複雑・ファジー小説
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- Liars'
- 日時: 2016/09/19 13:52
- 名前: Moa (ID: AzSkpKat)
“manipulaterに、気をつけろ。”
- Re: Liars'【第一章 】 ( No.1 )
- 日時: 2016/09/19 21:16
- 名前: Moa (ID: AzSkpKat)
自分の頭の中は、昨夜出会った女性の言葉で埋められていた。微笑んだまま告げられた忠告は意味深で意味不明で。今期最大の悩みである別れ話を拗らせた恋人の事など忘れてしまうほどに、その言葉の意味を考えた。
大学からの帰り、コウは運悪く季節外れの豪雨に襲われた。とりあえず激しい雨から逃れようと、普段は通りもしない怪しい路地裏の店に転がり込んだのが始まりだった。そこで、彼は彼女と出会った。
高級感溢れる店の制服を着こなした美しい顔立ちの彼女は、コウ自身も哀れになるほどびしょ濡れになった彼を少し驚いた様子で見ていた。突然、しかも乱暴に扉を開けて入り込んだのだから、仕方ないと言えば仕方ない。しかし彼女はふわりと微笑むと、大丈夫ですかと刺繍の入ったシルクのハンカチをコウに差し出した。最初はこんな高級そうなもの自分が使って良いのかと躊躇したが、結局その親切心に負けてありがたく使わさせてもらうことにした。
「すみません、いきなりこんな...」
「いーえ、お気になさらず。タオル持ってきましょうか?」
「あ、いや...大丈夫です」
あれ...思いの外軽い?
堅いイメージの外見とは違った彼女の少し軽い口調に、コウは内心驚いていた。淡々とした、美人が故に感じる冷たさは一切見当たらない。人は見かけによらず。どうやら、仕事とプライベートのテンションを分けないタイプらしい____なんて、何故か細かくこの女性を分析していく。
「...あの、ここって何かの高級店とかですか?二重扉構造って珍しいですね」
「ああ、そうですね。この奥はVIPしか通れないようになってます。けれど貴方のような方がいらっしゃるのはもっと珍しいですよ。ここ、路地裏にありますから」
普通一般の方は気づかないんですけどね?、と再び微笑んだ彼女の表情は、何故か胡散臭く感じて無意識に目線を反らした。こういう笑みは嫌いだ。目を合わせる度何か探られているような気がして、気持ちが悪い。これはあまり関わらない方がいいだろう。
そう思った丁度その時、あの忠告が告げられたのだった。
「......マニピュレイターに、気をつけて下さいね」
その時目を反らしていたために、忠告を静かに言い放った時の彼女の表情は分からなかった。
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