやがって」
「ぼくだって……いや、ごめん」

 リゼが言いかけた言葉を呑み込んだのを見て、少しだけ満足そうに笑う。リゼはベルガモットがいなければ何もできない。今回だって、守ってやらなければどうなっていたか。
 ベルガモットがリゼの手を引いて、彼を立ち上がらせようとしたとき。

「え?」

 全身に浴びた血液が、羽虫のようにどこかを目指して蠢き出した。
 それは、地に伏せる少年の元へ。何が起こったのかと2人が呆然としている間に、少年はムクリと起き上がって、黒いナイフを飛ばしてきた。
 咄嗟に反応できず、ベルガモットの腹部にナイフは深々と刺さった。
 呻きながらもナイフの柄を掴んで引き抜けば、すぐ様傷口は塞がる。

「脅威の再生能力、ね。ちょっと厄介な相手になりそうだね」

 ジンはゆっくり立ち上がると、そう呟いた。

「そういうお前はなんの〈能力〉だ?」
「どうせ死ぬ奴は知らなくていいことだよ」

 ジンの言葉を聞いて、ベルガモットは口角を吊り上げた。そうして、大鎌を振りかぶりながら接近。

「っ! ベル避けて!」
「は──」

 リゼの声が響く。ベルガモットが振り向いたときには深緑の鱗に覆われた大きな腕が眼前に迫ってきていた。
 素早く鎌で防御するも、横っ腹に鋭い痛みが襲う。黒いナイフが突き刺さっている。そちらに気を取られた瞬間、鉤爪が肩から胸の辺りまでを裂いた。
 血を吐いて地面に倒れ伏したが、直ぐに傷は塞がる。

「再生、確かに面倒だな」

 トゥールがジンの隣に並んで呟いた。

「トゥールもう動けるの? 痛いところとかない?」
「ああ。一定時間体が動かなくなるだけのようだ」
「そ。……さて、どうしよっか」

 トゥールとジンを睨みつけながらも、ベルガモットはリゼの側まで下がって、彼を庇うように立ち塞がる。傷口は直ぐに塞がり再生するとはいえ、疲労も痛みも蓄積されていく。このままリゼを守りきれるのだろうか。

「お願い、もうやめて!」

 突然、リゼが叫んだ。

「ベルを殺さないで! あなた達に危害は加えないから……見逃して、下さい!」
「リゼ、お前何勝手なこと言ってんだよ、ボクはこんな事でへばるほど雑魚じゃないぞ」

 ベルガモットがリゼの顔を見ると、彼は両目に涙を溜めていた。

「ベルはいつもそうだ、なんでも背負おうとする。なんで君は、ぼくのために死んでほしくないってわかってくれないの? ベルだけでも逃げてよ!」
「うるせえな! リゼは黙ってボクに守られてれば、」

 刹那。ぐじゅ、と嫌な音を立てて、リゼの喉が裂けた。肉の断面が見えて、どろっと彼の口から、喉から、血が溢れて、自分の首元も切りつけられたのがわかった。大鎌が消失する。2人して地面に崩れ落ちて。しかし、ベルガモットだけは再生の〈能力〉のために、死ななかった。
 クラウスに触れている間は彼とともに透明化することができる。ジンはクラウスに触れた状態でリゼとベルガモットの間に入り込んで、手早く2人の喉を掻き切ったのだ。
 倒れ伏したベルガモットは、立ち上がると、とにかく遠くを目指して走る。ベルだけでも逃げて。リゼがそう言ったから。生きようとした。けれど現実はそう甘くないのだ。
 後ろから飛び掛かって来た者に押し倒されて、地面に口づけをする。起き上がろうとしたとき、後頭部に強い衝撃が降ってきた。何発も、何発も。目が見えなくなっても、聴覚が駄目になっても、頭部が繰り返し再生する。

「なるほど。頭を潰しても再生するのか。それなら」

 トゥールはベルガモットの首に、自分の腕を巻きつけた。首の骨を折ってしまわぬように手加減しつつ、首を絞め上げる。

「ぅ、ぐ……が」

 ベルガモットが必死に藻掻くが、逃れることはできない。
 しばらく呻き声をあげていたが、そのうち彼が動かなくなって、トゥールはゆっくりと手を放し、ベルガモットの体を転がす。ゴム人形のようにぐにゃりと力なく転がされる体を見るに、もう息絶えたのだろう。

「……さて、思わぬ襲撃を受けたけど、特に酷い怪我もなく片付いてよかったね。部屋に入ろうか」

 ジンが声をかけるとトゥールはそうだな、と短く返事をして。クラウスは2人の死体を視界に入れないようにして、小さく頷いた。


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