複雑・ファジー小説

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群青
日時: 2016/10/23 18:54
名前: 透鏡 鳴 ◆bvjeOzqDxc (ID: 2Ib.wHIE)

 


■空の青と雲の灰。それらを綯い交ぜにして、僕らは群青になる。





はじめまして。ふつつか者です。
拙い文章ですが、読んでいただけると嬉しいです。




#登場人物 >>01
#0 僕らの青 >>02





□灰色のコンクリートの上を歩いていく。そんな薄汚れた青春の物語。



 

Re: 群青 ( No.1 )
日時: 2016/10/23 22:21
名前: 透鏡 鳴 ◆bvjeOzqDxc (ID: uUVs9zNY)

#登場人物



*僕らの青(主要登場人物と共に)

■風見 那智カザミナチ
…高1男。物事に少々達観ぎみ。頭は良い。甘いものが苦手。しかし甘さ克服のため、常に甘いものを食べている。

■池城 まひろ(イケシロマヒロ)
…高1女。可愛いよりも綺麗。自傷癖がある。那智の幼なじみ。

■糸宮 イトミヤソウ
…高1男。あだ名は『いと』。美術部員。美青年。ファンクラブがある。性格が悪い。

□真川 シンカワアキラ
…高1男。馬鹿。明るく、クラスの人気者。那智とは中学からの友人。最近恋人ができた。



*


Re: 群青 ( No.2 )
日時: 2016/10/23 18:56
名前: 透鏡 鳴 ◆bvjeOzqDxc (ID: 2Ib.wHIE)

#0 僕らの青

 僕らはまだまだ青い。それはそれは滑稽なほどに。


*

「いやー、若気の至りってやつっすわー」

 にやにやと、晃が頭を掻く。日頃からたるみ気味の顔がたるみにたるみきって、まるでブルドッグのようになっている。ああ、そういえば、コイツのイメージはいつでも犬だったな、と俺はコーヒー牛乳をちゅー、と吸う。もちろん、紙パックの。

「いやいや、お前何歳だよ」
「ぴっちぴちの15歳やでん」

 なぜに関西弁。
 残り少なくなってきたコーヒー牛乳を最後の1滴まで飲むために、俺は紙パックを握りつぶして口を開く。

「俺は16」
「それは那智の誕生日が早いだけだっ」
「てことは、俺はお前より歳上ってことだ。さあ、敬い給えよ」
「ははーっ。……って、そうじゃなくて!」

 わあわあ喚きながら、晃が大袈裟に机に身を乗り出した。座りながら、ただただコーヒー牛乳を飲む俺と違って、俺の席の周りで大声ではしゃぐ晃は騒がしい。まず髪の色からして、コイツとは世界が違うとわかる。
 俺は黒、晃は茶。

「……で、どうしたんだよ」
「風見、聞いて驚くなよ……俺にな、ついに!」
「ついに?」
 
 ばあん、と晃が俺の机に手を置き、大声で叫んだ。

「彼女ができた!」
「へー。2次元?」
「ちげーよっ」

 騒ぎを聞きつけたクラスメイトたちがまじかよまじかよ、と俺の席の周りに集まってくる。晃よ、自分の席でやれ。

「それのなにが若気の至りなんだ?」
「よくぞ聞いてくれました! まあ、そのなんだ。俺は、もう大人の階段を登ったんだ」
「おえー、まさか!?」
「その、まさかだ」
「き、き、ききききききききききき!」
「「「「「「き?」」」」」」

「キスをしたんだ!」
「へー、妄想?」
「ちげーよっ」

 キス、ねえ。

「そんな無邪気に喜べるだなんて、羨ましいな」
「ん、なんか言ったか?」
「別になんにも。よかったな」
「おうよ!」

 にかっ、と白い歯を見せて、晃は笑う。まったく、太陽みたいな奴だな、と俺は思った。


 晃は不思議な奴だ。中学の頃から、俺に突っかかってくる。
 その頃から髪を明るく染めていた晃は見た目こそ不良だったが、授業には一応(本当に一応)出席し、顔立ちも性格も犬のように人懐っこかったため、いつもクラスの中心にいた。
 そんな晃がなぜ、冴えない目立たない地味な俺の傍にいるのか。
 いくら考えても、その謎は解けないのだった。




「昼ご飯はお弁当!」
「うるさい」
「だってよー、昼ご飯がパンだと、夜無性に米が食いたくなるんだよ……」
「お前は日本人か」
「どんなツッコミやねん」
「だからどうして関西弁になる」
「ん、俺の母ちゃん大阪出身」
「嘘だろ」
「嘘です」

 ノリの良い晃に、苦笑する。晃と話すのは面白い。ちなみに俺の今日の昼ごはんはパンだ。あいむのっとじゃぱにーず。

「お前はいっつもパンだよな。なに、お袋さん、最近弁当作ってくれないのか?」
「お袋さんって……まあ、そんなとこ」
「あんま怒らせんじゃねーぞ?」
「もちろん」

 母さんは、ね。
 もごもごと濁しながら、俺は菓子パンを手に取った。

「……一発目に甘い系はやめといた方がいいんじゃないか?」
「俺、甘党だから」
「お前が?」
「うん」
「似合わねぇツラしやがって」

 どういう意味だよ。
 その後、俺たちは平和にご飯を食べた。ただただ平和に。
 波乱は放課後巻き起こるということは、一種のお約束だからだ。





「あ、ねえねえ風早くうーん」
「……何?」

 教室で寝ていたところに急に話しかけられて、瞼をこすりながら振り返る。あ、化粧ブスだ。
 放課後くらい自由に過ごさせてくれよ、と思いつつも、俺は懇切丁寧に、薄く笑顔を見せた。

「いとくん見なかった?」
「いや、見てないけど」
「そっかぁ、残念。別のところ探し回らなきゃっ」

 やはりハンターだったか。野太い声をあげて、彼女たちは獲物を探し求める。モテ男は大変だな、と思った。イケメンじゃなくてよかった。

「……行ったぞ」

 この教室のどこかに身を潜めているであろう誰かさんに、静かに呼びかける。すると、前の棚からがさごそと音がして、男が出てきた。

「え、そこ?」
「うん、ここ」

 どうやら大きな身体を小さく折り込んでいたらしく、髪が乱れている。というか、そんな小さな棚にどうやって入り込んだんだお前は。

「姦しいねぇ」

 端正な顔を少し歪ませて、いとは呟く。いと、糸宮 爽。名前の通り、爽やかなイケメンで、背も高い。ファンクラブまであるらしい。だからこそのこの発言。もう1度言うが、イケメンでなくてよかった。

「まったく。ゆったり絵が描けないじゃないか」

 ふう、と息を吐き、その大きな身体に似合わぬ絵筆を手に持って、掃除用具入れに隠してあったとみられるキャンバスに向き直る。いとは美術部員だが、その人気っぷりから部室では描けないので、いつもどこかの教室で隠れながら描いているのだ。
 今日は俺のクラスの教室で、寝る前にひっそりと入ってくるのが見えていた。女子たちは大抵は俺にどこにいるかをきいてくるので、俺がいないと言えば、彼女たちは一生ここへ来ないのだ。
 すっかり眠気も覚めたところで、俺はキャンバスにちらりと目を向ける。濁った色使いて、なんだか汚いというか、澄んだものではなかった。

「何の絵?」
「空」

 端的に応える。いとは俺と同じで複雑なことが嫌いだ。単純なくらいが丁度良い。それにしても、そらて。

「……空はこんな色じゃないぞ」
「僕にはこう見えるのさ」

 相変わらず変なやつだ。

「変でなきゃ、芸術家は務まらないさ」

 俺の心を読んだかのように、いとは呟いた。
 いとは見た目に反してかなり性格が悪い。そこがまた人気の秘訣なのか、前に女子が「罵倒されてみたーい!」と言っていた。どういうこっちゃ。

「それ、何色?」

 くすんだ色の名がわからなくて、思わず訊ねる。

「僕にとっては群青、かな」
「へえ。随分くすんだ青なんだな」
「青色と灰色を混ぜてみたんだ。綺麗だよね」
「そうだな」

「まるで僕らみたいだ」

 薄い唇の端を歪めて、いとは呟いた。その言葉に少しはどきっ、とする。恋じゃないぞ。恐怖だ。
 話を逸らしてみたくなって、俺はいとの鞄の中を覗く。そこには教科書と、白い布に包まれたキャンバスがあった。

「……いつも鞄の中に入ってる絵は何?」
「前にも言ったけど、それはできてからのお楽しみ」

 ケチな奴だ。

「ケチでなきゃ、芸術家にはなれないさ」

 相変わらず、性格の悪い奴だ。




「遅い」
「ごめん」

 下駄箱には、幼なじみの池城 まひろが待っていた。不満げな顔をして、俺の手を握り込む。別に付き合っているわけじゃないけど。

「寂しかった?」
「ううん、全然」

 俺の肩に寄りかかり、艶やかな黒髪をさらさらと揺らして、まひろは歩く。相変わらず綺麗な女の子だな、と思う。幼稚園の頃から変わらない。

「……こんな天気の良い日は、なんだか死にたくなるね」
「まひろ」
「わかってる」
「もう迷惑はかけないからさ。誰にも」

 本当だろうか。俺は彼女の瞳を見つめる。
 大きくて、丸い、真っ黒な瞳。その中にはただただ虚空が広がっているだけだった。


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