複雑・ファジー小説
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- それでも僕がやりました
- 日時: 2016/09/06 23:57
- 名前: 間坂 きゆ ◆1JX.lZgAJA (ID: UJ4pjK4/)
彼は、しゃがみこむ彼女にむかって囁いた。
「それでも僕がやりました」
◆あいさつ
こんにちは。間坂(まさか)という者です。
この度は推理物で書かせていただきます。殺人物ではなく、学園内で起こる小さな謎解きをメインに書かせて頂きます。
ぜひお時間の合間にさらっと読んでいただけたらと思います(^o^)
Twitter開設しました。
是非仲良くしてください
@kiyu_9110
◆キャラクター
・茂木真守(しげるぎ まもる)
通称「シゲル」パズル愛好会の会長。中学二年生。自由奔放なリンに呆れつくしているが、反面リンに彼氏ができるのは許せない等、独占欲の強いクズ体質。
・友倫和枝(ゆうりん かずえ)
通称「リン」パズル愛好会のメンバー。中学二年生。面倒くさがりで家族やシゲルには女王様のように振る舞い、外ではかわいい優等生を演じているクズ体質。
- Re: それでも僕がやりました ( No.1 )
- 日時: 2016/09/02 01:19
- 名前: 間坂 きゆ ◆1JX.lZgAJA (ID: UJ4pjK4/)
Episode01 それでも僕がやりました
将来の夢。
今どき小学校の宿題でも出されないようなテーマの作文に、ぼくの筆は止まりっぱなしだった。向かいに座るリンがポテトチップスの一袋目を開封したときから執筆を開始し、そのあとクッキーの箱を開封して、そして二袋目のポテトチップスを今開封したところだから、きっと四十分は経過していると思う。リンは相変わらずおかしばかりよく食べるな。ぼくにも一口分けてくれるっていう気づかいはないのだろうか。ああ、お腹すいた。リンのおかしを一口食べたい。これって立派な将来の夢じゃないだろうか。将来って言ったって、なにも、遠い未来のことに限られないだろう。言ってしまえば一秒先だって将来だ。……なんて、屁理屈だろうか。そんなこと書いたら、先生に叱られてしまうだろう。
冒頭に自分で書いた「ぼくの将来の夢は、」の文字を見つめ、そこから先の空白に目を落とし、溜息をついて原稿用紙を二つに折りたたんだ。考えたって、でてこないものはでてこない。作文の提出までには、期限があと一週間も残されている。こういうものは、きっとどこかの作家がいつか言っていたように、天から降りてくるものなのだ。捻り出すのではなく、思いついたときに書くのが一番良い選択なのだろう。
何年後の話すら分からなく明白な正解もない将来のことを考えるより、ぼくはクロスワードパズルをやっているときの方が、何倍も幸せだ。すぐに答えが返ってくる。基本的にぼくは答えのないものは嫌いなのだ。だって、答えのないものを考えたってしょうがないし意味がないから。有限の人生。無駄な時間は過ごしたくない。
カバンからやりかけのクロスワードを取り出そうとしたとき。宿題は? と、リンが鋭い視線でぼくを睨んできたものだから、わざと冷たい声でこう言った。
「リンだって、おかしばかり食べて全然書いてないじゃないか」
ふん。と鼻を鳴らして、二袋目の最後のポテトチップを咥えた彼女は、ゴミと化した袋をぐしゃぐしゃに丸めてぼくに向かって投げつけてくる。
やめろよ。油の汚れがついちゃうじゃないか。ぼくがそんなことを言う前に、唇をつんと尖らせ彼女は抗議をしてくる。
「わたしはいいの。パパにやってもらうんだから」
「そうやっていつも親に宿題をやってもらって、恥ずかしくないの? ぼくらも先月中学二年生にもなったんだよ。リン、いい加減少しは自分のこと自分でできるようにならないと」
リンと家が隣で幼馴染のぼくは、ずっと彼女を見てきた。
わがままもわがままで、そりゃあもう酷い。部屋の片づけはぼくにやらせるし、買い物をしたときも絶対に自分で戦利品を持とうとはしなく人に持たせるし、おまけに自分が大切にしている「のりお」という名前のゾウのぬいぐるみまでお母さんに洗濯させている始末だ。
しかも彼女のズルいところは、親やぼくの前では偉そうにしているのに、学校の先生や他の生徒の前では猫をかぶって、優等生を装っているところだ。宿題だって面倒くさがらなければ自分で軽々できちゃう頭を持っているリンは、成績優秀でみんなから慕われている。それに、顔も、かわいい。今流行りの「モルモット天国」というアイドルグループのセンターポジションの子に似ているということで、男子からの注目も集めている。女の子の「かわいい」「かわいくない」なんて小学生のころはよく分かっていなかったぼくだけど、中学に上がってだんだん女の子に興味がでるようになってから、リンってかわいいんだ、と認識するようになっていた。それだけに、リンの内弁慶で自由奔放な性格をぼくは残念に思う。
「うるさい! シゲルのくせに、わたしに盾突かないで!」
「……はいはい。もう分かったよ。ぼくが悪かった。今からクロスワードやるから、邪魔しないで。今日はお客さんこないみたいだしね」
リンへのちょっとした対抗心。少し力まかせにクロスワードを机に広げて、彼女を無視するように、彼女の顔を一瞥もせず、クロスワードの四角いマスに鉛筆の芯を置いた。
ぼくは知っているんだ。こうすることで、彼女がやっきになってぼくの気を引くために構ってくることを。男子たちから人気の彼女が、ぼくに構ってもらいたがっている。最近、そんなことが少し嬉しく感じるようになってきたんだ。自由奔放な彼女に呆れながらも、どこかまんざらでもない自分もいるこの気持ちはなんなのか分からないけれど。ああ、ぼく、今無駄なことをしているな。答えのない気持ちを考えるなんて。
- Re: それでも僕がやりました ( No.2 )
- 日時: 2016/09/06 23:15
- 名前: 間坂 きゆ ◆1JX.lZgAJA (ID: UJ4pjK4/)
ちょっとシゲル、ちゃんとわたしの話を聞きなさいよ! そんな叫びでも飛んできそうだな、とぼくが口元を緩めた瞬間。
なんの声もしてこないので、不審に思い、視線をクロスワードから彼女へちらりと動かすと、彼女は満足そうに笑ってドアの方を親指で示した。
……なんだ?
「残念、クロスワードの続きはしばらくできないわね。お客さん、来たみたいよ」
「へ?」
その刹那、眺めていたドアが勢いよく開かれ、夕暮れの逆光の中一人の男が、ずいずいとこちらに向かって足を踏み入れてきたのだ。
あまりに急にドアが開かれたものだから、ぼくはびっくりして持っていた鉛筆を手放してしまい、ころころと机から転がり落ちて芯が折れてしまった。
誰だ、急に。……誰だ、って、まあ、“お客さん”なんだろうけど、随分と変な格好をしている。
ぼくらと同じ制服を纏った男は、その素顔を隠すかのように顔にキツネのお面をつけている。ぜぇぜぇと息が荒いことから、急いでここまでやってきたことが窺えた。ぼくらの通う佐倉宮中学校では、左胸に苗字を記した名札を付ける決まりがあるのだけど、それも外されているので名前を判断することもできなかった。この学校の生徒であるということ以外は、徹底して身元を隠したいのだろう。……一つ、徹底できてない部分をぼくは見つけてしまったけれど。
「パズル愛好会はここか?」
男が、短い質問をおそらくぼくへ向かって投げかけてきた。
お面をつけているせいか視界が上手く定まっていないのか、ぼくの正面へ立ってきたようで、微妙にずれている。
「ええ、そうですよ。それと、そのお面は、外して——」
「お前らのところに行けば、どんな難事件でも解決できるという噂を聞いた。お前らの活動拠点がここだと聞いたから、俺がわざわざ、こんな埃っぽい旧校舎の理科室へ足を運ばせたんだ。早速解決してもらう」
ぼくの話もろくに聞かずに、整っていない呼吸で勝手にしゃべり始めた男は、そこら辺に並んでいる木製の椅子を引っ張ってきて、どす、乱暴に腰をかけた。
——“お客さん”。
ぼくらがまだ一年生だったころ。立ち上げたばかりのパズル愛好会は、当然ながらぼくとリンしかメンバーがいなくて、非公式のサークルとしてひっそりと活動を続けていた。非公式の部活動の存続が認められていなこの中学校では、生徒会の圧力や先生からの指導が入ることで、何度もこの愛好会も廃会の危機にさらされることになった。けれど、当時ぼくらと同じクラスの男の子が受けていた窃盗事件の犯人をぼくが暴きだしたことで、注目が集まり、いつしか、生活上で起こる些細な事件や問題を解決すべく、様々な生徒が依頼を持って放課後のパズル愛好会に足を運ぶような状況になっていた。ぼくらは彼らを「お客さん」と呼び、依頼を解決できた暁には、ぼくらの活動を支持してもらうとういう約束のもとお客さんへ協力するようになっていた。
そうして、支持者を増やすことでなんとか続けられている今があるのだから、お客さんの存在は大切にしなければいけないけれど。でもたまに、こういった自分勝手なお客さんがくると、いらっとしてしまう。
パズル愛好会なんてなくなったって良いじゃない。誰かにそんなことを言われたこともあったけど、ぼくは家ではどうも集中力に欠けるタイプで、この廃校舎の理科室がパズルをするのに一番しっくりくるし、リンはどうして愛好会を続けているのか分からないけど、両親が共働きで寂しいから、きっと放課後はぼくと一緒にいたいのに違いない。
- Re: それでも僕がやりました ( No.3 )
- 日時: 2016/09/10 22:29
- 名前: 間坂 きゆ ◆1JX.lZgAJA (ID: UJ4pjK4/)
「早速解決してもらう……って、相談事の内容を聞いてみないとなんとも言えないですよ。それに、お面をしていたら、誰からの相談かも分からないし、怪しい。ねえ? リン」
腕を組み偉そうな態度を取り続けているお客さんに、いらつきを隠せずに尖った口調で突き放してしまう。けれど、一方リンはウェルカムなようで、クッキーでもどうぞ、だなんて、クッキーとクラッカーをお皿に盛りつけてお客さんに差し出していた。
……まったく、リンは本当に他人には外面を良くしたがって、参る。その気遣いをたまにはぼくに向けてほしいよ。
「素性を明かすわけにはいかん。それでも相談は聞いてもらう。この男は話が分からないやつなようだが、そっちの女子は話が分かるようだ。ありがたくいただくぞ、このクッキー」
「そっちはクッキーじゃなくてクラッカーですよ、“先輩”」
クッキーだと思ったようだが間違えてクラッカーを摘まもうとしたお客さんに、リンが優しく微笑んだ。
お客さんは驚いたようで、肩をビクリと跳ね上がらせて、勢いよく立ち上がる。その拍子に椅子が倒れ、お客さんの背後にあった試験管がずらりと並んだ棚にぶつかり、ガラス同士がぶつかり合う音が鳴り響いた。
「……な!」
なんで、俺のことが先輩だと分かった?
そんなことでも言いたかったのだろうか。リンの発言に吃驚し、でも試験管が割れていないかも気になったのか、後ろを振り向いたり、リンの方を見たり、とにかく忙しなくキョロキョロし始めたお客さん。
……なんだ。リンも気づいていたのか。このお客さんの、“徹底できていなかった部分”に。
なんだかんだ、リンはやっぱりぼくとの連携がとれている。
そう、素性を明かしてくれないのならば、暴くだけだ。クロスワードパズルと同じだ。焦らず分かるところから埋めて行けば、必ず真実に辿りつく。
こちらを一瞥してウィンクをしてきたリンに一つ頷き、ぼくは話を続けた。
「上履きです」
「上履き……はっ」
「そう、あなたの履いている上履きの先端は、黄色です。ぼくらは緑。一年生は赤。この学校は、学年ごとに上履きの色が定められていますよね。ですから、あなたは三年生。ぼくたちの先輩にあたります。そして彼女に先輩と呼ばれたときのあの反応。言い逃れはできません」
顔や名札を隠すというところまでは気が回っても、上履きを履き替えるという発想にまでは至らなかったみたいだ。詰めが甘い。ぼくなら始めからスリッパに履き替えていると思う。
「それから、視力が悪いのだから無理せず眼鏡はかけた方が良いですよ。とは言っても、お面をつけているから、かけられなかったという方が正しいのでしょうけど」
「……お前」
「はじめあなたがここへ来たとき、普通ならぼくの正面に向きあうところが、微妙にずれていました。お面のせいで視界が悪いのかと思いましたが、リンが試したクッキーとクラッカーで、あなたは間違えてクラッカーを選んでしまった。広域にわたる背景とは違って、お面の目の穴の部分からしっかりと覗けるサイズのこのクッキーをクラッカーと間違えたのは、目が悪いからでしょう。つまりあなたは、普段眼鏡をかけていることになります」
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