複雑・ファジー小説
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- 『三題噺』──ここは空。【短編集】
- 日時: 2020/02/29 21:27
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: LU1dyaTr)
つなげた空にちぎれ雲。
■ご挨拶
初めましてこんにちは、お久しぶりです。
瑚雲と申します。
短編集です。
短めのものから中編まで、文量は自由に綴っていこうと思います。
普段はコメディ・ライト小説板で長編を書いています。
SSは雑談掲示板の方にもスレ立てをしたのですが、こっちに移行気味です。
■目次
【どうせ余命同士】 >>001-003
【ノーセンス】 >>004 >>005
【三題噺】 >>006
- Re: ここは空*00:ご挨拶【短編集】 ( No.1 )
- 日時: 2017/09/10 19:23
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Dscjh0AU)
- 参照: どうせ余命同士
【01:どうせ余命同士】
「いてっ」
今のは、実をいうと心の声。するどい針がじわじわと痛みをつれてきて、「はいおしまいです」の声にほっとする。
そんな僕の顔を見ていたらしい、彼女は口元に手を添えていた。
「笑うなよ」
「だって」
長い髪をたらして彼女はクスクスと笑っていた。おさえきれていない笑みが耳に挿す。僕は顔をゆがめて、彼女をキッ、と睨み返した。
彼女は目尻をぬぐいながら、ごめんと言う。
「なんだかおもしろくて」
「だから笑うなって」
「だからごめんって。ねえ、いつになったら注射嫌いを克服するの?」
「ほっとけ」
「あはは」
「……」
さあ、昨日に変わらず今日も長い。僕らの「今日」は、いつも長い。
この部屋で僕よりほんの少し先輩の彼女とは、つい数週間前に出会った。
僕らは同じものを抱えているらしい。
そして僕らは同じ日へ向かっている。
ここで娯楽なんてものは限られていて、思いつくのは家族のお見舞いか彼女とのおしゃべりかといった具合だ。
学校に通っていたときは睡眠こそ我が生きがいと思っていたのに、今となっては一日が長くて、それもなんだかしぼんでしまった。
「おもしろいことないかな」
「な……納豆」
「うまく言えないんだけどさ、なんかこう、心を動かしてくれそうなさ」
「さ、あ、サバンナ」
「何してんの?」
「え? しりとり、あ」
「やーい勝った」
「ずるーい」
彼女は僕より一つ年上のお姉さんだ。でも言動には子どもっぽい節があるから、年上だってことをたまに忘れそうになる。
年頃の男子にウケがよいであろう顔立ちは、好みでないと言ったら嘘になる。だからつい口に出してしまったのかもしれない。
「ねえ彼氏とかいたでしょ」
「え? なんで?」
「なんでって、可愛いじゃん顔とか」
「……」
「え、言われない?」
「……もしかしてホストだったの?」
「ちがうわ」
「でも、まあ、いたよ。彼氏」
「……」
「こんなんだから、別れちゃったけど」
「イケメンでしょ」
「んー。どうだったかな」
「なにそれ」
「あはは」
へらりと笑われた。なんだかごまかされた気分だ。白を基調とした部屋にうんと響くこの笑い声が、僕にとっては一番の娯楽だ。
そのことに、きっと彼女は気づいていないのだろう。
東からのぼって、空の真上で輝くと、地平線に沈んでいくのを、窓をはさんで見送るばかりの僕らの太陽は。
あと七回だけ、明日をつれてきてくれる。
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