複雑・ファジー小説

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気になる隣のあの子【完結】
日時: 2016/09/19 11:18
名前: モンブラン博士 (ID: dY5SyZjq)

中学生の青春を描いた物語です!

Re: 気になる隣のあの子 ( No.1 )
日時: 2016/09/21 15:21
名前: モンブラン博士 (ID: dY5SyZjq)

怠け者になりたいと何度も思ったことがある。しかし生来生真面目な性格のせいで、私は中学二年になる現在までに遊び人になることが出来ていない。
このまま宿題や親からくるプレッシャーに押しつぶされ気が変になってしまうかもしれない。だが他のクラスの連中は授業中でも適度に手を抜きスマホをしたり、近くの生徒と先生にバレないように小声でお喋りを楽しんでいる。
視力が悪いために一番前に座らないといけない私は、常に教師と睨めっこ状態であるため、とてもそんな真似はできない。もっとも視力が低下したのは漫画の読みすぎとアニメの見過ぎなので他人を責めることなどできないのではあるが。
だが、そうだと言っても気楽に授業を受けストレスを溜めこまない生き方ができる皆が羨まし過ぎる!
背筋をピンと伸ばして朝のホームルームの担任の話を聞くのが辛くなってきたところで、先生が言った。

「実は今日から新しくこのクラスの仲間になる子がいます。
入ってきて!」

軽くざわついたところでガラガラと音を立ててドアが開き、ひとりの少女が入ってきた。
綺麗に三つ編みがされた柔らかそうな黒髪に丸眼鏡をかけた、いかにもインドア風な女の子だった。スカートの丈も長く履いている白靴下も他のクラスの女子と比較するとかなり長く感じられ、昭和の文学少女と言った印象を受ける。
彼女は担任の立つ教壇の隣に背筋を伸ばして立ち、口を開く。

「青森優子です。よろしくお願いします」

ぺこりと九〇度に頭を下げるその様子は見事の一言に尽きた。推測だが余程両親の躾が行き届いているのだろう。

「それじゃ、青森さんは緑川君の隣の席に座って」
「えっと、その方はどなたでしょうか」
「私だよ」

申し訳程度に手を挙げて、私は彼女を上目遣いに見た。
先日私の隣にいた女子が転校したのでちょうど私の席は空いている。
そこ以外に座る場所がないとは言え、よりによって私の隣とは。
ただでさえ女の子の接し方がわからず女子と関わるのを苦手としているのに、今回でそれに拍車がかかりそうだ。
かくなる上は極力必要最小限度の会話で済ませた方がよさそうだ。
青森さんは「はい」と短く返事をして、私の隣に腰かける。

「あの、緑川君……でしたっけ?」
「そうだが私に何か用かね」
「フォローしてくれてありがとうございました」
「別に大したことではないよ」

ここまで言ってHRが終わったので、私は青森さんから逃れるように教室を抜け出し図書室へと足を進めた。

Re: 気になる隣のあの子 ( No.2 )
日時: 2016/09/18 19:16
名前: モンブラン博士 (ID: dY5SyZjq)

貴重な授業前の休み時間。たったの一〇分しかないこの時間を、いかに有意義に使うかが肝心なのだ。普段はトイレに行くのだが、今日は図書室に行き昨日借りた本を返すことにした。
私の通う中学は朝早くから開いてくれるので助かる。図書館に入り本を返して最近夢中になっている児童推理小説を数冊貸出カウンターに持っていったところで、予想外の人物が図書室に現れた。

「青森さん、どうしてここに?」
「図書室に足を運んでみたいと思いまして……あら、その本、推理モノですか」
「ああそうだよ」
「推理モノ好きなんですか」
「そうだよ」
「私も大好きなんです」

彼女は口角を上げて微笑んだ。
その笑顔にはまるで同志に出会えたという静かな嬉しさが含まれているように感じられた。

「それでは私は教室に戻るからね。授業には遅れないようにしたまえ」
「はい、ご忠告ありがとうございます」

普通なら私のお節介を嫌がるクラスメートは少なくないのだが、彼女はそれに感謝した。
どうやら感覚も並の生徒とは多少異なっているらしい。

「不思議な子だなぁ……」

思わず口から小さなひとりごとが出てしまう。
だがまあ、そんなことはどうでもいいことになるだろう。
どうせ彼女と会話する気はさらさらないのだから。
急いで教室に戻って今借りた本を読むとしよう。

それから二か月が経過した。特に青森さんとは話すことはなく、休み時間はお互いほとんど教室で本を読んでいる。隣同士、けれども親しくはない不思議な関係。だが、それでいい。人付き合いを何より苦手としている私にとってはその方が助かるのだから。
ふと本を閉じて窓側に歩いて外の景色を眺めると、雲ひとつないほどの快晴で、おまけに涼しい風が吹いている。
これはどうやら絶好の読書日和になりそうだ。
外に出るのをあまり好まない私ではあるが、この日は天気につられて外に出た。
中庭のベンチに腰かけ、本を開く。
しばらく読書をしていると(昼食時間も含めた一時間の休みのため、時間はたっぷりとあった)、青森さんがやって来た。どうやら彼女も同じことを考えたらしい。
今の青森さんは本を読みながら歩いている。余程その物語が面白いのだろう。
確かファンタジーものだったはずだ。今度、彼女が返したら私も借りてみることにしよう。
歩きスマホならぬ歩き読書のため、前方が不注意になっていないか心配になった。
視線を前に戻した私の目線の先には中庭に設置されている小さな池がある。
中には魚などはおらず、ただ水仙が植えられているだけの質素なものだ。
このまま前を確認せずに歩けば恐らく青森さんは池に落下し、服を濡らしてしまうだろう。
女子にとっては耐えられないだろうと考えた私は、いつもより少し声を大にして、

「青森さん、池に注意したまえ!」

声にハッとした彼女は慌てて本を閉じ、池の岩段の上でピタリと立ち止った。
どうやら危機を脱したようだ、と安堵したその刹那、不意に中庭の角から女子グループが現れ青森さんに近づいてきた。
三人とも会話に夢中で彼女の存在に気づいていないようだったが、青森さんの右隣を通り過ぎるその瞬間、グループのリーダー格と思しき女子が青森さんの左足を払ったのだ。
不意なことに対応できず、彼女はバランスを崩し、「きゃっ」と短い悲鳴をあげて、まるで吸い込まるかのように池に落ちた彼女を冷ややかな目で一瞥すると、それを助けようともせずに平然とその場を去って行った。
先ほどの足払いは偶然ではない、アレは故意にされたものだ。
もしそれが事実なら——青森さんは女子生徒達に知らないところでいじめられているのでは?

Re: 気になる隣のあの子 ( No.3 )
日時: 2016/09/18 07:22
名前: モンブラン博士 (ID: dY5SyZjq)

「なんということだ……」

教室に戻った私に予想外の出来事が待ち受けていた。
空腹を覚えたので購買部で何か昼食でも買おうとリュックサックの中を開けて財布を取ろうとしたら、その財布が入っていなかったのだ。

「そういえば昨日漫画を買いに行くとき取り出してから、元に戻すのを忘れていたっけ」

なんというミスだ。このままでは午後の授業を何も食べていない状態で過ごさねばならない。
下手をすると空腹で倒れてしまう可能性もある。こうなった以上、残りの授業は保健室で寝ておくとしようか。お腹が空いたままではとてもまともに授業に集中できるとは思えない。
すると制服からジャージに着替えた青森さんが訊ねた。

「あの、どうかしましたか?」
「実は財布を忘れてきてしまってね。どうやら今日は空腹で耐えるしかなさそうだ」
「もし良かったら私のサンドイッチ、食べますか」
「え?」

困惑している私の手に巨大なサンドイッチを乗せ、にっこり笑顔。

「しかし、君は食事はどうするんだね」
「私は食べましたので大丈夫ですよ。それにこれは——」
「これは?」
「先ほど助けていただいた、お礼です」

確かに私は池で溺れそうになっている彼女に手を差し伸べ引き上げたが、それぐらいでお礼を貰ってもいいのだろうか。
だが腹が減っているのは事実だし……だが本人があげると言っているのだから遠慮なく食べるとしよう。

「いただきます!」

一口噛みつくと、口当たりの良いパンの食感とバターの香ばしい香りが口いっぱいに広がる。
シャキシャキのレタスもハムの脂身も旨い。

「旨い! このサンドイッチ、購買部のどこに売ってたの。あまり見かけないけど」
「実はこれ、私が作ったんですよ。喜んでくれてよかった」
「最高だよ、プロ級の腕前だね」

基本は滅多に他人を褒めない私だが、あまりに美味しかったのでつい素直に感想を述べてしまった。そして顔を赤くして伏し目がちになり照れる彼女が不覚にも可愛いと思ってしまった。おとなしいけど、青森さんは優しい性格なのかもしれない。
ほんの少しだけ私の中で彼女の株が上がった瞬間だった。

午後は音楽の授業だった。音楽室に移動して合唱の練習をする。
クラス対抗の合唱大会があと二週間後に行われるのだ。歌を歌うのが大好きな私は当然ながら優勝を狙っている。しかも優勝賞品は図書券だそうだ。
これは負けてはいられない!
だが合唱ではクラス全員の協力が必須。
ひとりでもやる気がなかったり怠けたりすれば、ハーモニーが乱れてしまう。

「合唱なんてこの歳になってやってられないんだけど」
「マジつまんないー」
「ああ早く帰りてー」

不真面目な男女たちから不満が漏れ始めた。このままでは他の人までやる気を削いでしまいかねない。合唱に興味のない人も一定数はどこのクラスにもいるので気持ちはわからないではないのだが——ここはひとつ少し注意をしようかな。

「皆さん、合唱大会はもうすぐです。ちゃんとしましょう」

凛とした声で注意したのは青森さん。真面目な彼女にとってはふざけて合唱をする態度が許せなかったのだろう。その注意によって口うるさく言われたくないと考えたのか、不真面目代表の女生徒、黒崎も渋々お喋りを止め、合唱をする。
だが私は見逃さなかった。彼女が教師にバレないようにさり気なく隣に並んでいる青森さんの足を踏んでいた光景を。
青森さんは苦痛に顔をほんの少し歪めながらも、一言も抗議しないでじっと耐えていた。
合唱が終われば痛みから解放される、もしくは注意したら水を差すのではと思ったのかはわからない。彼女だけが知るのみだ。
けれど彼女が何も言わないことをいいことに陰でいじめをしている黒崎の心が私は許すことはできなかった。

Re: 気になる隣のあの子 ( No.4 )
日時: 2016/09/19 07:01
名前: モンブラン博士 (ID: dY5SyZjq)

私の朝は早い。この日もいつものように七時一〇分には家を出て、七時三〇分には学校の校門を潜り抜けていた。
すると見知った人影が現れた。誰かと思って近づいてみると、それは箒を持ち校門前を清掃している青森さんの姿だった。

「おはよう青森さん、今日も朝早いね。こんなに早くから掃除するなんて私にはとても真似できないけど、先生からの指示なのかな」
「いえ、掃除は自主的にしているんです」
「自分から!?こんな朝早くにそれまたどうして?」
「学校を綺麗にしていれば、これから登校してくる皆さんも気持ちよく過ごせるでしょう?」

私のクラスメートならばゆっくりと朝起きて眠そうな顔で遅刻ギリギリの時間帯で登校してくるのが恒例となっている。むしろ私の生活習慣が珍しいくらいだ。
だが彼女は部活の朝練をしている連中と変わらない時間に登校しているだけではなく、自主的に掃除までしているというのか。しかみその理由が、皆に気持ちよく学校生活を送ってもらいたいとは。さすがの私も腰を抜かしそうになってしまった。

「君以外に掃除をしている人はいないのかい。用務員の叔母さんとか」
「この時間帯は私だけですけど、掃除をすると心が綺麗になったような気がしてストレス解消にもなるんですよ」
「つまり、君はストレス発散も兼ねて掃除をしているということなのかな」
「はい」

まるで生徒の鏡のような彼女を見ていると、なんだかこのまま素通りしていく自分が恥ずかしくなってきた。
よしここはひとつ、私も便乗してみようかな。

「もしよかったら掃除を手伝ってもいいかな」
「喜んで! ありがとうございます!」

瞳をキラキラと輝かせ本当に嬉しそうな笑顔を見せる青森さん。
こんなに可愛い微笑みをされたら、どんな男子でも手伝いたくなるに違いない。
ってアレ?
いつの間に私は青森さんのことをそんなに気にしているんだ。
ただの隣に座っている転校してきた女の子だったはずの存在が、読書という趣味を共通して持つ友人のような存在に、そして今、私は彼女の笑顔に見惚れている。
絶対にかかるまいと思っていたが、どうやらかかってしまったようだ。
青春に必ず訪れ誰もがかかると言われている噂の病、恋の病に!

「なんてことだ!」

嬉々として教室に向かい鞄を置こうとした私を待っていたのは、予想だにしない光景だった。
先の青森さんの清掃活動が希望とするならば、その惨状はさながら絶望。
私の隣——つまり青森さんの机には黒色のマジックで「うざい」「生意気」「いい子ちゃんぶってる」「偽善者」「KY」などの悪口が目を覆いかくさんばかりにびっしりと書き連ねられているではないか!

「誰がこんな酷いことを……!」

私にサンドイッチをご馳走してくれただけでなく、助けられたら素直に礼を言い、早朝から率先して校門前の掃除まで行っている素晴らしい人間性の持ち主である青森さんの机に偽善者などと、どこの手が書いたと言うのだ。許せん、絶対に許せん。
どこの誰かは知らぬが、私はこれを宣戦布告と受け取った。
必ず犯人を見つけ出し怒りの鉄拳を叩き込んでくれる!
せめてもの証拠にと私は落書きの写真をスマホで撮り、急いで濡れた布巾で落書きを消した。
ふと机の左隣に目を向けると、そこには青森さんの鞄がかけられてあった。それはつまり彼女はこの落書きを目にしたという意味がある。
だが犯人がわからない以上、無暗に誰かを責めては余計にいじめが加速する恐れがある。
しかも消してしまえば何らかのペナルティが発生すると考えたのでは?
——いずれにせよ、どんな理由があれ、これは明らかないじめだ。
私はただの一介の生徒で何の権力も持たぬ存在。
だが青森さんはこの私が守ってみせる!
たとえ己がいじめの標的になったとしても。
彼女のことが好きだから。

Re: 気になる隣のあの子 ( No.5 )
日時: 2016/09/21 15:21
名前: モンブラン博士 (ID: dY5SyZjq)

青森さんをいじめから救いたい。だがひとつ問題がある。
担任に報告しようにも彼女がいじめられたという証拠が落書きの写真以外になく、そもそも誰がいじめているのかがわからないのだ。
いや、心当たりならある。黒崎だ。
青森さんに足払いをして池に落としたのも彼女、合唱練習の際も足を踏みつけていたことから、今度の落書きも黒崎がした可能性は十分に考えられる。
だが決定打に欠ける。写真では誰が落書きを書いたのかわからないので、下手すれば私の自作自演と思われることも万に一つとはいえ、なくはないのだ。
黒崎が青森さんをいじめている映像さえあればいじめとして彼女を訴えることもできるのだが……
そうか、それだ。
私がいじめの現場に現れ、その映像を撮影しすぐさま教師に送信すればいい。
急げばスマホを奪われても証拠は隠せまい。
その場に居合わせたということで私自身も安全では済まされないが、彼女を守るためなのだ多少の痛みには耐えなければならない。
と、下校しながらそこまで考えたところでまたしても青森さんに出くわしてしまった。
彼女は河川敷で夕日を眺めながらぼうっと佇んでいる。
以前から気になってはいたが、なぜ私と彼女は色々と考え方や行動パターンが似ているのだろうか。
変な考えだが、彼女がまだ慣れない学校に自分なりに慣れようとして、いつも傍にいる私を参考にしたということも考えられるではないか。まあ実際にはあり得ないだろうが。
声をかけようと一歩前に足を出したところで、体が硬直して動かなくなってしまった。
何故ならば夕日を眺める彼女の瞳から透明な雫が流れ落ちたからだ。
涙は止まらずボロボロと流れ、いくつもの水滴はコンクリの地面に吸い込まれていく。
夕日が美しくて泣いているのではない。
青森さんはいじめが辛くて泣いているのだ。
悲しそうな表情から、それはすぐに読み取れた。
これ以上彼女に悲しみの涙を流せてなるものか。
そのためには黒崎がいじめをしている証拠を映さねば!

それから更に二週間後、事件は起きた。
放課後、私が図書館から本を借りて教室へ向かう途中、黒崎の声が聞こえてきた。
声から察するにどうやら同じ教室に青森さんもいるらしい。
これは急いで向かわねば!
教室に入るとそこには下着姿にされた青森さんと、スマホを突きつけて脅している黒崎、そしてその取り巻き三人の姿があった。

「アンタ、この恥ずかしい写真をメールでバラまいてもいいの?」
「い、嫌です……」
「君達、何をしているのかね」
「ゲッ、緑川!」

黒崎レイナは私の顔を見るなり苦笑いをする。
どうやら現場を同じクラスの人物、それも男子に見られたことで動揺しているようだ。

「アンタ達、ちゃんと見張ってなさいって言ったでしょ!」

取り巻きに八つ当たりする黒崎に言う。

「どうやらそのような非道な行動をしておいて、自分は怒られたくないという自己保身が働いているようだね」
「それがなんだってんのよ! アンタだってこの子の露わな下着姿が見られて嬉しいんでしょうが!」
「その質問には答えない。とにかく人が嫌がることはしないことだ。もし君達も青森さんと同じ目に遭ったら、きっと嫌がるだろう」
すると黒崎は少し俯き唇を噛みしめた。
「なぜ、このようなことをしたのかね」
「……コイツが、気に入らなかったんだよ! 転校して間もない癖に校門前の掃除や挨拶運動、授業中も積極的に挙手して、おまけに生意気にもあたしらを注意するいい子ちゃんぶったその態度が! 点数稼ぎで先生たちに褒められているその姿が嫌でたまらなかった!」
「理由はよくわかったよ。でもだからと言ってそんなことをされたら、君の事情を知らない青森さんはどうして自分がこんな目に遭わないといけないのかと困惑し、悲しむだろう。仮にも不満があるなら、本人に面と向かって言えばよかったのに」
「それだけじゃあたしの不満は収まらなかったんだよ、コイツの絶望に沈んだ泣き顔を見ないと気が収まらないのさ!」

口角をニィッと上げた意地の悪い笑みを見せると、青森さんの頬を張った。そのまま彼女は床に倒れ伏す。

「同じクラスメートだろう。仲良くしようと考えたことはないのかね」
「あるわけないだろ。こんな優等生なんかと仲良くすると考えただけでも反吐が出る。
そもそもあたしゃこいつのことをクラスメートだと思ったことはないね」
「では、君は彼女をなんだと思っているのだ」
「最初は邪魔な奴だったさ。でも今はあたしの都合のよいように動いてくれる、奴隷かストレス発散のサンドバック程度にしか思ってないよ!」
「それが君の答えか」
「そうさ」
「——残念だよ」

短く答え、私はここまで密かに入れていたスマホの動画機能をオフにして黒崎に歩みよると渾身の力で彼女の頬を張る。
そして彼女の手から放り出されたスマホをキャッチし自分の制服のポケットにねじ込むと、倒れている青森さんを立ち上がらせる。

「大丈夫かね」
「はい」
「取りあえず服を着なさい。その恰好では私もどこに目を向けていいのかわからなくなる」

急いで上着を羽織ってくれたので助かった。あのままだといずれ私の平常心が限界を迎え彼女を襲って加害者となるところだった。不可抗力とはいえ、好きな異性の下着を見て興奮を抑えるのは、おそらく思春期の男子であれば私に限らず難しいだろう。
思った以上に青森さんの胸が大きく感じられたような気もするが、取りあえず今すべき行動はその場を離れることだ。
後日、私の撮った動画と黒崎自身が撮った写真が決め手となり、黒崎以下四人は遠くの学校に転校処分が下された。
私はまだ青森さんに自分の思いを打ち明けてはいない。
けれど同じ席が続くあと半年間は、幸せな気持ちでいられるだろう。

おわり。


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