複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 一途
- 日時: 2016/10/20 14:47
- 名前: いちず (ID: 9Q/G27Z/)
短編
- Re: 一途 ( No.1 )
- 日時: 2016/10/20 15:22
- 名前: いちず (ID: 9Q/G27Z/)
斎藤才花は自殺した。高校の同級生からのいじめを苦にしてだった。殴られ、蹴られ、教科書を破られて上履きを隠され、弁当を捨てられた。容姿を馬鹿にされ、くせっ毛が気持ち悪いと言われてハサミで無理やり切られた。出合い系に顔を載せられて色んな人間から連絡が来た。壁に投げつけて携帯が壊れた。両親は中学生の頃に交通事故で亡くなった。
六階建ての校舎の、五階の自分のクラスの2ーAの窓から飛び降りた。教室はオレンジ色に染まっていた
開け放たれた窓からカーテンがはためていた。落ちる時自分の制服のスカートが揺れるのが見えた。
ぱちりと目を開ける。ぼんやりとどこかの天井が見える。
ジャリ、と小さな砂の粒と硬い感触が頬に当たって自分が床に仰向けに寝転がってることに気づいた。身体も痛くないし、手足も動かせた。
明かりはついてないようだが、暗くはなかった。
古そうな木造の天井が見えて、左右に首を動かすと誰もいない教室が見えた。自分は廊下の真ん中に寝転がってるのかと気づき、死ねなかったのだと思った
「死ねなかったのかぁ…」
その単語が頭に浮かんで浸透して理解した瞬間にじわりと目の前が滲んだ。
苦しんで、悲しんで、憎んで、選んだ答えもできなかった。
「なんにもできないや…」
ここどこだ、わたしの学校か、こんな古かったっけ、
よく分からんけど誰かがここまで運んできたのかな、今何時だろう、それより教室に置きっぱの遺書恥ずかしいしさっさと取りに行こう、
そんなことを考えながら起き上がったときに後ろから声がかかった
「誰だ、お前」
- Re: 一途 ( No.2 )
- 日時: 2016/10/23 15:02
- 名前: 一途 (ID: 9Q/G27Z/)
上半身を捻って振り向くとどちらかというと小柄な少年が立っていた。
眉毛が隠れるくらいのぱっつんの黒髪に上下無地の黒いジャージをきている彼の足もとはまっ白な上履きで、暗い暗い学校に溶け込みそうな彼を形づけているようだった。
「お前、誰だ」
三白眼の、男子にしては大きな瞳を向け彼はもう1度聞いた。低い声だった。
有無を言わさず答えを促すような低い、怖い、苦手とするような声だった。
「えっ、あ、斎藤、です」
おろおろと伝える。人と話すのは苦手だった。相手の目を見て話すのががとても苦手で視線をうろうろと逸らすと変だと言われますます誰かと話すのが嫌になった
目は口ほどにものをいうというように、目を合わせるとその人の感情が、自分のことをどう思っているか、自分の中に洪水のように流れていくような気がして怖くて、同じように自分の感情が相手の中に入っていくような気がした。
誰だろう、学校指定のジャージじゃないけど、学校が校庭貸してるなんかのクラブの人かな
無表情に彼はポケットに手を突っ込んだ。
真っ黒でポケットがついていることが分からなくて、少し驚いた
「ありきたりな名字だな」
「あ、よく言われます。クラスに5人も、いるし」
全国に約54万人もいるし
という言葉は、マニアックかなと思ってやめた。
ぱっつんの彼はうんうんと頷いて
「5人いたらカヌーポロができるな」
と言った
- Re: 一途 ( No.3 )
- 日時: 2016/10/25 20:45
- 名前: 一途 (ID: 9Q/G27Z/)
「なんですか、それ」
「1人乗りのカヌーに乗って水上で行うハンドボールとバスケットボールを融合したようなスポーツ。本当は1チーム8人だけど、プレイするのは5人だから。試合には出れねぇけど」
すらすらとSiriのように、述べた。もう何人にも同じ説明をしているのかもしれない。
「へぇ…」
彼の方がマニアックだなと思った。そう思って、こんな薄暗い学校で初対面の人とカヌーポロという競技について話している場合ではなかったことに気づいた。
遺書を置いてきてしまったのだ。五階の教室に。丁寧に糊付けして、封をして表面にでかでかと遺書とまで書いたものが人に見つかるのはよくない
今何時だろう。先生達はみんな帰ったのかな、見回りの人に見つかってないかな
「あ、あのわたし、忘れ物、取りに、」
「忘れ物?」
立ち上がり、膝丈のスカートについたほこりを払う。真正面から彼をみると自分のほうが身長が10cmほど高くて彼もそれに気づいて少しだけ目を大きくした。
上履きだけでなく、彼は肌も白かった
「あ、はい。だ、からあの」
失礼します。と言う前に彼が口を開いた。
そしてポケットというか真っ黒の中に手を入れて
「これか」
出した手には確かに自分が書いた遺書が握られていた。
Page:1