複雑・ファジー小説

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無限の廓にて、大欲に溺す
日時: 2020/08/16 20:36
名前: にっか ◆ShcghXvQB6 (ID: jtELVqQb)

無限の廓にて、大欲に溺す

開始日:2016/8/22(8/21 15:00スレ立ち上げ、創作解禁)


設定については、次レスに張るURLから確認願います。

なお、コメント等は差し控えて下さい。

Re: [リレー企画]無限の廓にて、大欲に溺す ( No.84 )
日時: 2017/04/09 14:55
名前: 霧島 ◆FJjoZBA4mU (ID: Ij88/0W6)
参照: https://twitter.com/Avatar_Alone

 青年の後に続くハイルヴィヒの表情は、相も変わらず変化がない。考え事をしているような素振り一つ見せぬまま、ただ青年の後を一定距離を保ったままで歩み続けている。夜が歩み寄る中、薄暗がりに飲み込まれ無い様に。少しばかり早い足音二つは規則的な音を奏でて居るばかり。二人の間に無用な言葉は無い。そも、ハイルヴィヒがガウェスへ必要もないのに話しかける事は稀であるし、ガウェスもまた、一連の事件での心労を顧みれば口数が少なくなるのも最もであろう。そして双方、特にハイルヴィヒの方は語らいに花を咲かせる様な質でもなかったのだから、別段、変わった事があるわけでもない。例えば空に輝き始めた星が一つ落ちてこようとも、二人の間に特別な言葉は無いだろう。凶星が落ちればまた、別案件であるだろうが、其れは其れとして。
「……ひとつ、構わないか」
 唐突にハイルヴィヒが口を開いたものだから、ガウェスの空色の瞳は丸くなり、ぱちり、と瞬いた。彼が何でしょうか、と紡ぐよりも早く、僅かな沈黙を是と取ったらしいハイルヴィヒは静かに、続ける。
「……必要ならばメイ・リエリスへの聞き込みの件を“此方”で請け負うが、どうする。……あの場であの憲兵の提案を跳ね除けたんだ、何かしら面倒な理由でもあるのだろう。……大方、お前がメイ・リエリスの元へ行き難い、乃至は行けない理由が。其れならば代わりに“我々”が其れを請け負い、情報を持ち寄るのもまた不可能では無いと思うのだが」
 淡々とした言葉は、それでも秘め事の様に何処か秘めやかに紡がれる。密談などと言ってしまえば大袈裟であるが、かと言ってこのやり取りが露呈すれば、メイ・リエリス、ひいてはソーニアの元へ向かった“誰か”とハイドナー乃至はガウェスとの繋がりが発覚しかねない。ハイルヴィヒの予想からすれば後者のみならばまだしも、前者を疑われては厄介なような、そんな気がしていた。そしてハイルヴィヒの言葉に偽りはない。あくまでも彼女個人の行動ではなく、彼女乃至は其れに連なる誰かが動けば自然と情報はその裏側、ベケトフの当主へと流れる事は必至であった。そも、こうしてハイルヴィヒが付いてきた時点で、ある程度の情報は早い段階で例の胡散臭い当主へ渡る事は決まりきっているのだけれど。それでも、直接的に言わずともどことなく其れを匂わせてしまうのはある種、ハイルヴィヒの無意識のお節介心であったのか、彼がスヴェトラーナの親しい友人であるからなのか、さてはて。
 他方ガウェスはといえば、ハイルヴィヒの言葉に些か難しい表情を浮かべていた。聡い彼の事だ、ハイルヴィヒの言葉の裏にあるものはとっくに理解している。ハイルヴィヒを連れてきた時点で最早その点に関しての異論は無い。あの家の事だ、遅かれ早かれ情報は当主の耳に入るだろう。多少それが早まった所で、大々的に此方の害になる可能性は低い。それなりの付き合いのある家を、殊、あの事なかれ主義の家がわざわざ敵に回す様な事をするとも考え難い。あくまでも彼は只、ハイドナーの当主、としてではなく一人の人間として、無関係にも近しい誰かを巻き込む事を躊躇っている。しかし、何処まで口にするべきか、兎角、考えねばならぬ事も、懸念も、不安も、押さえ込んでいる苛立ちに近しい感情も何もかもが混ざり合う。後ろを考えれば身勝手に動けぬのはハイルヴィヒとて同じ事だが、納得させぬままでは互いに不安要素が生まれることもまた必至。そればかりは避けたい所である、等と考え始めてしまえば中々、良い返答が浮かばない。
「其の件に関しては……少し、考えさせては頂けませんか」
 こぼれ落ちるガウェスの言葉にハイルヴィヒは一瞬、訝しむかの様に眉を動かす。けれども一拍の間を持って、短く息を吐きだした後にそうか、とだけ短く告げた。互いに視線を交わらせる事はなく、ただ何処か、互いの中の暗黙の了解ばかりが横たわる。喧騒ははるか遠く、闇夜のカーテンの中を彩る星ばかりがただ美しく、静かに、瞬いている。過剰に重苦しい空気を纏うでもなく、かと言って軽薄な空気が流れるでも無く、二人はただ目的地へ向かって歩を進めていた。さて、語らうべき事ももう或りはしない。あと少しでスヴェトラーナらの待つ場所へと差し掛かる、といった所でハイルヴィヒの歩みが止まる。今日の彼女は少し様子がおかしくすら思えるが、かと言ってガウェスが咎めるような言葉を吐き出すわけでもない。ハイルヴィヒの逡巡の間はほんの、一瞬だった。
「それと、もう一つ。忠告とも、警告とも……好きに取ってもらって構わないがご当主、どうか軽率な行動は慎め。今は、特に」
 ——余計な世話とも、と続けかけた言葉をハイルヴィヒは飲み込んでいる。冷ややかな青は空の色を貫いて、優しい色とは程遠い。けれども刺し穿つ様な其れではない。
「お恥ずかしい、限りです。……其の言葉、忘れぬようにしなくてはなりませんね」
 恥じらうように微笑む彼は、正しく“王子様”の体現とも思えたと、ハイルヴィヒは口にせずとも薄らと思っていたことである。清廉潔白、真人間で生真面目であるからこそ、このご時世では悩み、歩みを止めることも多かろう、等と薄ぼんやりとハイルヴィヒは考える。それに対してどうこう感情を抱く事は無い。けれどただ、彼の行動一つで此方側が何らかの不利益を被る事ばかりは感化できない。ただ、それだけ、それだけの為に言葉を紡ごう。己の中に生まれる感情を静かに殺しながら、ハイルヴィヒはただ淡々と言葉を紡ぐばかり。
「お前はまだ、人らしい人だからな。頭に血が上るのは分かる、吐き出し様のない怒りを、何処へ向ければいいかわからないのもまだ、理解は出来る。それでも一度立ち止まり、自らを顧みろ。そうして余裕ができたら少し……ほんの少しでいい、周りをよく見てやるといい。……お前は、ガウェス、まだお前は……出来るだろう、それ位なら。……君まで、箱庭ばかりに目を向ける必要は無いよ」
 夜の帳は既に下りた。秘め事の様な一言を添えて、けれどもそれだけ告げれば話は終わりだ、とばかりにハイルヴィヒはガウェスの横を通り抜けて、向こうに待つ少女の元へと歩み寄る。らしくもない言葉を聞いて僅かに固まるガウェスを追い越すその折、一瞬だけガウェスの方を向いたハイルヴィヒの瞳の色は何処か、穏やかさすら孕む。月明かりに見せられた様な、そんな色。

「ってて……あ〜……ヴィッヒー本気で、蹴飛ばしやがった……」
 ハイルヴィヒとガウェスが宿へと向かった後、スヴェトラーナに寄り添われつつも地面に倒れ込んでいたヨハンは漸く体を起こし、ハイルヴィヒに蹴り飛ばされた位置を擦る。その様を一対の硝子玉、スヴェトラーナの瞳はただ心配そうに見つめていた。
「あの……ヨハンさん、大丈夫ですか? ……びっくり、したわ。ハイルヴィヒがヨハンさんを蹴るなんて」
 少しばかり躊躇いがちに、スヴェトラーナは言葉を紡ぐ。優しく、柔らかく、穏やかに。眉尻を下げてほんの少しだけ寂しげに、悲しげに表情を歪める様すらただ完璧な少女たらんとしたままで。患部へと伸ばされるスヴェトラーナの白い手を、けれどもヨハンはやんわりと遠ざけたものだから、少女は少しばかりきょとん、としてヨハンを見つめる。大丈夫か、という問いに素直に大丈夫、と言える痛みではないが、かと言って悶絶するような痛みはもう或りはしない。幸い見物人が集う様な自体にならなかったことは幸いだった。長い溜息の後、ヨハンはがしがしと頭を掻く。
「いやぁ、僕もびっくりしました、本当に……あー、でも、ま、しょうがないか。にしても、その……お恥ずかしい所、見せちゃいましたね、すみませんお嬢さん」
 罰が悪そうに謝罪を紡げばスヴェトラーナは小さく首を横へと振るばかり。ハイルヴィヒが意味もなく暴力に訴える事など有り得ない、と考えているスヴェトラーナではあるが、よもやヨハンにすら手をあげるとは思っていなかった。時折ヨハンがハイルヴィヒに足を踏まれていた事に気づいていなかった、というのもまあ、あるのだが。其れを差し引いたとしても、スヴェトラーナにとっての衝撃は大きなものであった事に相違ない。ハイルヴィヒの感情の変化は決して分かり易いものではないが、少なくともヨハンへ向ける感情が好感に近しい物であると、スヴェトラーナは知っていた。先程ハイルヴィヒが述べた事が理解できぬ程、スヴェトラーナも子供ではないが、彼の人を諌める気であったならば、本気で蹴り飛ばす必要性は無いのではないだろうか。けれど、他でもない、ハイルヴィヒが為した事を否定できない、したくない。——不意に、見送る折にハイルヴィヒから投げられた言葉を思い出す。必ずしも彼女が正しい訳はない、有り得ない。それでもスヴェトラーナにとって、ハイルヴィヒという人の存在は大きくなってしまっていた。否定したくない、認めたい。今までに抱いたことも無いような感情が、少女の内に渦巻いていく。答えが見当たらない事が侭、恐ろしく、少女の吐き出す息はわずかに震えた。今日の出来事も、これから起きるやもしれぬ何かも、先ほど感じた不安も、何もかもが恐ろしい、恐ろしいのに——。
「……スヴェータお嬢さん? あの、大丈夫ですか」
 思考に耽って何処かぼんやりとしてしまっていたスヴェトラーナは、ヨハンの何処か優しくも不安気な声では、とした。果て無い、円環にも似た思考は無意味とまで言わずとも、同じ場所ばかりぐるぐると巡ってしまっては意味がない。考えているようで立ち止まってしまっては、本末転倒も良い所だ。立ち止まり、取り残されてしまったら、そう思うと末恐ろしい。下りかけている帳の中に取り残されてしまうのは只、怖くてたまらない。思わずヨハンの手を取って、大丈夫よと笑ってみせた。輝く太陽は沈み、微睡み始めている。あっという間に日は眠り、月が目をさましてしまうだろう。最中、向こうを見やるヨハンが短く声を上げた。もしかして、と振り向くスヴェトラーナの瞳が暫し前に歩んでいった二人を捉えれば、するりとヨハンの手を離し、少女は小走りで二人の元へと向かう。
「ハイルヴィヒ! ガウェスお兄様! 嗚呼……おかえりなさい。……何か……いえ、いいえ……お兄様、ガウェスお兄様……? お兄様、おつかれ、ですか?」
 2人の帰還に輝かんばかりであった少女の顔ばせは、兄と慕う人の顔を見て、やや不安の色が滲ませる。何故って、そう、柔らかな空色に何処か陰りが見えてしまったから。何かあった? なんて無粋なことは問えなかった。問うた所で何も己には知らされないだろうと言う無意識下の諦めもあったのだが。不安げなスヴェトラーナを見たハイルヴィヒはガウェスの脇腹を小突いてから、ヨハンの元へと歩んでいってしまった。スヴェトラーナがちらりと二人を見やれば主にヨハンが冗談を交えつつも何やら話し込んで居るものだから恐らく父への報告の件と、情報共有と言う意味合いで言葉を交わして居るのだろう、と結論付けて、今はただ兄と慕う人が心配だからとそちらへと注視する。
「いえ、問題或りませんよ、スヴェータ嬢。……すみません、何だかご心配をおかけしてしまった様で」
 浮かべられるのは完璧な笑顔と言って差し支えない其れであった。一見すれば暖かで、陽だまりのような笑みである。其の癖其の色に陰りが見えてしまって仕方がないのは、スヴェトラーナの考えすぎだろうか。そうであればどんなに良いか、と少女は思う反面、彼の言葉を素直に受け取ることが出来ないままで居る。訝しむ、疑う、そんなつもりは或りはしないのに。
「……輝く太陽はもう、眠ってしまって、煌めかず静かにすべてを見つめる月の刻ですもの。ええ、ええ、ガウェスお兄様……どうかゆっくり、お休みになって、ね? ……約束よ、お兄様」
 上手な言葉が出てこない。なんと告げるべきか悩んだままで、けれども何かを告げずにはいられない少女は優しく、ただ穏やかに、傲慢さにも似た慈愛を湛えて優しい言葉を紡いでいく。青年の手を取って、握りしめて、約束の言葉を強請る。——向こう側に居るヨハンがものすごい形相で二人、というよりもガウェスを睨みつけているのだが、其れに気付かぬままであるのはある意味、スヴェトラーナが少女たる所以であるか。戸惑う様子を見せるガウェスも、ほんの少し困ったように笑いながら、月明かりを受けて静かに佇む。大丈夫ですよ、と優しい声が少女の鼓膜を震わせるけれど、安心しきる事が出来ない我儘な少女は躊躇いながらも言葉を続けた。
「…………ねえ、お兄様、あのね……お節介とは、承知なの、でも、あと一つだけ。……すべてを信じていれば、きっと。悪しき中にもきっと、良きものがあるわ。だから、その……あまり、引き摺り過ぎないで、気負いすぎないで、ね、約束よ。……私にできることは恐ろしく限られているけれど、それでも、出来る事があるなら、なんだってするから。……ガウェスお兄様はもっと、誰かを頼らないと、いつかいっぱいいっぱいになってしまったらって思うと……あのね、怖いの。お兄様の中の何かが削れてしまったら、悲しむ人がたくさんいるの。……イザベラお姉さまだって、きっと。ちゃんと、憶えておいてねお兄様……お願い」
 押し付けにも等しい言葉を、けれども少女は静かに紡ぐ。傲慢であるからこその少女であるのか、少女であるからこその傲慢であるのか。誰一人知りやしないまま。「必要ならばお家までご一緒するわ」と少女は柔らかな笑みで言葉を紡ぐ。きっと、話し相手くらいにはなれるから、なんて、やはり些か傲慢な少女の色を濃く残した言葉を、添えて。

Re: [リレー企画]無限の廓にて、大欲に溺す ( No.85 )
日時: 2017/04/22 11:42
名前: NIKKA ◆ShcghXvQB6 (ID: sjVsaouH)
参照: https://twitter.com/NIKKA_Nonbe

 漸く家に戻ってきたソーニアは「色々と大変だった」と疲れたような困り顔で笑っていた。彼女は第一発見者という事もあり、状況の見聞から、死体の回収と最後の最後まで現場に居続けたようで、随分と帰りは遅くなってしまっていた。食事は済ませたか、と確認してくる故にミュラには食い物を買い与えたと答えれば、短く返事をしてソファに倒れ込むように横になっては、ぼんやりと壁の一点を睨み続けるものだから、どうにも居辛くなってしまったのだ。彼女に「食事に行く」旨を伝えたならば、分かったと短く返事だけしてソファ、顔を伏せてしまった。今頃は寝てしまっているだろう。暇を持て余したミュラが、躾の成っていない子犬のように脱走したりしなければ良いのだが、とジャリルファハドは僅か不安を抱く。
 夜の帳は既に落ち、往来は何時もの喧騒を取り戻しつつあったのだが、その喧騒の中には招かれざる客が幾つかの群れを成して、暗闇の中から目を光らせていた。その多くはアゥルトゥラであり、彼等はこの街の秩序を保とうとしている。彼等の厭にぎらついた瞳を見て、恐らく50年前にもあんな顔をしていたのだろうと、ジャリルファハドは僅か関心していた。50年間平穏に暮らしてきた者達でもあんな顔が出来るのだ、と。彼等のどこかには「東の防人」としての血が密かに眠っているのだろう。
 彼等を己等「西の侵略者」が刺激してしまったなら、それはとても面倒な事になるだろうと、ジャリルファハドは思案する。短い間に血が流れすぎた。両者共に殆どがアゥルトゥラだと聞くが、本当にアゥルトゥラの手の者だったかは分からない。東西、どちらの息が掛かっているのだろうかと疑問を抱く。
 それともこの状況を作り上げたのはジャッバールであろうか。彼等は未だ物々しい得物を持って街を闊歩し、いかにも血を流そうとしているように見える。彼等の様相はまるでこれから戦争だ、と言わんばかりの物であり、得物と様相がこの街の空気を刺々しい物に変えてしまっているのは、火を見るよりも明らかであった。すれ違う者の中には、カシールヴェナで見知った者も多く彼等はジャリルファハドを見るなり、顔を綻ばせて声の一つ、二つを掛けてくるのだが、それを過ぎれば一瞬にして獣の表情と化す。何かがあったと想像するに容易いのだ。
 薄暗い路地に身を投じたならば、貧民街の住人達が黄ばみ、血走った瞳で此方を見据えてくる。彼等はアゥルトゥラの暗部、汚点であると言えよう。貧しさ故に彼等は犯罪に手を染めやすく、またその命は軽い。当然のように命には重さの違いがある、彼等の命など吹けば飛ぶ程に軽く、その人生は無意味に等しくあった。そんな者達が罪に手を染め、互いに勘違いをしていがみ合っているような事はないだろうか、と新しい考えが及んだが、痩せた猿のような彼等にそんな力はあるまい。あるとしたならば、何者かが彼等に殺しの術を与え、金をチラつかせて狂奔させる位であろう。それを成すとなればアゥルトゥラもジャッバール、どちらにも動機はあり払拭しきれない。
 難しい顔をしながら、物乞いの前を通り過ぎ、路地を抜けたならば再び街の喧騒が耳に飛び込み、人垣が目に入る。視界の端に在る憲兵の群れは見なかった事とし、蒸暑さからジャリルファハドは袖を捲くった。右上腕から前腕を経て手の甲、手首までと左前腕に夥しく彫られたタトゥーであったが、これだけ人が居たならば、目立つ事もなく、また誰も注視する事はない。生温い風であったが、無いよりはマシで少しだけ不愉快さは払拭出来た。この生温さは裂かれたばかりの身体から飛び出た血の飛沫に良く似ている。このクルツェスカ全体が血を流しているかのようであった。血の中を漕ぎ、その血に浸かるのは気分が悪いと、張り付いたような笑みを薄っすら湛えながら、ジャリルファハドは人込みの中を往く当てなく歩むのだった。
 カンクェノへ至る広間まで辿り着けば、傭兵と思しき者達や学者達が談笑している。此処はそれ程、街のピリピリとした空気に蝕まれていないようであった。というよりも、カンクェノの主導権を掌握しているジャッバールの膝元であるが故に、あまり憲兵達が出入り出来ていないようであった。現にジャッバールの持つ兵器が野晒しで置かれているが、不思議と物々しさが感じられない。
「ガリプの。何しに来た」
 ふと暗がりから話し掛けてくるのは同胞であるセノールであった。腰に差した刀は直刀であり、ジャッバールの配下にある者であると容易に想像出来るのだが、彼は丁寧に手の平をジャリルファハドへと晒す。鏃を模したタトゥーが彫られており、想像は確信へと変わる。
「俺がお前に答えたならば、お前達は悪巧みを俺に明かすかね」
 悪巧みと断言され、男の顔付きは一瞬曇り、また一瞬にして笑み一つない兵の顔に挿げ替わっていた。彼の後ろに控えていた者達の表情も一様であり、者によっては腰の刀に手を掛けている者まで居り、思わずジャリルファハドも刀の柄に手を掛けざるを得ない状況となっていた。
「悪巧みとな、俺達の積年の怨嗟を晴らすんだ。どこが悪い。第一、お前の祖父とてアゥルトゥラにて刎頸されているではないか」
「俺は直系ではない。俺の血は元々ラシードだ。何か勘違いしていないか? ……俺はお前達が先走るのを恐れているんだ。あと五年は下地を作らなければならない。それが出来ねばアゥルトゥラは滅ぼせん。根絶やしには出来ん」
「ガリプが此方に下れば、それで勝てる。お前達だけでクルツェスカを落とす事も出来るだろう? バシラアサドもそれを望んでいる。それに、だ。現にシャーヒンや、ガリプの配下も一部此方に来ている」
「……俺は事を急ぐ愚か者ではない」
 一瞬目を伏せるようにした後に吐くのは捨て台詞のよう。静かに切られた啖呵に男は思わず刀の柄に手を掛けた。彼もセノールである以上、表向きではなく腹の中で轟々と燃え盛る怒りを持つだろう。悪魔のような真っ黒い炎が刀を抜け、と囁くのだろう。呼応するように抜かれたガリプの刀は左手に在る。
「今、お前も状況は分かっているはずだ。此処で斬り合えば、面倒な事になるのではないかね。だからこそ問うのだよ、何か悪巧みはしていないか、と」
 刀を抜きながらも理知的に語る獣を前に、男は柄を握り締めたまま僅かに何かを考えているような素振りを見せて、刀を僅かだけ引き抜いて、わざとらしく鍔と鞘を打ち鳴らし刀を収めた。もう敵意はない、というセノール同士の合図であった。ジャリルファハドもそれに倣い、刀を収める。
「ガリプの戦は正面から押し切る物と聞く。では、我々ジャッバールの戦の常を思い出せ、それが今この地に起きている事の背景となる。邪魔をするなら消す、姿を現さないなら現すまで殺す」
「勝算はあるのか」
「無ければやらん。尾を見せた者達がハイドナーでも、ベケトフでも、ナヴァロでも鏖殺するのみだ」
 そう彼は言い放って、小さく笑っていた。歪んでいると思うも、己の中にもそのような獣が住まい、その時を待っている。彼を非難する権利はないとジャリルファハドは刀の柄に腕を預けて、溜息を吐いた。
 ジャッバールが軍を率いて、戦地へ立つに辺り、50年前より彼等は後詰として大軍を率いるのみならず、敵へ弱化工作も卒なく行ってきた。恐らくはジャッバールによる工作の妨害が何者かによって、成されたのだろう。
 故に怒り狂った獅子の命一つで大勢が死に、クルツェスカの土に血を染み込ませ、石畳を赤く汚したのだ。最終的にはアゥルトゥラを滅ぼすのがセノールの悲願であり、大願である。犠牲となったアゥルトゥラは死ぬのが早かったか、遅かったかの違いだけのみであり、最終的には躯と化す以上、その命には等しく価値など存在し得ない。
「……もう目星は付いているんだろう?」
「まぁ、な。あいつ等の兵など一呑みだ。あんな寡兵、恐れるに足らん。ともすれば一夜で密かに全て討てよう。今にも事は起きているだろうさ」
 今にも事は起きている。その男の言葉にジャリルファハドは、何時もの重たげな瞳を見開いていた。くつくつと底意地の悪さを露呈させながら、笑うその男はさぞ愉快なようでジャリルファハドとは対照的である。
「どこに行ったか、吐け」
 頼んでいる訳ではない、語らなければ刀の刃が首にめり込む事だろう。男の笑みは少しずつ消え失せ、凍て付いた湖面の如く。見開かれた瞳に相反し、彼の口は開かれない。しかし、彼は嗤っている。誰かが死ぬのが愉しくて、愉しくて仕方がないという様子なのだ。
「さてなぁ、だが。だがな。もうじき燃えるぞ」
「どういう意味だ」
「貧者の恨みが燻ってないか?」
 さぞ愉快そうな男の言葉を余所目に人垣の中を、幾人もの憲兵達が駆け抜けていく。往来には少しずつ悲鳴が混じり、何かが起きていると誰かに問わずとも理解出来るような状況である。腹の中で何かがが蠢き、頭に至り、耳元で何かが囁いて来る。お前も血を流せと囁くのは、セノールが腹の中に飼う悪魔である。怨嗟から生まれた化物は愉しいぞ、と背中を押すのだ。
「アゥルトゥラが死ぬ。お前も……、アゥルトゥラが恨めしいだろう?」
 歪んだ口元から飛び出た言葉。彼が既に腹の中の悪魔に、身を明け渡している証であった。獣の名を冠し、悪魔を腹に飼う。人の形をした何かにだけは成らないように、とジャリルファハドは瞳を硬く閉じ、平静を装うのであった。

Re: [リレー企画]無限の廓にて、大欲に溺す ( No.86 )
日時: 2017/05/05 18:18
名前: NIKKA ◆ShcghXvQB6 (ID: sjVsaouH)
参照: https://twitter.com/NIKKA_Nonbe

 浅黒い肌をした青い目の女と、鱗を生やした巨躯の男、死人のように表情一つない男が静か歩み進めたならば、屋敷の歩哨は顔を引き攣らせて道を開いてゆく。
 歩哨達は知らないのだ。彼女達の後ろには夜鷹達が引き金に指を掛けて、見据えているという事を。青い目の女が左手を挙げ、振り下ろすなり道を開いた歩哨の頭が、彼等の眼鏡に納まるなり銃声と共に弾け、次々と花を咲かせて行く。夜鷹達はハイドナーの屋敷を取り囲むように狙撃配置に就いているのだ。
 歩哨がある程度、撃ち殺されると外の様子を見ようとした女中を銃弾が襲う。窓と共に女中の頭を吹き飛ばしては、全てが血に染まり、鉄の筒で出来た凶鳥がクルツェスカの夜に鳴き、生ける者を啄ばみ殺すのだ。そんな地獄を三人は歩み続ける。
「騎士も復讐するのだ。曰く、彼等よりも"下賎"な我々が復讐を成したとしても妥当だろう。……なぁ?」
「知るかよ、どうせこいつら死ぬんだ。程度なんて関係ない」
 巨躯の男は足元に倒れ、呻く男の頭を踏み付けていた。女の問いになど、全く興味がないようであり、返答は素気ないも、女は気を悪くするような事はなかった。それが常であるからだ。
 右の胸元を撃たれた故に一撃で死に切れなかった歩哨は血の泡を吐きながら、もがき苦しむ。巨躯のレヴェリはそんな彼を弄び、嗤っている。一瞬、頭から足を退かし、即頭部を蹴り付けるなり白目を剥いたまま、手足を醜く振るさせて事切れてしまった。大きく身体が跳ね上がったのは気のせいではないだろう。呆気ないと鼻で嗤われてしまった死体の即頭部は大きく凹み、抉れ、欠損しており、皮膚と肉、頭蓋の一部が石畳の上に拉げ、潰れ、擲たれていた。
「シャーヒン、裏を取り殺せ。ルーイット、私の傍に居ろ。剣など恐れるに足るまい?」
「ガリプの刀の方が上等だぜ。俺からしたらなぁ、アレで漸く刃物、こいつらの剣は枝切れ、鎧は硝子ってもんだ」
 ルーイットと呼ばれたレヴェリは大声を挙げながら笑い、それを他所にシャーヒンと呼ばれたセノールは血肉の園を音一つなく駆けて行く。その背を見送る事もなく、青い目の女は懐からソリッドフレームのリボルバーを抜いてはルーイットの背を通り越して、一点を見据えるばかり。何事か、と六人の歩哨達が屋敷の正門へと立ちはだかる故、その群れをただ見ているのだ。数にして六人。ライフルを持つ者が二人、それ以外は騎士ごっこに興じているだけであった。
「……やれ」
 返事すらなく青い目の女の前に改めて、立ちはだかり、深く一息を吐くと、背だけを向けてその巨躯は駆ける。向けられた銃口すら恐れず、月明かりを浴びて、鈍く光る切っ先など気にする訳もない。ただただ暴力を振るう。そのためだけに駆けるのだ。
 銃弾は左肩と右腿を穿つも、表情を一瞬顰めるだけで、立ち止まる事などせず一撃の基に歩哨の顔を文字通り「砕いて」みせたのだ。断末魔を挙げる暇すらなく、弾けたスイカのようになってしまった、それは最初からそうだったかのようで、ふらつきながら斃れ込むその死体など気にも留めない。
「次——」
 次の歩哨の首を掴み取ってはそのまま、喉仏を握り締めては引き千切る。最早死んだようなものの仲間に気を取られる事なく、歩哨達の剣がルーイットに降り掛かった。切っ先が身体を穿ち、刃が走る。薄い皮膚を裂くも、強固な鱗で刃は止まる。それ故に傷は浅く、ルーイットは嗤うばかり。
 彼等の眼前に在るのは人の形をした化生、流れた血など誰の物か分からず、鼻腔を刺激するそれは歩哨は血に酔っていた。
 切っ先を掴み取り、剣を圧し折るなりその切っ先を握り締め、もう一人の額を斬り付けた。刃は骨にめり込み、鼻の辺りで止まり、白目を剥いて膝から崩れ落ちるのを待つでもなく、突き飛ばされると芝を赤く汚していく。鼻から抜かれた刃は骨に削り取られ、僅か刃毀れを起こしている。力任せに刃を押し付けたのだ。
 得物すらなく、逃げようとした歩哨は背を狙撃され、そのまま這い蹲っては動かない下半身など宛てにせず、腕だけで逃げようともがき、足掻く。非情にも青い双眸が静かに近寄ってきては、冷たい鉄の塊が後頭部に突き付けられるも、彼は生きようと足掻くのだ。
「今此処で死ねば、弄ばれず済むぞ。私はそれを勧めるし、そうする」
 歩哨の顔すら見ぬまま、引き金を引けば浅黒い肌に血が飛び散り、その中に混じる白い半固体を右手で払い除けて女はルーイットの背を眺める。僅か血が滲んでいたが、どの傷も浅く肩や足以外は全く効いていない様子であった。
「あっさり殺しやがって。バラした売春婦なんて面白かったぜ、当の昔に髄を切られてるってのによぉ、必死に足掻いて逃げようとしてるんだ。何か喋ってんだけど、もう何を言ってるか分からないから尚更だ」
 一人だけ残った歩哨の腕をもぎ取り、壁に足で押し付けて圧し殺そうとしながら、ルーイットは軽口を叩き始める。彼の言う売春婦とは「イザベラ」の事であり、彼からしてみたら玩具以外の何者でもなかったようだ。恐らくは今殺そうとしている歩哨もそうであろう。既に目に生気はなく、血混じりの泡を吐いてぐったりと俯いている。もう助からないだろう。
「それはさぞ良い見世物だったな。見世物小屋に金を払ってきたか?」
「俺とシャーヒンが見世物小屋の座長だぜ? 寧ろ憲兵に金を払って欲しいくらいだ」
 互いに軽口を叩き合いながら、二人は屋敷の扉を開く。同時に先程までルーイットが踏み付けていた歩哨に銃弾が見舞われたようで、甲高い音を立てて銃弾が弾けていた。
 月明かりに照らされた床は赤く、膝を折った状態でうつ伏せになり風池の辺りから首だけを削ぎ落とされた使用人の死体が何体も纏まって並んでおり、その脇で血を拭うシャーヒンの姿が在った。
「全部か?」
「……当主と隠居の姿が見えん。留守だな」
 淡々と語り、短刀から血を払いながら彼は語る。まるで家畜でも見るような目で、その死体達をぐるりと見回すなり、何かに気付いたように飾られた鎧が杖のようにして持つ剣を奪い取ると、それを引き抜き、刃を眺めながら、女中の死体を足蹴にし、仰向けにしてみせた。壮絶な死に方に相反して、死に顔は穏やかであるのが不思議である。赤黒い血とやや青白い月明かりのコントラストが映える。
「この辺りだったな」
 身体の一点を見据え、その剣を突き刺しては引き抜いて投げ捨てる。刺創は奇しくも「売人」の位置と同じく、同じような幅の広い刺創を作ってみせた。死体から流れ出る血は静かで湧き水のよう。これも何時しか枯れ、乾くと思えば、青い目の女はどこか穏やかな気分であった。
「なぁ、アサド。どうするよ待つか?」
「本来であれば親子共々消すつもりであったが、これも一興だろう。生殺しにするのもまた戯れだ。クルツェスカの騎士というのは少し"じゃれた"だけで死んでしまうのだからな」
 アサドと呼ばれた、その女。彼女はジャッバールの当主であるバシラアサドであった。青い双眸は酷く冷たげで、一点の曇りすらない。心なしか右目の開きが悪いようであるが、それは恐らく頬から瞼に掛けて走る、焼かれたような傷が悪さをするためであろう。
「……引くぞ」
 黒く長い髪が返された踵に取り残され、気後れたように彼女へと付いて行く。死体などまるで無かったかの様に視線一つ向けず、輩達は言葉すらなく、彼女の背を追うのだ。
 死人に口はなく、月明かりに照らされた死体だけが、口と瞳を閉ざしたまま主の帰りを待ち続けているようである。
 外は未だ銃声が響き、断末魔が聞こえている。扉を開けたなら、死体の数は増えており、夜鷹達は仕事を成したようである。辛うじて息のある兵の首をシャーヒンが掻き切っているのが、バシラアサドの視界の端には入り込む。
「お、焼けてんじゃん」
 ルーイットがさぞ愉快そうに笑みを湛え、一人ごちる。彼が眺める南西の方角は朱に染まり、煙が上がっていた。憲兵の屯所を焼いたのだ。銃声が鳴り響いたというのに、憲兵達が来られない理由は此処にあった。火を放ち、大勢の飢えた貧民街の住人に金と食料、水を与え、その代わりにと暴徒として差し向ける。多くは殺され、捕縛されたとしても彼等は毒を盛られた食料や、水で勝手に死んでいくだろう。
 血も涙もなく、大凡人らしさを擲った暴虐はクルツェスカを破壊していく。足掻き、抵抗すればする程にクルツェスカは崩壊に向かって直走る事となる。それが限界を迎えたとき、破壊者共々死に滅んでいく。そういう都なのだ。
 青い目の獅子は酷く愉しげに嗤う。あらゆる物が壊れていくのが、愉しくて愉しくて仕方がないというように。全てが壊れていく時が酷く、酷く愉しいのだ。今まで培ってきた物が音を立てて、崩れ去ろうとする様が愉しくて仕方がないのだ。

Re: [リレー企画]無限の廓にて、大欲に溺す ( No.87 )
日時: 2017/05/12 19:39
名前: ポテト侍 ◆jrlc6Uq2fQ (ID: UcGUlfNK)
参照: http://twitter.com/imo00001

その馨しき匂ひ、闘諍の香りなり——。

 狂奔呼び覚ますその香りが鼻腔を擽った時、褐色の肌をもつ少女の双眸は開かれる。蹴鞠が跳ねるように飛び起きた少女の手には銃がしかと握られており、銃口は彼女の視線の先、窓の外へと向けられている。額に脂汗を滲ませながら、その瞳は狩人のように冷たい光を宿しており、獲物の一切を仕留めることだろう。〝ここでは〟何事も無いと彼女自身が漸く理解すると僅かに張り詰めた緊張がフゥと切れて、トリガーにかかっていた指が外れる。しかし、未だに纏わりつくような不快な臭いは消えず、思わず顔を顰めた。そのような猥雑な臭いの中、眠りにつけるソーニアが羨ましくもあり、同時にその鈍感さが恐ろしくも感じた。舌論の際は該博な知識と鋭い観察眼を用い相手の急所を突くという のに、命削る戦いにに於いてはなぜそこまで疎くなってしまうのだろうか。幸せそうに眠る彼女の方を見据えながら、すんすんと首を傾げつつも、疲労困憊の彼女を起こさぬ様に音も無くベッドから降りた。彼女なりの気遣いである。銃を懐にしまい、窓の前まで行くとカーテンを捲る。そして「あっ!」と声が出した。窓の奥、深更の空を覆う暁は決して朝を告げる鶏声に非ず。我を見よと言わんばかりに輝く幾千もの星達の瞬きは朱に呑まれ、一晩で火の元一帯を焦土に変えるであろう。幸いなことにソーニアの家から背の高い建物に阻まれて、その全貌を見ることが出来ない。ただただ惨たらしい赤のみを純真なる瞳にしかと映すのみなのだ。暑さとは別の意味で汗ばんだ手で窓を開ければ生暖かい風に乗って、肉の焦げる臭いと硝煙の香りが混ざった匂いが鼻を刺激し、見知らぬ誰かの怒号と悲鳴が耳に響く。途端、彼女の脳裏に浮かぶのは昼間の売春宿の惨劇であった。ジャリルファハドの計らいによって彼女達の遺体をその目に映すことはなかったものの、壁についた血痕はそこで何が起きたのかを容易に想像せしめるものであった。相手に抵抗するための武力を持ち得ていない者達は突如として現れた暴虐の化身を見てどう思ったのだろうか。抵抗する術を持ち得ず、虫のように縮こまり、惨めにも命乞いをし、それでも淡々と喉を裂かれ、腹を裂かれ、内臓を床へとぶちまけた。無念と恐怖の内にその命を散らしていったことだろう。そのような悲劇があそこでも起こっているのかと、心臓がドッドッドッと音を立て気が気ではなくなるのだ。そして、部屋の中を落ち着きの無くした犬のように歩き回り、机の脚に小指をぶつけて悶絶する。そのような不安の渦の中に取り残された彼女が後先考えずに飛び出して行かないのはジャリルファハドにきつく言い咎められているからである。「勝手な事をしたら放逐する」と、出かける寸前、ミュラに向かって脅しをかけたジャリルファハドの顔は殺意こそ見えないものの真剣そのものであり、これは冗談ではないと感情に疎いミュラでさえ感じることができた。そして、背中に冷たい何かが流れる感じながら黙って頷いたのだ。(尤も、彼に言われずとも彼女が本能的に危険を察し、外に出ない可能性も大いに ありえるのだが……)
 時間が経つにつれて空は赤く燃え上がり、それに比例するかのように臭いも更に強くなる。未だにジャリルファハドは戻って来なければ、戻って来る様子もない。行くも不安、行かずも不安。そんなジレンマを抱えつつ、血のように赤い空をただただ見つめるばかりであった。太陽は未だ眠っている。


 屯所が暴徒に襲われたと憲兵から連絡が入り、鎮圧に向かったのは三十分程前のことである。突如として降りかかってきた災禍から逃れようとする民衆の波を掻き分けた先にあったのは更なる地獄である。貧困街で暮らす者が一斉に屯所に押し寄せたのだ。殆どの者は己の拳を武器に憲兵を思い切り殴りつけ、極少数の者は慣れぬ剣を振るったり、震える手で銃を構えたりしている。しかし、所詮は素人。もたつく彼らの身体を憲兵の剣が刺す方が早い。銃弾が容赦なく頭に穴を開けよう。ガウェスは止めろと言えるわけがなかった。攻撃をやめさせること、即ち、死ねという命令に等しく、どうするべきかと立ち竦んだガウェスの頬を一発の弾丸が掠め、赤い線を一本作る。思わずふらついた彼の背後、斬りかかってきた男を軽くいなし、剣を奪うとがら空きになっている腹を殴りつける。小さな呻き声と共に男は剣を手放したものの、闘志は消えず、恨めしそうにガウェスを睨んでいる。明確な殺意と憎悪を向けられても僅かに眉を動かすだけで、遠慮なく男を壁に押し付ける。
「答えろ。誰の仕業か」
 男は答えない。ただただガウェスを睨む。
「答えろ!!」
 その時だ。男の顔色が変わった。比喩ではない。血の気が抜け真っ青になった顔、土気色をした唇。死体が動いていると錯覚に陥りそうなほど白くなった肌を見て、ギョッとすると男の腕を持つ力が緩まってしまう。ガウェスを突き飛ばすように前へと押すとヨロヨロと一歩、二歩前へ前へと歩き、先ずは胃液と吐瀉物を吐きだした。茶色だったそれに段々赤が混ざり、やがて全てが赤に上書きされ、最後には吐瀉物と血が混ざり合った異臭の沼に顔が沈む。男を皮切りに次々に暴徒達はゲロを吐き、血を吐き自らが作った沼に顔を沈める。ガウェスも憲兵達は呆然とした表情で見つめることしか出来なかった。時が止まったような静寂の中、誰かが医者を呼べと叫んだことで時間が進みだす。先程とは別の意味で騒がしくなり、ガウェスもその対応に追われることになる。
 肉体的にも精神的にも限界を迎えた体を引き摺るようにして歩く。身を清め、ベッドで思い切り身体を休めようと考えながら、自宅へと帰って来たガウェスの眼前に飛び込んで来たのは変わり果てた園地である。青々と茂っているはずの芝生の上には赤黒い花が咲き乱れ、放つ花香は馨香と呼ぶにはあまりに鉄臭かった。ショックと絶望を張りぼての勇壮で隠し、一歩を踏み出せばどこか分からない肉片がぐちゃりと音を立てて潰れていく。爪先で蹴った空の薬莢はハイドナーで使っている乃至アゥルトゥラで造られてる物とは大きさが僅かに異なる。北の大国からの武器か、それとも、それを基に造られたかのどちらであることには間違いない。
 空の薬莢をしまい、血塗られた園を抜ければ、屋敷の外壁が見える。窓ガラスは全て割られ、穴だらけのカーテンが風に揺れる。汚れ無き白亜の壁には無数の銃痕が刻まれ、蜘蛛の巣のようなひび割れを作り、それでもなお、主人の帰りを待っていた。
 玄関ホールの扉を開ければ、老いも若きも男も女も関係なく全てを鏖した災厄の化身は過ぎ去り、人と呼ぶには些か壊れすぎている肉塊のみがそこに取り残されていた。虫の足を千切り、アリの巣の近くに放置する残酷な遊びのようだが童のように、其処に賊心はないのだ。ただただ微小なる好奇心と多大なる愉悦によって引き起こされるだけのこと。ある種の無邪気のようにも映るこれらの行為だが、脳が焼き切れると思うほどの強い悪意が見え隠れしているのも事実。
 ガウェスは怒りに震える。嗚呼、何故なぜ。何故彼等はここまでのことが出来るのか。力無き者を殺すのに飽き足らず、このように惨いことが出来ようか。殺すのならば、普通に殺せばよかろう。一片の苦しみなく、眉間を、心の臓を貫けばよかろうて。
 ならばせめて、せめて、ハイドナーのために、自らの生を全うしようと藻掻いた彼等のために、死に顔だけは整えてやろうと赤い運河に膝をつく。ハンケチーフで血を拭いゆっくりと瞳を閉じさせ、顔が欠損している者はその度に穴の空いた腹の前で指を組ませ、せめてもの鎮魂を表し、涙を流す。
 二階の応接間。そこの扉を開けた瞬間の衝撃を彼は一生忘れることはないだろう。弔いも無く、無造作に投げ捨てられた骸同士が複雑に絡み合いそれは積み上げられ楼閣のようであった。隙間からコンコンと血が流れ、未だに生暖かい運河を作り続けている。身体は無く、首だけがこちらを見つめているのだ。唇を血が出るほど噛みしめるものの、沸き上がる激情を発露させるには全く足りない。開け放った扉に向かって拳を一発叩きつけた。今まで無理矢理に抑えつけてきた感情が溢れ、それは獣のような咆哮となり彼の口から零れる。唇が渇きひび割れた大地のように、喉が枯れその声にノイズが混じるまで叫ぶ。ゼェゼェと情け無く乱れた息を整えて、彼はひどい千鳥足で楼閣の隣で横たわる少女の元へ。彼女はまだ弔っていないのだ。しかし、彼女の表情は眠っているかのように穏やかで美しい。ガウェスの鎮魂など不要である。だからこそ、胸元に一つの傷が醜く歪んでいるのだ。ガウェスの大きく見開かれた瞳、それがフッと閉じられ、乾いた笑いが洩れる。愚かで高潔なる騎士はようやく気が付いたのだ。これまでの惨劇、今回の悲劇がどのように引き起こされたものなのか。彼らは気紛れにここに出向き、ハイドナーの兵を、使用人を殺害したのではない。自らが育てていた植物の枝葉をほんの少しちょん切られた。それだけの理由で斯様なお礼参りを為したのだ。
 笑い声が途絶えると共に遂に膝から崩れ落ちたガウェス。彼の口からは嗚咽が漏れ、頭を抱え項垂れる。そして彼の背後。感情の渦に呑まれいく男はゆっくりと近づいてくる存在に気づけなかった。
「こんなところで懺悔かい、ご当主殿?」
 聞き覚えのある男の声。振り向くよりも後頭部を掴まれるほうが早かった。「誰だ」と声をあげる前に力任せに顔を床に強く叩きつけられる。鼻の血管が切れ、乾いた血を新たに赤く色付けていく。何とか上半身を起こそうと両手を床につき、力込めても男の膝が乗っかっているために上手くいかない。何とか抜け出そうと身を捩るガウェスの頭に突きつけられた冷たい鉄の塊は命を奪うための兵器である。顔を強張らせ抵抗をやめた彼が初めて床入りする生娘のようで、男の口から噛み殺したような笑いが洩れる。更に掠れた声で「待ってください」と懇願が飛び出るものだから、余計に滑稽である。嘲笑うかのように更に強く銃口をガウェスの頭へと押し付け、形の良い唇を開く。
「それではさようなら」
 男のお願いなど聞いてやる必要はない。薄笑いを浮かべたまま彼は引き金を引いた。

Re: [リレー企画]無限の廓にて、大欲に溺す ( No.88 )
日時: 2017/05/08 06:57
名前: NIKKA ◆ShcghXvQB6 (ID: sjVsaouH)
参照: https://twitter.com/NIKKA_Nonbe

 クルツェスカの夜は未だ赤く燃えている。カシールヴェナの真っ暗な夜とは随分と違うのではないかと、思い耽りながらアル=ハカンは一点を睨む。腰に差すのはガリプの刀。また彼の手勢も元ガリプ配下の兵であり、彼等も一様にガリプで使われている曲刀を腰に差している。
 彼等が睨む屋敷にはハイドナーの家紋が掲げられており、アル=ハカンの手勢であるガリプの兵達は言葉一つ発する事ない。どの者も歴戦の兵であると見て取れる。血など見慣れた事だろう。人を斬った事もあるだろう。そんな者達が自身の手勢に在る事にアル=ハカンは安堵を覚えた。
「……あれか?」
 通りの奥から前時代的な馬車が一台、碌に護衛も付けずに屋敷へと近寄ってくる。それに感付いたのであろう。ガリプの兵がアル=ハカンの傍らで首を傾げながら疑問を口に出す。ラーディンの狙撃手が居たならば即時狙撃を加え、殺害に及ぶのだろうが本家の襲撃に全員出向いている以上、そうも行かず。また、あれがハイドナーの物だとは確証がなく、無差別に殺害するというのはリスクが大きく、ハサンの掟には相反する。例え息子がその掟を蔑ろにしていたとしても、未だ己が当主である以上は模範でなければならない。
「降りるまで待つ、あれがロトス・ハイドナーならば即時討つ。ガリプを率いていながら、やり口はハサンのそれで済まない」
「何も気にするな。殿をするならばガリプに比類する者は居ない。我々はそれしか出来ないが、それをやらせておけば誰にも負けん」
 そう語りながらガリプの兵は手を振り、それを合図として、まだ進むなと指示を出しているようだ。ガリプの合図はハサンであるアル=ハカンには分からず、またガリプとしても事細かに分かられては困る代物である。
 物陰から息を殺し、気配すらなくじっと獲物を見定める様、それは宛ら野生の獣の如く。アゥルトゥラからしたら、同じ人間だとは思えないだろう。住まう環境、置かれて来た状況、文化全てがアゥルトゥラとは異なる。近しくありながら、決して相容れない存在である。恐らく、クルツェスカの動乱を察してはいるだろうが、まさか此処にセノールの兵が伏せているとは予想などしていないだろう。
「……随分と若いな」
 恐らくはハイドナーの別家、そこの子息であろう。帯剣している様子もなく、修羅場を潜り抜けている様子もない。随分と恵まれた人生を送ってきたのだろうな、とアル=ハカンは嘲笑うも、すぐさまその笑みは自嘲へと変わっていくのであった。自身の子達にはどうだろうか、と。シャーヒンは歪めてしまった、アースラだけでも己の全てを擲って育てたつもりだったが、彼女もまた、何処か歪んでしまった。子に不幸を強いた己は、とても愚かしく、命で償おうとしても足りないのではないだろうか、と思えてくるのだ。
「ハカン? あれはやるのか」
 傍らのガリプ配下であった兵達は刀の柄に手を掛けている。彼等の目は野生動物のようで、もし言葉一つで箍を外してやったならば、躊躇いなど微塵もなく血を流すために刀を振るう事だろう。彼等が奔り、血を流したならば、そこには五十年前に似通った風景が作られるに違いない。それがあの戦争で死んだ英霊達への手向けにもなるのだろう。だが、しかし——。
「我々の標的はあくまでロトス・ハイドナーだ。あれは違う。恐らく同じ血を引く者だろうが、あれを殺す理由はない」
「あぁ、分かった」
 ガリプの兵は聞き分けが良く、扱いやすい。ジャッバールの兵と比べ小賢しくなく、戦うための機械のように自己を殺しきっている。それで居ながら勇猛である。ガリプの姓を持つ者達もそうであるからして、やはり東を攻めるには彼等の助力が必要であると思えるのだ。バシラアサドのセノールを煽動する能力には舌を巻く物があるが、如何せん時期尚早であり、事を起こし、争う期間が長引けば長引く程に共倒れになるのではないか、と思えるのだ。今すぐ攻めるのであれば、温情を持たず、自己すら擲ち戦場を駆けずり回る、狂った兵の力が必要となるだろう。
「お前達はどうするかね、アゥルトゥラを攻める時には……」
「我々はガリプから離反した段階で、腹の内を決めている。ジャッバールと死ぬ覚悟をしてきた。でなければ、バシラアサドは我々を受け入れなかっただろうし、我々のような存在は要らなかっただろう」
「……そうか。アサドが敗れ去る時があれば、お前達はアイツを守ってやるといい」
「ハカンは」
「恐らくは俺も、シャーヒンも此処で死ぬ。さて——」
 冗談めいた言葉を投げ掛け、アル=ハカンは刀の柄を握り締めた。
 先程の馬車が来た方向から、もう一台の馬車がやってくるのだ。先程のそれに遅れる事、物の五分ばかりか。先程の馬車とは違うのは家紋のような物が掲げられている。八つの羽、十字を描く結晶。周囲には決して、それを侵さぬようにと、飾られた蔦のような紋様。セノールのタトゥーによく似た風貌のそれはハイドナーの証であった。彼等はあれを掲げる事により、関所の通行手形の代わりにしたり、往来の中での通行の優先権を得たりとしている。言うならば貴族の特権を記すような代物である。まさか、それが仇となるとは誰も思うまい。
「——主よ。我は主のみを崇拝し、主にのみ救いを求める者に在り、また、主に成り代わり審判の日の主宰者となる者に在る。主よ。我らを導き、我らを保護し、我らの霊を、御許に置かれ給え——」
 アル=ハカンが消え入りそうな小声で放つ祝詞、それはセノールの武門がこれより殺める者への冥福、もし己が死んだならばその御許へ迎え入れてくれという願いである。一様にガリプの兵達もアル=ハカンに倣い、呟くように唱え、暗闇から馬車を睨むのであった。
 馬車から降りてきたのは初老の男。如何にも商人であるというような格好をした、彼を見据えアル=ハカンは手で合図を送った。ガリプの兵は駆け、後から経ったというのにアル=ハカンは彼等を追い抜いて、その商人の背後へと迫る。随分と質の良い布で作った服を着ていると、僅か関心し、それが血に染まるのを幻視する。これから業を一つ侵すのだ。
「……ロトス・ハイドナーかね」
 名を呼ばれた刹那、肩を震わせ振り向こうとした男の首元に刃が食い込む。老いた男は醜い呻きを上げるばかり。彼は抵抗一つ取れずに滔々と首元から血を湧かせるばかりである。柄に力が篭め、肉を裂けば、刃先が骨にまで届いたのだろう。硬いそれを刃先でなぞるように、短刀を動かかすと苦悶の表情を浮かべながら、手を震わせてアル=ハカンに掴み掛かろうとするばかりであった。
「目撃者は」
「——もう居ない」
 横目でガリプの兵を見遣れば、彼等の足元には御者が斃れており、血溜まりが出来上がっていた。首に一太刀浴びせた故に、血が吹き出たのだろう。馬車は血に汚れ、馬が恐怖に駆られて怯えているようだった。幾ら動物と言えども、恐怖という物は行動を抑制するのか、鳴き声一つ上げずにその丸い瞳で凶行をひたすらに見つめている。
「随分と汚れた血だ。高潔さの片鱗すらない。神はお前を天から地へ突き落とすのではないかね」
 刃を引き抜き、少し小突くと力を失ったように後ろに倒れ込んで、そのまま目を見開いたままで動かなくなってしまった。アル=ハカンはせせら笑いながら、しゃがみ込んでは首から腹までを一気に裂く。ジャケットの胸ポケットから出てきたのは、血塗れの名刺であり、確かにそこには「ロトス・ハイドナー」とは記されていた。一瞥しては、そのまま首に短刀を立て、解体するように刃を走らせた。筋は全て絶った、顔に膝を突き当て、そのまま全体重を乗せて押してやると骨が外れたのだろうか、首と胴はすっかり分かれてしまった。髪を引っつかみ、それを手に取ると死に顔を整える気すらなく、皮の袋に突っ込んでしまった。血が僅か滲み始めているが気にする様子はない。
「討つに容易い、取るに容易い。平和に慣れる物ではないな。——退くぞ」
 馬車が着いたというのに、未だロトスが戻らない事に屋敷が騒ぎ出すまで時間の問題であろう。幸いにも、退くの一言に殺意の一遍すら押し殺したであろう、ガリプの兵達は大人しく従ってくれている。願わくば怨嗟溢れるハイドナーの全てを絶やしてしまいたいだろうに、それを押し殺してくれるのだ。彼等には感謝しかない。
「ハカン、一つさせて欲しい」
「構わん、お前達に対する感謝の代わりだ」
 ガリプの兵は目を輝かせて、ロトスの死体を取り囲むなり一様に握っていた刀を突き立てるのだった。剣山のようになったそれを見て、せめてもの腹いせだったのだろうと、アル=ハカンは目を瞑り、駆け出した。刀は抜かれないまま、そこに在り続ける。恐らくはこれでセノールがやったと判断されてしまう事だろうが、それでも良いだろう。今までバシラアサドが成してきた蛮行は全て、セノールがやった物だと判断されつつ、触れてはならないと、闇に葬られてきたのだから、それで良いのだ。
「……ガリプの英霊は俺達を許さないだろうが、これは俺達の怒りなんだ。目を瞑って欲しい」
 ガリプの兵はぼそりと呟いていたが、明らかにアル=ハカンの耳に届くように言ってきていた。仕方ない兵だと薄ら笑いながら、暗闇を駆け抜ける。まだクルツェスカの夜は未だ赤く燃えている。そろそろ炎は鎮まるであろうか? 何れこの都は炎の赤と、血の赤に染まる事になるだろう。今晩はその前夜祭のような物なのだ。アゥルトゥラの民は腹を括り、その時を待つと良い。ガリプの兵達が腹に飼う悪魔は、そう大声で叫んでいるのだろう。彼等の顔付きが、何処と無く満足気なのはそういう事だろうと、アル=ハカンは思い至り、ロトスの首が入った皮袋をぐっと握り締めるのであった。


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