複雑・ファジー小説

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貴方と僕と黒の時代
日時: 2016/10/31 18:11
名前: 降谷零 (ID: CWo1/r7X)

『黒』この言葉から貴方は何を思うだろう。
『闇』『悪』といった抽象的象徴。
『不正』『不公平』といった社会的象徴。

黒は良い。何物にも染まらない、他者をも塗り潰す。歪んだ心さえも飲み込んでくれる。ただただ闇に揺られ、瞑目する。
僕はそんな黒が好きだ。
……なんて言えば、貴方は軽蔑するのかな。

これは僕の手記。僕が黒という時代に生きた証。いつか誰かがこれを読んで、僕のことを思い出して欲しい。我儘でごめんね。
 さてと。そろそろ行かなくちゃ。仕事が僕を呼んでるからね。
それじゃあ、行って来ます。

「……よし。書けた」
 幼い頃から欠かさず書いている日記はすでに数十冊にも及ぶ。書類が山積みになった机から顔を上げた少年はにっこり微笑んだ。
「さあ仕事だ。搭間さんが待ってる」
 白シャツに黒のネクタイを締め、大人びた表情で愛用の黒ロングコートを手に取った。膝丈まである裾を揺らし、意気揚々と少年は部屋を出て行った。

Re: 貴方と僕と黒の時代 ( No.1 )
日時: 2017/08/06 10:48
名前: 降谷零 (ID: rG2eRnXu)

【第一章 黒に笑う】

 東京都某所。路地裏の隅にひっそりとある階段。地下へ降りる造りになった其れは裏社会では有名だった。
『あの階段は使うな』『入ったら最後、地下組織の食い物にされるぞ』
 実しやかに囁かれる噂に少年は困ったように微笑んだ。
「そんなに怖くないのになぁ」
 地下組織『シティマフィア』その名の通り、裏社会を牛耳るマフィアである。名だたる大企業に悉く根を張り、法外の存在と化した集団。
 少年こと、降谷零はれっきとしたマフィア構成員である。身長150センチ、体重38キロの小柄な身体で構成員を名乗ると笑われるものだが、中々知られた存在なのだ。
 そんな零が向かうのはマフィアの捕虜室。反逆した構成員や敵対組織の組員などを捕らえ、一時的に監禁する場所だ。ここに入った者の末路は二通り。情報を吐き、用済みとなる者。拷問により命果てる者。とにかく、生きて出られる可能性はゼロに等しい。
 血で薄汚れた扉を開く。待っていた、とばかりに構成員達が敬礼をした。敬礼を返して無言で闊歩する。床に並べられた捕虜の遺体を見下ろして一言。
「情報は?」
「此方になります」
 手渡されたタブレット端末。覆面の集団が飲食店を襲撃する写真を眺めて暫く黙考する。構成員達は自分より何周りも幼い零が結論を出すのを無言で待った。
「……覆面の集団は密輸業者だ。一見暴力団にも見えるけど、恐らく軍人崩れ。隊列が死角を潰すようになってるからね。被害は?」
「マフィア傘下の飲食店が半壊、営業は完全に停止です。収益面での被害はそれ程有りません……どうしました?」
微笑みを浮かべた零に訝しげな顔で構成員が尋ねる。
「収益が目的じゃないとすると……マフィアへの宣戦布告か。どんな連中だろうね」
年相応の笑顔に潜む獰猛さに構成員達は背筋が凍るのを感じた。
「引き続き調査を。情報収集では負けないでね」
「了解です!」
 くるりと踵を返した零に思わず男が声を掛けた。
「あの、どちらへ?」
「支部長室。あのね、僕、昨日任務成功したんだ!搭間さん褒めてくれるかなぁ」
純粋無垢な笑顔で小走りに去っていく姿に部屋の温度が数度上がる。一転して和やかな雰囲気に、構成員達は微笑ましげな目を送るのだった。

Re: 貴方と僕と黒の時代 ( No.2 )
日時: 2016/11/01 17:31
名前: 降谷零 (ID: CWo1/r7X)

「搭間さん褒めてくれると良いなぁ」
ご機嫌で廊下を歩く零に、我が子を見るような視線を送る構成員。マフィアとは思えない緩みっぷりだ。
「降谷です、入ります」
 軽くノックし、扉を開ける。無個性で生活感の無い部屋に男が一人。病室を連想させる真っ白な部屋に対照的な黒コートの男。
「どうしたの?」
「あのね、任務成功したよ!敵組織壊滅した。それと新しい敵見つけた!」
 褒めてくれ、と言わんばかりに目を輝かせる零に男は苦笑した。
「零、よくやった。給料弾んであげるよ」
「やった!じゃなくて、搭間さん。お金が欲しい訳じゃないっていつも言ってるじゃん」
「何が欲しいんだい?」
 零は言葉を切って、躊躇う素振りを見せた。逡巡しながら、
「僕のこと、家族って認めてくれる?頑張ったんだよ、だから……」
「零」
嗜めるような声に、さっと顔を伏せる。
「お前は俺の部下だ。血も繋がらないのに家族とは言えない」
「でも…!」
「お前は『家族みたいなもの』だ」
 幼い子供に言い聞かせるような口調に心が削られていく。
「だが、お前がもっと組織に貢献すれば考えてあげよう」
「本当に!?僕、頑張るからね!次の仕事も成功させるから。見ててね搭間さん。じゃあね!」
 小走りに部屋を出て行く零。後には無口な部屋の主が残された。
「……馬鹿な子供だ」
 先程までの優男から一変、吐き捨てるような口調で忌々しげに搭間は呟いた。

Re: 貴方と僕と黒の時代 ( No.3 )
日時: 2016/11/09 17:08
名前: 降谷零 (ID: CWo1/r7X)

 「後少し、かな。早く成果を挙げないと。あの人の家族になりたいなぁ」
 小さく呟き、廊下を歩く。向かうは資料室。分厚いファイルを捲くりながら目的の写真を探す。左手でドアを開け、資料室に入ると埃塗れの机にファイルを投げ捨てた。
「これじゃない。だとしたら……」
 自分の身長の数倍はある本棚を見上げ、目を輝かせた。
「やっぱりね。ここにあった」
 目的のファイルに手を伸ばすが届かず、背伸びをする。
「んっ……あ、後ちょっと…!」
 持ち前の低身長と小柄が身体が影響し、全く届いていない。悔しそうに足踏みすると、小さく舌打ちをした。
「もう!何で…!?」
「舌打ちは行儀が悪いぞ」
 背後から聞こえた笑い声に振り返ると、黒コートに革靴の女性が立っていた。
「た、小鳥遊先輩!?」
 あたふたと服装を正し、敬礼をする。小鳥遊と呼ばれた女性は軽く敬礼を返すとにやにや笑った。
「お前も感情的になるんだな。っていうかチビだな、お前は」
「成長期がまだなんですっ!」
赤面し、俯いた零の頭にぽんっと手が置かれた。
「小さい方が可愛くて良いぞ」
 男勝りな口調の彼女は現在18歳。たった3歳年上なのに絶望的な身長差である。ちなみに小鳥遊は175センチ、零は150センチである。

Re: 貴方と僕と黒の時代 ( No.4 )
日時: 2017/01/16 01:03
名前: 降谷零 (ID: /AHlo6jR)

「背が伸びないのがそんなに嫌か?」
「先輩は背が高いから良いですよね」
不貞腐れた零を見て苦笑いを浮かべた小鳥遊は咄嗟に話題を変えた。
「今日は何の任務だ?」
「敵対組織の動向を探ります。情報収集が主な仕事になります」
「何だよ、戦闘任務じゃ無いのか。つまんねぇな」
「相変わらず血の気が多いですね。流石、マフィアきっての体術使い」
くすくすと笑いながら廊下を進み、突き当たりのドアを開ける。
「ごめんなさい。成り行きで送って貰っちゃって」
「良い。じゃあ仕事頑張れよ」
ひらひらと手を振って去る姿に敬礼をし、ドアを閉める。
いつもの席に座り、ノートパソコンを起動する。新着の資料をチェックして、敵対組織のサーバーを探った。発信源を辿るその技術は明らかに子供がするものでは無い。目にも留まらぬタイピングに思わず周囲の大人が振り返る。
「でーきたっと」
タンッと軽快にエンターキーを叩くと、パソコンに大量の資料が流れ込む。
「なあ、あれってハッキングだよな?」
「マジかよ!あんな子供が?」
ひそひそと呟く構成員を無視し、資料のコピーを取る。
「あー目と手が疲れたぁ〜」
資料の束を机に置き、そのまま突っ伏した零にさり気無くコーヒーが差し出される。
「ありがと。気が効くね」
ふにゃ、と年相応の笑みを浮かべた零に一部の構成員達は母性が刺激された。


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