複雑・ファジー小説
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- Re: 泡沫に消えゆく【短編集】
- 日時： 2016/08/24 10:17
- 名前： 夢吐伊舞 （ID: 2r74csLN）
海の上の現実を少年は知らなかったーー否、知らない振りをしていた。ゆっくりと堕ちてゆく身体、纏わりつく暖かい水が愛おしく、この感覚はまさに母の体の中のようで。真っ新になったような気持でーー沈んでいく。最早酸素が体の中から消えゆき喉が絞まることにすら快感を覚える。
（−−−−あは、は）
少年は”現実”が嫌いだった。小さい頃は良かった、見るもの全てが新しくて、綺麗で、そしてーーーー輝いていた。彼はそれら全てを愛していてーーその小さな体躯全身で、抱きしめた。しかし彼は知る。所詮それらは”まやかし”なのだと。彼が思っていたようなものではないのだと。
愛していれば、愛は返されるものだと信じていた。そんな訳無いのに。
友との想い出は何よりも輝かしいものだと思っていた。そんな訳無いのに。
それでもーーーそれでもなお自分は、”それら”を信じていられる筈だーーーそう思おうとした。
そんな訳、無いのに。
だから少年は嫌いだ。愛が、友情が、想い出が、親が、教師が、社会が、学校が、感情が、空気が、過去が、未来がーーーーそしてなによりも”自分自身”が。
大嫌いだった。
人魚姫は海の外に行きたかったらしい。しかし海の外に何があったのだというのだろう。彼女が見ていたような”希望”だっただろうか？−−いいや、違う。あったのは”死”のみだ。彼女が抱いていた”希望”も”信念”も全ては泡となって消えてしまった。
眠り姫は王子様のキスで目を覚ましたらしい。余計な事をするな、と思う。百年後の世界には彼女の幸せは存在したのか？百年あれば世界は変質する。変質してしまった世界に、本当に、本当に、HAPPYENDはあったのか？
（そんな訳……ないんだよ）
少年は断言する。できるなら自分はピーターパンになりたい、と。あの世界に未来はない。そんな素晴らしいことはない。
だけど、そんな世界はない。存在しない。
夢見る事ほど愚かな事はないのだーーーーしかし生来不眠ぎみである彼はよく夢を見る。否応が無しに。その時のぼんやりとした暗闇に光が射す瞬間が少年は嫌いだった。現実に戻される、あの、瞬間。ほんの少しだけ、その光に希望を感じてしまう、あの。
でも、もう止めだ。
あの光はまやかしなのだ。手を伸ばしたって裏切られるだけなのだ。そう思って少年はその光に手を伸ばすことをーーーー
−−−−止めた。
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どうも、こんにちは、初めまして。夢吐伊舞と申します。普段はこの板で羅知という名で【当たる馬には鹿が足りない】という話を書かせていただいております。文章構成力の練習と息抜きの為の為に短編集という名のちょっとした小咄を書いて行きたいと思います。ちなみに上記の話はスレタイのイメージを言葉にしたものです。
荒らしは受け付けませんが、作品に対する叱咤、激励は受け付けますのでどうぞよろしくお願いいたします。
＊MEMORY＊
２０１６，８，２１ 執筆開始
【泡沫に消えゆく】
【祭囃子と風車】
【黒猫系女子高生】
【嘘つきな三月兎】
- Re: Re: 泡沫に消えゆく【短編集】 ( No.2 )
- 日時： 2016/08/24 10:13
- 名前： 夢吐伊舞 （ID: 2r74csLN）
【黒猫系女子高生】
彼女を動物に例えるならまさに”黒猫”だと思う。美しく艶やかな黒髪。尻尾のようにゆらゆらと揺れるポニーテール。何かを見つめているようなミステリアスな表情。
どこか神秘的な”黒猫”のイメージぴったりだ。
そしてそんな彼女は実はーーーー僕の幼馴染だったりする。小さい頃からとっても可愛かったけど、高校生になってからそれに拍車がかかったよね。平々凡々な僕なんかでは、もう君には手が届かない。
今の君は本当に綺麗だ。本当に。
高校に上がってから、学校も変わっちゃって全然喋らなくなってしまったけれど、この朝の混雑したホームからほんの少しだけ見れる横顔。それを一目見るだけで僕の胸は高まる。
昔のように話しかけれなくても。
その細い肩に触れることができなくても。
それだけで満足できてしまうんだ。安上りな男だ、って笑ってくれても構わないよ？
そのとおり、なんだからさ。
＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋
とある日のホーム。いつものように君の横顔を覗いていると僕はあることに気が付いた。
君が、こちらを見ている。
久しぶりに見た君の正面の顔に、僕は照れてしまって思わず顔を背けてしまったーーーーだから君が、そのあとどんな顔でこちらを見続けていたのかなんて、僕には知る由もなかった。
またある時のホーム。やっぱり君はこちらを向いていた。…やめてよ。僕、小心者なんだからさ。そんな綺麗な顔で見られたら恥ずかしいじゃん。そんな風に見られたってーーーーとかとか心の中で言い訳をしながらも。それでも僕は嬉しすぎて、そんな君に手を振ったのでした、まる
そんな日が何日も続いた。
君はその美しい顔で僕の方を見続けた。
その無言のやり取りが、僕はとても楽しかった。
ある日。
「…今日は貴方に言いたいことがあるの」
唐突に彼女はそう言った。
ぼそりぼそりと消え入りそうな声で。
「…小さい頃ね。貴方は本当に泣き虫で、ぷるぷる震えてて、髪の毛がふわふわでーーーーそうね、可愛らしい兎さんみたいで。私が守らなきゃ、って思ってた」
君が黒猫なら、僕が兎か。いいね、君にだったら食べられてもいいよ。っていうかどうしたの。急に昔の話なんか。
ふと、彼女の腕に目がいった。
まっ白の包帯、に少し滲んだ赤。隠しきれない痕。…あれれれ、僕の知ってる君はそんなこと、しない、よね？
いつだって生きることに前向きで、それで、それで。
「……そんなーーそんな君を、私は裏切った。…だって、だってそうだよね。私、君に言ったもん。”もう知らない”って。”どっか行っちゃえ”って。……だからなんでしょ？」
「−−−−だから、”いなくなっちゃった”んでしょ？」
−−−−彼女は、泣いていた。
その綺麗な顔を崩して、大粒の涙を零して。
ああ、そうだった。
僕が、”こうなって”しまう前。僕は、君と久しぶりに会って、それで、喧嘩して、それで。
「一人で、怖かったよね。痛かったよね。辛かったよね。でももう大丈夫ーーーー私も、そっちに行くから」
そういって”こちら側”に倒れこむ彼女。
電車の音が聞こえる。
『黒猫に目の前を横切られると不幸になるんだって』
嫌だ
止めてよ、そんなの。
だって、僕は君に。
触れられないのに。
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ＯＭＡＫＥ
黒猫と兎のすれ違いの話。正確に伝わらない想い。
ＢＡＤＥＮＤは突然やってくる。
ねえ、知ってる？兎は寂しいと死んじゃうんだって。
本当に兎だったら、のはなしだけどね。
- Re: Re: 泡沫に消えゆく【短編集】 ( No.3 )
- 日時： 2016/09/10 22:10
- 名前： 夢吐伊舞 （ID: CXVRcwYu）
【嘘つき三月兎】
彼を動物に例えるならまさに”兎”だと思う。ふわふわの髪の毛、潤んだ目元、飄々としてつかめない本心。『不思議の国のアリス』には三月兎という狂った兎が登場するらしいけど。
まあ、そんな君さえ可愛く見えてしまうのだから、対外私もおかしいんだろうな、と思う。
「…嫌だなあ…、黒猫ちゃんと違う高校に行かないといけないなんて！！」
「……じゃあ、貴方女子高に通う？」
「それは出来ない」
中学の卒業式、彼と私はそんな会話をして別れた。本当に取り留めない緊張感のない会話だった。彼も私も何だかんだでまた会える機会もあるだろう、そう高をくくっていたのだろう。
現実はそううまくはいかなかった。
高校生活は驚くほど忙しない。朝の混雑したホーム。そこで少しだけ見える君の横顔を見るだけで精一杯だった。もっと君に近付きたい、喋りたいと思う私は欲張りなのだろうか？
ある日の休日。
「「あ」」
何気なく街道を歩いていると、同じく街道をほっつき歩いてる君に会った。笑顔で再会を喜び合った。まさか、こんな所で君に会えるなんて。
「……黒猫ちゃん、綺麗になったね」
「…何？褒めても何も出ないけど」
「いやいやそういうのじゃなくってさ、本当にーーーーっていうかさあ、本当は卒業式の時に言いたかったんだけどさーーーー」
顔を赤らめながら彼は”その言葉”を言った。
「−−−−好き、かも。僕、黒猫ちゃんのコト」
突然のことに頭が整理できない。
誰がーー誰のことをーー好きって？
彼が私の唇に手を伸ばす。
「−−−−黒猫ちゃんは？」
ごつごつした君の手を見て驚く。何、これ。だって、君、幼稚園の時は小っちゃくてひ弱で泣き虫で守らなきゃいけないな、って私思ってたのに。
こんなの。
男の子みたいじゃん。
「−−−−し、知らない」
君みたいな男らしい奴。
「−−−−どっか、行ってーーーーもう、会わない、私、君とは」
動揺のあまり、私は君に。
そう言った。言ってしまった。
まさかこれが最期の会話になるなんて思わずに。
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それは、一本の電話からだった。
ママが青ざめた顔で言った。
「−−−−ねえ。白兎（ゆきと）君。死んじゃった、んですって」
あの”告白”よりも大きな衝撃が体の中をはしった。
彼はーーーー白兎は、殺された。私と別れた帰り道、彼をたまたま見かけた変質者に目をつけられて。捕まって。監禁されて。殺されて。
いつものあのホームの、下に、バラバラにされて、固められてたらしい。
色んな感情が、ぐちゃぐちゃになって。
吐き気が止まらない。どうしよう、私が言ったからだ。私がどっか行ってって。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。あんなこと言わなければよかった。
ぽとり、ぽとりと口からこぼれる。
言葉と涙と嘔吐物。
その日から、私は笑うことができなくなった。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊
”ソレ”を初めて見た時、心臓が止まるかと思った。
死んだはずの彼が、あのホームの線路の上で手をこちらに振っていたのだ。
- Re: Re: 泡沫に消えゆく【短編集】 ( No.4 )
- 日時： 2016/09/13 23:04
- 名前： きょんです （ID: Aj4Ev7bA）
やっほ＼( 'ω')／
誰か分かるかな！?
では、また明日会いましょう(*´ω`*)
- Re: Re: 泡沫に消えゆく【短編集】 ( No.5 )
- 日時： 2016/09/14 17:00
- 名前： 羅知 （ID: P3.L1.aj）
- 参照： http://www.kakiko.info/bbs_talk/read.cgi?no=20971
あっちゃー、スレ違う…かな？
雑談の方に【個性が主食です。】ってスレがあるから、そっちにきてくれるといいかな。
URLをクリックすれば、いけるようにしといたから、↑クリックしてみて。
来てくれてありがと、嬉しいよ。
- Re: Re: 泡沫に消えゆく【短編集】 ( No.6 )
- 日時： 2017/03/11 00:07
- 名前： 羅知 （ID: 19azOdVu）
【嘆きの国のアリス】
かなしいかい。
＊
目を開けると少女は、実におかしな世界にいた。
極彩色の空となんだか鼻につくような奇妙な香りが少女を包み込む。
彼女の名はアリス。
某不思議の国のヒロインと同じ名前をつけられたけれど、彼女は決して夢見がちな性格なんかではない。なのでいくら彼女の両親があの夢に溢れたあの話を彼女に聞き飽きる程聞かせようとも、彼女がこんな”夢”なんて見るはずがないのだけれども…。
彼女は今現在まさに”その場所”にいるのだった。
彼女の両親が何度も話した”あの場所”へ。
”不思議の国”へ。
§
「可笑しいですね…。とうとう僕も頭が可笑しくなってしまったんでしょうか」
そういって己を嘲るように嗤う彼女の表情に、夢も希望もない。寧ろ己のこの状況に彼女は酷く絶望していて。
彼女は表情をより一層歪めると、土なのかも分からない黄緑色の地面に膝をつき叫んだ。
「あぁっ…！！僕だけは、僕だけは”まとも”でいなきゃいけなかったのに…！！お父さんもお母さんも”あて”になんかならないのにっ！！」
「…！！アリスッ、アリスなのかいッ!?」
ふと彼女は自分の慟哭と重なる、自分ではない誰かの声の存在に気付く。自分より低く、”あの話”をしていた父よりは高い未発達な声色。恐る恐る声の方を確認すると———————————
「……ああやっぱりアリスだッ…君はまだ”無事”だったんだね……」
そこにはサイズの合わない鶯色の帽子を頭に乗せた滑稽な服装を着ている少年がいた。
「本当にッ本当に良かった……!!君以外の殆どの住人が城に連れ去られてしまって…そして”アイツ”も変わってしまって…ほら覚えてるだろう？俺とアイツと君とでよくお茶会をしたじゃないか……あれ、どうしたんだ？変な顔してさ…」
「……あ、あの……貴方はだ」
「おいおいおいッまさか”俺”のことを忘れたなんて言うつもりじゃないよね…？ああなんてことだッ……君も、君もあの憎き”赤の女王”の影響を受けてしまったの……？あれ、でも、じゃあどうして君はこんなところにいるんだ？女王の影響を受けてしまった”住人”は皆あの城へ行ったのに…」
「…あの…だ、だから」
忙しなく切れ目も入れずに喋り続ける目の前の少年に彼女はほとほと困り果ててしまった。こちらが話そうとすると間髪入れずに話しているので意思の疎通をすることが出来ない。
こうなったら強行突破だ。
「あの！！」
「へ？」
喋り続ける少年の顔を両手でがしりと掴むと彼女は自分の出すことの出来る精一杯の声で、叫んだ。掴まれた彼はまだ何が起こったのか分からない顔をしている。
「僕は貴方の言ってる”アリス”じゃないです！！だから貴方の言っていることは理解できないし分からない！！僕は貴方のことなんか一切知りません！！」
「………そ、そんな」
彼女の叫びに今度は彼がほとほと困り果てた。彼女は確かに”アリス”で、自分が彼女のことを見間違えるはずなんかないのだ。
「…で、でも君は確かに”アリス”なんだ。それだけは間違えるはずがないよ。…でも君の言っていることも本当みたいだ……君は赤の女王の”配下”になっていない…だけど君は俺達のことを忘れてしまったんだね…」
「………………」
「はは……その反応確かに”初めて此処に来た頃のアリス”だ…。それじゃあ君は”この世界”のことも、”俺達の存在”も夢なんだと思ってるんだろう」
そうして彼は、無理やり作ったような空虚な笑みを浮かべた。その表情は彼にとても似つかわしくないもので、自分の発言で彼にそのような顔をさせてしまったことに彼女の心は痛んだ。
「残念ながらこの世界は”夢”じゃない」
「教えてあげるよアリス——————————————君が忘れている”記憶”を。俺達に何が起こったのかを」
そうして彼は”一つの物語”を話し始めた。
＊序編・FIN＊
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*OMAKE*
当たる馬には鹿が足りない、で馬場君が作った演劇の話。短編集だけれど暫く続く予定。
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