複雑・ファジー小説
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- だからオカマと自殺するって決めた
- 日時: 2016/10/03 00:45
- 名前: 間坂 きゆ ◆1JX.lZgAJA (ID: UJ4pjK4/)
「だからアンタ、でかいことしてやるんでしょ。自殺なんて、誰にも思いつかない方法で。ちゃんと死になさいよ。宣言したんだから」
煙草の白い煙が青空へ消えていく。そんな副流煙と共に、オカマさんの声も青空へと吸い込まれていってしまったみたいだ。簡素なパイプ椅子に長時間座っていると、太ももの後ろが痛くなるな。なんて関係ないことを感じていた。
今日、接種した水分よりも、排出した水分の方が、量が多いんじゃないだろうか。って思えるくらいの量の涙を吸い込んでなんだか重たくなったような感じがするチュールスカートをぎゅっと摘まんで、私は、うぇ、なんて声にすらなってない嗚咽を零していた。
周りを見れば、サークルがどうとか、昨日の飲み会がどうとか、セックスがどうとか、実にくだらない話をしている連中ばかりだった。大学の喫煙所って、そんな場所だと思う。煙草ぷかぷか、頭もぷかぷかだ。しんみり涙を流している私が異色なのだ。そして、その私の隣にいるオカマさんは、オカマである時点でもっと異色だ。この人に関しては、大学の喫煙所でなくても、みんなの瞳には異色な存在に映るに違いない。
ずっと俯いてないで、ほら、使いなさい。オカマさんにそう差し出されたシャネルのハンカチを見てぎょっとする。カビだ。これ、最後洗ったのいつ。と聞きたくなるのを堪えて、爪で摘まむようにしてそれを受け取った。
「アタシも一緒に、死んでやるからさ」
その長い髪に邪魔されて、オカマさんの横顔がどんな表情をしているのか、私には見えなかった。想像することもできなかった。
ふぁ。オカマさんの煙草の最後の一本が、最後の煙を放った。
煙、飛んでゆけ。どこまでも。何故だかそんなことを思っていた。久しぶりに顔を上げた。涙が、頬を伝って、顎から落ちた。
煙は、空に届くだいぶ前の場所で、薄れて、消えていた。
————だからオカマと自殺するって決めた
- Re: だからオカマと自殺するって決めた ( No.1 )
- 日時: 2016/10/03 00:46
- 名前: 間坂 きゆ ◆1JX.lZgAJA (ID: UJ4pjK4/)
「優しさある全ての人へ。」
Hello
死にたい女子大生と、生かされたオカマのお話。
プライドと煙草とたまに愛。
生きているならば、でかいことをしてやれ。
自殺を計画する者がいた。無差別殺人を計画する者がいた。注目のために自ら誘拐される計画をする者がいた。バスジャックを計画する者がいた。
決行予定日は——“卒論発表会”。
それぞれが思い描いていた「でかいこと」が、同時に起きてしまったら。
そのとき、オカマは吠える。
Character
〇甘栗 森恵(あまぐり もりえ)
オカマと彼氏しか話す人がいない。コアラのマーチが好き。死にたい。
○ケン子(湊 健司(みなと けんじ))
オカマ。ゼミのあとのマルボロのために生きている。カンカン帽が好き。
○丸林 幸之助(まるばやし こうのすけ)
彼女が三人いる。趣味は金を貢がせること。夕焼け戦士のレッドになりたかった。
○飯山 香(いいやま かおり)
セクシー女優。笑い声は「プッ」。マイメログッズを持っている自分が好き。
○芥川 英才(あくたがわ えいさい)
癖は眼鏡拭き。10分毎に拭いている。香さんは僕のエンジェル。他は死ね。
*
Twitterしています。
@kiyu_9110
- Re: だからオカマと自殺するって決めた ( No.2 )
- 日時: 2016/10/05 01:07
- 名前: 間坂 きゆ ◆1JX.lZgAJA (ID: UJ4pjK4/)
01◆ 甘栗森恵
行きつけのファミレス。
たんたん、す、たん。
リズミカルに動いている幸之助くんの長い指先が綺麗だ。なんて、ぼうっと考えていた。
無言の時間が、どれくらい続いただろうか。彼は、スマートホンのゲームに夢中だった。パズルをしながらドラゴンを倒していくゲームらしい。機械に疎い私にはよく分からないのだけれど、学校では今それが流行っているようで、キャンパスを見渡せば幸之助くんと同じゲームをしている人を何人か目撃したことがあった。
私は、飲みかけのアイスコーヒーの最後の一口を、ストローで吸い上げた。氷が溶けて、味が薄くなっている。不味い。幸之助くんの目の前にあるブレンドコーヒーも、きっと冷めきって渋くなっていることだろう。まるで今の私とあなたとの関係みたいだね。なんて、そんなこと言える勇気もなかった。
「でさ、あのオカマとはどうなのよ。上手くやってんのか」
思いついたように、幸之助くんが口を開いた。目線は、スマートホンの小さな画面に吸い込まれたままだったけれど。それでも私は、彼の声をなんだか酷く久しぶりに聞いたようで、少し嬉しかった。すぐそこにいるのに、まるで何日も会っていなかったような気さえしていた。
「うーん、普通に友達として、一緒にいると楽しいよ」
「お前本当変わってるよな。オカマとつるんでるとかさ。俺だったら無理だわ、引くね。まあお前が誰といようと、俺は興味ねえけどさ」
呆れた口ぶりの幸之助くんが、スマホをポケットにしまいながら、まるでゴキブリでも見るかのような冷やかな目で私を見てきていた。そんな彼の残酷な視線にさえも、私の鼓動は過敏に反応をし、頬が熱くなる。
先ほどまでスマートホンを弾いていた長い指先が、す、と卓上から伝票を私の方へ突き出してくる。私は当たり前のようにそれを受け取って、作れる限りの笑顔を作って、彼に尻尾を振っていた。
「じゃあ悪いな、俺、バイトだから。あとよろしく、香」
バイトなんてしてないくせに。
隣の席の中年男性がフォークでつついているチーズハンバーグのチーズの香りが、泣けるほど臭く感じた。チーズって、苦手だ。独特のにおいもそうだけど、食べるときに、口から糸を引いている図がたまらなく汚い。やっぱり、泣けてくる。チーズって。ううん、嘘ついた。泣けるのは、チーズじゃない。今の私のこの様だ。
ろくに口もきいてもらえず、デートの支払いだけを命じられ、貢いで、媚びを売って、それでも幸之助くんを好きでいるなんて、そんな自分が泣けてくる。
香。幸之助くんに呼ばれたその名前だけが、心の中に響いていて、じわりじわりと脳の奥まで黒色に染めていくような、そんな感覚がした。
気が付けば、私は去っていく彼の背中を見つめながら、目尻を拭っていた。
「私、森恵だよ。香じゃないよ……」
呟いてみた私の名前なんて、彼には届いていなかった。
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