複雑・ファジー小説
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- ヨリシロ
- 日時: 2016/08/27 21:31
- 名前: クスノキ(元R) (ID: J9PmynZN)
お久し振りの方は本当にお久し振り、初めましての方ははじめまして!
改名しました。クスノキ(元R)です
こちらTwitterでSSにする予定だったのですが作画の方が面倒になった、と言いますか美術大学への受験もあって受験用のデッサンだけで一杯一杯なので文章の方でのろのろ更新していきたいと思います。
行き当たりばったりの物語なのでどうぞ暖かい目で見てあげてください。
暇つぶし程度に見ていただけると有難いです。
Twitter→【 @kusunoki0000】
- Re: ヨリシロ ( No.1 )
- 日時: 2016/07/21 02:55
- 名前: クスノキ(元R) (ID: J9PmynZN)
麗らか。桜の季節。春。
窓から射し込む柔らかな光を浴びながら、イズモは大きなあくびをした。
イズモは我が家に来て13年目を迎える老猫だ。
私がまだ5歳だった頃、『 拾ってください』という張り紙の貼られたダンボールの中で小さく震えていたところを連れて帰った。
イズモは我が家に来た時から右の耳が欠けていた。
幼かった私が痛そうだなと心配するのをよそに、イズモはいつもひょうひょうとしていた。
あくびをした後、イズモは軽く毛繕いをし軽快に私のベッドから飛び降り、部屋を出ていった。
きっと散歩に出かけるのだろう。
私は赤みを帯びた茶毛の猫が出ていった後を少しの間ぼんやり見ていた。
- Re: ヨリシロ ( No.2 )
- 日時: 2016/08/26 22:42
- 名前: クスノキ(元R) (ID: J9PmynZN)
河川敷沿いに花をちらほらと咲かせ始めている桜並木。
黄色いカーペットのように敷きつめられたたんぽぽ。
柔らかい日差し、そして出会い。
私は、本日付で高校二年生になった。
けれども私は高校に入って一年が経過した時点で、身長が伸びたわけでもなく、人間的な成長を遂げたかどうかも確信を持てないまま次の
ステージへと放り出された。
時間は無表情で無感情に只々私たちを押しつぶそうとしてくる。
時は残酷だ、とよく言われるが時が残酷なのではなく、きっと人間が勝手に悲観的になってるだけだ。
二週間振りに会った友達との会話は楽しかったけれど、どこかやるせなかった。
新しくなった教室は酷く無感動だった。
私はHRを終えるとひっそりと教室を抜け帰路についた。
- Re: ヨリシロ ( No.3 )
- 日時: 2016/08/28 17:10
- 名前: クスノキ(元R) (ID: J9PmynZN)
私は無意識のうちに神社へと足を運んでいた。
鳥居を潜り、参道を通って拝殿へと向かう。
特に祈ることもないが財布から五円を取り出し賽銭箱へと入れ、手を合わせた。
目をつぶり、これから先の事を考える。
今と何も変わらない色の無い日々、社会から淘汰されていく私。
そっと目を開けると春の陽射しが眩しかった。
私はまた五円玉を取り出し賽銭箱へと入れた。
誰もいない神社を見渡してみる。
今では廃れてしまい人の来なくなった境内は自然と一体化していた。
燈籠や狛犬には蔓がまとわりつき、苔がむしている。
手入れは全く行き届いていないが私はこの神社が好きだった。
歴史や信仰が埋もれているここで、いつまでも空を見上げていたり、本を読みふけったりしていると時間の流れが早く感じた。
もの思いに耽っていると、頬に当たる冷たい感触に気がついた。
ぽつりぽつりと雨が降っている。
あ__傘持ってない。
雨が止むまでここにいよう。
私は、雨が当たらないよう屋根下の奥の方へと移動し、文庫本を開いた。
カフカの変身____二十世紀最大の作家と称されるフランツ・カフカの残した名作の一つだ。
朝起きたら巨大な虫になっていた、から始まる物語で私の愛読書の一つでもある。
私は、ふと考えることがある。
いつか私も、朝起きたら虫になってしまうことがあるんじゃないか。
世界に押し潰されそうになって、自分が惨めに見えて、世界から見ればちっぽけだけど親しい人にとって大きな負債になってしまうんじゃないか。
そう思うと、言い様のない深くて大きな不安の海に沈んでしまいそうになる。
文字を追っているといつしか意識は遠のいていき、気がついたら眠っていた。
- Re: ヨリシロ ( No.4 )
- 日時: 2016/10/12 23:43
- 名前: クスノキ(元R) (ID: J9PmynZN)
寝て起きたら世界が変わっていた。
なんて話は、いくらでもある、ありきたりな話だ。
どこかでそれを願っている自分も、世界が変わっても自分は変わるはずがないと思っている自分も、全部嫌いだ。
相変わらずの古びた神社は寝て覚めても静かだった。
私は鞄を手に取ると、ゆっくりと春を感じながら帰路についた。
「イズモ__どこで拾ってきたの?」
イズモはそれを私の足元に落として、窓の側へと座り込んだ。
私はそれを人差し指でつまんで顔の前にもってきた。
若干汚れているが、どうやらお守りみたいだ。
お守りには安産とも勉学とも書いていなくて何の祈りを込められているのかも分からない。
うわー、どうしよう____
お守りとなると捨てようにも捨てられない。
善いか悪いかはわからないけど、このお守りにも神様が、多分宿ってる。
祟られるかもしれないと思うと踏み切れなかった。
そうだ、あの神社に持っていこう。
あの神社に神様は、きっといないだろう。
荒廃しきっているし、新しい住人の為に使う方が神社の為でもある。
小さなお守りの主から、いち寺の主に一気に出世するのか、と思うと少しだけ笑えた。
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