複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 午後0時が君を隠すまで
- 日時: 2016/12/10 14:00
- 名前: 華風 (ID: 5USzi7FD)
君が待ち合わせに遅れてきたことはなかった。
大きな時計台の下。
いつも先に私の姿を見つけて、名前を呼びながら駆け寄ってきてくれる。
くしゃっとした優しい笑顔で。
私は君が差し出してくれた手に自分の手を重ねて、一緒に歩き出すんだ。
君が私の歩調に合わせて歩いていることに、少しだけ微笑みながら。
「明日も何処か行こうか。」
君の癖、誘う時は照れたように右手で頬をかくのは、いつまでたっても治らないんだろうな。
私は笑って頷いた。
明日も、きっと君は私より先に待っている。
いつもと同じように………………………………。
だけど、次の日。
いくら待っても、君が待ち合わせ場所に来ることはなかった。
- Re: 午後0時が君を隠すまで ( No.1 )
- 日時: 2016/12/11 20:36
- 名前: 華風 (ID: 5USzi7FD)
ぱんっと何かが弾けて、それっきり何も話せなくなる。
窓から見える空は怖いくらいに赤かった。
「今日の午後0時に、この子は息を引き取るそうよ。」
君のお母さんは目を腫らしていて、声も枯れていた。
不思議なほどに言葉が出ない。
手先がひどく冷たくて、無意識に手を握りしめる。
「ごめんね、美希ちゃん。」
君のお母さんが、小さな声で私に謝った。
『蒼江 奏斗』
君の名前が記入された、ベッド脇のネームプレートが目に入る。
…………奏斗は眠っていた。
機械に繋がれて、かろうじて命を繋いでいる。
「……………謝るのは私の方です……。」
やっと出た声は、何年も出していないかのように掠れて聞こえにくかった。
奏斗は昨日事故にあった。
私との待ち合わせ場所に向かう途中で。
連絡があってここに駆けつけた時には、もう二度と目を覚まさなくなっていた。
『今日の午後0時………………………。』
あと、たったの13時間。
それを過ぎたら、一生会えなくなる。
その現実が、まだうまく飲み込めないでいた。
Page:1