複雑・ファジー小説
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- 嘘と夜明けの涙
- 日時: 2016/08/29 15:48
- 名前: ほたる (ID: rBxtXU8t)
初めまして、ほたるといいます。
この度こちらで「嘘と夜明けの涙」を書かせていただくことにしました。
自己満足な趣味なので、文も内容も至らないところが多く……
まぁ、いわゆる下手です。
それでもいいと言ってくださる優しい方は、是非これからも読んでくださると幸いです。
また、かなり遅い更新速度になると思います。下手なくせに書くのが遅くて…気長に待ってもらえると嬉しいです。
嘘と夜明けの涙 は
シリアスラブストーリーです。
歪んだ少年少女たちの嘘に彩られた
純粋な恋の話。
複雑に絡み合った嘘が解けて、
長い長い夜が明けるとき、
一筋の涙が頬を流れる……
ーー僕はこれから嘘をつく。
君にとって世界で一番最悪な嘘を。
だからどうか気づかないで
ずっと、笑っていてーー
ご感想、ご意見、その他もろもろお待ちしております。
不束者ですが、どうぞよろしくお願いします。
Welcome to my world.
I hope that my world resonate with you.
Twitter→@tobenai_hotaru_
- prologue ー1 ( No.1 )
- 日時: 2016/09/18 12:03
- 名前: ほたる (ID: BT8pEM9W)
<prologue>
真冬の深夜。雨が降れば雪になってしまうような冬の夜の出来事。
「やぁ、こんばんわ」
突然鼓膜を揺らした声に、真城ノアは息が止まるかと思った。
バッ、と横を向いて視界に入ってきたのは、同い年くらいの見知らぬ一人の少年。
少し大きめの白いパーカーを無造作に羽織っているだけの、飾り気のない格好。にも関わらずどこか格好よく見えるのは、端整な顔立ちのせいだろうか。
濡れたように光る髪と細く白い肌はどこか儚く、浮かべられた微笑は謎めいていて心をくすぐられているかのような感覚に陥る。真っ暗な夜の景色の中にその少年だけが浮かんで見えた。
柵にもたれかかってノアの顔を覗き込むような仕草を見せ、世間話をするがごとく彼は淡々と口を開く。
「そんなとこにいて怖くないの?」
8階のビルの屋上。
柵の向こう側。
一歩先には何もなく、踏み出せば数秒で地面へと叩きつけられる。
ノアは自ら柵を飛び越えその場に立った。無論、ここから飛び降りるために。
予想もしない見ず知らずの少年の登場に動揺していたが、そう聞かれたことで目的を思い出した。
彼が誰かなんて、分からないままでいいじゃないか。
どうせ自分はこの後死ぬのだから。
視線を彼から真っ直ぐ前に戻しつつ、ノアは最期の気まぐれで彼の問いに答えることを選んだ。
「……別に、怖くなんてないわ」
恐怖も、躊躇いも、迷いもない。
ただ最期の時間を無意味に過ごしているだけ。あえて何か理由をつけるのであれば、見慣れた街の夜景のきらめきを初めて見て、綺麗だと思ったからかもしれない。
この場に立ってから、どれくらいの時間が過ぎたのかノアには分からない。寒さで手足が冷え切り、耳が赤くなる程度には長い時間いたようだ。
「君は死にたいの?」
屋上の端に立っているのに、そんなこと聞く必要があるのだろうか。
察せないほど馬鹿なのか。彼なりに説得しようとしているのか。それとも別の意図があるのか。
無遠慮な彼の問いに少なからず驚いて、ついその真意を考えてしまう。
だけどすぐに思い当たる。
何にせよどうでもいいではないか。考えるのだってもう面倒くさい。
ノアはちら、と少年を一瞥したあと、小さく溜息をつきながら「えぇ」と答えた。
「ふーん……」
彼は興味なさげにそう言って、身を乗り出してまでしてノアの顔を再度覗き込んだ。
下手すれば彼のほうが落ちそうな体勢にノアは少し焦ったが、彼の異様なほどに真剣な眼差しに蹴落とされ、その場で動けなくなってしまう。
何なの、とノアが内心で冷や汗を掻いたその途端、少年は先ほどまでの微笑みを少し崩して口を開いた。
「もったいないね、こんなに綺麗なのに」
心から残念がっているようなふてくされた声が、ノアに向かって発せられる。
その瞬間、ノアは顔が赤くなったのが分かった。
生まれてきてから一度も言われたことがなかったわけではないはずの言葉に、何故照れてしまったのか彼女自身も分かっていない。
冷えた体が火照り始め、少年の顔を直視することができない。ただ「綺麗」と言われただけで、こんなに反応してしまったのは初めてだった。
そんなノアの反応は満更でもなかったらしく、少年は満足したように体を起こした。
何気なくノアはその少年の姿を目で追いかける。
「僕、人を綺麗と思ったのは君が初めてだよ」
踊るようにくるくる回りながら、少年はそう歌う。
楽しげで、嬉しげで、なのにどこか儚く、切なく。
星一つない真っ暗な空の舞台で、スポットライトを浴びた少年だけがきらきらして見えた。
「なのに残念、本当に残念」
一回りしてノアのすぐ後ろまで戻ってきた少年は、変わらない声色でそう繰り返す。
「残念だ」
何が残念なのか、ノアにはよく分からない。問おうと思って口を開き空気を吸い込んだ……
途端、ぞっ、とノアの背筋が凍る。
それはノアの背中に置かれた少年の手によってもたらされたものだった。
強く掴まれたわけではない。触れるか触れないかぎりぎりなわけでもない。ただそっと置かれたその手の存在が、嫌に大きく感じれて不気味だった。
そのままノアの背中に寄り添った少年は恍惚そうな顔を浮かべて、
好きな人を口説くように、甘い声で囁く。
「もう綺麗な君が、見れないなんて」
そして少年は
とん、と優しく
でも確かに
ノアの背中を押した。
ーーーーーーーーーーー
こんにちは、ほたるです
今日から更新始めます、
これからも読んでいただけると嬉しいです。
まさか主人公がプロローグから死ぬのか!?((どきどき
- prologueー2 ( No.2 )
- 日時: 2016/09/05 14:19
- 名前: ほたる (ID: Vy4rdxnQ)
前回までのあらすじ
主人公から初っ端から死ぬ…だと!?((
ーーーーーーーーー
え、と声が漏れたのが分かった。でも何かを考えるより早く、ノアの体は落下を始めてしまう。
視界が傾いた。空が見えた。どっちが上でどっちが下で右か左かよく分からない。
全てがスローモーションに見えた。かろうじて捉えた少年の表情は、今も変わらず、
微笑んでいた。
血の気が引く。思考が止まる。呼吸が止まる。心臓も正常に動いているのか怪しい。
どうして、何で、私が、あなたに、理由は、根拠は、原因は、なぜ、
動かない頭の中を、次々と生まれた疑問が埋め尽くしてゆく。
ビルから足が離れ、体が宙を舞う。無重力。浮いている。
あぁ、落ちる。直感した。
落ちたらどうなる。死ぬ。地面に叩きつけられて。頭が割れて、骨が折れて、皮膚が破けて、血が飛び散って、
冷たい地面に転がる。歩けない、立てない、見えない、聞こえない、触れない、考えられない、
何も感じなくなる、
そう、私が望んだ
こうなりたいと、私が、望んだ
望んだ、死にたい、消えたい、なくなりたい、この世と、お別れしたい
もう何も、考えたくない、生きたくない、動きたくない、
見たくない、聞きたくない、触りたくない、
あぁ、でも、
さっきの子に、もう1度
もう1度、綺麗、と、言われ、たい
あの子に、触りたい、
声を、聞きたい
目を、見たい
手を、触りたい
抱きしめて欲しい
あの細い腕で
キスをしたい
あの、薄い唇と
ほしい
あの子が、ほしい
死ぬより、あのこが欲しい
私が望むのは、
死ではなくて……
「いや……死にたく、ないっ!!!!」
ぐちゃぐちゃな頭の中を整理するより先に、ノアはそう叫んだ。
落下を始めた体。視界はもう逆転した街。最早手遅れ。助からない。
でも、ノアには見えなかったけど、
ノアが落ちている姿を恍惚と眺めていた少年は、待ってましたとでも言うように、
身を乗り出し腕を伸ばして、
離れ行くノアの腕を掴んだ。
がくん、といきなり支えを得た体が反動で大きく揺れる。
ビルの壁に軽くぶつかったものの、地面には落ちていない。
今だ思考が正常に働かないなかで、ノアはただただビルの壁を見つめる。
助かっ……た?
なんで?
呼吸が、荒々しく戻ってくる。
心臓の音が、耳にまで聞こえてくる。
足は宙に舞っているが、
腕は誰かに強く掴まれていて、
痛い。
その痛みが、
今自分が生きていることを、明確に示している。
「大丈夫?ちゃんと生きてる?」
頭上から声が投げかけられた。
さっきまでの余裕のある声ではなく、どことなく苦しげな、いっぱいいっぱいの声だ。
反射的に上に視線を向けると、さっきの少年が今にも落ちそうになりながら片手で自分を支えていた。
その表情は相変わらず笑みを浮かべているが、少なからず苦痛で歪んでいるようにも見える。
「よかった、死んでなくて。引き上げるからちょっと待ってて」
つい数秒前自分で突き落としたくせに、そんなことを言う少年を、全くもって理解できなかった。
最早何も理解できていなかった。
ただ理解しているのは、生きていることと、それと……
「せーのっ」掛け声にあわせて強くなった力に引き上げられたノアは、自分で体に力を入れることもできず、されるがままに柵を飛び越えさせられた。
立っていることもできなくてその場にぺたりと座り込んだノアのすぐ隣に、疲れたように少年が腰を下ろして溜息をつく。
「大丈夫?もう、泣くくらいならあんなとこ行かな」
少年の声はそこで途切れた。
何故ならその口を、
ノアが自らの口で塞いだから。
足は相変わらず動かなかった。
だから半ば無理矢理、押し倒すような形で少年のほうへと倒れこんでキスをした。
ぐちゃぐちゃな頭の中で、ノアはただただ望んでいた。
死よりも、もっと、この子が欲しい。
抱きしめたい。キスをしたい。あわよくば、彼からもそう願われたい。
ほしい。
この子が、欲しい。
明確に、はっきりと、そう理解できていた。
だからそれに忠実に従った。
少年の意思など関係なく、無理矢理その唇を奪った。
柔らかくて、ちょっと冷たい、不思議な感触だった。
一瞬で振り払われても仕方ないのに、少年は少し驚いただけですぐにノアを受け入れてしまった。
何も言わず、1ミリも動かず、ノアに全ての主導権を握らせている。
冷え切ったノアの心が、だんだんと暖かくなってくる。
とくん、とくん、と脈打つ心臓の音が、速い割に心地いい。
このまま溶けて消えてしまいたかった。
時間が止まればいいのに、と初めて思った。
それでも時は流れ、数秒か、数分か。正確な時間は分からないけれど、とても長く感じた短い時間の末に、ノアはそっと少年から離れた。
二人は互いに口を開かず、無言でただ見つめ合う。
沈黙を破ったのは、少年だった。
「ファーストキス、奪われちゃった」
今までの大人びた微笑みではなく、年相応のいたずらっぽく浮かべられた笑みに不覚にも胸が高鳴る。
「君、死にたかったんじゃないの?」
楽しそうにそう聞かれて、ノアは答えに詰まる。
死にたかった。綺麗と言われて恥ずかしかった。と思ったら殺されかけて、助けられた。そしてキスをした。
考えれば考えるほど、頭の中はぐちゃぐちゃになってゆく。
だからもう、ノアは考えることをやめた。
ただ、自分の今思ってることを、素直に言葉にすることにした。
それだけで、世界はこんなにも
単純に歪む。
「……あなたの名前が知りたいわ」
少年はその答えに、
心から零れたような笑みを浮かべた。
「自殺を断念してまで僕のことが知りたかったの?」
と楽しそうに、嬉しそうに、ノアに尋ねる。
ノアは特にその問いに答えずに、少年の答えを待った。
そんなノアに優しく微笑みかけながら、少年は答える。
「ハルカ。望月ハルカ」
はるか、と口の中で繰り返す。
柔らかく、どこか冷たく、儚い少年にぴったりな響きだった。
「君は?僕も君の名前が知りたい」
名前が知りたい。
そう言われただけで、こんなにもどきどきするのは何故だろう。
触れられるだけで、熱いと感じるのは何故だろう。
名前を言うのに、こんなに緊張するなんて。
「……私は」
この気持ちを、何て呼べばいいのだろう。
真冬の深夜の出来事だった。
ーーーーーーーーー
こんばんは、ほたるです
主人公助かりました
めでたしめでたs((って、終わりません!笑
ですが、1章の更新はかなり遅くなると思います。
気長に待ってもらえると嬉しいです。
あと感想とかコメントとかして(レスが過去ログに埋もれないようにして)もらえると嬉しいです!←
え?心の声が聞こえる?
空耳ですよ、空耳
ではまたいつの日にか
- 第1章 -1 ( No.3 )
- 日時: 2016/10/22 16:11
- 名前: ほたる (ID: XWukg9h6)
前回までのあらすじ
いえ、プロローグとは全く繋がってない部分から始まるので、ご心配なく((
ーーーーーーーーーー
<1>
「真城ノアだ」
彼女は廊下を通るだけで、名前をつぶやかれ多くの視線を集める。
誰もが足を止め、振り返る。羨望や、欲求、嫉妬など、様々な感情が織り込まれた数々の視線の中心で、彼女はいつだって堂々と歩いていく。
この光景は、高校に入学した一年前から何も変わらない。
何故、そんなにも真城ノアが注目されているのか。
理由は至って単純だ。
真城ノアという人間は、綺麗すぎる。
誰がどう見ても「綺麗」と思うような絶対的な美貌を、彼女は持っているからだ。
宝石のような瞳。独特の光沢を持った流れる髪。きめ細かく白い肌。壊れてしまいそうなほど繊細な肢体。
まるで人形師に造られた精巧な人形のようなほど端正で、まるで神様に創られた神聖な天使のようなほど美麗。それほどにまで浮世離れしているただの人間。
彼女が普通に廊下を歩いているだけで、周囲の人々は女神が舞い降りたとでも言うように足を止め、見惚れてしまう。絶対的な美しさが纏う空気はこの世のものとは思えず、その重圧感に見たもの全員が言葉を失う。
彼女は生きている世界が違う。エゴでも嫉妬でもなく、心からそう誰もが思っていた。
彼女が特別なにかしているわけではない。むしろ何もしていないのに、周りは勝手に彼女に焦がれ、欲してしまうのだ。
だからこそか、圧倒的に皆の意識を集めつつ、彼女はいつも一人だった。
避けられているわけではない。クラスメートと会話くらいはしてるし、普通に笑っている姿も見られる。ただその天使の微笑みに、周りが耐えられないだけ。
そうして彼女は、自然に……いや、まるで当然であるかのように、高嶺の花となった。
そんな真城ノアに想いを寄せる者は数知れず。叶わないと分かっていても惹かれてしまうのが恋というもの。
彼女と結ばれるなんて、夢のまた夢だと分かっているのに、それでも好きという気持ちが消えない。
去年、彼女が入学してすぐの頃は、多くの男が想いを告げた。だが彼女が首を縦に振ることは一度もなく、そのうち告白する者はめっきり減った。
そして密かに想い続ける者たちだけが、増えていった。
ここにいる、遠くから彼女を見つめている少年もその一人。
塚原レン。
地毛の茶髪と高身長、目つきの悪い表情と冷たい性格のせいで、よく不良に間違えられて絡まれることが悩みという、少し苦労性な男子高校生だ。
ぶっきらぼうだが顔は一般的に見れば整っている方だし、根は真面目で優しいために一部の女子からは人気がある。
が、レンはその風貌に似合わず一途だった。
去年の入学式の日。レンが初めて真城ノアを見た日。
彼は初めて恋をした。
何度も諦めようとした。何度も忘れようとした。
それでも彼女の姿を探してしまう自分がいた。
そんな葛藤を繰り返しながら過ごす日々も、悪くないなと思ってしまっていた。
結局、自分が思ってたよりヘタレだと分かり、凹みつつもそうとしか言いようがない日常を送っている。
*
「ねー、聞いたぁ!?」
教室のどこかから、一際大きな声でそう聞こえてきた。
俺は隅の席に座って顔を伏せて寝ようとしていたが、聞こえてきた会話につい聞き耳を立ててしまっていたのだ。
「キョウヤくん昨日真城ノアに告白したんだって!!」
興奮したクラスメイトの発言に、周囲が一瞬でざわつく。
1年前によく聞いた「◯◯が真城ノアに告白した」というフレーズに少なからず懐かしさを感じながら、誰もが驚きを隠せない。
大野キョウヤは俺とは正反対の人間で、誰からも好かれるいわゆる良い奴だ。話したことは一度もないが、見てれば分かる。そんな奴だ。
当然女からもモテるのだろう。が、その割に彼女を作ったことは一度もないと聞く。
その大野キョウヤが、真城ノアに告白した。
彼に想いを寄せていたものは彼女ほどじゃなくても多かっただろう。自動的に彼女たちは失恋したということになる。
それも、相手は真城ノアだ。圧倒的に敵わない相手を前に、彼女たちは何を思うのだろうか。
……俺が考えたところで仕方がない。関係のないことなのだから。
「まぁ、返事は相変わらずノーみたいだっただけど」
あの大野キョウヤでも駄目なのか、と一瞬で俺も失恋した気分になる。
溜息は漏れるものの、別段そこまで凹まない。
そもそも告白する気も付き合う気もないのだから。
ただ見ているだけでいい。接点もないし、話しかけることさえできないし。
今までも、これからも。いや、とりあえず高校にいる間は。
それだけでいいんだ、と。
半分自分に言い聞かせながら、俺は瞼を閉じて……。
……そう。
……それが、今朝の出来事だ。確かに「見ているだけでいい」と思ったはずだ。
けれど今。放課後。屋上で。
「あなたの名前は?」
どうして俺は、真城ノアに名前を教えているんだろうか。
*
———数分前。
「ふざけんなよッ!」
その怒声と、バンッという音で、俺は目が覚めた。
場所は屋上。退屈な授業が終わって帰りの電車までの時間を、部活に入っていない俺はよく屋上で昼寝をして潰していた。
いつも誰も来ない屋上で、罵声と音が聞こえるなんて滅多にない。というか、そんなの絶対、最悪な状態に決まっている。
言葉からしても、喧嘩だろうか。さっきの音は、何か本みたいなものを床に叩きつけたような音で、人の肌から発せられる音ではなかったから暴力沙汰ではない。しかもかなりドスが聞いていて低かったが、さっきの声は女のものだ。
友達同士の揉め事か。あるいは痴話喧嘩か。
音が聞こえる割に姿が見えないのだから、きっと反対側でその状況を展開しているのだろう。つまりドア側。帰るに帰れない。
俺から見えないのだから、向こうからも見えていないわけで、きっと向こうは俺がいることを知らない。
こんな面倒くさいこと、巻き込まれたら厄介だ。このまま静かにやり過ごして、向こうがいなくなったら俺も帰ればいい。
じゃあ、また一眠りでも……
「お前何したか分かってんの!?」
……無理か。こんな罵声を聞きながら寝れるほど神経太くない。
他人向けの罵声をひたすら聞き続けるなんて気持ちの良いものではないが、この際仕方がない。
俺は小さく音が出ないように溜息をついて、音楽でも聴こうかとイヤフォンを取り出し
「分かってるわ」
ピク、と。
その声に、反応した。
鞄の中に手を入れたまま。俺の体が硬直して、思考だけが駆け巡った。
今の声。雑な怒鳴り声じゃない、落ち着いた声。
水みたいに澄んだ、綺麗な声。
知っている。俺は人脈が広いどころか友達一人いないから、声だけでどこの誰だかなんて分からないけど。
たった一人。分かるやつがいる。
去年の四月から、ずっと見続けてきた。
「調子乗ってんじゃねぇよ、真城ノアッ!!」
真城、ノア。
初めて、俺が恋をした人。
−−−−−−−−−−−−−
こんにちは、ほたるです
うーんと…2ヶ月ぶり?くらいでしょうか……((
皆様に覚えててもらってるのか本当に心配です
そしてなにより切りが悪いので
今日は自分の首を締めることになってでも、大幅に更新しようと思います!!←←
ってなわけで続きをお楽しみください↓
- 第1章 -2 ( No.4 )
- 日時: 2016/10/22 16:16
- 名前: ほたる (ID: XWukg9h6)
前回までのあらすじ
え、なんか、真城ノアが怒鳴られて……る??
−−−−−−−−−−−−−
どうして、彼女が、こんなところに?しかもあんな言葉を?次々と疑問が生まれる中、
「お前のせいでキョウヤがどれだけ傷ついたと思ってんだよ!!」
怒鳴る女の、その一言で、俺は全てを察せた。
今日の朝聞いた噂。大野キョウヤが真城ノアに告白した、という驚愕の話。
それに続いた事態なのだろう。きっと彼女たちは大野キョウヤに想いを寄せていた人たちで、そんな大野キョウヤに告白され、そして断った真城ノアを、責めているのだろう。
俺にはそんな彼女たちの思考は理解できないが、そういう人もいるということは、学校というところで生活していれば嫌でも分かってくる。
驚くことではないはずだ。噂を聞いた時点で、こういった事態が起こることを予想した人も少なくないはず。
ただそれでも俺は、驚いていた。
真城ノアに、怒りをぶつける人がいることに、驚いていた。
そして同時に。
どうしようもなく、
苛立った。
「少し美人だからって、何でもしていいとでも思ってるわけ?」
「平気で人を傷つけるとか、マジありえないんだけど」
聞いてるだけで低脳だと分かる言葉の数々を並べる女は、声で判別するに三人はいるようだ。
真城ノアが何かを言おうとする度に、ただでさえでかい声をさらに大きくして掻き消す。そして堂々巡りの罵声を言い続ける。
ただ、イライラした。腹が立った。
その原因は、正義感とか、そんな綺麗なもんじゃない。
真城ノアが可哀相、とか。三対一なんて卑怯だ、とか。ただの逆恨みだ、とか、八つ当たりするな、とかじゃなくて。
ただ、俺は。
汚い奴らが、まるで真城ノアを汚しているように見えて。
煮えたぎるような怒りを覚えた。
「……おい」
気が付けば、俺は彼女たちの前に姿を現していた。
関われば面倒くさい、と分かっていたから隠れていたのに、それを押さえられなかった。
見れば予想通り、そこには壁に追い詰められた真城ノアと、彼女を囲うようにして三人の女がいた。見るからに馬鹿そうな。
彼女たちは彼女たちで、今まで誰もいないと思っていたところに現れた俺に、素直に驚いているようだった。真城ノアはともかく、他の女たちは多少焦っているようにも見える。
そりゃそうだろう。放課後の屋上。もう生徒はほとんど下校した。この校舎で部活をやっている奴らもいない。いるのは一階の職員室だけだ。
誰にも見られないように、真城ノアを責めたかったのだろう。自分の想い人にされたように。
発想が馬鹿すぎて笑えてくる。人を見下すのはあまり好きではないが、こいつらにはそんな価値がない。
というより、今の俺は怒りでいっぱいで、彼女たちを対等に見れない。
「こんなとこで何してるわけ?寝るのに邪魔だからさっさと帰れよ」
一番真城ノアに怒鳴っていたと思われる真ん中にいる女を、真っ直ぐ見据える。真城ノアのほうには、全く目を向けられない。
横にいた二人が怯え始め、袖を引っ張って立ち去ることを催促しているように見える。こんなときばかりは、自分の荒れた風貌がありがたく思う。
だが、真ん中の女は俺のことを睨み返すばかりで、一向に立ち去ろうとしない。気が強いのだろう、こんなことをするくらいだから。
「……、あんたこそ誰よ。関係ないんだから、黙っててくんない!?」
威勢よく言い返してきたものの、多少の恐怖が垣間見える。
馬鹿はどこまでも馬鹿なんだな、と呆れつつ、俺はポケットに手を入れながら、一歩ずつ彼女たちに歩み寄った。
怯えた二人はその女にしがみつき、その女は強情でその場に立ち尽くしたまま尚も俺を睨み続ける。
腹立たしかった。真城ノア傷つけようとするこいつらが。
そして怒りと同時に、彼女たちを
……汚い、と思ってしまった。
自分に言えたことではないのかもしれないが、その性格が、その行動が、その容姿が、その言葉が、彼女たちの全てが、汚い。
汚い。汚い。汚い。
汚い。
彼女たちの目の前に来てよく分かる。彼女たちの空気。そして真城ノアの空気。距離は一メートルもないのに、そこには明確の差がある。
これほどにまで、人間の纏う空気というのは変わるんだな、と感心しつつ、目の前で俺を睨む頭一つ分小さいその目を冷たく見返す。
ポケットの中で拳を握り締め、殴りたい衝動をどうにか抑えながら。
「帰れ、って言ってんだけど」
びく、と女が震えたのが分かった。自分でも驚くくらい低い声だった。
相変わらず恐れつつも俺を睨む女に、脇の奴らがいてもたってもいられなくなって無理矢理そいつを連れて行く。
最後の最後まで俺と真城ノアを睨みながら、女たちはそそくさと、その場から姿を消した。
はぁ、と重い溜息が出る。
気が付けば口を出していた。面倒だと分かっていたのに。出せずにはいられなかった。バラが踏み潰されそうになっているのを、黙って見ていられなかった。
自分は我慢強いほうだと思ってたんだけどな、と心の中で自分の知らなかった一面を自覚し
「ありがとう」
ぴり、と。
何の前触れもなく、空気が変わる。
鈴のように澄んだ声が、一瞬にして空気を浄化する。
思考が止まる。動きが止まる。呼吸も動悸も一歩間違えたら止まっていたかもしれない。
ただ、何かに吸い込まれるように。意思もなく俺の体が勝手に動いて、そちらに目を向ける。
そこには真城ノアがいた。安堵したように柔らかな微笑みを浮かべた天使がいた。
宝石のような瞳。独特の光沢を持った流れる髪。きめ細かく白い肌。壊れてしまいそうなほど繊細な肢体。
まるで妖精のように幻想的に。
まるで天使のように神秘的に。
まるで悪魔のように妖艶に。
「……、別に」
高鳴る感情を抑えながら、ぶっきらぼうに答える。
俺が、真城ノアと、話せる日が来るなんて。
信じられない。夢みたい。現実じゃないみたいだ。出来事も、雰囲気も。夢なのかな。
彼女が、床に落ちている本を彼女が拾い上げようとしゃがみこむ。
前に流れた髪を耳にかけ、本を手に取る。仕草の一つ一つが、綺麗で、上品で、意味もなくドキドキした。
そして彼女はしゃがみこんだまま立ち上がらない。ぼーっと床を見つめて、表情もどこか沈んでいる。
……それもそうか。あんな、寄ってたかって言いたい放題に罵詈雑言を浴びせられたのだから。
落ち込んで当たり前だ。彼女は何も悪くないのに。
「……気にしないほうが、いいんじゃねぇの。あんな奴ら」
こんなときに、何か一つでも気の利くことを言ってあげられたらいいけれど、俺にそんな器量はない。声を出すのだけで精一杯だ。
ただ沈黙した状態の中で、何か言葉を発しないと潰れそうだった。それだけだ。
だがそれでも彼女は驚いたように俺に視線を向け、そうしてすぐに微笑んだ。
「ありがとう、心配してくれて。……でも、大丈夫」
自重気味にそう答えて、彼女は立ち上がってフェンスのほうへ歩き出した。
どこか強く、凛々しく見える。そんな堂々とした歩き方で。
そうしてまた、その鈴の声で空気を震わせる。
「あの子たちは何も悪くないから」
「……、は?」
つい、声が漏れてしまった。
意味が分からない。
理解できない。
あの子たちは、何も、悪くない?
何言ってるんだ?
あんな一方的に攻撃されて、どうしてそんなことが言えるんだ。
どう考えてもあいつらが悪い。そうとしか思えない。
彼女が大野キョウヤをフッて、あいつを傷つけたからって、逆恨みしてるだけだ。
それでどうしてそんなことが言えるのか。被害を受けた側なのに、どうして相手を庇えるのか。
分からない。
そんな俺をさておき、彼女は元気に部活をしている校庭ではなく、日が落ちかけている空を見上げる。
風が彼女の髪を撫でる。なびいた髪に日の光が反射して、きらきらして見えた。
目の前の光景が、一枚の絵のようだ。
「私にも分かるの」
そう言って一度目を伏せてから、彼女はこちらへ向き直って言葉を続ける。
絵が動く。目が合う。捕まって、縛られてるわけじゃないのに、動けない。
まるで聖書の一ページ。
「自分の大切な人を傷つけた人を、恨む気持ち」
少し困ったように笑いながら、俺に言葉を投げかける。
−−−−−−−−−−−−−−−
こんばんは、ほたるです
もうちょっと続きましょう……((
調子乗ると後で痛い目見るんですけどね、こんな中途半端で終わらせられないですよね((
- 第1章 -3 ( No.5 )
- 日時: 2016/10/24 17:35
- 名前: ほたる (ID: /TdWvv73)
前回までのあらすじ
真城ノアと喋っちゃったよやっベー!!((←
彼女の言葉がすっと俺の中に入ってきて、鈍器で打たれたような感覚に陥る。
彼女の言葉を頭の中で咀嚼する。
その意味を確かに考える。
思いつく結果はどんなに考えても同じ。
……まさか。
まさか、逆恨みと分かった上で、受け入れるなんて。
他人からの悪意を、真っ直ぐ受け止めるなんて。
口で言うのは簡単だ。
だけど、実際に行動するのは桁違いに難しい。
つい、無意識のうちに、自分を守ってしまうからだ。
どうして私が、とか。
何も悪くないのに、とか。
普通の人なら普通にそう考える。
相手の悪意を受け止めるどころか、自分の非でさえ認められないやつがごまんといる中で。
自分の非を見つめ、相手の気持ちを、それが悪意であったとしても受け入れる。
そんなことができる高校生が、この学校にどれだけいるだろうか。
いや、高校生に限ったことではない。
これほどにまで真っ直ぐ、素直に生きれる人が、世界にどれ程いるのだろうか。
「私がキョウヤくんを傷つけたことに変わらないもの。だから私がその分傷つくのは当然だわ」
真城ノアが、何故こんなにも綺麗なのか、分かった気がした。
彼女は、外見だけでなく、内面から綺麗なのだ。
同い年とは思えないほど大人びた、熟した考え方。それを実行するほどの精神力。
そこらへんでふんぞり返っている大人より、よっぽど大人に見えた。
理解できる。
納得できる。
正しいと思う。
そうできたらな、とも思う。
だけどできない。
俺にはそんなことできない。
他人のせいにしてしまうはずだ。
傷つけられれば、傷つけ返してしまうはずだ。
大半の奴が俺と一緒だろう。もしくは、「できている」と思い込んでいる奴だ。
だってそんな真っ直ぐな生き方は疲れてしまう。
なにか障害物にがあったら、避けて通ったほうが傷つかなくて済む。無理矢理に障害物を壊して押し通ったりしたら、自分だって傷ついてしまう。
だから避ける。だから曲がる。自分が傷つきたくないから。
世の中、俺みたいなのが多すぎて、それが当たり前になっている気がする。元々曲がった道こそがあるべき姿なのだと。
曲がっている、と分かっているけど、だからといって直進しようとはしない。だって、みんなそうだから。自分だけじゃないから。
「だから、あまりあの子たちを悪く思わないであげてね」
むしろ彼女のような人のほうが稀で。
いや、稀になってしまっているのだ。彼女が歩む真っ直ぐな道こそが本来あるべき姿なのに、そこを通れる人があまりに少ないから。
だから彼女は特別なのだ。
綺麗なのだ。人間的に。
素直に驚いた。こんな人がいることに。
そして尊敬した。初めて人を尊敬した。
真っ直ぐな生き方をできる強さを持った、この同い年の女の子を。
俺と、彼女との間にある、明確な境界線。俺には到底越えられそうにない、大きな亀裂。
彼女は、真城ノアは、そんな遠いところにいる。
「……あ、もうこんな時間」
腕時計をちら、と見た彼女が、そう呟く。
日は沈んだ。残り香のような赤い光が空を染めているけど、反対側の空はもうすっかり夜だ。
ふらっとフェンスから離れ、彼女は俺のほうへ振り返る。
平然とした態度を装ったものの、うまくできたか自信はない。
「あなたの名前は?」
真城ノアが満面の笑みで俺に尋ねた。
一気に心臓が、うるさくなった。
周りが何も見えなくなった。
頭が真っ白になって、時間が止まっているように思えた。
たった今、超えられない壁を、決して手の届かないところにいることを確認したはずなのに。
それでも俺は、彼女を欲せずにいられない。
……数秒か、数分か。長くて短い時間が過ぎたあと、俺は何のきっかけもなく、ただぽつりと口から音を零した。
「…………、塚原、レン」
名前を言うことが、こんなに難しいだなんて。
俺の名前を聞いた彼女は、満足げに頷くと身を翻して俺から離れた。
空気に、慣れない。居心地が悪い。こんな綺麗な空気、俺には合わない。変にどきどきして、そわそわしてしまう。
「私は真城ノア。今日は助けてくれてありがとう。もう時間だから、先に帰るね」
そう言って出入り口のほうへ足を運ぶ。
ドアに手をかけ、再びこちらを振り向いた真城ノアは、
「ばいばい、塚原くん。おやすみなさい」
と俺に手を振って、静かにドアを閉めた。
ばたん、とドアが閉まる音と同時に、俺はその場へ座り込んだ。いや、どちらかというと腰を抜かしたというほうが正しい。立っていられなくなったのだ。
頭の理解が、追いついてこない。
たった数十分程度の出来事だけど、俺の人生の中で一番長く感じた時間だった。
彼女を庇って、
礼を言われて、
その思想に尊敬して、
名前を聞かれて、呼ばれて、
手を振られた。
おやすみ、と言われた。
ただ、それだけのことが、こんなにも俺を支配する。
顔が熱い。心臓も早い。何だかくすぐったくて、もどかしい。
いろいろなことが頭の中を駆け巡って、落ち着かない。頭のネジがどっかに飛びそう。
目を閉じれば、さっきの彼女の姿が鮮明に思い出される。声も。仕草も。何もかも。
いつもの屋上が違って見える。
今までの景色が色褪せたものだと思わせるほど、今の景色がきらきらして見える。
たった数分、彼女といただけで。
たった数回、彼女と言葉を交わしただけで。
これほどにまで、変わってしまう。
真城ノアの言葉が頭の中でリピートされる。
(「ばいばい、塚原くん。おやすみない」)
……おやすみなさい、か。
その場で仰向けに転がってみる。真城ノアがいたときはあんなに綺麗だった空も、もうただ黒いだけになった。
目を閉じる。
風が聞こえる。
遠くから声も聞こえる。
いつも通り。
ただ一つ違うのは、
無駄に早く脈打つ、心臓……。
……。
………。
目を開く。
真っ暗な空が見える。
はぁ、とため息混じりに体を起こして、髪を掻く。
……、寝れるわけ、ないだろ。
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はいおはよう、ほたるです
連続更新はここまでです!!
私にしては頑張った…ほうなんです、みなさんほめて!!((ごめんなさい
時間列が少しごちゃごちゃで、わたしの表現力が乏しいが故に分かりにくいかもしれませんごめんなさい
とりあえずひとまとまり更新したわけですけども、続きはまたまた遅くなります
だからまた、時間があるとき、ふらっと更新すると思うので、ここまで読んでくれた優しいあなた!また読んでくれると嬉しいです
ではではまたいつか
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