複雑・ファジー小説

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青片羽
日時: 2016/12/07 22:19
名前: 初梨 (ID: 5TWPLANd)

初めまして、初梨はつりと申します。
昔ここで書いていて、しばらく来ていなかった者ですが、ふらっと戻って来ました。
ペンネームは昔のものとは変えてありますので、昔誰だったかわかってもそっとしてやってください。
相変わらずの拙い文です。誤字、脱字等多くなると思いますが、ご了承くださいませ。
また、時折読み返して修正を入れていく予定ですので、以前と内容がちょっと違う...なんてこともありうるかもしれません。
そして最後に、更新スピードははっきり言って遅いです。ゆったりと進めていきたいと思います。

感想、アドバイス等も大歓迎です。
始めから駄目なところばかりの作者ですが、これからよろしくお願い致します。

Re: 青片羽 ( No.1 )
日時: 2017/01/05 23:49
名前: 初梨 (ID: ShMn62up)

1 青山羊、混沌、そこから1歩。





暗闇。
目を開けているのか閉じているのかもわからないほどの黒。
奥行はあまりない狭い部屋。
青い光がちらちらと揺れている。水がそれを反射し、部屋のあちこちに青い光が舞っている。

部屋は暗闇。

縦に円柱形の、大きく透明なガラスケース。
中には水のような液体が満たされていて、中に年端もいかぬ幼い少女が浮かんでいる。
齢10にも満たないであろう彼女の意識はない。

音のないその部屋に、突如眩い光が差し込んだ。青も黒も透明も、全て消し去った白。
しかし、無音のまま。徐々に微かに遠くで音が聞こえるようになる。
沈んでいた少女の目が、ゆっくりと開かれる。





「急げ!ぼやぼやしてると巻き込まれるぞ!!」
怒号と建物の崩れる音と叫び声とが混ざる。
とある大きな収容施設。軽犯罪者から死刑囚まで、大勢の人が収容されている。
そんな建物の一角。とりわけ危険な人物が収容されている、通称十二棟と呼ばれる場所のすぐ近くで、何かが爆発する事件が起こった。
水道管が破裂したのかもしれないし、誰かが故意に爆発物を投げ込んだのかも今は分からないが、
不運なことに厚く頑丈に作られているはずの十二棟の壁が崩れてしまった。
ひどく大きな爆発だったことは間違いないと思われる、そんな事件だった。
崩壊していく建物の中から囚人たちが何人か出てきてしまい、看守が押さえつけようとしている。しかし流石は十二棟の囚人たち、看守の間をするりと抜けてあちこちに散らばってしまった。

「棟長!どッ、どうすれば……!?」

駆け寄ってきた名も無き看守に、棟長と呼ばれた肥え太った男が怒鳴った。
「逃げちまったのはしゃあねえから放ってお
け!!どうせてめェらじゃ捕まえられやしねぇからな!……とりあえずはあの餓鬼が逃げてねえか見てこい……!!」
「はいッ!!」

看守は駆け出した。取り残された肥満男はイライラしたふうで、
わざと足音を立てながら進んでいく。


看守は、崩れた建物を避けるように走って行った。
崩れたと言っても頑丈に作られているだけあって一部分だけで済んだようだ。逃げ出したのもきっと数人だろう。


ただ____________しかし。


先ほど棟長が言った「餓鬼」の収容されているあの小部屋に、このひび割れは届いてしまっているかもしれない。

万が一届いてしまって、中身が出てしまったら?

収容されているのは幼い少女だったはずだ。もしあの容れ物を出て、さらに部屋から出て逃げたとしても、自分が走って追いかけたら捉えられる筈______なのだが。

この悪寒は。
背筋を這い上がる氷の虫は一体何だろうか。

棟長のもとから走って2分もかからないで着いたその小部屋の鍵を、そっと胸ポケットから出す。

手が震える。

外観がぼろぼろでドアが形を保っているのがぎりぎりなところを見るに、この部屋の壁もきっと壊れてしまっているだろう。
天井の方が大きく破損しているのがちらりと見えた。

普段の数倍も時間をかけて鍵を開けた一瞬後、その看守は予想していた最悪の事態が現実になっているのを己の目で確認することとなる。

真っ暗だったはずの部屋に壊れた天井から差し込む白い日差し。
砕け散って日差しを反射してきらきら光る大量のガラスの破片。
そして、部屋の床を水浸しにしている何かの液体。
ドアが開いたのをきっかけに看守の靴に液が触れ、じわじわと濡らして行く。

ガラスの破片と液体とが日差しを反射して昼よりも明るくなったその場所には、

少女は居なくなっていた。

「あぁ……!」

看守は悲壮な呻き声を漏らした。
しかし仕事を全うするために少女を探そうとして部屋に一歩踏み入れたとき、

彼は後頭部に軽い衝撃をくらい、意識を失った。

Re: 青片羽 ( No.2 )
日時: 2017/01/05 23:47
名前: 初梨 (ID: ShMn62up)

彼が目を覚ましたのは、小部屋の前の廊下だった。

ドアは閉められていて、その前で仰向けに寝かせられていた。目を開けた瞬間、飛び起きる。
聞こえる喧騒から考えるに、さほど時間は経っていないらしい。
ふと自分の体を見ると、傷跡が一つもない。あのままガラスの海に体を沈めていたら自分はどうなっていたか、と考えて身震いをする。

この中にいた少女が助けてくれたのだろうか、と考えて、さすがにあんなにも幼い子が自分を助け出せるわけがないだろう、と思い直す。
誰が助けてくれたのかはわからないが、今はただただその誰かに感謝するしかないようだった。





場所は変わって、施設の裏。
収容施設の裏は山になっており、木々の間を涼しげな風が吹き抜けて行く。

喧騒が遠く聞こえるようになる。

爆発の後に残った煙を遠目に見ながら、山道の緩い傾斜を登る人影があった。
歳は16、17ほどだろうか。少女だった。
髪は濃いめの金色で、長さは腰あたりまで。
瞳は澄んだ青。光が入ると水色に見える。

驚いたことにその風貌は、先程まで牢獄の水槽にいた幼き少女がそのまま成長したようなものだった。それ程までに、似ていた。



少女の特徴は、もう一つ。
左頬に、大きさの違う青い三角形が二つ、それぞれの頂点を一つずつ合わせるようにして並んでいた。
簡単に言うと、簡略化された蝶の羽根の片側、といったところか。
刺青にしては、ずいぶん鮮やかな真っ青。
少女のつり目ぎみの整った顔を印象付けるような模様をしている。



少女は、整った顔には似合わない大きなサイズの深緑色のツナギを着て、
ゆっくりと道無き道を歩いていた。

空は晴天。雲はあまりない。
そんな気持ちの良い晴れの日だというのに、少女は全身びしょ濡れだった。
金髪から雫が滴り、服を濡らす。服はもともと乾いていたようだが、体が濡れているのであまり関係ないようだった。
足に、裾に、泥が付く。少女は裸足だった。




少し開けた場所に出て、少女はまた新しい人影を見つけた。
水色の長めな髪を一つに束ねている少年。
笑っているようで、瞳は見えない。いわゆる糸目。



そして、少年の左頬にも、先ほどの少女と同じ模様______青い蝶の片羽根______があった。



少年は少女を見つけると笑顔のままゆっくりと口を開いた。

「やあ、ひどい格好だね。気分はどうだい?」

少女はあからさまに不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。

「最ッ悪よ」

風はあまり吹いていなかったはずだが、少女が少年を見つけてから幾分か強くなったようだ。
「そう言わないで。すぐに乾かすよ」
少年がそう言うと、風が一層強くなる。

少女の髪を梳くように真正面から風が流れ、
張本人である少女は塵が入るのが嫌なので目を瞑る。

しばらくびゅうびゅうと風に吹かれた後、風は弱くなり、少女は目を開けた。
「ありがと。……さ、もうこんなとこ離れよ。気付かれたら堪ったもんじゃないでしょ」
そう言って踵を返す。少年の横を通り越し、山奥に向かって突き進む。
少年は、しばらくその後ろ姿を目で追っていた。
いつまでも追いついてこない少年の方を振り返り、少女が訝しげに口を開く。


「……ウィアル?」


少年______ウィアル______は名前を呼ばれ、またふっと笑った。

「ごめんね。……行こうか」
少女のあとについてウィアルも歩き出す。
風が気を揺らし、木は彼らを隠した。





____________二人が去った後には、その空き地に一陣の風すら吹いていなくなっていた。


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